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第一章・恋愛レベル、いち
9.出がらしの本気と堅物の決意
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ヒロインの定番であるえっちな呪い(もどき)にかかったらしいフランの後を追い茂みに入った私。
思ったよりも遠くまで行っていたらしいフランを探していると、パシャリと水音が聞こえてきて。
“あのピンクの粘液洗い流してんのかな?”
一応魔物である可能性を考慮し、竹刀をぎゅっと握り直す。
脇構えと呼ばれる、竹刀を持った手を後方下にやり、そのまま自身の体で隠すような構えでゆっくり音に近付いて。
“この構えなら下から斬り上げることも出来るし、それに初見ならどこから斬られるかもわからないもんね……!”
剣道の試合では竹刀を隠すメリットはなく、現代ではあまり使われない型。
だがまさかこんなところで有効打になるなんて、習っていて損はないな、なんて考えつつひょこりと音のする方を覗き――――
「うっわ!?」
「ひぇっ!?」
――――もしこれがちょっとえっちな健全ゲームだったなら、茂みが開けた先にあるのは湖で。
主人公がうっかりヒロインの裸を一瞬だけ覗き見してしまい、「きゃー!えっちぃ!」のような事を叫ばれつつバシャッと水をかけられるかヒロインが慌てて湖に全身を隠すのだが……。
「水溜まりかいッ!」
「洗い流せれば何でも良かったんだバカッ!!」
体を隠すどころか足首すら隠れないただの水溜まりで、せっせとタオルを浸しては体を拭いていたらしいフラン。
もちろんその裸体を隠す場所などあるはずもなく……
“こここそ王道やりなさいよッ!”
なんて、チラッとどころかガッツリ見てしまった私は慌てて茂みに飛び込んだ。
「つーか俺はほっといてくれって言わなかったか!?」
「それは聞いた、聞いたけど……!」
面白半分ではあるが、心配だったのも嘘ではなくて。
「私の魔法なら、治せるんじゃないの?」
「……ッ、そ、れは」
「元々私を庇って浴びたんだし、というかそれ、洗い流すだけで治るの?」
「…………軽減は、する」
「それ治るって言わないし!」
流石にモロ見てしまった私は、再び茂みから覗く勇気までは持ち合わせておらず……
三角座りしながら膝に顔を埋めてぎゅっと目を瞑る。
“あー、でも目を瞑ると耳が敏感になる……!”
カチャカチャと防具を着け直しているだろう音が聞こえて――――そしてハッとした。
「ちょっと!?洗い流すんじゃなかったの!?」
思わず再びガサッと茂みから顔を出すと、魔物の催淫効果のせいか頬が赤く火照ったようなフランが思ったよりも近くにいて――……
「ッ!」
“色気やっば!”
思わずごくりと唾を呑む。
「あらかた拭き取れたし、それにこれ以上は表面だけ拭いても関係ない。あとは時間が解決することを祈るだけだ」
「い、祈るだけって……って、だから私の魔法なら」
「……その為に、触れるって?」
「あ、……え?」
触れる、と言われてドキリとする。
私は一応聖女として召喚されたが能力は出がらしにしてしまっていて。
だから『触れないと』効果はなくて。
「ひ、ヒロイン……は、フランで」
「は?俺は男だぞ」
「お、とこ」
色んな女性からのアプローチを断り続けていたらしいフラン。
そんな頑固で堅物な彼は、適当に手を出すような人ではないのだとそう思っていたし、それはそうだと思う。
「……俺の理性を、信用しすぎだろ」
けれど今の彼は魔物の呪いで冷静さを欠いていて、そんなところにのこのこと傍に行き彼に触れようとしたのは他の誰でもなく私自身。
考えなしの浅はかな私は、偽装とはいえ彼の“婚約者”の肩書きという、触れて、そして触れられる大義名分まで持っていて。
“そんなこと、あり得る?”
目の前の、色気を漏らしている顔のいい男をぼんやりと眺める。
“いいの?それ”
良いか悪いかで言えば悪い寄り。
だって一応婚約者とはいえ恋人同士どころか好き同士でもない。
“けど、これは私の責任であり私しか治せないんじゃない?”
――――なら。
「別に、いいよ。わ、私だってもう21だし!」
「……経験があるのか?」
「いや、それはまぁ、ないんだけど……」
剣道の練習ばかりだった中高生。
自分の自由時間なんて、部活動が終わり帰宅し晩ご飯を食べたあとだけだった。
そんな時間から未成年が外で遊んだり出来るはずもなく、そこからの時間はひたすらゲームに費やしていた私には色恋の『い』の字すらなくて。
「だが、鍛練を共に積んだ仲間とかにその、好きな奴とか……いなかったのか?」
「いや、剣道部舐めてる?部活の後の臭いなんて鼻もげるから!そんな状態で恋とか芽生えないから」
「そういうもんなのか……?」
いや、ちゃっかり部内で付き合ってるカップルとかいた――……が、少なくとも私にはいなかった。
早くこの臭いから解放されてさっさとゲームがしたかったから。
“けど”
「フランは、いるの」
「は?」
「その、こ、恋人……みたいな?」
これだけ顔がよく、頑固で堅物なところもストイックでクールだと思えばモテるだろう。
というか実際モテすぎて求婚が止まらず困っていたからこそこの偽装婚約が成立したのだ。
“モテて困るってことは、好きな人以外興味がないからとかかもしれないよね”
ふと、そんな結論を弾き出した私がそう言うと、思い切り大きなため息が降ってきて。
「いないし、ない」
「え」
「恋人とかいないし、……その、経験も、ない」
「え!!!」
“その顔で!?”
ボソッと告げられたその言葉に思わず驚愕してしまう。
この顔なら遊び相手なんて選び放題だし、まぁそれはフランだからないとはしても……
「貴族ってそういう教育とか受けてるんじゃないの?」
これは思いっきり漫画の知識であって史実を知っている訳ではないが、少なくとも私の中では貴族には『閨教育』という文化があるのが定番で。
「知識は、まぁ、確かに学んだが……!だがそれは、別に実経験が伴うものじゃない、せいぜい座学だ」
“つまりただの保健体育……!”
「と、とにかく!そういう訳だからお前はもうみんなのとこに帰れ」
「え?いやそれとこれとは別でしょ」
「な、ん、で、だ、よ!」
「って言われてもねぇ……」
チラッと視線をやった先にいるのは、頬を上気させ浅く呼吸するイケメン。
そして私には一応治せるかもしれない能力があって。
「とりあえず治療やってみようよ」
「だ、だからこんな状態の俺に触れるとか……!」
「触れないと魔法かけられないんだかは仕方ないでしょ。それに私、婚約者だし」
“だから『どっちの』意味でも、か”
トーマの言っていた『どっちの』。
催淫効果を消すには魔法による治療はもちろんだが、一番手っ取り早いのは根本たる性欲の解消だろう。
そして堅物フランが、万一が起きるかもしれない治療を受け入れるとすれば、それは万一が起きても社会的に問題のない相手――……
“つまり婚約者って肩書き持ってる私だけってことか”
もちろん本当に万一が起きるとは思っていない。
触れている間は性的欲求は高まるかもしれないが、同時に回復魔法によって催淫効果は減るのだから。
そう思った私は、少し狼狽えているフランに一歩近付く。
私が近付く度にジリジリと後退るフラン。
そんなフランを大きな岩まで追い詰めると、これ以上逃げられないと思ったらしいフランが、頭を抱えるようにしてその場にしゃがみ込んだ。
「観念した?」
「知らん、なんで俺が追い詰められる側なんだ?くそ、もう好きにしろよ……」
「安心してよ、ちょっと感触は楽しむかもしれないけどちゃんと回復魔法かけるから」
「た、楽しむって何……、ッ!」
慌てて着たせいか、ボタンが全部留まっていなかったのでいつもより少し隙のあるその胸元にそっと手を差し込む。
もちろん服の上からでも発動することは模擬戦の時のトーマで実証済みなのだが――……
“うわっ!さっき見ちゃった時に気付いてたけど、細身に見えてしっかり筋肉あるじゃん~!”
思ったより厚い胸板にドキドキしながら、その少ししっとりした雄っぱいを楽しんでいると。
「……リッカ」
「ぅへい!ち、ちゃんとやる!今からちゃんと回復まほ……」
「――――本当に、いいんだな?」
「ふぇっ?」
「責任、取る、から」
「………………はぇぁ」
それはあまりにもフランらしく、そしてどこかフランらしくない言葉だった。
思ったよりも遠くまで行っていたらしいフランを探していると、パシャリと水音が聞こえてきて。
“あのピンクの粘液洗い流してんのかな?”
一応魔物である可能性を考慮し、竹刀をぎゅっと握り直す。
脇構えと呼ばれる、竹刀を持った手を後方下にやり、そのまま自身の体で隠すような構えでゆっくり音に近付いて。
“この構えなら下から斬り上げることも出来るし、それに初見ならどこから斬られるかもわからないもんね……!”
剣道の試合では竹刀を隠すメリットはなく、現代ではあまり使われない型。
だがまさかこんなところで有効打になるなんて、習っていて損はないな、なんて考えつつひょこりと音のする方を覗き――――
「うっわ!?」
「ひぇっ!?」
――――もしこれがちょっとえっちな健全ゲームだったなら、茂みが開けた先にあるのは湖で。
主人公がうっかりヒロインの裸を一瞬だけ覗き見してしまい、「きゃー!えっちぃ!」のような事を叫ばれつつバシャッと水をかけられるかヒロインが慌てて湖に全身を隠すのだが……。
「水溜まりかいッ!」
「洗い流せれば何でも良かったんだバカッ!!」
体を隠すどころか足首すら隠れないただの水溜まりで、せっせとタオルを浸しては体を拭いていたらしいフラン。
もちろんその裸体を隠す場所などあるはずもなく……
“こここそ王道やりなさいよッ!”
なんて、チラッとどころかガッツリ見てしまった私は慌てて茂みに飛び込んだ。
「つーか俺はほっといてくれって言わなかったか!?」
「それは聞いた、聞いたけど……!」
面白半分ではあるが、心配だったのも嘘ではなくて。
「私の魔法なら、治せるんじゃないの?」
「……ッ、そ、れは」
「元々私を庇って浴びたんだし、というかそれ、洗い流すだけで治るの?」
「…………軽減は、する」
「それ治るって言わないし!」
流石にモロ見てしまった私は、再び茂みから覗く勇気までは持ち合わせておらず……
三角座りしながら膝に顔を埋めてぎゅっと目を瞑る。
“あー、でも目を瞑ると耳が敏感になる……!”
カチャカチャと防具を着け直しているだろう音が聞こえて――――そしてハッとした。
「ちょっと!?洗い流すんじゃなかったの!?」
思わず再びガサッと茂みから顔を出すと、魔物の催淫効果のせいか頬が赤く火照ったようなフランが思ったよりも近くにいて――……
「ッ!」
“色気やっば!”
思わずごくりと唾を呑む。
「あらかた拭き取れたし、それにこれ以上は表面だけ拭いても関係ない。あとは時間が解決することを祈るだけだ」
「い、祈るだけって……って、だから私の魔法なら」
「……その為に、触れるって?」
「あ、……え?」
触れる、と言われてドキリとする。
私は一応聖女として召喚されたが能力は出がらしにしてしまっていて。
だから『触れないと』効果はなくて。
「ひ、ヒロイン……は、フランで」
「は?俺は男だぞ」
「お、とこ」
色んな女性からのアプローチを断り続けていたらしいフラン。
そんな頑固で堅物な彼は、適当に手を出すような人ではないのだとそう思っていたし、それはそうだと思う。
「……俺の理性を、信用しすぎだろ」
けれど今の彼は魔物の呪いで冷静さを欠いていて、そんなところにのこのこと傍に行き彼に触れようとしたのは他の誰でもなく私自身。
考えなしの浅はかな私は、偽装とはいえ彼の“婚約者”の肩書きという、触れて、そして触れられる大義名分まで持っていて。
“そんなこと、あり得る?”
目の前の、色気を漏らしている顔のいい男をぼんやりと眺める。
“いいの?それ”
良いか悪いかで言えば悪い寄り。
だって一応婚約者とはいえ恋人同士どころか好き同士でもない。
“けど、これは私の責任であり私しか治せないんじゃない?”
――――なら。
「別に、いいよ。わ、私だってもう21だし!」
「……経験があるのか?」
「いや、それはまぁ、ないんだけど……」
剣道の練習ばかりだった中高生。
自分の自由時間なんて、部活動が終わり帰宅し晩ご飯を食べたあとだけだった。
そんな時間から未成年が外で遊んだり出来るはずもなく、そこからの時間はひたすらゲームに費やしていた私には色恋の『い』の字すらなくて。
「だが、鍛練を共に積んだ仲間とかにその、好きな奴とか……いなかったのか?」
「いや、剣道部舐めてる?部活の後の臭いなんて鼻もげるから!そんな状態で恋とか芽生えないから」
「そういうもんなのか……?」
いや、ちゃっかり部内で付き合ってるカップルとかいた――……が、少なくとも私にはいなかった。
早くこの臭いから解放されてさっさとゲームがしたかったから。
“けど”
「フランは、いるの」
「は?」
「その、こ、恋人……みたいな?」
これだけ顔がよく、頑固で堅物なところもストイックでクールだと思えばモテるだろう。
というか実際モテすぎて求婚が止まらず困っていたからこそこの偽装婚約が成立したのだ。
“モテて困るってことは、好きな人以外興味がないからとかかもしれないよね”
ふと、そんな結論を弾き出した私がそう言うと、思い切り大きなため息が降ってきて。
「いないし、ない」
「え」
「恋人とかいないし、……その、経験も、ない」
「え!!!」
“その顔で!?”
ボソッと告げられたその言葉に思わず驚愕してしまう。
この顔なら遊び相手なんて選び放題だし、まぁそれはフランだからないとはしても……
「貴族ってそういう教育とか受けてるんじゃないの?」
これは思いっきり漫画の知識であって史実を知っている訳ではないが、少なくとも私の中では貴族には『閨教育』という文化があるのが定番で。
「知識は、まぁ、確かに学んだが……!だがそれは、別に実経験が伴うものじゃない、せいぜい座学だ」
“つまりただの保健体育……!”
「と、とにかく!そういう訳だからお前はもうみんなのとこに帰れ」
「え?いやそれとこれとは別でしょ」
「な、ん、で、だ、よ!」
「って言われてもねぇ……」
チラッと視線をやった先にいるのは、頬を上気させ浅く呼吸するイケメン。
そして私には一応治せるかもしれない能力があって。
「とりあえず治療やってみようよ」
「だ、だからこんな状態の俺に触れるとか……!」
「触れないと魔法かけられないんだかは仕方ないでしょ。それに私、婚約者だし」
“だから『どっちの』意味でも、か”
トーマの言っていた『どっちの』。
催淫効果を消すには魔法による治療はもちろんだが、一番手っ取り早いのは根本たる性欲の解消だろう。
そして堅物フランが、万一が起きるかもしれない治療を受け入れるとすれば、それは万一が起きても社会的に問題のない相手――……
“つまり婚約者って肩書き持ってる私だけってことか”
もちろん本当に万一が起きるとは思っていない。
触れている間は性的欲求は高まるかもしれないが、同時に回復魔法によって催淫効果は減るのだから。
そう思った私は、少し狼狽えているフランに一歩近付く。
私が近付く度にジリジリと後退るフラン。
そんなフランを大きな岩まで追い詰めると、これ以上逃げられないと思ったらしいフランが、頭を抱えるようにしてその場にしゃがみ込んだ。
「観念した?」
「知らん、なんで俺が追い詰められる側なんだ?くそ、もう好きにしろよ……」
「安心してよ、ちょっと感触は楽しむかもしれないけどちゃんと回復魔法かけるから」
「た、楽しむって何……、ッ!」
慌てて着たせいか、ボタンが全部留まっていなかったのでいつもより少し隙のあるその胸元にそっと手を差し込む。
もちろん服の上からでも発動することは模擬戦の時のトーマで実証済みなのだが――……
“うわっ!さっき見ちゃった時に気付いてたけど、細身に見えてしっかり筋肉あるじゃん~!”
思ったより厚い胸板にドキドキしながら、その少ししっとりした雄っぱいを楽しんでいると。
「……リッカ」
「ぅへい!ち、ちゃんとやる!今からちゃんと回復まほ……」
「――――本当に、いいんだな?」
「ふぇっ?」
「責任、取る、から」
「………………はぇぁ」
それはあまりにもフランらしく、そしてどこかフランらしくない言葉だった。
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