俺のせいでえっちな呪いにかけられた同僚騎士に責任を取りに行ったら、与えられたは夜通しの⋯説教!?泣いた

春瀬湖子

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スライムでえちち

8.紛れもなくそれが最凶

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「す、スライムだって⋯!!?」

そのあまりにも恐ろしい魔物の名前を聞いた俺は、ガタガタッとベッドから転がり落ちるように駆け出し、扉の前で話すキャロンと伝令を伝えに来てくれた同僚・マークの話に割り込んだ。

“スライムって、剣で斬れば分裂し無限に増殖。属性魔法を仕掛ければその属性を取込み反撃するっていう、『倒すことが不可能』っていう伝説レベルの魔物だろう⋯!?”

しかも生き物を補食するという噂まであり、また意思をもたないであろう不可思議な動きをする事からも『最悪の自然災害』とすら呼ばれる最も忌諱すべき魔物のひとつでもある。


「あ、エイベル!やっぱお前こっちにいたのか、何回ノックしても出ないからまぁここにいるのかとは思っていたが⋯」
「あ、ごめん、昨晩はその⋯」

“な、なんて言ったらいいんだ?”

キャロンがえっちな呪いにかかったことはおそらく騎士団の皆が既に知っているだろう。

“昨日あんだけ派手に騒いでいたし⋯”

そしてその上でこんな朝方、キャロンの部屋にいるのが娼婦ではなく男の俺だということを変に勘繰られでもしたら――

“俺はまぁ、本当のことだからいいけど⋯でもキャロンは⋯”

そんな不安が過ったが予想外にもマークは気にならなかったのか、怪訝な視線を向けられる事もそれ以上追及される事もなくて。

思わず安堵の息を吐いた、の⋯だが。


「ー⋯っ!?」

さりげなくキャロンが俺を支えるように腰へ手を添えたせいで、俺の肩がビクリと跳ねた。

「?エイベル、どうかしたのか?」
「い、いやどうもしないかなっ!それよりマーク、スライムって聞こえたんだけど!?」

俺の額に冷や汗が滲むが、そんなキャロンに気付いていないのか、あっさりと話を戻したマークが再び口を開く。

「あぁ、スライムらしきものを見た、という情報が入ったんだ。それで非番の奴にも緊急出動の命令が出ている。折角の朝にすまないが――」

“?”

折角の朝、という多少含みを持たせたようなマークの言い方に少し引っ掛かりを覚えつつも、心当たりがないので俺は首を傾げながらキャロンとマークの顔を交互に見て⋯

「緊急出動了解した、スライムの出現ポイントはわかっているのか?」

普通に会話を続けるキャロンに、俺の気のせいだったのかと納得する。

“それにスライムが出たんだ、正直それどころじゃないもんな⋯”

マークの話によると、出たのはまだ小型のスライムが一体との事。

だが相手はスライム、自然災害とすら呼ばれるその存在なのだ、油断は出来ない。


「エイベル、出れるか?」
「?俺だってもちろん騎士団の一員なんだ、もちろん行くつもりだけど⋯?」

少し心配そうな表情のキャロンに思わず首を傾げる。
そんな俺の様子をじっと見つめたキャロンは、そのまま視線をマークに戻して。

「わかった、着替えて俺達もすぐ向かう」

ハッキリそう告げると、マークはすぐに次の部屋に駆けていった。



「俺も着替えなきゃだからこのまま自室に戻――うわぁ!?」

まだ開いたままだった扉にそのまま向かおうとした俺の腰を引き寄せたキャロンがそのまま扉をバタンと閉める。

「キャロン?どうし⋯」
「⋯で、本当に問題ないのか?」
「へ?」

“な、なんだ?もしかして相手がスライムだから、俺には仮病でも使って休んで欲しかった⋯とか⋯?”

一瞬そんな考えが過るが、他でもないキャロンがそんな事を言うはずないとすぐに心の中で否定する。

何故ならキャロンは、キャロンだけは。

“ちゃんと俺を認めてくれてるもんな⋯”


だが、だとしたら何故そんなことを何度も聞かれるのか心当たりがなくて。

「えーっと、どういう⋯?」

仕方なくそう聞くと、かなり呆れたようなため息を吐いたキャロンが今度は気まずそうに目を逸らし。

「⋯だからその、お前ハジメテだったのに、無理をさせたからだな⋯」

呟くようにそう告げられ、やっとその心配そうな表情とさりげなく支えられた腰の意味を理解し一気に顔が茹で上がる。

“俺の体を気遣われてたのか!”
何度も揺すられた体を、腰を。


「お、俺は男だからっ!?全然平気だし!!」
「はぁ?俺は性別関係なくエイベルだから心配してだな⋯」
「な⋯っ!?そ、そういうとこ!キャロンのそういうとこ良くないと思うけど!?」
「⋯なに?俺のどういうところがどう良くないと⋯?」
「ひょえっ」

“し、しまった!なんかキャロンの怒りスイッチ踏んだ!”

再び降ってくるだろうお説教タイムを察し、しかし今はそれどころではない訳で――


「と、とにかく出撃しなきゃだから!着替えてくる!」

言い逃げするように俺はキャロンの腕から、並びに部屋からも飛び出した。


そしてそのまま自分の部屋に飛び込んだ俺は、着替えに時間を取られている場合ではないので着替えを抱えまず一気に全部脱ぎ⋯


「ぅえっ!?」

鏡に映った自分の体に、キャロンがつけただろう痕が無数にある事に気付き驚愕する。

「え、えっ!?太股にまで⋯!いつの間に⋯?」

首筋から胸元、太股まで至るところに残るキスマークを見て、まるでキャロンに愛されているかのような錯覚を起こし少し笑った。


「⋯魔法師で良かったな、ローブで隠れる」

魔法属性が目の色でわかってしまう魔法師は顔を隠せるよう、騎士服の上から着用するかなり大きなフードのついているローブが支給されていて。

そしてこのローブならばキャロンの残した痕が見られることはないだろう。

“キャロンに迷惑かけたくないし”

なんて言い訳をした俺は、その痕を宝物のようにそっとなぞった。

“だからこれは俺だけの、だ”



ローブをしっかり被り部屋を出ると、扉の横でキャロンが待っていてくれて。

「行くか」
「あぁ!」

そして俺達は、討伐不可能なほぼ自然災害、最凶最悪の魔物であるスライムとの戦闘に赴いたのだった。



――目撃情報があった、というその場所は悲惨なことになっていた。

「⋯みんな、何で⋯」

そこにいた騎士団の仲間が全員地に伏していたからだ。



⋯⋯文字通りの意味で。


「あ、エイベルにキャロンも!ほらお前達も探せ探せ!」
「え、え?何を⋯」
「何をって、スライムの痕跡に決まってるだろう?」


“⋯えっ、スライムって自然災害とも呼ばれる最も恐ろしい魔物⋯だよな?”

かなり危険な戦場を想像していた俺は、この何だか少し間抜けな現実に思わず拍子抜けしてしまう。

とりあえず見よう見まねでその場にしゃがみこみスライムの痕跡を探してみるが、騎士団員総出で地面に這いつくばって探しているのに見つかってないのだ、当然すぐに何かを見つけられるはずもなく。


「⋯な、キャロン。スライムってさ、倒すことが不可能な魔物なんだよな?」

隣で這っているキャロンに小声で話しかけると、キャロンは視線だけはしっかり痕跡を探しながら答えてくれた。

「あぁ、倒すのは不可能だ。自然災害に勝てないのと同じだな」
「でもなんか⋯思ったよりもみんな落ち着いてるっていうか⋯」

阿鼻叫喚を想像していた俺は、この現状にどこか拍子抜けしてしまっていて。


「まぁ、倒せないが、それだけだからな」
「⋯それだけ?」
「そもそもスライムは、こちらが何かをしない限りただ通りすぎるだけの魔物だ」
「えっ、そうなの!?」

驚いて声をあげた俺に、呆れたような視線を向けたキャロンがため息混じりに続きを教えてくれる。

「そうだ。こちらが何もしなければほとんど害はない。動きも遅いから遭遇しても逃げればいいし、追ってもこないからな」
「え⋯、じゃあなんで緊急伝令が出てるんだ?それに全員で今対応してるのは⋯」
「こちらが『何もしなければ』の話だから、だよ。ここに住んでるのは俺達知識のある騎士団員だけか?」
「あ⋯」

そこまで言われてやっと理解する。

“そうか、子供⋯”

この北方騎士団のあるラースにも当然街があるし、市民だっている。
刺激しないよう逃げればいいだけだが、もし子供が触れてしまったら?

“万一スライムに捕まってしまったら、相手は『倒せない』のだ。それはつまり俺達では『救えない』ということか⋯”

子供だけじゃない、お年寄りが気付かず触れてしまうこともあるかもしれない。
誰かを庇ってや、うっかり⋯なんてこともあるだろう。

そしてそういう“事故”を防ぐために。


「倒せないとしても、場所さえわかっていれば何かしらの対策は取れるのか⋯」

“だから皆這いつくばって痕跡を探しているんだな”


騎士団の仕事は華々しいだけの世界じゃない。
こういう地味な仕事だからこそ、大切な事が多いものだから。


「⋯そうだな!俺達がやらないで誰がやるって感じだもんな!」
「⋯おい、待てエイベル、なんだか急速に嫌な予感がするんだが」
「よし!ここは一通り見たしちょっと違うとこも探してみる!!もしかしたら凄い変なところに隠れてるかもしれないしな!」
「やめろ、俺は知ってる!そういうのを“フラグ”って言うんだ⋯!!」
「あ、あそこの洞窟とかどうだろ!?俺ちょっと見てくるな!」
「あぁあ!待て頼む止まれエイベル、まず立ち止まり深呼吸を⋯!」


キャロンがやたらと心配そうで少し可笑しい。

“まだ俺の体を気遣ってるのか?”
そう思った俺は、あえて元気に両手を振って大きなリアクションを取りながら小走りで駆けた。

それはもちろん、こんなに体力も回復したしそんなに心配しなくても大丈夫だぞ、という俺なりのアピールだったのだが。



「⋯あ、あれ?」
「あ、くそっ!絶対こうなると⋯!」

洞窟から垂れていた植物の蔦に振った右腕が絡まり、バランスを崩した俺は両足を滑らせる。

何故か成人男性である俺の体重がかかったはずのその蔦は切れることなくむしろしなやかに揺れ、まるで俺をその洞窟の奥へ投げ込むかのように体を浮かせた。


「え、えぇえぇぇえっ!」
「エイベル!!」


そしてその蔦は俺の体が一番高く上がった時にするりとほどけ、そのままスポンと放り投げるように大きな弧を描いて落下し――


あわや地面に衝突という間一髪で、滑り込んだキャロンが俺を抱き止めてくれた。



「え、キャロン、その足⋯」
「⋯あぁ、“捕まった”らしい」
「そんな⋯ッ」


洞窟の奥にひっそりといた、まだ小型らしい最凶最悪の魔物・スライムを踏みつけて――⋯
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