巻き込まれた薬師の日常

白髭

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1C-試行と結果

1C-15 保存と耐久

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 翌朝。
 レッドは机に向かい、ポーション瓶に刻む図案を考えていた。
 一目でポーションと分かり、かつベルナル商会とパラケル魔導具店の関わりを示すもの――いわばブランドの“印”だ。

 古代文字に当てはめると、ベルナルは「Vernard」、パラケルは「Paracel」。さらに原料のアルテミ草、そして瓶そのものの意匠。
 商会は流通を、魔導具店は製造を担う。
 荷馬車で流通を、ペンで製造を、アルテミで原料を象徴させようとした。頭文字を取って「PV」。ブランドを示す印だ。

「うーん……」と紙に描き込んでいると、マリンが顔を出した。
「レッド兄ィ、朝ごはんだよ。あ、起きてたんだ。何してるの?」

「ポーション瓶の図案だよ。新しい磁器用にね」
「へぇ……なんかごちゃごちゃしてるね」

「そうなんだ。もう少し単純化したいんだけど」
「荷馬車とペンはいらないよ。描くの大変だし。PVでいいじゃん」

「P.V.とアルテミか……それでもいいかも」
「それなら、こんな感じかな」
 マリンはさらさらと筆を走らせ、可愛らしいイラストを描いてみせた。アルテミの葉に囲まれた瓶と「PV」の文字。シンプルで分かりやすい。

「おっ、いいね。採用していい?」
「いいの?私が描いたやつだけど」

「シンプルなら作りやすいし、これでパラケル爺さんに話してみるよ」
 朝食の席で図案の話をすると、マリンは得意げに「私も手伝ったんだよ」と胸を張った。両親も加わり、家族の会話は半分議論のようになった。結局、マリン案が有力となる。


 食卓ではもう一つの話題も出た。魔術訓練とポーション瓶の進展状況だ。
「もう魔術訓練は終わったのか?早いな」
父サルタンが驚く。
「パラケル爺さんにも言われました」
「魔導具作りか。あの方は専門家だからな。そういえば本を書いたことがあるらしい」

「はい。わかりやすい二冊を渡されました」
 実物を見せると、両親はページをめくり、すぐに顔をしかめた。
「まるで文字に見えないな。頭が痛くなる」
「『魔導文字列解析』と『パラケル流魔導具作成法』は有名よ。魔導具を作る者なら必ず持っている本」
母ジーナが表紙を見て言った。

「パラケル爺さんって、すごい人だったんですね」
「すごいどころか、国から功績を認められて一代男爵になった人よ。当時は画期的だったらしいわ。今は村のご意見番に落ち着いているけど、実は偉い人なの」
 爺さんが男爵――。あの飄々とした姿からは想像もつかなかった。


「そのすごい人から、ポーション改良の課題を出されています」
「どんな課題だ?」

「保存期限の延長です。今は一か月しか持たないので」
「また難しいことを……」
父は苦笑する。

「でも、期限が延びれば利点は大きいと」
「確かに。売れ残れば廃棄だ。損失は店持ち。扱わない商会もあるくらいだ」
「儲かるのは魔導師ギルドだから、改良に本腰を入れないのよね」
母が肩をすくめた。

 これまでの進展を説明した。
 陶石を使った磁器瓶の試作。光魔法の習得。箱を改良した試験装置の作成。太陽光が劣化要因であることの発見。遮光箱という魔導具の製作。磁器瓶の硬度と保存性の改善。

 さらに、今後はパラケル爺さんと共同で「割れない瓶」の開発に取り組むこと。磁器だからこそ直接魔導回路を刻める見通しがあること。昨日の時点で瓶の規格は決定済みで、爺さんは数値化を終え、回路設計に入っているだろうこと。

 もう一つの改良――薬草の下処理による品質向上。これにより、魔術師でなくても普及品ポーションが作れるようになった。さらに魔術師の工程を一つ加えれば、一級品にまで品質を引き上げられる。

 両親は静かに聞いていたが、父サルタンの表情は次第に引き締まっていった。やがて、親子の会話ではなく、商人同士のような口調で言った。

「レッド。これはもう訓練ではない。立派な商品開発だ。パラケル爺さんも無茶を言ったが、それに応えたお前も大したものだ。一人前の商人であり技術者の仕事に値する。一度、関係者を集めて話し合いを開こう。我々の村だけで抱えるべきではない。それぞれの進展を共有し、共通認識を持つべきだ。私からも報告があるし、パラケル爺さんからもあるだろう」

 会議は一週間後に開かれることとなった。
 当事者全員を集め、商品化に向けた本格的な話し合いが始まろうとしていた。
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