【R18】「君を愛することはない」ってラブラブハッピーエンドへの常套句じゃなかったんですか!?

春瀬湖子

文字の大きさ
4 / 10

4.あの日から私は

しおりを挟む
“でも本当に一目惚れだったのよ”

 六年前の狩猟大会。
 危ないとわかっていたのに可愛いウサギを追いかけて入った狩場。

 そんな場所に子供が入れば獲物と見間違えられるなんて事故が起きるのも必然だった。

 弓や剣、クロスボウと各々の武器で狩猟大会に臨んでいた参加者のうちのひとりが、小鹿かキツネなどの中型の獲物と見間違えたのだろう。
 
 突然茂みの中に潜り込んでいた私の近くへ刺さった弓矢。
 その弓矢に驚き、絶句してしまったのもよくなかった。

“あの時は本当に死ぬかと思ったわ”

 その場で声を出せば私が人間だと気付いて貰えただろうし、イチかバチかなところもあるがいっそ茂みから飛び出してしまえば子供だと気付いて貰えたかもしれない。

 だが驚き硬直してしまった私は、茂みの中で震えるしかなかったのだ。
 
 狩猟大会の伝統として、自身の狩った獲物を慕う相手へと捧げ告白する風潮がある。
 そのため相手も隠れる獲物を見逃すことはせず、いそうな場所へと何本もの弓を引いた。

 いつ当たってもおかしくない状況。
 その時だった。

「アリーチェお嬢様!」

 そう叫び茂みの中に飛び込んできた人物こそ、当時まだ騎士見習いのコルンだったのだ。

“結局コルンの背中には矢傷が残っているのよね”

 獲物を探していた相手の放った最後の弓矢。
 その弓矢から身を挺して守ってくれた彼の背中には今も当時の傷があるだろう。
 
 騎士として背中の傷は、いかなる理由であるとしても恥とされる。
 
「コルンだってそのことを知っているはずなのに」

 彼は笑ったのだ。
 貴女を守れたという勲章をいただきました、と。

 私は彼にしがみつき泣きじゃくっていた。
 その笑顔があまりにも温かく優しかったから安堵したのかもしれないし、彼に一生残る恥をつけてしまったことへの後悔かもしれない。

 きっとどちらもだったのだろう。
 
 
 父の補助として狩猟大会に参加していた彼は、私がいなくなったという知らせを聞いて一番に飛び出し探しに来てくれたのだと後から知った。

 そしてその日から、私は彼のことが忘れられなくなってしまったのだ。

“一目惚れよ。身を挺して助けに来てくれたその気高さと、私を気遣うその笑顔に”

 その日から彼がラヴェニーニ侯爵家へ来る日を心待ちにする日々が始まった。
 最初こそ、助けなければよかったと言われることを恐れていたが、逆に私にトラウマが残っていないかを心配してくれるコルンの優しさにもっともっと好きになった。

 いつしか彼が見習いを卒業し、正式に騎士団へと所属するようになってからは彼の後を追って騎士団演習場にまで通うようになった。

 父にそれとなく――では、鈍感な父には伝わらなかったので、何度も直球で彼と婚約したい旨を頼み込んだ。
 そうしてやっと彼の正式な婚約者になれたのに、私はもっと彼に構ってもらいたいという一心で取り返しのつかないことをしてしまったのだろう。

“だから”

「エリー、ここがわからないんだけど」
「あぁ、それはさっきやった薬剤学の応用でね……」

“貴方の自慢の婚約者になれるよういい女になってもう一度告白するわ”

 私は気合を入れて、エリーの説明を必死にメモったのだった。


 始めたのはそれだけではない。
 貴族の娘として当然すべき社交。

「今まではあまり参加して来なかったけれど」

 コルンという婚約者がいる以上、出会いの場として使われることの多い夜会などに行く必要はなくサボっていたのだが、参加できるものはなるべく参加するようになった。

 もちろん新たな出会いを求めてではない。
 社交の場は情報収集の場でもあるからだ。

 今ある繋がりを強め、新たに自身の味方をつける。
 それらの行為は決して無駄にはならないし、いざということが起きたとしても対処しやすくなる。

 それに情報を事前に知っているだけで有利になる場面も多いだろう。

“コルンの家は子爵家。子爵家では爵位的に参加出来ないパーティーもあるけれど、侯爵家ならほとんど全部参加出来るわ”

 騎士である彼の力になれるかもしれない情報を、私ならば手に入れられる可能性があるのだ。
 ならば参加しない手はない。

「苦手だったダンスレッスンも、新たに家庭教師をつけて貰ったお陰でそれなりに見えるようにはなってきたし」

 ただ一方的に彼を追いかける私ではなく、いつか彼に選んで貰えるような私へ。
 そうなれるよう、先生に何度も注意された歩き方から改善し私は背筋をまっすぐ伸ばして前に進むのだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

冷酷王太子の仮面の下は、私限定の甘々でした

白米
恋愛
冷酷非情――それが王国中に知れ渡る第一王太子・レオンハルト殿下の評判だった。 「感情を持たぬ氷の王子」「誰にも心を開かない男」 そんな恐れられた殿下のもとに、私――平民出身の伯爵令嬢・セレナが、政略結婚の駒として嫁ぐことになった。 「どうせ心のない結婚生活が待っているのだろう」 そう諦めていたけれど―― 「…お前だけには、触れてほしい」 「外では冷たくするが、我慢してくれ。全部、お前を守るためだから」 ――え? なにこのギャップ。 冷たく無表情だったのは仮面。 その裏側には、私にだけ向けられる優しさと甘さ、そして独占欲が隠されていた――! 「他の男に笑いかけるな。お前は俺のものだ」 冷酷王太子が私限定で甘々溺愛モードに!? 仮面夫婦のはずが、いつの間にか本気の恋に発展していく、じれ甘ラブロマンス!

狼隊長さんは、私のやわはだのトリコになりました。

汐瀬うに
恋愛
目が覚めたら、そこは獣人たちの国だった。 元看護師の百合は、この世界では珍しい“ヒト”として、狐の婆さんが仕切る風呂屋で働くことになる。 与えられた仕事は、獣人のお客を湯に通し、その体を洗ってもてなすこと。 本来ならこの先にあるはずの行為まで求められてもおかしくないのに、百合の素肌で背中を撫でられた獣人たちは、皆ふわふわの毛皮を揺らして眠りに落ちてしまうのだった。 人間の肌は、獣人にとって子犬の毛並みのようなもの――そう気づいた時には、百合は「眠りを売る“やわはだ嬢”」として静かな人気者になっていた。 そんな百合の元へある日、一つの依頼が舞い込む。 「眠れない狼隊長を、あんたの手で眠らせてやってほしい」 戦場の静けさに怯え、目を閉じれば仲間の最期がよみがえる狼隊長ライガ。 誰よりも強くあろうとする男の震えに触れた百合は、自分もまた失った人を忘れられずにいることを思い出す。 やわらかな人肌と、眠れない心。 静けさを怖がるふたりが、湯気の向こうで少しずつ寄り添っていく、獣人×ヒトの異世界恋愛譚。 [こちらは以前あげていた「やわはだの、お風呂やさん」の改稿ver.になります]

冷酷な王の過剰な純愛

魚谷
恋愛
ハイメイン王国の若き王、ジクムントを想いつつも、 離れた場所で生活をしている貴族の令嬢・マリア。 マリアはかつてジクムントの王子時代に仕えていたのだった。 そこへ王都から使者がやってくる。 使者はマリアに、再びジクムントの傍に仕えて欲しいと告げる。 王であるジクムントの心を癒やすことができるのはマリアしかいないのだと。 マリアは周囲からの薦めもあって、王都へ旅立つ。 ・エブリスタでも掲載中です ・18禁シーンについては「※」をつけます ・作家になろう、エブリスタで連載しております

婚約破棄ブームに乗ってみた結果、婚約者様が本性を現しました

ラム猫
恋愛
『最新のトレンドは、婚約破棄!  フィアンセに婚約破棄を提示して、相手の反応で本心を知ってみましょう。これにより、仲が深まったと答えたカップルは大勢います!  ※結果がどうなろうと、我々は責任を負いません』  ……という特設ページを親友から見せられたエレアノールは、なかなか距離の縮まらない婚約者が自分のことをどう思っているのかを知るためにも、この流行に乗ってみることにした。  彼が他の女性と仲良くしているところを目撃した今、彼と婚約破棄して身を引くのが正しいのかもしれないと、そう思いながら。  しかし実際に婚約破棄を提示してみると、彼は豹変して……!? ※『小説家になろう』様、『カクヨム』様にも投稿しています

贖罪の花嫁はいつわりの婚姻に溺れる

マチバリ
恋愛
 貴族令嬢エステルは姉の婚約者を誘惑したという冤罪で修道院に行くことになっていたが、突然ある男の花嫁になり子供を産めと命令されてしまう。夫となる男は稀有な魔力と尊い血統を持ちながらも辺境の屋敷で孤独に暮らす魔法使いアンデリック。  数奇な運命で結婚する事になった二人が呪いをとくように幸せになる物語。 書籍化作業にあたり本編を非公開にしました。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【短編】淫紋を付けられたただのモブです~なぜか魔王に溺愛されて~

双真満月
恋愛
不憫なメイドと、彼女を溺愛する魔王の話(短編)。 なんちゃってファンタジー、タイトルに反してシリアスです。 ※小説家になろうでも掲載中。 ※一万文字ちょっとの短編、メイド視点と魔王視点両方あり。

月の後宮~孤高の皇帝の寵姫~

真木
恋愛
新皇帝セルヴィウスが即位の日に閨に引きずり込んだのは、まだ十三歳の皇妹セシルだった。大好きだった兄皇帝の突然の行為に混乱し、心を閉ざすセシル。それから十年後、セシルの心が見えないまま、セルヴィウスはある決断をすることになるのだが……。

処理中です...