侵略者を追え!

野澤タキオン

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侵略者を追え

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 大都会の真ん中。
ドウウウウウウン!巨大な異星人が街を破壊している。
逃げ惑う人々、「きゃあああああああ!」「助けてえええ!」
空から一条の光が!
「シャウウワッツ」現れたのは、銀色に赤と青のラインが入ったバトルスーツに身を包み、胸には緑色に輝くカラータイマー。大きな瞳はすべてを見通す力を持ち、真一文字に結ばれた口は意志の強さを物語る。地球の守護者、宇宙のヒーロー。
「光人ガーディアンが来てくれたあああ!」「待ってたわあああ!」「あんな化け物やっつけてくれえええ!」
人々から歓声が上がる。
激闘の末、必殺のガーディアン・レーザーで侵略異星人を倒すガーディアン。破壊された街には見向きもせず空に帰っていく。

『今回も光人ガーディアンの活躍により地球の危機は脱することにできましたね。』
『いやあ、見事でしたね。ガーディアン・レーザー!一撃でした!』

「また復興工事で電車が止まるな…」
おんぼろのアパートの四畳半の一室。着古されたジャージで万年床に寝転びながらテレビを見ている男。周りにはカップ麺やコンビニ弁当の空き容器が散乱し、洗濯物が所かまわず積まれている。
彼の名は縞 秋生。26歳。高校2年生の時いじめに会い不登校に。その後中退⇒引きこもりのお決まりのコースを歩む。同じ頃両親が経営していた町工場が倒産。悪いことは重なるもので、病に倒れた母親が他界。父は蒸発。今は警備のバイトで食つなぐのが精いっぱいの小市民である。今日までは。
「明日はどこの現場だったっけ…」
わきに置いてあるスマホに手を伸ばす。なにか柔らかい感触。
「?」見ると。
壁際に体育座りをしている…身体は人間サイズ、顔は虫、腕は肘から二つに分かれ、一方はハサミ、もう一方は三本指の、明らかに人間ではないそいつは、びっくりするくらい流暢な日本語で…
「やあ、僕は#$#&&。バルって呼んで。地球の発音じゃあうまく伝わらないから。」
「ヒイイイイイ!侵略者ああああ!」
「いきなり侵略者はないだろ?君に危害を加えてるわけじゃあるまいし。」
「俺なんかうまくないから、食べないでえええ~」
「何もしないよ。」
「ほ、ほんと?」
「まあ、わかるよ。このナリだからね。どの星に行っても化け物扱いさ。」
「はあ…」
「あいつもさ。ここではガーディアンと呼ばれているんだね。あいつらは何もしていない僕らの星に攻めてきたんだ。その…姿が醜いからって。ひどくね?」
「あのガーディアンが…?」
「僕が善良で友好的な宇宙人だって証明したくってさ。全地球人の中から君を選んだんだ。何かしたいことってない?」
「お、俺?」
「コンピューターが選んだんで、なぜと聞かれても答えられないよ。ただ、一般的、標準的な人間で検索したってことは伝えとくね。」
「標準的?俺が…?」
「お金でも栄誉でもできる限り協力するよ。世界平和でも、征服でも。」
「やっぱりまずはお金…。この生活から抜け出したい。」
「じゃあ、僕らの星の初歩的な技術を教えるよ。」


3か月後
町工場が並ぶ下町の一角。よれよれのスーツ姿の秋生が一軒の工場の前に佇んでいる。
チャイムを鳴らす。「ハーイ」応対に出てきたのは40代の作業着姿のおっさん。薄毛と肌感からかなり苦労しているのがわかる。
「あの、電話した縞です。」
「あ、ああ~。画期的なバッテリーを発明したっていう…?」
『なんだよこいつ…自分を天才かなんかと勘違いしているバカか。』
『ふ、不信感丸出しの眼差しが痛い…』
「まあ、はいんな。」
狭い応接室。ソファーもところどころ綻びが。
「で?」
「これです。」
取り出したのは鉛筆サイズの金属の棒。
「はあああああ?おいおいなんの冗談だよ?」
「と、とにかく騙されたと思って検査してみてください!」
「はいよ。どうせ暇だからな。」席を立ち工場に入っていく男。
『門前払いを食らい続けて数十件、やっと、検査してもらえる。でも、ほんとに大丈夫なんだろうね、バル?』
右手中指にはめた指輪に話しかける秋生。
『心配ないさ~』
「ふざけないでよおお!」

この指輪は通信機ではなくバルの一部が変化したもの。
『僕は最大6体に分身できるんだよ。一体を指輪に変化させて身に着けてもらえれば、いつでも一緒にいられるだろ?』秋生の目の前でバルの体が二つに分かれ、一人が指輪に変化した。
「危ない目にあった時も助けられるからね。」
「う、うん。」

勢いよくドアが開き、おっさんが抱き着いてくる。
「き、君!すごい。すごすぎる!革命だ!バッテリーに革命がおこるぞ!」
「わうっぷ!」
「お、おう、すまん。つい興奮しちまった。申し遅れた、神田製作所社長の神田だ。よろしく!」
握手した手をぶんぶん振り回されめを白黒させる秋生。
「しかし、なんでまたこんなすごい技術をうちに?」
「実は両親も町工場をやってまして…もうないんですけど、大手には不信感があって。」
「そうか、ありがとう!どういう契約にする?」

俺の取り分は30パーセント。特許料は別途。すぐさま試作品を製作。発表されると大騒ぎになった。それもそのはず、従来の10倍の蓄電量、1分でフル充電。50分の1の重量なのだから。
さすが異星人の技術。
世界中から注文が殺到するなか、神田さんは寂れた町工場に仕事を発注。メイドインジャパンにこだわった。
通帳をみてガタガタ震えている秋生。
「1,10、100、千、万…億?10桁…。バル、バルのおかげで億万長者になれたよ!何かお礼をしなきゃ!何がいい?ほしいものを言ってよ!」
「秋生の嬉しそうな顔をみることができて、僕もうれしいよ。」
バルは頑なに礼を拒んだ。
「僕は僕の種族が善良で友好的だと証明したいだけなんだ。」

事業はますます拡大していった。
福島出身の神田さんは故郷に巨大な工場を立ち上げた。
「いまだ震災に苦しむ人たちのためになれば…」
『あの放射能をどうにかできればなあ~』
『できるよ。』
『そうだよね、さすがのバルでも…えっ!?』
『放射線のコントロールは宇宙工学の古典だからね。』
すぐに放射線除去除去装置の開発が始まった。しかし一つだけ地球上に存在しない物質が使用されていることが発覚し、計画は頓挫した。
「くそおおお!」「だめかあああ!」
『じゃあ、取りに行こう。火星にならあるはずだから。』
『まじ?宇宙船飛ばしてくれるの?』
『僕の船を飛ばすとあいつに気づかれちゃうから、船を作ればいいのさ。』

バルの設計図を持って宇宙開発事業省を訪ねた。
新バッテリーの開発者ということですぐに面会。
20人の技術者が設計図とにらめっこ。
「こ、これが本当なら…火星まで二日で到達する、と?」


早々に実験が行われ、計算通りの出力が確認された。
しかし、宇宙船製造には時間がかかる。その間に…
「世界には病気や飢餓に苦しんでる人がいっぱいいるんだ。どうにかならないかな?」
「わかった。」
すぐにバルは解決方法を教えてくれた。
大学病院には人工臓器の製作法。あらゆるウイルスに効くワクチン。
農業省には最大4耗作が可能なバイオ作物。砂漠の緑地化。
さらにエネルギー問題を根本から解決する「宇宙エネルギー圧縮法」「電力バイパス技術」「人型ロボット」
等々。人々の生活は一変した。

超高層ビルの最上階。東京の夜景を一望できる一室。秋生が一人佇んでいる。
『秋生様。アメリカ合衆国大統領からお電話が入っております。』
召使ロボットの非人間的な声が響く。
「今日はもう休んだって伝えといて。」
『かしこまりました。』
今や秋生は世界一の金持ちであり、かつ、世界に最も影響力を持つ唯一の存在であった。
テレビ画面には人類史上初の有人火星探索船発射成功のニュースが流れている。
「いよいよ放射線除去装置をつくれるんだね。」
「そうだね。」
「放射線を無効化できるんなら、核兵器も無力化できるの?」
「できるよ。」
「世界を平和にできるのかな?」
「できるよ。」
「核廃絶、飢餓、疫病の根絶。差別の廃止。格差是正。後は…」
ドオオオオン!
ビル全体が揺れる。
「な、なに?怪獣?宇宙人?」
「どちらでもないよ。人間だよ。」
「えっ?」
「狙いは君の命さ。」
「はいいいいい~?」
「エネルギー問題を解決したろ?今までエネルギーを輸出して成り立っていた国々にとっては大迷惑な話だったってこと。」
「どうしよう~」
「セキュリティ対策は万全だよ。この程度の攻撃ならね。」
「この程度?」
「君は技術のほとんどを国産にしたろ?今や世界経済は日本を中心に回ってる。妬みや反感を買ってるわけさ。他国が攻め込んでくるのも時間の問題かも。」
「そんなああ~どうしよう…」
「この国を守りたいかい?」
「もちろんだよ。」
「武器がいるね。」
「武器…。でも、人は殺したくないよ。」
「武器だけを無力化することも可能だよ。」
「そうなの?じゃあ、それがいい!」
「設計図をつくるね。」

火星から持ち帰った物質によって、放射線除去装置が完成した。
直ちに福島原発に使用され、放射能汚染はすべて除去された。
「放射能、検知できません!」
「うわああああああ!」
大歓声がおこる。神田社長が秋生にしがみつき泣いている。
「あ、ありがとう、ありがとう、秋生。」

国連本部
「核兵器廃絶を決定する!」超大国は反対し、国連から脱退した。
抵抗する国もあったが、武器無力化兵器が使用され、問答無用で核兵器は処理されていった。

秋生の部屋
バルと二人、ふかふかのソファーに座っている秋生。髪には白いものが混じっている。
「核廃絶。飢餓、貧困、疫病の根絶。寿命は120まで伸びたし、仕事はロボットに置き換わった。なのになんで?」
テレビからは毎日、『強盗』や『国境をめぐって争い!』『自殺者倍増!』『ゲームに夢中になりすぎ、ショック死』悲惨なニュースが絶えない。
「仕方ないさ。人間だもの。」
「車は自動運転になって事故は無くなったし、治安の悪かった地域にはロボット警官が配備されたのに…」
「秋生はよくやったよ。あと何十年かすれば…」
バリバリバリ!
部屋の中に閃光が走る。
「うわああああ!なに?」
「ついに来たか。光人ガーディアン。」
「とうとう見つけたぞ!バルソート星人!今日こそ決着をつけてやる。覚悟しろ!」
「まあ、待て。ガーディアン。」
「僕が何をしたっていうんだ?」
「決まっているだろうが!地球人をたぶらかし、この世界を破滅させようと企んでいる!」
「おいおい、僕はこの善良な日本人の頼みを聞いていただけだよ。そうだろ?秋生。」
「ああ、うん。」
「しかし、未開の惑星に干渉するのは…いけないことだ!」
「じゃあ、あんたは何の権限があってこの星に干渉してたんだ?」
「そ、それは…宇宙憲章にのっとって…」
「そんな都合のいい話があるか!僕は秋生に頼まれて、この星の核兵器の廃絶、飢餓、疫病の根絶。エネルギー問題を解決した!」
「うっ!」
「あんたはなにをした?侵略者を追い払った?怪獣を殺した?なのになぜ人間の環境破壊を見逃し、苦しむ人々を放っておいた!答えろ!ガーディアン!」
「それは…」
「結局あんたのやり方は暴力で相手を黙らせただけじゃないか!」
「ち、違う…私は、私は…」
「僕は破壊兵器も人類洗脳装置も作っていない。秋生が望まなかったからだ。彼は善良でやさしく、少し愚かだが平和な世界を望んだ!だから…」
バシュウウウウン!
秋生の目の前でバルが消し飛んだ。ガーディアン・レーザーによって。
「ガーディアン、なんてことを…バルは武器も何も持っていなかったのに…!」
「ふん!侵略者の戯言など、聞く耳もたんわ!」
ヒュン!
ガーディアンの姿がきえる。

その日のうちに三人の動画が世界中に拡散した。ガーディアンの名声、人気が地に落ちるのに時間はかからなかった。店頭からガーディアン関連の商品は一掃され、代わりにバルの商品が並んだ。
誰もバルの姿を醜いなどと言わなかった。

秋生の部屋
「バルが善良で友好的な異星人だってことが証明できてよかったね。」
「ああ。ほんとに胸がスッとしたよ。ありがとう、秋生。」
ニッコリ微笑みあう二人。

「分身がいなくなるってどんな感じなの?」
「ちょっと、ちくっとした程度かな。」
「あのさ…」
「なんだい?秋生。」
「人類洗脳装置を使えば、争いは無くなるのかな?」
「もちろんだよ。設計図を作るね。」




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