私の人生

詩織

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私の人生

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「次は、Nテレビだから」

「…うん」

 車からみる景色は、歩いてる人がいたり、友達らしき人と話してる。そんなのを見る。

 友達…なんていたっけ?

 私、仲山早奈子なかやまさなこ、25歳。鹿島由貴菜かしまゆきなという名前で女優をしている。

 そして隣にいるのがマネージャーである母だ。

 21歳の時に独立し個人事務所となった。それからは母とこうやって行動をしている。

 母の夢は私の夢。小さい頃からずっとそう言われ育てられた。

 今、母が叶えられなかった夢を私がしてる。

 私は…、これが私の夢だと思っていた。



「由貴菜ちゃんは、小さい頃何になりたかったの?」

「…え?」

「やっぱり、女優さんだったのかな?」

「あっ、ええ、そうですね」

 撮影の休憩中に、先輩の俳優さんから何気ない話をふられた。

「私は、デザイナーになりたかったよのよね」

「そうなんですか?」

「ええ。てもショピングをしていたときスカウトされてね。はじめは信じてなかったわ!でも…、ちょっとだけって気持ちではじめた雑誌のモデルの仕事がまぁきっかけかなー」

「…私は母がなりたかったので」

「…えっ?」

「母がなりたかったから、私が」

「お母さんの夢を由貴菜ちゃんがしてるってこと?」

「はい」

「じゃ、由貴菜ちゃんは本当は何になりたかったの?」

 本当は!?

 私の夢は母の夢!

 …違うの!!?

 初めてその時違和感を感じた。


「お母さん」

「なに?今忙しいのよ!」

 車で移動中、隣で母はパソコンを立ち上げ、スケジュールなどの管理をしている。

「…私、小さい頃何になりたいっていってた?」

 というと

「え?」

 手を止め私をみた。

「…あんたは余計なこと考えなくっていいのよ!」

 母はいつもそうだ。

 私の言うことを聞けばいい。私の言われた通りにすればいい。そうやって生きている。

 母の夢を叶えなければ…

 そう思っていた。



「今年のCM出演トップ、由貴菜ね」

 母は満足そうに言う。

 確かに嬉しい。けど一番喜んでるのは母だ。

「今年は映画のヒロイン、ドラマも3本、まぁまずまずねー」

「ねぇ、お母さん」

「なに?」

「私、家族旅行したいんだけど」

「は?」

 父は公務員。けどほぼ父とは会ってない。てか、父とは母は疎遠になり別居していて私と母ですんでいる。

「お父さんになんか言われたの?」

「そうじゃないけど、家族旅行ってしてないなーって」

「そんなものいらないわよ!」

「…」

 行動も意見も全て母に管理をされている。

 友達と遊ぶことも許されない。だから友達はいない。

 好きな人なんかいたことが…、あっ、小学校のとき同級生の男の子好きになった気がする。名前は、直也なおや君だったかなー

 異性との交流は禁止。もちろん付き合うとか恋人もない。

 中学のときにオーディションに応募し、合格には至らず、でも他の事務所に目に止まりそして、女優業としてデビュー。

 とは言ってもそこまで期待されてた女優でない。はじめは学校のドラマの1生徒。名前すらなかった。事務所もそこそこ売れればいいだろうくらいに思ってたと思う。私も正直オーディションは母が応募したし乗り気ではなかった。

 だが、事務所のやる気のない売り方にしびれをきらせ、母が個人事務所としてはじめたのだ。

 それからというもの、母の懸命な努力もあって、主役まではいかないもののよく登場する人物の1人の役にまでなった。

 バラエティーやCMをやってることで知名度があがり、今では好感度高い女優としてネットなどで取り上げられてる。

 売れれば売れるほど母はやる気をだし、私は母の管理下に置かれている。

 高校くらい行きたかった。友達と遊んでみたかった。恋人ほしい。そんなものは許されなかった。



「じゃ、またね」

「はい!カツト!!」

 ドラマの撮影中のときだった。

「由貴菜ちゃん」

 そういって私にはさりげなく白い紙を渡された。

 勿論誰も気づいてない。

 その後も撮影は続き、終えたあと1人で楽屋に居るときにその紙切れをみると

『話したいことがある。連絡先ください。』

 と書かれ電話番号が書かれてた。

 渡したひとは宇崎松広うざきまつひろ、俳優で私より少し年上だったはず。

 まだ主役級の仕事はないけど、重要な役でよくドラマや映画に出演している。さっきの撮影でも私との絡みがあり、握手をして別れるところのカットだった。

 これって、まさか、好きですとかそういうやつ!?いやでも、私達ってそこまで話してないし

 気にはなったけど、こんなの母に見つかったらヤバい!とりあえずこのことは忘れることにした。

 その後も撮影は続いた。宇崎さんと一緒に撮影はあったけど、その後特別な何かはなかった。気まぐれ?だったのかな?くらいに思ってた。

「再来月から写真集の撮影に入るから」

「…え?」

「ヌードもあるから、全身のエステもさせないとね」

 な、なに!?

「ちょっと待ってよ!ヌードって」

「若い時しか撮れないんだから、今やればいいのよ!売れてるときにやれば売れるんだから」

 嫌だ!!やりたくない!

 そんなこと言っても

「言うことだけ聞いてればいいのよ!それで売れてるんだから」

 と言われ、私に拒否権はなかった。


 私の人生ってなんなんだろ?ずっとこのまま?ここから抜け出すこと出来ないの?

 全てが限界だった。全てがどうでもよくなってた。死んでしまおうか?ともよく考えるようになっていた。

「最近元気ないね?どうしたの?」

 撮影スタッフや共演者の人に言われることも多くなった。

「大丈夫です」

 と、返すも全然大丈夫じゃない!助けて欲しい!と言いたかった。

 そんなとき

「連絡して!抜け出せるから」

 え?

 すれちがったとき、宇崎さんがボソッと言った。

 どういうこと!?

 気にはなったが、なに言ってるんだろ?みたいな感じでしばらくは連絡しようとは思ってなかった。

 けど

「あんた!!いい加減にしなさい!!」

 母に怒鳴られることが多くなった。

 例の写真集が近づくにつれて、どんどんと気分が低迷し、仕事に集中できなくなりNGが連発するようになっていた。

「本当は一発殴りたいけど、来月からヌード撮影あるから我慢してるんだよ!こっちは!周りに迷惑かけて、ほんともう役立たず!」

 私はそのまま部屋に閉じ込められた。

「反省しなさい!!」

 大声でいう母は歩きだして玄関の開く音がした。

 娘がこんなしんどくっても母は外出し、仕事だか何だかわからないことをしている

「こんなの、もうやだ…」

 涙が止まらない。もう、生きるのも…と思ったとき

 ふと、宇崎さんのことを思い出した。

 スマホのケース入れにその紙切れは隠すようにしまっていた。

 それを取り出し私は無意識に電話をかけていた。

「はい」

「…もしもし、鹿島です」

「…あっ!!」

「宇崎さんですか?」

「そうです。やっと連絡くれたね」

「宇崎さん、私…」

「うん。解ってる。もう限界でしょ?」

「…えっ?」

「君を解放したいんだ」

「解放?」

「君はもう生きてくのも辛いって顔してる」

「えっ、あの…」

「信じられないかもしれないけど、俺には解るんだ!この先死を選ぶ人が…、君は由貴菜ちゃんもそう遠くない先に選ぶことを…」

 なんでそんなことが…

「もし、由貴菜ちゃんが…、今の全てを捨てられるなら、1つだけ手がある」

「…どういう?」

 仕事では話したことあるけど、こうやってプライベートでは話したことない。それなのに急に…

 でも

「私を助けてくれるんですか?」

「君を…由貴菜ちゃんを…だけじゃない!俺はそういう人を救うために居る人間なんだよ!」

 !?

 なんのことかさっぱり解らない。

 でも、でも…

「あ、あの…」




「あんた、これ、通話履歴、だれと話したの?」

「…これは宇崎さんと。」

「いつの間に連絡先を!!」

 母は睨み付けて、通話履歴から電話をした。

「もしもし、宇崎さんですか?私、マネージャーしてます…、えっ?あっ、そうなんですか。それは…、はい。こちらこそご丁寧に…」

 と、はじめは怒りながら電話をしてたのに急に低姿勢になった。

「では、今後ともよろしくおねがいします」

 と言って電話がきれた。

「そんなことなら言いなさいよ!」

 と母は言い嬉しそうな顔をして部屋を出た。

 こうなることを予想して宇崎さんは次にアクション系ドラマで、ヒロインの話があるんだけど興味ないか?という話をすると言っていた。

 本来なら事務所経由のはずだけど、宇崎さんが私を押したいから確認したかったとか上手く言うと言ったようだ。

 その後私は指定された、テレビ局のトイレの前の倉庫みたいな部屋からプリペード式のスマホをゲットした。

 それを母に見つからないように宇崎さんと連絡するようになった。



 例の写真集がはじまる2週間前。実行することになった!

 バラエティー番組の撮影が終わった後、私は楽屋に1度入った。そしていつものように母はプロデューサーとかに挨拶をし楽屋に出たとき、楽屋から飛び出した。

 テレビ局前のタクシーに乗り

「Nホテルの方におねがいします!」

 Nホテル前で降り、必死に走る。母は追っかけてこない?不安と恐怖に怯えていた。

 そして公園前にきたとき

「あっ」

 宇崎さんを発見!宇崎さんの車に乗り

「もう、後戻り出来ないからね」

「…はい!」

 私はもう、私の人生を行きたい!

 車で走って3時間後

「…ここ?」

「そう、この先に新しい人生がまってるよ」

 ある山奥の崖のところに1つのドアがある。

 どうみても崖じゃ…

 宇崎さんは笑顔で

「俺はこっから先は行くことが出来ない!だが、この先には俺が居る。だから大丈夫」

 この先には俺がいる!?やっぱり騙された!?こんな山奥2人で殺されるとか?信じた私がバカだった?

 と思ったとき宇崎さんはドアをあけた。

 な、な、な!!?

 ドアの先にはひかりが…

「な、な、なんで!?」

「由貴菜ちゃん、自分の人生しっかり生きてね」

 そう言ってトンっと背中を押されドアの中に入った。

「きぁーー!!」

 何か凄い引力で吸い込まれる。立つことも出来ない。座り込んで、そして息が…



「…大丈夫?」

「!?」

「あっ、気がついた」

「…宇崎さん!?」

「あー、うん。俺は宇崎だけど、向こうでは俺は君と仲良かったのかな?」

「…えっ?」

「ここは、君がいた世界と同じだよ!でも君のなりたかった人生が待っている」

 な、な、なに?どういえこと?

「家に帰れば解るよ」

 家に!?

「む、無理です!!母のところに戻るなんて!!」

「そうか、君はお母さんから逃げたかったんだね!でもここなら大丈夫だよ!だったら俺もついていくよ」

 どういうこと!?信じていいの?

「あ、あの、宇崎さんは私のこと…」

「俺は君のこと知らないよ!ただ向こうの俺から1人の女性が来ることは聞いていた。家はどこ?」

 私と母が住んでいたマンションにいったが

「どうやら、ここには住んでないみたいだね」

 え?どういうこと?

「他に心当たりあることろある?」

 他って…

「まさか、父が住んでる家?」

 郊外に一軒家で1人で住んでる父の家がある。

 そこに向かうと

「あら、早奈子?どうしたの?」

「…えっ?」

 母がいた。そして居間に父がいる。

「すいません、突然おじゃまして」

「な、なに?早奈子の恋人?」

 と、母は驚いてる。

「いえ、私は友達でして夜遅いので送っただけでして」

「あら、すいません。早奈子がこっちにくるなんて珍しいから」

「な、なな?」

「なにボケてるんだ?お前一人暮らししてるだろ!実家にくるなんて年に数回しかないだろ!」

 と、父が言う。

 父と話すのも久々すぎる。

「まぁ、とりあえず入りなさいよ!玄関でいても仕方ないし」

「私は失礼します。送りたかっただけですので」

 と言って宇崎さんは帰ってしまった。

 てか、父と母が2人でいるなんて…

「さっきの方にお礼もしっかり言えなかったわね!」

「あっ、うん」

「まぁ、久々に帰ってきたんだし…、ご飯は食べたのか?」

「え?」

「あー、まだ残ってるからだすわよ」

 父と母が会話してるのも10年はみてなかった。

 ご飯に味噌汁、肉じゃがと煮魚が出てきた。母が料理を作ることもここ何年もなかった。

 これは夢!?私はもしかして…死んでるの?とすら思ってしまう。

「仕事はどうなんだ?」

「え?」

「え?じゃない。お前今日おかしいぞ!」

 と、父に言われる。

 私働いてるのか…

「あっ、うん、ボチボチだよ」

「そっか…、ならいいがたまにはこうやって実家に顔を出しなさい!母さんも心配してるんだぞ」

「あっ、うん、わかった」

 居心地が悪すぎる。ってか、理想なんだけど現実味がない。

 部屋に入ると見たことないものが沢山あった。

 私…、高校も短大もいってたんだ。バスケ部だったらしい。

 色々みると思い出してくる。

 そうだ!私、旅行会社に就職したんだ。家族旅行が楽しくってこんな旅行を沢山したいから、旅行好きになって旅行会社に就職したいと思ったんだ。

 そうか、こっちの世界では家族旅行してたんだ。海外も行ってるんだ。

 色々と走馬灯のように思い出してくる。この世界の私のことがどんどんと出てきた。

 お風呂に入ってベッドに寝る。起きたら元に戻ってないよね?そんな不安を感じながら眠りについた。

 翌日は母に起こされた。

 確か今日まで休暇をとっていたはず。それを母に伝えると

「かなり頑張ってたようだからね。休むのも大事よ!」

 と言われ、やっぱり本当の母なのか?と躊躇してしまう。

 そんなときに、スマホが鳴った。

 もしかしてこれ、私のスマホ?と思い電話にでると

『しっかり休んでるか?』

 と、男性の声。

 だ、だれ!?

 スマホの画面をみると

 利川圭吾としかわけいご

 と、名前が出てる。

 どうしよう…、わからない。

 そう思ってると

『もしかしてねボケてる?』

『あっ、いえ』

『ぷっ!なにその反応!!まぁゆっくり休んで!あんなに頑張ったら倒れるの当たり前だろ!もう少し自分の身体大事にしろ!』

 !?

 私倒れたんだ…

『あと、お前の頑張りに負けたよ!』

「えっ?」

『だから、付き合うっていってるの!』

「えええ!?」

 この人と付き合うの!?

「あ、あの私…」

『続きは会ってから話すよ!じゃまた明日な』

 と言って電話は切れた。

 私この人のこと好き…なのか?

 なにかないかと思いスマホをみると、LINEにさっきの利川圭吾とのやりとりがあった。

 あっ!!そうだ!!

 私、会社の先輩である利川さんに告白したんだった。しかも飲み会の帰りに勢いで…、けど利川さんはそんな風にみたことなかったと言われて凹んでたんだった。そして、がむしゃらに仕事をやる!と気持ちを切り替え毎日必死で仕事をして、残業もなんでもやりまくったんだった。そして疲れが溜まり…

 今は3日ほどゆっくり静養ということでと休み中だったんだ。

 利川さんは、優しくってでも厳しくって、面倒見がいいから人気がある。それにカッコいい!狙ってるひとも多い!そして彼女と別れたという情報を聞き、つい調子にのって…

 色々と思い出すけど、恥ずかしすぎるわ!そんな赤面のなか目の前に、宇崎さんが現れた

「えっ!?」

 ここ、私の部屋!

「ど、どうやって!?」

 どうやってここにこれたの?

 と、聞きたかったが

「色々とこっちの貴方を思い出してるみたいだね!どお?こっちの君は」

「…まだ信じられないです。」

「向こうの世界とこっちの世界!両方の記憶がある君をこのままには出来ない、どっちか1つの世界を消すことになる。」

「えっ?」

「君はどっちを選ぶ?」

「どっちか?」

「そう…、君はもう解ってるよね?もし片方を選ぶと死があることを」

 そうだ。私はもうあの世界で生きたくはないんだった。だから




「利川さん」

「おっ!元気になったか?」

「昨日のあの続き聞きたいです!」

「ったく、朝っぱらから…、仕事終わったらな」

「はい!」

 照れ臭そうに言う彼に私は幸せいっぱいだ。この会社に入社してずっと想いをよせてた人とようやく…

 今日も仕事頑張るぞ!!っと、上機嫌に仕事をはじめた。





「次のニュースです!3週間ほど前に行方不明になっていた女優の鹿島由貴菜さんが遺体で発見されました。警察の調べによりますと他殺の線はなく、自殺の方向で捜査をすすめてます」
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