【R18】その言葉には、もう乗りませんッ!

春瀬湖子

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第一章・護衛令嬢、パーティーに出る

3.悪くない、じゃ認めない

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“何が、俺は嫌われ者の裏王子よ”

 内心私が悪態をついた相手は、最近新しくお仕えすることとなったシャトリエ国の第二王子であるフレンシャロ・ル・シャトリエ殿下。

 この国の大事な王子殿下である彼に何故こんな悪態を吐いているのかと言うと、それはもちろん――



「きゃぁあ! 殿下ぁっ!」
「銀髪が眩しい~っ!」
「今日もそのピンクの瞳でトロトロにされたぁい!」

 トロトロにされたいってなんだ!?
 しかも、今日『も』ってなんだ!

「ちょっとフレン様! 最後に叫んだ令嬢の言葉の内容について協議が必要ですッ」
「あれぇ、オリアナってばヤキモチかな」

 驚いた私が思わず噛みつくように言うと、当の殿下は読めない笑顔であり得ないことを言ってのけた。


「はぁ」
「オリアナ、そのくそデカため息は酷くないか? 俺だってお前が憧れていたキラキラ王子と半分は同じ血が流れてるんだぞ」
「はぁ?」
「ちょ、はぁ、以外話せない感じか?」

 ドヤッとした顔を向けてきたフレン様の言った意味がわからずにいると、戸惑っていたのは私なのに逆に戸惑われてこっちこそ更に戸惑うというもう訳のわからない状況に陥った。

 
「いや、話せますけど。というか、半分とか言われましても」
「半分だからな」
「いや、キラキラ具合はちゃんとフレン様も100%ですよ」

 カミジール殿下とは違う、なんだかピンクネオンなキラキラで不健全な雰囲気はあるが眩しいことは間違いないのでそう伝えただけ、だったのだが。

 
「100%か……」
「はぁ」


 何が琴線に触れたのかはわからないが、少し嬉しそうな表情になるフレン様に怪訝な顔を向ける。


「というか、半分と仰られてますけど、何を基準に半分なんですか」
「そりゃ、血だろ」
「え、貧血とかじゃないですよね」
「そんな話をした覚えはないっつの」

 精一杯考えて話しているのに、どこか呆れた表情になったフレン様に私は少し苛立ち、思わず不服そうな顔が表情に出たのだが。

 
「きゃぁあ! オリアナ様ってばその不満そうな顔も素敵ぃ~!!」
「私にもその冷たい眼差しを向けてえぇ!」
「私は絶対オリアナ×殿下のカップリングぅ~!」

 主君に対するにはあまりにも不遜な態度がどう変換されたのか、フレン様が向けられていた黄色い悲鳴以上の甲高い悲鳴がその場に沸き起こった。


“いや、カップリングって何……”

 令嬢たちの黄色い悲鳴に少し引っかかりつつ、まぁこの程度はいつものことなので流した私が再びフレン様の方へ視線を戻すと……


「ちょっと、何でそんなに不貞腐れた顔してるんです?」
「俺より人気があるのはなんか嫌」
「子供ですか? というか、やっぱり自分でも人気者だって思ってるんじゃないですか!」

“だったらその自称嫌われ者の称号捨てちゃいなさいよ!”

 フレン様の言い分に更なる不満を持った私だったが、ふわりと撫でるようにフレン様が私に手を伸ばす。

 そのまま頬に触れた手のひらに導かれるようにフレン様の方へ引き寄せられると、私の耳へ顔を寄せたフレン様が掠れた吐息で囁いた。


「だって、旦那はモテる方が嬉しいだろ?」
「だ……ッ!?」

 熱い吐息が耳をくすぐり、慌ててフレン様から距離を取ると、全て計算だったのだろう。
 ニヤリと笑っているフレン様がそこにいて。

 
「な、何する……、ッ!?」
「「き、きゃぁぁぁああ!!」」

 すぐに抗議しようとし私だったが、突如上がるここ一番の黄色い悲鳴。

 その声量に野生のオーケストラかと勘違いしそうになりつつ、流石にこんなうるさい中では私の文句なんて消えてしまう……というか、これだけ騒ぎの中心にいれば注目を無駄に集めてしまう。


“一応暗殺者に狙われてるって話だったし”

 この混沌の中で、危険な存在が万一紛れ込んだら――……

 それはまずい、と判断した私は、文句を言うのは一先ず後にして距離を取ったフレン様のすぐそばまで駆け寄った。


「オリアナ?」
「暴れないでくださいね」
「は? 何する気……って、おい!?」


 少し屈み、フレン様の膝裏に腕を差し込んだ私はそのまま反対の腕で彼の背中を支えて抱き上げる。

「待っ、オリア――……」
「行きますよ!」

 そしてそのままグン、と加速し令嬢たちから一気に距離を取った。

 そのまま人目のないところまで抱っこしながら走ること約二十分。


「ここまで来ればいいでしょう」
「な、なぁ、なんで? 抱き上げられてた俺がちょっと息切れしてんのに汗ひとつかいてねぇのはなんでなんだ……?」

 何故かゼェハァと荒い呼吸をしているフレン様に思わず動揺する。

 
「だっ、誰がフレン様にこんな仕打ちを!?」

 驚き、慌てて剣の鞘に手を掛けた私が背後にフレン様を庇うが、まるで呆れたという様子でフレン様が口を開いた。

「どう考えてもオリアナだっつの」
「はぁ?」

 その言われた意味がさっぱりわからず、ぽかんとすると、そんな私の何かがツボに入ったらしいフレン様が思い切り吹き出して。


「うはっ、ははっ、俺結構あからさまに口説いたつもりだったのに!」
「口説い……っ!?」
「なのになんで、俺がお姫様抱っこされる結末になるんだよっ」

 くくっ、とお腹を押さえて笑う彼は、相変わらず面白いものを見るような視線を私に向ける。

 けれどその視線に悪意が感じられないからなのか、それとも子供のように無邪気な笑顔だからなのか――


“ちょっとだけ、可愛いかも”


 最近落ち込んでばかりいた私の心が少しだけ浮上し、釣られて少しだけ笑った。


「でも、これでまたオリアナの人気があがりそうだよな」
「はぁ」

 何言ってんだ、という意味を込めて今日何度目かわからないほぼため息のような返事をするが、そんな無礼な態度なんて気にしないタイプなのかじっと私の姿を見て。


「よし、ドレスプレゼントするから着替えよう」
「は、はぁ!? 嫌ですよ!」
「え、なんで?」

“なんでって……”

 本当に不思議そうな顔を向けられ、頭が痛くなる。

「私が護衛だからですよ!」
「え」
「え、じゃないです。護衛騎士なんですから、騎士服が制服です!」
「えー……」

 私はおかしなことを言ってはいない。
 どう考えても当たり前のことだ。

 だって私はフレン様の護衛で、フレン様を守るためにここにいるのだから。


 そう、私は正しいはずなのに。


「つまりオリアナは結婚式も騎士服なのか?」
「け、結婚式!?」

“突然何の話になったの!?”


 少し唇を尖らせたフレン様がどこか不服そうにそう言い、唖然としてしまう。

 言われた意味がわからなさすぎてまた「はぁ?」と言いそうになるのを堪えていると、フレン様が「はぁ」と大きなため息を吐きなんだか理不尽な気になった。


「王族の結婚だぞ。街中をパレードだってするんだ」
「そ、そうですね……?」
「その時、花嫁が騎士服の俺の立場を考えてみろ」

 考えてみろ、と言われ想像する。
 確かにそれはどこかちぐはぐではあるが……

「俺よりモテるだろ!」
「そこかぁい!」

 そのなんともくだらない話のオチに脱力した私だったのだが、そもそも、の部分に引っかかった。


「というか、なんでフレン様の隣に騎士服の令嬢が?」
「オリアナと結婚するつもりだから」
「わ、私……っ!?」

 さらりと告げられるその言葉に愕然とする。
 だって、婚約の話は断ったはずだ。

 カミジール殿下の時とは違い、本当に断る意思を持ち、ちゃんと私の口から断る旨を伝えたはずなのに――


「俺のついでに暗殺されたりしたら流石に凹むからな。万一俺が死んでも生き延びられるってのはやっぱり理想だし」

 まぁ、結婚しなくてもいいかとは思ってたんだけど。なんて笑いながら付け足すフレン様に少し悲しくなる。


 この人は、今まで一人でどれだけ耐えていたのだろうか。


「暗殺なんて、させませんよ」

“意味がないと思った鍛え抜かれたこの力が、私にはあるから”

「鋼鉄の剣が護衛騎士になったんですから」

 自分では全然気に入ってないあだ名だが、それでもその二つ名が少しでもフレン様の安心材料になる可能性があるならば、この名前も悪くないと思えた。


「だからフレン様も誰かを好きになっていいんですよ」
「好きに、なっても……?」

 安心させようと、微笑みながらそう伝える。
 だって、私は最強だから。

 
「えぇ、いいんです。強さで……選ぶ、必要はありません」

 自分で言いながら少し自分の言葉に傷つく。
 だって、フレン様は私を好きになってその言葉を言っている訳じゃないのだとわかっているから。
 
 
「でもそれ、オリアナでもいいんだろ?」
「え?」

 ところか、平然と重ねられた言葉にきょとんとする。
 私でもいいって、言われても。

 
「私は護衛騎士の件しか了承しておりませんがっ!」
「口説くなとは言われてねぇし」
「面白半分でやめてください! 私はもう二度と信じないって決めたんですッ」

 だってもう傷付きたくない。
 誰も悪くないからこそ、苦しくてしんどくて。

 だから――

 
「ま、オリアナがどう思ってるのかは別として。俺は気に入ってるし、オリアナも孤独死が心配なんだろ? 俺が暗殺されたら孤独死させるかもしれないが……」
「ですから! 暗殺なんてさせま――」
「それまでに子供を作ればいいもんな」
「こ、子供ぉっ!?」


 ガギョンと後退る私をみてまたフレン様がお腹を抱えて笑いだす。

 この流れ、何回目なのだろうか。

“からかわれてる、だけよね?”


 そうだとわかっているのに、きっと彼がいまいち掴みどころがないせいだろう。

 私の鼓動が、いつもより早い気がしたのだった。
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