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第三章・護衛令嬢、教官になる
25.手っ取り早い、は時に良し悪し
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「なっ、んっ、で! あんなことを言ったんですか!?」
フレン様がトリスタンに提案した、次の暗殺者も生まず誰も死なない方法。
「それがなんでフレン様の暗殺続行なんですか!」
そのとんでも提案に苛立ちすぎた私は、フレン様の枕をボスボスと殴りながら文句を言ってみるが、それでもこの怒りは収まらなくて。
「だってそれが一番手っ取り早いじゃん」
「どこがですか!?」
「まずオリアナがいるから俺は無事、以上」
“雑すぎる!!”
確かに暗殺続行ならば、身代わりで妹が暗殺者に仕立て上げられることもなく、処刑もされないだろう。
だがその発言は確実に私の頭痛へ直結するほどの提案で。
“信じられない! 信じられなすぎる!!”
「何、そんなに俺が暗殺されるの嫌なのか?」
「そんなの、決まって……っ」
反射的に返事をしようとした私は、私をニヤニヤと見るフレン様に思わずグッと口をへの時に曲げた。
“わざと私の反応を見て楽しんでる!”
「……そりゃ、護衛してる対象に何かあったら騎士の名折れですから」
「はは、素直じゃないオリアナも可愛いな」
「なっ、別に可愛くないですけど!?」
しれっと返されるこの言葉もからかいかもしれないと頭ではわかっているのに、そんなことを言われるとついそわそわしてしまう自分がなんだか堪らなく恥ずかしい。
「だが、俺の暗殺計画が遂行中であるうちは誰も死なずに逆に安泰だろ?」
「ですがそれだとフレン様が……っ」
「そうだな。だからここへオリアナに来て貰ったんだ」
「うっ」
ここ、とはもちろんフレン様の私室。
それも寝室ベッドの上。
いつも夜は王城の近衛騎士団に頼んで与えられた私室へ帰っていたのだが。
「これで今日から毎晩一緒に寝られるな」
「毎晩護衛するだけですけど!!」
「あぁ、俺の護衛はオリアナだけだからな。そんでオリアナなら寝てても何かあれば起きるだろ?」
「もちろんです! どんな状況でもお守りいたします」
「なら」
――なら、と言ったフレン様がニヤッと笑ったのを見て、完全にハメられたと察する。
絶対絶対この嫌な予感の正体は。
「何をしていても問題ないってことだもんなぁ」
「待っ、フレ……んんっ!」
ベッドの端に座っていた私を、背後から抱き締めたフレン様がそっと振り向かせて唇が重なる。
気付けば何度もした口付けは、何度したとしてもやはり慣れなくて私の鼓動を早くさせた。
“そもそもなんでフレン様のベッドに座ってしまったんだろ……!”
絶対またこうなるとわかっていたはずなのに。
それなのに抗えないのは、私を抱き締めるフレン様の腕が心地良いからかもしれない。
「同僚が出来たな」
「同僚?」
もしかしなくてもあの二人か? なんて考える。
ドジっ子新米騎士と、そのドジっ子を新米騎士にまで成長させた幼馴染みのこれまた新米騎士。
“有能だったからこそ暗殺者に選ばれたんだろうけど”
これからの彼は、相変わらずこそこそとフレン様の暗殺を担いつつフレン様の手足としての二重スパイとして暗躍することになる。
「少し新米騎士には荷が重い気がしますが」
「あぁ。まぁ、バレてもすぐに消されたりはしないだろ、俺側の動向が知りたいだろうからな」
当然危険であることに間違いない。
だがどっちに転んでも消される予定だったトリスタンは、即決でフレン様の提案に自らの意思で乗った。
更にフレン様が勝てば一気に腹心の一人としての未来が約束されるというオマケ付きで。
“まぁ、元々選択肢なんてあってないようなものだったものね”
それでも少し光が射したこの未来は、トリスタンの心を掴むには十分で。
「なんかラーシュにまで忠誠を誓われたけどな」
なんて満更ではなさそうに笑うフレン様が、少し可愛く見えてしまった。
「それでも、短期決戦、ですね」
「あぁ」
「ラスク伯爵家……」
トリスタンが言っていた名前を思わず呟くと、私の頬を軽くフレン様がつねる。
「一応言っとくが、ラスク伯爵家は依頼主じゃないからな」
「依頼主じゃないんですか!?」
そうとしか考えられなかっただけに、その発言に唖然として。
「伯爵家程度がここまで中枢に潜り込ませて暗殺を狙うなんて出来ねぇよ」
「た、確かに……?」
「あくまでも窓口の役割をしてただけだろう」
“ラスク伯爵家がただの窓口だとすれば、黒幕は――”
「ラスク伯爵家は、ゴリッゴリの王太子派だ」
「じゃあ、やはりカミジール殿下へ忠誠を誓う貴族の誰かが?」
「……いや」
さっきまでハッキリキッパリ断言してきたフレン様が、途端に歯切れが悪くなり戸惑う。
“そんなに言い辛い人って、誰なのかしら”
大人しくじっと続きが話されるのを待っていると、はぁ、とため息を吐いたフレン様は、そのまま私の肩口へ顔を埋めて。
「――恐らく、ヴレットブラード公爵家だろ」
「ヴレ……なんですって?」
「いや、流石に自国の有力貴族の名前は一発で繰り返して欲しいんだが」
“そんなこと言われても、訓練ばかりで!”
という言い訳は、結局私の口からは出なかった。
何故なら。
「兄上の婚約者、スティナ令嬢のご実家だ」
「……!」
その予想外の黒幕に、私は呆然として固まってしまう。
“王太子の婚約者で、そして次期王妃のスティナ様が……?”
政敵、と言われれば確かにそうなのだが、フレン様から宣戦布告することもなければ積極的に王座なんて狙わないだろう。
なにもしない方がむしろ安泰とすら言えるこの状況で、バクバクという私の鼓動だけが部屋に響いているように感じた。
「可能性は確実に消しておく、ということでしょうか?」
恐る恐るそう口にするが、フレン様はゆっくり首を左右に振って。
「可能性はなくはないが、現状政敵になれるほど俺に支持率はない。だろ?」
「それはそうですね」
「肯定が痛い」
“同意させたくせに!?”
なんだか理不尽に感じつつ、しょんぼりしたフレン様がやっぱり少し可愛く見えるなんて私はもしかしたら末期なのだろう。
“本当は何も可愛くなんてないはずなのに”
確かに顔は整っていると思うが、それは可愛いという類いのものではなくて――……
「まぁ、万一俺への暗殺未遂が露見したら、築き上げたものも全て終わる。現状政敵にすらならないなら疎ましくとも無視するのがセオリーだ」
「あっ、は、はいっ? それもそうですね」
「え、このタイミングで聞いてないとかある?」
“うぅ、やっぱり可愛く見える……!”
別のことを考えていた私に、むすっとした顔をしたフレン様。
やはりその顔もあざとくて。
「………………うりゃっ」
「ひゃあ!?」
私を後ろから抱き締めたままごろんと横にフレン様が転がると、そのまま巻き込まれるように私もごろりとベッドに転がってしまい、そしてあっという間に私を組み敷くフレン様と目が合って。
「ちょっとフレン様!」
「ふは、これはお仕置きだな?」
「え、セクハラなんですけど」
「恋人同士の営みですけど」
“こ、恋人!?”
いつから?
いつから私は護衛から恋人に昇格した!?
さらりと落とされたその爆弾発言に動揺した私が口をはくはくと動かしているが、そんな私を細められたピンクの瞳が見つめつつゆっくり服のボタンに手をかけられる。
「待っ」
だが慌てて制止しようとした私の声を遮るように、フレン様も口を開いて。
「現状だと、どう考えてもメリットよりデメリットが多いんだよな。みんなが認める王太子に、王太子妃だし」
「え? いや、それはその、ちょ、話しながらどんどん脱がさないで貰えます!?」
「ということは、そのデメリットを越えるほどの野望があるとか……そんな可能性もあるか」
「えぇっ!? そうですね、そうなんですが待って、や、やぁ……!」
慣れた手つきであっという間に服を脱がされたと思ったら、そのままフレン様の手のひらが私のお腹をするりと撫でた。
「やっぱり情報がないとだなぁ、オリアナはどう思う?」
「も……っ、待ってって、言ってるのにぃ……!」
「ははっ、可愛いな」
フレン様がトリスタンに提案した、次の暗殺者も生まず誰も死なない方法。
「それがなんでフレン様の暗殺続行なんですか!」
そのとんでも提案に苛立ちすぎた私は、フレン様の枕をボスボスと殴りながら文句を言ってみるが、それでもこの怒りは収まらなくて。
「だってそれが一番手っ取り早いじゃん」
「どこがですか!?」
「まずオリアナがいるから俺は無事、以上」
“雑すぎる!!”
確かに暗殺続行ならば、身代わりで妹が暗殺者に仕立て上げられることもなく、処刑もされないだろう。
だがその発言は確実に私の頭痛へ直結するほどの提案で。
“信じられない! 信じられなすぎる!!”
「何、そんなに俺が暗殺されるの嫌なのか?」
「そんなの、決まって……っ」
反射的に返事をしようとした私は、私をニヤニヤと見るフレン様に思わずグッと口をへの時に曲げた。
“わざと私の反応を見て楽しんでる!”
「……そりゃ、護衛してる対象に何かあったら騎士の名折れですから」
「はは、素直じゃないオリアナも可愛いな」
「なっ、別に可愛くないですけど!?」
しれっと返されるこの言葉もからかいかもしれないと頭ではわかっているのに、そんなことを言われるとついそわそわしてしまう自分がなんだか堪らなく恥ずかしい。
「だが、俺の暗殺計画が遂行中であるうちは誰も死なずに逆に安泰だろ?」
「ですがそれだとフレン様が……っ」
「そうだな。だからここへオリアナに来て貰ったんだ」
「うっ」
ここ、とはもちろんフレン様の私室。
それも寝室ベッドの上。
いつも夜は王城の近衛騎士団に頼んで与えられた私室へ帰っていたのだが。
「これで今日から毎晩一緒に寝られるな」
「毎晩護衛するだけですけど!!」
「あぁ、俺の護衛はオリアナだけだからな。そんでオリアナなら寝てても何かあれば起きるだろ?」
「もちろんです! どんな状況でもお守りいたします」
「なら」
――なら、と言ったフレン様がニヤッと笑ったのを見て、完全にハメられたと察する。
絶対絶対この嫌な予感の正体は。
「何をしていても問題ないってことだもんなぁ」
「待っ、フレ……んんっ!」
ベッドの端に座っていた私を、背後から抱き締めたフレン様がそっと振り向かせて唇が重なる。
気付けば何度もした口付けは、何度したとしてもやはり慣れなくて私の鼓動を早くさせた。
“そもそもなんでフレン様のベッドに座ってしまったんだろ……!”
絶対またこうなるとわかっていたはずなのに。
それなのに抗えないのは、私を抱き締めるフレン様の腕が心地良いからかもしれない。
「同僚が出来たな」
「同僚?」
もしかしなくてもあの二人か? なんて考える。
ドジっ子新米騎士と、そのドジっ子を新米騎士にまで成長させた幼馴染みのこれまた新米騎士。
“有能だったからこそ暗殺者に選ばれたんだろうけど”
これからの彼は、相変わらずこそこそとフレン様の暗殺を担いつつフレン様の手足としての二重スパイとして暗躍することになる。
「少し新米騎士には荷が重い気がしますが」
「あぁ。まぁ、バレてもすぐに消されたりはしないだろ、俺側の動向が知りたいだろうからな」
当然危険であることに間違いない。
だがどっちに転んでも消される予定だったトリスタンは、即決でフレン様の提案に自らの意思で乗った。
更にフレン様が勝てば一気に腹心の一人としての未来が約束されるというオマケ付きで。
“まぁ、元々選択肢なんてあってないようなものだったものね”
それでも少し光が射したこの未来は、トリスタンの心を掴むには十分で。
「なんかラーシュにまで忠誠を誓われたけどな」
なんて満更ではなさそうに笑うフレン様が、少し可愛く見えてしまった。
「それでも、短期決戦、ですね」
「あぁ」
「ラスク伯爵家……」
トリスタンが言っていた名前を思わず呟くと、私の頬を軽くフレン様がつねる。
「一応言っとくが、ラスク伯爵家は依頼主じゃないからな」
「依頼主じゃないんですか!?」
そうとしか考えられなかっただけに、その発言に唖然として。
「伯爵家程度がここまで中枢に潜り込ませて暗殺を狙うなんて出来ねぇよ」
「た、確かに……?」
「あくまでも窓口の役割をしてただけだろう」
“ラスク伯爵家がただの窓口だとすれば、黒幕は――”
「ラスク伯爵家は、ゴリッゴリの王太子派だ」
「じゃあ、やはりカミジール殿下へ忠誠を誓う貴族の誰かが?」
「……いや」
さっきまでハッキリキッパリ断言してきたフレン様が、途端に歯切れが悪くなり戸惑う。
“そんなに言い辛い人って、誰なのかしら”
大人しくじっと続きが話されるのを待っていると、はぁ、とため息を吐いたフレン様は、そのまま私の肩口へ顔を埋めて。
「――恐らく、ヴレットブラード公爵家だろ」
「ヴレ……なんですって?」
「いや、流石に自国の有力貴族の名前は一発で繰り返して欲しいんだが」
“そんなこと言われても、訓練ばかりで!”
という言い訳は、結局私の口からは出なかった。
何故なら。
「兄上の婚約者、スティナ令嬢のご実家だ」
「……!」
その予想外の黒幕に、私は呆然として固まってしまう。
“王太子の婚約者で、そして次期王妃のスティナ様が……?”
政敵、と言われれば確かにそうなのだが、フレン様から宣戦布告することもなければ積極的に王座なんて狙わないだろう。
なにもしない方がむしろ安泰とすら言えるこの状況で、バクバクという私の鼓動だけが部屋に響いているように感じた。
「可能性は確実に消しておく、ということでしょうか?」
恐る恐るそう口にするが、フレン様はゆっくり首を左右に振って。
「可能性はなくはないが、現状政敵になれるほど俺に支持率はない。だろ?」
「それはそうですね」
「肯定が痛い」
“同意させたくせに!?”
なんだか理不尽に感じつつ、しょんぼりしたフレン様がやっぱり少し可愛く見えるなんて私はもしかしたら末期なのだろう。
“本当は何も可愛くなんてないはずなのに”
確かに顔は整っていると思うが、それは可愛いという類いのものではなくて――……
「まぁ、万一俺への暗殺未遂が露見したら、築き上げたものも全て終わる。現状政敵にすらならないなら疎ましくとも無視するのがセオリーだ」
「あっ、は、はいっ? それもそうですね」
「え、このタイミングで聞いてないとかある?」
“うぅ、やっぱり可愛く見える……!”
別のことを考えていた私に、むすっとした顔をしたフレン様。
やはりその顔もあざとくて。
「………………うりゃっ」
「ひゃあ!?」
私を後ろから抱き締めたままごろんと横にフレン様が転がると、そのまま巻き込まれるように私もごろりとベッドに転がってしまい、そしてあっという間に私を組み敷くフレン様と目が合って。
「ちょっとフレン様!」
「ふは、これはお仕置きだな?」
「え、セクハラなんですけど」
「恋人同士の営みですけど」
“こ、恋人!?”
いつから?
いつから私は護衛から恋人に昇格した!?
さらりと落とされたその爆弾発言に動揺した私が口をはくはくと動かしているが、そんな私を細められたピンクの瞳が見つめつつゆっくり服のボタンに手をかけられる。
「待っ」
だが慌てて制止しようとした私の声を遮るように、フレン様も口を開いて。
「現状だと、どう考えてもメリットよりデメリットが多いんだよな。みんなが認める王太子に、王太子妃だし」
「え? いや、それはその、ちょ、話しながらどんどん脱がさないで貰えます!?」
「ということは、そのデメリットを越えるほどの野望があるとか……そんな可能性もあるか」
「えぇっ!? そうですね、そうなんですが待って、や、やぁ……!」
慣れた手つきであっという間に服を脱がされたと思ったら、そのままフレン様の手のひらが私のお腹をするりと撫でた。
「やっぱり情報がないとだなぁ、オリアナはどう思う?」
「も……っ、待ってって、言ってるのにぃ……!」
「ははっ、可愛いな」
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