美形貴族のお坊ちゃん×極悪非道のツン/ヤンデレ海賊の激甘執着ラヴ

ゆっくり

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三章

Side レイ〈1/3〉

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 ルイスが帰ってこない。心の奥で感じていた不安が現実になりつつある。足元がふらつき、胸の中で何かがぎゅっと締めつけられる感覚が広がっていく。心臓が早鐘のように鳴り響き、手が震える。ただ、周りの全員が敵に見える。あの狂気を感じると、すべてを破壊してしまいたくなる。自分でも信じられないほどの怒りが湧き上がってくる。




 ルイスを探して、私はまたあの忌々しいサーカス団のアジトに足を踏み入れる。その辺の奴らが何かを言っていた。どうやらルイスは確かに連れてこられているようだ。
 薄暗い廊下を抜け、ついにあの野郎の部屋に辿り着いた。呼吸を整え、扉を開ける。部屋の中には薄暗い光が差し込んでいる。机に座る男が、私を見てにやりと笑う。

「まーた君は戻ってきたのかい?」

 その声にはどこか軽蔑の響きがある。あいつの目は鋭く、まるで私を値踏みするかのようにじろりと見た。その一瞬で、こいつの冷徹さを感じ取る。口元には、意図的な冷笑が浮かんでいた。相変わらず悪趣味な笑顔だ。

「懲りないね、売女風情が私の時間を取るんじゃない。」

 言葉の刃に胸を刺され、頭にカッと血が上るがが、今はそんな減らず口に反応するわけにはいかない。部屋の中を見渡すと、空気は異様に重く、戦いの跡があちこちに残っている。あの野郎の冷淡な目を見つめながら、俺は静かに尋ねる。

「ルイスをどこへやった?」

 ボスはゆっくりと立ち上がり、冷ややかな目で私を見返した。

「彼ならもういない、どこかへ行った。」

 その言葉に、俺は心の中で震えが走る。まるで背筋に冷たい風が吹き抜けたような感覚だった。どこへやった、もしルイスが演者として連れて行かれたのなら、その先に待っているのは、想像を絶するほど恐ろしい運命だ。

「それより君、どういう了見でルイス・ベイリー卿と共にいるんだ?」

 俺は答える気力すら感じられなかった。言葉が喉に詰まって、何も出てこない。心の中で無数の思いが交錯し、ただその問いを受け止めるしかなかった。そいつはその沈黙を無視するかのように、さらに冷徹な口調で続ける。

「彼を連れ出し酷い目に合わせたくせに、尻拭いまでさせるなんて申し訳ないと思わないのか。」

 その言葉が俺の中で響く。

「お前のような忌み子と交流のあって良い方ではない。」

 その言葉のひとつひとつが、俺を傷つけていく。何度も何度も俺の存在を否定されているようで、胸の奥が痛む。

「ベイリー家から機密にだが保護命令が出ている。ルイス・ベイリー卿は体も弱く、早く保護しないといけないと彼のお付きの者から聞いている。お前といない方が彼の身のためだ。」

「…」

「彼を貴族の地位から引き摺り下ろしたくせに、いまさら白馬の王子様ぶって彼を助けに来るんじゃないよ。」

 その言葉に、怒りとともに冷たい笑みが浮かぶ。

「お前が助けに来なければ、彼は今頃本国に帰れていたのに。何しにきたんだお前は。」

「お前の考え方に脳を汚染され、ルイス卿もお気の毒だ。さっさと保護して元の場所に送って差し上げるべきだろう。」

「自分の欲求だけ優先する海賊にはわからないか?」

「………そんなことは、わかっている」

 いちいち説明なんぞされなくともわかっている。ルイス・ベイリー。花のお貴族様。その美しさ、優しさ、考え方、所作、気高さ、彼の全てをとっても俺には勿体無い。その地位から引き摺り下ろしたこと、何度も暴力を振るったこと、それなのにこうして共にいてくれるのは奇跡であること。全てを理解している。

「じゃあここから出て行け。二度とルイス・ベイリー卿と関わるな」

 理解した上で、それでも彼の人生、彼の魂、全てを自分のものにしないと気が済まない。彼がいない人生はもはや考えられない。彼がいないと、自分はもう生きて行けないと確信をしている。彼に裏切られたら今度こそ俺は壊れる。自分という存在が粉々に砕けてなくなり、物言わぬ人形に成り果てるのだ。

「てめぇに命令される筋合いはねぇだろうがボケ」

 俺は即座に引き金を引き、その男の体を何発も拳銃で撃つ。鋭い銃声が響き渡り、男は驚いたような顔をして、そしてその衝撃で倒れ込む。血が床に広がり、彼の動きが完全に止まるまで、俺は銃を手にしたまま黙って見下ろしていた。

「本人が嫌がろうが何をしようが、あいつは死ぬまで俺と一緒にいてもらう」

 俺の声は冷たく、感情を感じさせない。自分でも驚くほど無感情に言った言葉だったが、心の奥底で何かが暴れ出しそうになるのを必死で抑えた。そうだ、ルイス・ベイリー、俺の愛する人。愛し方を知らない俺の唯一。

「っ…………お前はやはり、人を愛すことのできない化け物だ!」

 男は倒れながらも最後の抵抗を見せるように叫んだ。だがその言葉には、俺に対する本当の恐怖よりも、どこか諦めたような響きがあった。俺は心底笑いたい気分になってきた。

「うるせえよ黙れよお前」

 俺はそいつの首をナイフでズタズタに切りつける。
 そして、その言葉を吐き捨てる。こんなことを言われる筋合いはない。こいつがどう思おうと、ルイスを守るためには何だってする。俺はルイスを守り抜く、どんなことをしてでも。死ぬまで、あいつが嫌がろうと、逃げようと、俺の側にいさせる。そして、俺から離れるのならば殺すのみだ。

「ルイス卿は、気品の高きお方だ。お前は簡単に人を殺す、ただのゴロツキ」

 その男は血だらけになりながらも、まだ言葉を吐き続ける。俺の耳にはもはや響かない。ああ、この言葉も、今更何を言っても遅いと感じた。こいつが何を言っても、俺はルイスと共にある。この先もずっとだ。

「うるせぇな。そんなの俺が一番わかってんだよ黙れよさっさと死ねよ、この死にぞこないが」

 俺は呆れたような声を上げ、拳銃を下ろした。その瞬間、胸の中に湧き上がる虚無感。復讐を遂げた途端、まるでその先に待っていた目的が消え失せたような感覚に襲われる。ああ、なんで俺はこんなにこいつに固執していたんだろう。もうどうでもいい。俺が何をしても、何を失っても、あいつを守ることだけが全てだと思っていた。
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