9 / 27
スライムでえちち
8.紛れもなくそれが最凶
しおりを挟む
「す、スライムだって⋯!!?」
そのあまりにも恐ろしい魔物の名前を聞いた俺は、ガタガタッとベッドから転がり落ちるように駆け出し、扉の前で話すキャロンと伝令を伝えに来てくれた同僚・マークの話に割り込んだ。
“スライムって、剣で斬れば分裂し無限に増殖。属性魔法を仕掛ければその属性を取込み反撃するっていう、『倒すことが不可能』っていう伝説レベルの魔物だろう⋯!?”
しかも生き物を補食するという噂まであり、また意思をもたないであろう不可思議な動きをする事からも『最悪の自然災害』とすら呼ばれる最も忌諱すべき魔物のひとつでもある。
「あ、エイベル!やっぱお前こっちにいたのか、何回ノックしても出ないからまぁここにいるのかとは思っていたが⋯」
「あ、ごめん、昨晩はその⋯」
“な、なんて言ったらいいんだ?”
キャロンがえっちな呪いにかかったことはおそらく騎士団の皆が既に知っているだろう。
“昨日あんだけ派手に騒いでいたし⋯”
そしてその上でこんな朝方、キャロンの部屋にいるのが娼婦ではなく男の俺だということを変に勘繰られでもしたら――
“俺はまぁ、本当のことだからいいけど⋯でもキャロンは⋯”
そんな不安が過ったが予想外にもマークは気にならなかったのか、怪訝な視線を向けられる事もそれ以上追及される事もなくて。
思わず安堵の息を吐いた、の⋯だが。
「ー⋯っ!?」
さりげなくキャロンが俺を支えるように腰へ手を添えたせいで、俺の肩がビクリと跳ねた。
「?エイベル、どうかしたのか?」
「い、いやどうもしないかなっ!それよりマーク、スライムって聞こえたんだけど!?」
俺の額に冷や汗が滲むが、そんなキャロンに気付いていないのか、あっさりと話を戻したマークが再び口を開く。
「あぁ、スライムらしきものを見た、という情報が入ったんだ。それで非番の奴にも緊急出動の命令が出ている。折角の朝にすまないが――」
“?”
折角の朝、という多少含みを持たせたようなマークの言い方に少し引っ掛かりを覚えつつも、心当たりがないので俺は首を傾げながらキャロンとマークの顔を交互に見て⋯
「緊急出動了解した、スライムの出現ポイントはわかっているのか?」
普通に会話を続けるキャロンに、俺の気のせいだったのかと納得する。
“それにスライムが出たんだ、正直それどころじゃないもんな⋯”
マークの話によると、出たのはまだ小型のスライムが一体との事。
だが相手はスライム、自然災害とすら呼ばれるその存在なのだ、油断は出来ない。
「エイベル、出れるか?」
「?俺だってもちろん騎士団の一員なんだ、もちろん行くつもりだけど⋯?」
少し心配そうな表情のキャロンに思わず首を傾げる。
そんな俺の様子をじっと見つめたキャロンは、そのまま視線をマークに戻して。
「わかった、着替えて俺達もすぐ向かう」
ハッキリそう告げると、マークはすぐに次の部屋に駆けていった。
「俺も着替えなきゃだからこのまま自室に戻――うわぁ!?」
まだ開いたままだった扉にそのまま向かおうとした俺の腰を引き寄せたキャロンがそのまま扉をバタンと閉める。
「キャロン?どうし⋯」
「⋯で、本当に問題ないのか?」
「へ?」
“な、なんだ?もしかして相手がスライムだから、俺には仮病でも使って休んで欲しかった⋯とか⋯?”
一瞬そんな考えが過るが、他でもないキャロンがそんな事を言うはずないとすぐに心の中で否定する。
何故ならキャロンは、キャロンだけは。
“ちゃんと俺を認めてくれてるもんな⋯”
だが、だとしたら何故そんなことを何度も聞かれるのか心当たりがなくて。
「えーっと、どういう⋯?」
仕方なくそう聞くと、かなり呆れたようなため息を吐いたキャロンが今度は気まずそうに目を逸らし。
「⋯だからその、お前ハジメテだったのに、無理をさせたからだな⋯」
呟くようにそう告げられ、やっとその心配そうな表情とさりげなく支えられた腰の意味を理解し一気に顔が茹で上がる。
“俺の体を気遣われてたのか!”
何度も揺すられた体を、腰を。
「お、俺は男だからっ!?全然平気だし!!」
「はぁ?俺は性別関係なくエイベルだから心配してだな⋯」
「な⋯っ!?そ、そういうとこ!キャロンのそういうとこ良くないと思うけど!?」
「⋯なに?俺のどういうところがどう良くないと⋯?」
「ひょえっ」
“し、しまった!なんかキャロンの怒りスイッチ踏んだ!”
再び降ってくるだろうお説教タイムを察し、しかし今はそれどころではない訳で――
「と、とにかく出撃しなきゃだから!着替えてくる!」
言い逃げするように俺はキャロンの腕から、並びに部屋からも飛び出した。
そしてそのまま自分の部屋に飛び込んだ俺は、着替えに時間を取られている場合ではないので着替えを抱えまず一気に全部脱ぎ⋯
「ぅえっ!?」
鏡に映った自分の体に、キャロンがつけただろう痕が無数にある事に気付き驚愕する。
「え、えっ!?太股にまで⋯!いつの間に⋯?」
首筋から胸元、太股まで至るところに残るキスマークを見て、まるでキャロンに愛されているかのような錯覚を起こし少し笑った。
「⋯魔法師で良かったな、ローブで隠れる」
魔法属性が目の色でわかってしまう魔法師は顔を隠せるよう、騎士服の上から着用するかなり大きなフードのついているローブが支給されていて。
そしてこのローブならばキャロンの残した痕が見られることはないだろう。
“キャロンに迷惑かけたくないし”
なんて言い訳をした俺は、その痕を宝物のようにそっとなぞった。
“だからこれは俺だけの、だ”
ローブをしっかり被り部屋を出ると、扉の横でキャロンが待っていてくれて。
「行くか」
「あぁ!」
そして俺達は、討伐不可能なほぼ自然災害、最凶最悪の魔物であるスライムとの戦闘に赴いたのだった。
――目撃情報があった、というその場所は悲惨なことになっていた。
「⋯みんな、何で⋯」
そこにいた騎士団の仲間が全員地に伏していたからだ。
⋯⋯文字通りの意味で。
「あ、エイベルにキャロンも!ほらお前達も探せ探せ!」
「え、え?何を⋯」
「何をって、スライムの痕跡に決まってるだろう?」
“⋯えっ、スライムって自然災害とも呼ばれる最も恐ろしい魔物⋯だよな?”
かなり危険な戦場を想像していた俺は、この何だか少し間抜けな現実に思わず拍子抜けしてしまう。
とりあえず見よう見まねでその場にしゃがみこみスライムの痕跡を探してみるが、騎士団員総出で地面に這いつくばって探しているのに見つかってないのだ、当然すぐに何かを見つけられるはずもなく。
「⋯な、キャロン。スライムってさ、倒すことが不可能な魔物なんだよな?」
隣で這っているキャロンに小声で話しかけると、キャロンは視線だけはしっかり痕跡を探しながら答えてくれた。
「あぁ、倒すのは不可能だ。自然災害に勝てないのと同じだな」
「でもなんか⋯思ったよりもみんな落ち着いてるっていうか⋯」
阿鼻叫喚を想像していた俺は、この現状にどこか拍子抜けしてしまっていて。
「まぁ、倒せないが、それだけだからな」
「⋯それだけ?」
「そもそもスライムは、こちらが何かをしない限りただ通りすぎるだけの魔物だ」
「えっ、そうなの!?」
驚いて声をあげた俺に、呆れたような視線を向けたキャロンがため息混じりに続きを教えてくれる。
「そうだ。こちらが何もしなければほとんど害はない。動きも遅いから遭遇しても逃げればいいし、追ってもこないからな」
「え⋯、じゃあなんで緊急伝令が出てるんだ?それに全員で今対応してるのは⋯」
「こちらが『何もしなければ』の話だから、だよ。ここに住んでるのは俺達知識のある騎士団員だけか?」
「あ⋯」
そこまで言われてやっと理解する。
“そうか、子供⋯”
この北方騎士団のあるラースにも当然街があるし、市民だっている。
刺激しないよう逃げればいいだけだが、もし子供が触れてしまったら?
“万一スライムに捕まってしまったら、相手は『倒せない』のだ。それはつまり俺達では『救えない』ということか⋯”
子供だけじゃない、お年寄りが気付かず触れてしまうこともあるかもしれない。
誰かを庇ってや、うっかり⋯なんてこともあるだろう。
そしてそういう“事故”を防ぐために。
「倒せないとしても、場所さえわかっていれば何かしらの対策は取れるのか⋯」
“だから皆這いつくばって痕跡を探しているんだな”
騎士団の仕事は華々しいだけの世界じゃない。
こういう地味な仕事だからこそ、大切な事が多いものだから。
「⋯そうだな!俺達がやらないで誰がやるって感じだもんな!」
「⋯おい、待てエイベル、なんだか急速に嫌な予感がするんだが」
「よし!ここは一通り見たしちょっと違うとこも探してみる!!もしかしたら凄い変なところに隠れてるかもしれないしな!」
「やめろ、俺は知ってる!そういうのを“フラグ”って言うんだ⋯!!」
「あ、あそこの洞窟とかどうだろ!?俺ちょっと見てくるな!」
「あぁあ!待て頼む止まれエイベル、まず立ち止まり深呼吸を⋯!」
キャロンがやたらと心配そうで少し可笑しい。
“まだ俺の体を気遣ってるのか?”
そう思った俺は、あえて元気に両手を振って大きなリアクションを取りながら小走りで駆けた。
それはもちろん、こんなに体力も回復したしそんなに心配しなくても大丈夫だぞ、という俺なりのアピールだったのだが。
「⋯あ、あれ?」
「あ、くそっ!絶対こうなると⋯!」
洞窟から垂れていた植物の蔦に振った右腕が絡まり、バランスを崩した俺は両足を滑らせる。
何故か成人男性である俺の体重がかかったはずのその蔦は切れることなくむしろしなやかに揺れ、まるで俺をその洞窟の奥へ投げ込むかのように体を浮かせた。
「え、えぇえぇぇえっ!」
「エイベル!!」
そしてその蔦は俺の体が一番高く上がった時にするりとほどけ、そのままスポンと放り投げるように大きな弧を描いて落下し――
あわや地面に衝突という間一髪で、滑り込んだキャロンが俺を抱き止めてくれた。
「え、キャロン、その足⋯」
「⋯あぁ、“捕まった”らしい」
「そんな⋯ッ」
洞窟の奥にひっそりといた、まだ小型らしい最凶最悪の魔物・スライムを踏みつけて――⋯
そのあまりにも恐ろしい魔物の名前を聞いた俺は、ガタガタッとベッドから転がり落ちるように駆け出し、扉の前で話すキャロンと伝令を伝えに来てくれた同僚・マークの話に割り込んだ。
“スライムって、剣で斬れば分裂し無限に増殖。属性魔法を仕掛ければその属性を取込み反撃するっていう、『倒すことが不可能』っていう伝説レベルの魔物だろう⋯!?”
しかも生き物を補食するという噂まであり、また意思をもたないであろう不可思議な動きをする事からも『最悪の自然災害』とすら呼ばれる最も忌諱すべき魔物のひとつでもある。
「あ、エイベル!やっぱお前こっちにいたのか、何回ノックしても出ないからまぁここにいるのかとは思っていたが⋯」
「あ、ごめん、昨晩はその⋯」
“な、なんて言ったらいいんだ?”
キャロンがえっちな呪いにかかったことはおそらく騎士団の皆が既に知っているだろう。
“昨日あんだけ派手に騒いでいたし⋯”
そしてその上でこんな朝方、キャロンの部屋にいるのが娼婦ではなく男の俺だということを変に勘繰られでもしたら――
“俺はまぁ、本当のことだからいいけど⋯でもキャロンは⋯”
そんな不安が過ったが予想外にもマークは気にならなかったのか、怪訝な視線を向けられる事もそれ以上追及される事もなくて。
思わず安堵の息を吐いた、の⋯だが。
「ー⋯っ!?」
さりげなくキャロンが俺を支えるように腰へ手を添えたせいで、俺の肩がビクリと跳ねた。
「?エイベル、どうかしたのか?」
「い、いやどうもしないかなっ!それよりマーク、スライムって聞こえたんだけど!?」
俺の額に冷や汗が滲むが、そんなキャロンに気付いていないのか、あっさりと話を戻したマークが再び口を開く。
「あぁ、スライムらしきものを見た、という情報が入ったんだ。それで非番の奴にも緊急出動の命令が出ている。折角の朝にすまないが――」
“?”
折角の朝、という多少含みを持たせたようなマークの言い方に少し引っ掛かりを覚えつつも、心当たりがないので俺は首を傾げながらキャロンとマークの顔を交互に見て⋯
「緊急出動了解した、スライムの出現ポイントはわかっているのか?」
普通に会話を続けるキャロンに、俺の気のせいだったのかと納得する。
“それにスライムが出たんだ、正直それどころじゃないもんな⋯”
マークの話によると、出たのはまだ小型のスライムが一体との事。
だが相手はスライム、自然災害とすら呼ばれるその存在なのだ、油断は出来ない。
「エイベル、出れるか?」
「?俺だってもちろん騎士団の一員なんだ、もちろん行くつもりだけど⋯?」
少し心配そうな表情のキャロンに思わず首を傾げる。
そんな俺の様子をじっと見つめたキャロンは、そのまま視線をマークに戻して。
「わかった、着替えて俺達もすぐ向かう」
ハッキリそう告げると、マークはすぐに次の部屋に駆けていった。
「俺も着替えなきゃだからこのまま自室に戻――うわぁ!?」
まだ開いたままだった扉にそのまま向かおうとした俺の腰を引き寄せたキャロンがそのまま扉をバタンと閉める。
「キャロン?どうし⋯」
「⋯で、本当に問題ないのか?」
「へ?」
“な、なんだ?もしかして相手がスライムだから、俺には仮病でも使って休んで欲しかった⋯とか⋯?”
一瞬そんな考えが過るが、他でもないキャロンがそんな事を言うはずないとすぐに心の中で否定する。
何故ならキャロンは、キャロンだけは。
“ちゃんと俺を認めてくれてるもんな⋯”
だが、だとしたら何故そんなことを何度も聞かれるのか心当たりがなくて。
「えーっと、どういう⋯?」
仕方なくそう聞くと、かなり呆れたようなため息を吐いたキャロンが今度は気まずそうに目を逸らし。
「⋯だからその、お前ハジメテだったのに、無理をさせたからだな⋯」
呟くようにそう告げられ、やっとその心配そうな表情とさりげなく支えられた腰の意味を理解し一気に顔が茹で上がる。
“俺の体を気遣われてたのか!”
何度も揺すられた体を、腰を。
「お、俺は男だからっ!?全然平気だし!!」
「はぁ?俺は性別関係なくエイベルだから心配してだな⋯」
「な⋯っ!?そ、そういうとこ!キャロンのそういうとこ良くないと思うけど!?」
「⋯なに?俺のどういうところがどう良くないと⋯?」
「ひょえっ」
“し、しまった!なんかキャロンの怒りスイッチ踏んだ!”
再び降ってくるだろうお説教タイムを察し、しかし今はそれどころではない訳で――
「と、とにかく出撃しなきゃだから!着替えてくる!」
言い逃げするように俺はキャロンの腕から、並びに部屋からも飛び出した。
そしてそのまま自分の部屋に飛び込んだ俺は、着替えに時間を取られている場合ではないので着替えを抱えまず一気に全部脱ぎ⋯
「ぅえっ!?」
鏡に映った自分の体に、キャロンがつけただろう痕が無数にある事に気付き驚愕する。
「え、えっ!?太股にまで⋯!いつの間に⋯?」
首筋から胸元、太股まで至るところに残るキスマークを見て、まるでキャロンに愛されているかのような錯覚を起こし少し笑った。
「⋯魔法師で良かったな、ローブで隠れる」
魔法属性が目の色でわかってしまう魔法師は顔を隠せるよう、騎士服の上から着用するかなり大きなフードのついているローブが支給されていて。
そしてこのローブならばキャロンの残した痕が見られることはないだろう。
“キャロンに迷惑かけたくないし”
なんて言い訳をした俺は、その痕を宝物のようにそっとなぞった。
“だからこれは俺だけの、だ”
ローブをしっかり被り部屋を出ると、扉の横でキャロンが待っていてくれて。
「行くか」
「あぁ!」
そして俺達は、討伐不可能なほぼ自然災害、最凶最悪の魔物であるスライムとの戦闘に赴いたのだった。
――目撃情報があった、というその場所は悲惨なことになっていた。
「⋯みんな、何で⋯」
そこにいた騎士団の仲間が全員地に伏していたからだ。
⋯⋯文字通りの意味で。
「あ、エイベルにキャロンも!ほらお前達も探せ探せ!」
「え、え?何を⋯」
「何をって、スライムの痕跡に決まってるだろう?」
“⋯えっ、スライムって自然災害とも呼ばれる最も恐ろしい魔物⋯だよな?”
かなり危険な戦場を想像していた俺は、この何だか少し間抜けな現実に思わず拍子抜けしてしまう。
とりあえず見よう見まねでその場にしゃがみこみスライムの痕跡を探してみるが、騎士団員総出で地面に這いつくばって探しているのに見つかってないのだ、当然すぐに何かを見つけられるはずもなく。
「⋯な、キャロン。スライムってさ、倒すことが不可能な魔物なんだよな?」
隣で這っているキャロンに小声で話しかけると、キャロンは視線だけはしっかり痕跡を探しながら答えてくれた。
「あぁ、倒すのは不可能だ。自然災害に勝てないのと同じだな」
「でもなんか⋯思ったよりもみんな落ち着いてるっていうか⋯」
阿鼻叫喚を想像していた俺は、この現状にどこか拍子抜けしてしまっていて。
「まぁ、倒せないが、それだけだからな」
「⋯それだけ?」
「そもそもスライムは、こちらが何かをしない限りただ通りすぎるだけの魔物だ」
「えっ、そうなの!?」
驚いて声をあげた俺に、呆れたような視線を向けたキャロンがため息混じりに続きを教えてくれる。
「そうだ。こちらが何もしなければほとんど害はない。動きも遅いから遭遇しても逃げればいいし、追ってもこないからな」
「え⋯、じゃあなんで緊急伝令が出てるんだ?それに全員で今対応してるのは⋯」
「こちらが『何もしなければ』の話だから、だよ。ここに住んでるのは俺達知識のある騎士団員だけか?」
「あ⋯」
そこまで言われてやっと理解する。
“そうか、子供⋯”
この北方騎士団のあるラースにも当然街があるし、市民だっている。
刺激しないよう逃げればいいだけだが、もし子供が触れてしまったら?
“万一スライムに捕まってしまったら、相手は『倒せない』のだ。それはつまり俺達では『救えない』ということか⋯”
子供だけじゃない、お年寄りが気付かず触れてしまうこともあるかもしれない。
誰かを庇ってや、うっかり⋯なんてこともあるだろう。
そしてそういう“事故”を防ぐために。
「倒せないとしても、場所さえわかっていれば何かしらの対策は取れるのか⋯」
“だから皆這いつくばって痕跡を探しているんだな”
騎士団の仕事は華々しいだけの世界じゃない。
こういう地味な仕事だからこそ、大切な事が多いものだから。
「⋯そうだな!俺達がやらないで誰がやるって感じだもんな!」
「⋯おい、待てエイベル、なんだか急速に嫌な予感がするんだが」
「よし!ここは一通り見たしちょっと違うとこも探してみる!!もしかしたら凄い変なところに隠れてるかもしれないしな!」
「やめろ、俺は知ってる!そういうのを“フラグ”って言うんだ⋯!!」
「あ、あそこの洞窟とかどうだろ!?俺ちょっと見てくるな!」
「あぁあ!待て頼む止まれエイベル、まず立ち止まり深呼吸を⋯!」
キャロンがやたらと心配そうで少し可笑しい。
“まだ俺の体を気遣ってるのか?”
そう思った俺は、あえて元気に両手を振って大きなリアクションを取りながら小走りで駆けた。
それはもちろん、こんなに体力も回復したしそんなに心配しなくても大丈夫だぞ、という俺なりのアピールだったのだが。
「⋯あ、あれ?」
「あ、くそっ!絶対こうなると⋯!」
洞窟から垂れていた植物の蔦に振った右腕が絡まり、バランスを崩した俺は両足を滑らせる。
何故か成人男性である俺の体重がかかったはずのその蔦は切れることなくむしろしなやかに揺れ、まるで俺をその洞窟の奥へ投げ込むかのように体を浮かせた。
「え、えぇえぇぇえっ!」
「エイベル!!」
そしてその蔦は俺の体が一番高く上がった時にするりとほどけ、そのままスポンと放り投げるように大きな弧を描いて落下し――
あわや地面に衝突という間一髪で、滑り込んだキャロンが俺を抱き止めてくれた。
「え、キャロン、その足⋯」
「⋯あぁ、“捕まった”らしい」
「そんな⋯ッ」
洞窟の奥にひっそりといた、まだ小型らしい最凶最悪の魔物・スライムを踏みつけて――⋯
3
あなたにおすすめの小説
悪役神官の俺が騎士団長に囚われるまで
二三@冷酷公爵発売中
BL
国教会の主教であるイヴォンは、ここが前世のBLゲームの世界だと気づいた。ゲームの内容は、浄化の力を持つ主人公が騎士団と共に国を旅し、魔物討伐をしながら攻略対象者と愛を深めていくというもの。自分は悪役神官であり、主人公が誰とも結ばれないノーマルルートを辿る場合に限り、破滅の道を逃れられる。そのためイヴォンは旅に同行し、主人公の恋路の邪魔を画策をする。以前からイヴォンを嫌っている団長も攻略対象者であり、気が進まないものの団長とも関わっていくうちに…。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
俺、転生したら社畜メンタルのまま超絶イケメンになってた件~転生したのに、恋愛難易度はなぜかハードモード
中岡 始
BL
ブラック企業の激務で過労死した40歳の社畜・藤堂悠真。
目を覚ますと、高校2年生の自分に転生していた。
しかも、鏡に映ったのは芸能人レベルの超絶イケメン。
転入初日から女子たちに囲まれ、学園中の話題の的に。
だが、社畜思考が抜けず**「これはマーケティング施策か?」**と疑うばかり。
そして、モテすぎて業務過多状態に陥る。
弁当争奪戦、放課後のデート攻勢…悠真の平穏は完全に崩壊。
そんな中、唯一冷静な男・藤崎颯斗の存在に救われる。
颯斗はやたらと落ち着いていて、悠真をさりげなくフォローする。
「お前といると、楽だ」
次第に悠真の中で、彼の存在が大きくなっていき――。
「お前、俺から逃げるな」
颯斗の言葉に、悠真の心は大きく揺れ動く。
転生×学園ラブコメ×じわじわ迫る恋。
これは、悠真が「本当に選ぶべきもの」を見つける物語。
続編『元社畜の俺、大学生になってまたモテすぎてるけど、今度は恋人がいるので無理です』
かつてブラック企業で心を擦り減らし、過労死した元社畜の男・藤堂悠真は、
転生した高校時代を経て、無事に大学生になった――
恋人である藤崎颯斗と共に。
だが、大学という“自由すぎる”世界は、ふたりの関係を少しずつ揺らがせていく。
「付き合ってるけど、誰にも言っていない」
その選択が、予想以上のすれ違いを生んでいった。
モテ地獄の再来、空気を読み続ける日々、
そして自分で自分を苦しめていた“頑張る癖”。
甘えたくても甘えられない――
そんな悠真の隣で、颯斗はずっと静かに手を差し伸べ続ける。
過去に縛られていた悠真が、未来を見つめ直すまでの
じれ甘・再構築・すれ違いと回復のキャンパス・ラブストーリー。
今度こそ、言葉にする。
「好きだよ」って、ちゃんと。
異世界に転生したら竜騎士たちに愛されました
あいえだ
BL
俺は病気で逝ってから生まれ変わったらしい。ど田舎に生まれ、みんな俺のことを伝説の竜騎士って呼ぶんだけど…なんだそれ?俺は生まれたときから何故か一緒にいるドラゴンと、この大自然でゆるゆる暮らしたいのにみんな王宮に行けって言う…。王宮では竜騎士イケメン二人に愛されて…。
完結済みです。
7回BL大賞エントリーします。
表紙、本文中のイラストは自作。キャライラストなどはTwitterに順次上げてます(@aieda_kei)
騎士様、お菓子でなんとか勘弁してください
東院さち
BL
ラズは城で仕える下級使用人の一人だ。竜を追い払った騎士団がもどってきた祝賀会のために少ない魔力を駆使して仕事をしていた。
突然襲ってきた魔力枯渇による具合の悪いところをその英雄の一人が助けてくれた。魔力を分け与えるためにキスされて、お礼にラズの作ったクッキーを欲しがる変わり者の団長と、やはりお菓子に目のない副団長の二人はラズのお菓子を目的に騎士団に勧誘する。
貴族を嫌うラズだったが、恩人二人にせっせとお菓子を作るはめになった。
お菓子が目的だったと思っていたけれど、それだけではないらしい。
やがて二人はラズにとってかけがえのない人になっていく。のかもしれない。
転移したらなぜかコワモテ騎士団長に俺だけ子供扱いされてる
塩チーズ
BL
平々凡々が似合うちょっと中性的で童顔なだけの成人男性。転移して拾ってもらった家の息子がコワモテ騎士団長だった!
特に何も無く平凡な日常を過ごすが、騎士団長の妙な噂を耳にしてある悩みが出来てしまう。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました
あと
BL
「お兄ちゃん!一肌脱ぎます!」
完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け
可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…?
攻め:ヴィクター・ローレンツ
受け:リアム・グレイソン
弟:リチャード・グレイソン
pixivにも投稿しています。
ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。
批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる