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第一章・恋愛レベル、いち
4.せっかく来たならプレイしてみたいというもので
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「この先に魔王が――……って、森しか見えないんだけど」
一人そう呟きながら視線を向けるのは遥か遠くに見える暗い森。
眺めている部屋は汚れてはいないが決して豪華とは言えない、質素な部屋だった。
出がらしでも一応聖女として王宮に豪華な部屋が与えられたのだが、そもそも私の荷物は作ってしまった攻略本のみ。
最初はわくわくした豪華な部屋にもすぐに飽きてしまった私は、利便性から第六騎士団の寮に移らせて貰って。
“持ってた鞄……は、セミに近付く前に歩道に置いちゃったのよね”
電波が通じるとは思えないが、こういう世界なんだから何かしら出来たかもしれないスマホもお財布も教科書もタオルもついでにおやつも全部鞄の中。
今のところ何かを書くことはないが、万年筆……いや、世界観的に羽ペンなどが出てくる可能性もあるだろうがどちらも使ったことなんてない訳で。
「ペンケースも鞄の中だなぁ」
教科書があれば予習が出来たかもしれないし、この世界でも何かしら役立つ可能性だってあった。
あとお財布はシンプルに心配。
拾った人、ちゃんと警察に届けてくれた?
家族の誰か、いやお母さん!カードを止めてくれていますように!!
「ま、今心配しても意味ないんだけどさ」
あーあ、と思い切り伸びをしながら部屋を見渡す。
王都に邸宅を持っていない地方貴族や平民出身の騎士が住んでいるというこの寮はベッドと小さめの机、椅子のみというまるでどこぞの学生寮のような作りだったが、このシンプルさが元々庶民である私には居心地が良くて。
「あと、すぐに訓練所に行けるのも最高」
そしてこの寮の目の前が先日模擬戦をした訓練所になっていた。
今の私の日常は、朝起きて騎士たちとともに走り込み。
その後は素振りをし、たまに対人訓練。
午後からは剣術講師が来てくれるので学びつつ実戦訓練……という、まるで部活動、もしくはどこぞの軍隊かという生活で――……
“元々剣道部でこういう生活は慣れてたし、体を動かすことも嫌いじゃないからいいんだけど”
けど、折角こういう世界に来たのだ。
毎日目的なく鍛練だけ……なんていうのはやはり……
「つ、ま、ん、なぁ~いっ!!」
「なんだよ、突然。あ、ライザ、最近は魔法の伸びがいいから今日はそっち中心で鍛練してくれ」
「はい!団長」
地団駄を踏むようにそう叫ぶと、私のそういった奇行には慣れてしまったらしいフランが平然と他の騎士に指示を出しながら相手をしてくれる。
「ね、討伐とかってないの?あるんでしょ?私はいつ行くの?」
「討伐ってお前な……。遊びじゃねぇんだぞ?」
「でも私には聖属性魔法とやらがあるし!聖属性魔法なら魔物倒せるんでしょ?あと誰か怪我しても治せるし」
「接近しなきゃ攻撃出来ないってこと忘れたのか?」
「それはわかってるけど……」
本来ならば騎士に前衛を任せ、後方から支援魔法をかけたり遠距離魔法で魔物を浄化するのが聖女の仕事らしいのだが。
“出がらしだしなぁ”
どういう理屈かはわからないが、空っぽにはならないらしいがその代わり威力も上がる見込みのない私の魔法。
後方からでは誰にも魔法が届かないため超接近型の運用をするしかなくて。
「俺たちの負担がでかすぎる」
「はぁ?負担ってなによ」
「負担は……、まぁ、負担だろ」
“だろ、とか言われても……”
どんな負担があるというのか。
模擬戦では自分の魔法を知らなかったため遅れを取ったが、倒した騎士だっている。
決して足を引っ張るだけではないはずなのだが。
「まさか、私のお守りが負担、とか言わないわよね?」
「なんだ、わかってたのか」
「はぁ?私だって十分戦えてたでしょ!それに毎日毎日訓練してんの。レベル表記なんて見えないけど、絶対最初より10くらいレベル上がってるわよ!」
「その基準がどこから来たのか知らないが……」
はぁ、とわざとらしいため息を吐かれてムッとする。
こういうところが態度悪男と呼ばれる所以だと気付いてないのだろう。
「本来聖女様の戦いは後方支援がメインだって聞いただろ」
「えぇ、なんか授業みたいなん受けさせられたけど」
「それも、聖女様の周りをガチガチに固め何人もの魔法師と騎士が盾になってはじめて討伐に行くもんなんだ」
「そんなに?」
「接近型のお前を守るために俺たちはどこまで踏み込めばいいんだって話になるだろ」
「そ、れは……」
“聖女の盾になるために彼らが踏み込むのは――”
――それは、最前線以上の最前線。だが。
「……でもそれ、“聖女”の話でしょ」
「は?」
「“国が守りたい聖女”の話でしょ?」
「どういう……」
私の言う意味をはかりかねているのか、フランが怪訝な顔をこちらに向けてきて。
「そこまで守らなくちゃならない聖女はここにはいないんじゃないって言ってんの」
ここにいるのは力を失った出がらし聖女。
聖女として『使う』気があるなら、フランが言ったように盾として周りをガチガチに固められるような騎士団に入れられたはず。
現状を見ればこの国は私を『そう使う気がない』から、こんな新人ばかりの騎士団に入れたとも取れるわけで――……
「私を聖女として使いたいならこんなに放置はしないでしょ。つまり私はキープ聖女ってとこ」
「キープってお前な……」
「事実じゃない?現に私は聖女の役割をしてないし。だからどうせなら接近型でごりごりに戦う……そうね、勇者を目指そうかなって思ってるのよ!」
「なんで勇者目指すんだよ!?お前は聖女だ浅はか聖女!」
「その呼び方止めるって言ったのフランでしょ、この態度悪男!」
うぎぎ、と再び睨み合った私たちだが、もちろんこんなことを繰り返しても意味などない訳で。
仕切り直しとばかりにごほんと咳払いをし、改めてフランへと向き直ったその時だった。
「いいんじゃないですか?討伐」
「!」
「!?」
さらっと割り込んできたのは、模擬戦で私がうっかり回復魔法をかけてしまったあのトーマだった。
「は!?いやいや、どこが良いん……」
「いいよねぇ!?だって出がらしでも能力あるなら使わなきゃ損だし!?」
「ははっ、まぁ、さすがに勇者はどうかと思うがな」
くすくすと笑うトーマは、かなり苦い顔をしているフランと味方が出来て一気ににこにこになった私の顔を見比べて。
「まだ浅い場所での魔物なら問題ないんじゃないですかね?それにリッカを聖女として見るんじゃなく、ちょっと便利な能力のある新人騎士として見れば十分弱い魔物には対応できると思います」
「だが……」
トーマにそう言われたフランは、それでもまだ迷う素振りを見せたものの。
「……わかった、確かに浅いところなら超近距離で壁になっても『もしも』は起きないだろう。お前も無理して突っ込むことはせず、はじめての討伐だと言うことを忘れんなよ」
「はぁい」
まるで子供に言い聞かすような言い回しに思うところがなくはないが、だが騎士団長という立場から考えればそれは仕方がないことで。
“私だけじゃなく、所属している騎士みんなの命を預かってる立場だもんね”
私は素直に返事をしたのだった。
一人そう呟きながら視線を向けるのは遥か遠くに見える暗い森。
眺めている部屋は汚れてはいないが決して豪華とは言えない、質素な部屋だった。
出がらしでも一応聖女として王宮に豪華な部屋が与えられたのだが、そもそも私の荷物は作ってしまった攻略本のみ。
最初はわくわくした豪華な部屋にもすぐに飽きてしまった私は、利便性から第六騎士団の寮に移らせて貰って。
“持ってた鞄……は、セミに近付く前に歩道に置いちゃったのよね”
電波が通じるとは思えないが、こういう世界なんだから何かしら出来たかもしれないスマホもお財布も教科書もタオルもついでにおやつも全部鞄の中。
今のところ何かを書くことはないが、万年筆……いや、世界観的に羽ペンなどが出てくる可能性もあるだろうがどちらも使ったことなんてない訳で。
「ペンケースも鞄の中だなぁ」
教科書があれば予習が出来たかもしれないし、この世界でも何かしら役立つ可能性だってあった。
あとお財布はシンプルに心配。
拾った人、ちゃんと警察に届けてくれた?
家族の誰か、いやお母さん!カードを止めてくれていますように!!
「ま、今心配しても意味ないんだけどさ」
あーあ、と思い切り伸びをしながら部屋を見渡す。
王都に邸宅を持っていない地方貴族や平民出身の騎士が住んでいるというこの寮はベッドと小さめの机、椅子のみというまるでどこぞの学生寮のような作りだったが、このシンプルさが元々庶民である私には居心地が良くて。
「あと、すぐに訓練所に行けるのも最高」
そしてこの寮の目の前が先日模擬戦をした訓練所になっていた。
今の私の日常は、朝起きて騎士たちとともに走り込み。
その後は素振りをし、たまに対人訓練。
午後からは剣術講師が来てくれるので学びつつ実戦訓練……という、まるで部活動、もしくはどこぞの軍隊かという生活で――……
“元々剣道部でこういう生活は慣れてたし、体を動かすことも嫌いじゃないからいいんだけど”
けど、折角こういう世界に来たのだ。
毎日目的なく鍛練だけ……なんていうのはやはり……
「つ、ま、ん、なぁ~いっ!!」
「なんだよ、突然。あ、ライザ、最近は魔法の伸びがいいから今日はそっち中心で鍛練してくれ」
「はい!団長」
地団駄を踏むようにそう叫ぶと、私のそういった奇行には慣れてしまったらしいフランが平然と他の騎士に指示を出しながら相手をしてくれる。
「ね、討伐とかってないの?あるんでしょ?私はいつ行くの?」
「討伐ってお前な……。遊びじゃねぇんだぞ?」
「でも私には聖属性魔法とやらがあるし!聖属性魔法なら魔物倒せるんでしょ?あと誰か怪我しても治せるし」
「接近しなきゃ攻撃出来ないってこと忘れたのか?」
「それはわかってるけど……」
本来ならば騎士に前衛を任せ、後方から支援魔法をかけたり遠距離魔法で魔物を浄化するのが聖女の仕事らしいのだが。
“出がらしだしなぁ”
どういう理屈かはわからないが、空っぽにはならないらしいがその代わり威力も上がる見込みのない私の魔法。
後方からでは誰にも魔法が届かないため超接近型の運用をするしかなくて。
「俺たちの負担がでかすぎる」
「はぁ?負担ってなによ」
「負担は……、まぁ、負担だろ」
“だろ、とか言われても……”
どんな負担があるというのか。
模擬戦では自分の魔法を知らなかったため遅れを取ったが、倒した騎士だっている。
決して足を引っ張るだけではないはずなのだが。
「まさか、私のお守りが負担、とか言わないわよね?」
「なんだ、わかってたのか」
「はぁ?私だって十分戦えてたでしょ!それに毎日毎日訓練してんの。レベル表記なんて見えないけど、絶対最初より10くらいレベル上がってるわよ!」
「その基準がどこから来たのか知らないが……」
はぁ、とわざとらしいため息を吐かれてムッとする。
こういうところが態度悪男と呼ばれる所以だと気付いてないのだろう。
「本来聖女様の戦いは後方支援がメインだって聞いただろ」
「えぇ、なんか授業みたいなん受けさせられたけど」
「それも、聖女様の周りをガチガチに固め何人もの魔法師と騎士が盾になってはじめて討伐に行くもんなんだ」
「そんなに?」
「接近型のお前を守るために俺たちはどこまで踏み込めばいいんだって話になるだろ」
「そ、れは……」
“聖女の盾になるために彼らが踏み込むのは――”
――それは、最前線以上の最前線。だが。
「……でもそれ、“聖女”の話でしょ」
「は?」
「“国が守りたい聖女”の話でしょ?」
「どういう……」
私の言う意味をはかりかねているのか、フランが怪訝な顔をこちらに向けてきて。
「そこまで守らなくちゃならない聖女はここにはいないんじゃないって言ってんの」
ここにいるのは力を失った出がらし聖女。
聖女として『使う』気があるなら、フランが言ったように盾として周りをガチガチに固められるような騎士団に入れられたはず。
現状を見ればこの国は私を『そう使う気がない』から、こんな新人ばかりの騎士団に入れたとも取れるわけで――……
「私を聖女として使いたいならこんなに放置はしないでしょ。つまり私はキープ聖女ってとこ」
「キープってお前な……」
「事実じゃない?現に私は聖女の役割をしてないし。だからどうせなら接近型でごりごりに戦う……そうね、勇者を目指そうかなって思ってるのよ!」
「なんで勇者目指すんだよ!?お前は聖女だ浅はか聖女!」
「その呼び方止めるって言ったのフランでしょ、この態度悪男!」
うぎぎ、と再び睨み合った私たちだが、もちろんこんなことを繰り返しても意味などない訳で。
仕切り直しとばかりにごほんと咳払いをし、改めてフランへと向き直ったその時だった。
「いいんじゃないですか?討伐」
「!」
「!?」
さらっと割り込んできたのは、模擬戦で私がうっかり回復魔法をかけてしまったあのトーマだった。
「は!?いやいや、どこが良いん……」
「いいよねぇ!?だって出がらしでも能力あるなら使わなきゃ損だし!?」
「ははっ、まぁ、さすがに勇者はどうかと思うがな」
くすくすと笑うトーマは、かなり苦い顔をしているフランと味方が出来て一気ににこにこになった私の顔を見比べて。
「まだ浅い場所での魔物なら問題ないんじゃないですかね?それにリッカを聖女として見るんじゃなく、ちょっと便利な能力のある新人騎士として見れば十分弱い魔物には対応できると思います」
「だが……」
トーマにそう言われたフランは、それでもまだ迷う素振りを見せたものの。
「……わかった、確かに浅いところなら超近距離で壁になっても『もしも』は起きないだろう。お前も無理して突っ込むことはせず、はじめての討伐だと言うことを忘れんなよ」
「はぁい」
まるで子供に言い聞かすような言い回しに思うところがなくはないが、だが騎士団長という立場から考えればそれは仕方がないことで。
“私だけじゃなく、所属している騎士みんなの命を預かってる立場だもんね”
私は素直に返事をしたのだった。
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