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第一章・恋愛レベル、いち

10.触れても、いい

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 うっかり期待したようにちょっと顔を赤くしてしまった私は、なんとなく悔しい気持ちになっていた。

 何故ならあんな思わせ振りな発言をしたフランは、触れるどころか私より赤い顔を隠すようにそっぽを向いて耐えていて――……

“責任は取る、なんて言うから身構えちゃったじゃない”


「ま、怪我人と治療者だもんね」

 それに何より相手はフランなのだ。
 偉い人いわく物凄くモテていたらしいのに、この年まで童貞を守ってきたいわば鉄壁。

 彼こそ鉄壁股関の持ち主――……なんて考えながらふっと視線を下半身に向けた私は、小さく飛び上がるほど驚いた。


“ふ、フランの下半身が膨らんでる……っ”

 いや、催淫魔法をかけられているならばそれはきっと当然の生理現象。
 むしろその生理現象が起きているからこそフランはみんなから離れ、回復魔法すら拒否したのだろうが。


「……リッカ、まだか?」
「あ、え!?い、今やる!」

 そっぽを向いているので私が彼の下半身を凝視していたことはバレてないだろうが、それでも少し罪悪感が芽生えた私は慌てて視線を戻し、魔法を発動すべくゲーム画面で良く見た『ヒール』のイメージを頭の中で描く。


“発動のイメージ、フランにかけられた魔法が解けるイメージで……………………ちらっ”

 ごく、と自身の喉がなりビクリと肩を跳ねさせる。

“大丈夫、バレてない、バレてない……!それに別に実物見たことなかったから気になっただけで下心がある訳じゃないし…………………………ちらっちらっ”


「…………リッカ」
「ひゃい!!」
「その、だな、さっきから……、えっと……」
「!!」


“バレてる!?”


 物凄く言いにくそうにしているフランを見て、チラチラと見ていたことがバレてると気付いた私は、後ろめたさも相まり気が動転してしまって。

「そ、その、あれよ!これはあれなのよ!ほら、男の人って張り詰めてると苦しいって言うじゃん!?」
「は?」
「だ、だからその、苦しそうだったから!?なんだったらその、シててもいいのになぁって思っただけで!!別に見たくて見てた訳じゃないっていうかね!?」
「なっ、し、シても……って!」
「だ、だからその、自家発電をね……!?」
「発電……?」


 ――まずい、とは思った。
 絶対テンパっていらんこと言ってる、と気付いていた。
 というかもう冷や汗が半端ないし自分でも何を言っているのかと思っていた……の、だが。


「だからその、じ、自慰よ自慰!!!」
「じ……ッ!?」


“閉じて私の口ぃぃい!!”


 そういう時に限って、言葉というものはスルスルと出ていくものである。
 後の祭りとは、よく言ったものだ。

 赤い顔をしてそっぽを向いていたフランは、気付けば驚愕の表情を浮かべ私を見ていて。

 
“ひぃっ、そんな顔でこっちを見ないで!”

 そんなフランの表情を見て更に焦る。
 何とかリカバリーを、と焦れば焦るほど頭は真っ白になって。

 
「それ、俺に自分でしろって言ってるのか?」
「そ、そうね!?確かにフランがするより私がした方がいいかも!?せ、聖女だし!」
「聖女だし!?いやいやいや、聖女はしねぇよそんなこと!何言ってるんだ!?」
「そうかな!?ほ、ほら、直接!直接患部を治療するって理に適って……る、わね?」
「は?」


――――その瞬間、私は閃いてしまったのだ。
  

“そうよ、これは治療であって、決して恥ずかしい行為じゃないし”

 苦しんでいるフランをこのまま放置するなんて出来ないし、私も異性の下半身がどうなっているのか気になるお年頃でもある。

焦って気を動転していたとは思えないほど冷静になった私は、冷静さを保ちつつ興味本位でプレイしたちょっとえっちなゲームを思い出していて。

  
「白ぼかしなのよね……」
「な、なんだ白ぼかしって!?とてつもなく嫌な予感がするんだがっ」


 魔法を発動しようにも下半身が気になりチラチラと盗み見、なんて当然集中できないし、だったらいっそ“ソコ”に魔法をかけるのは一石二鳥、いや一石三鳥というやつなのではないだろうか。


“気になる答えもゲットできて、魔法にも集中できて、そしてフランの催淫魔法も解けるなら!”


「フラン……、私、天才だったみたい!」
「天災の間違いだ浅はか聖女!!」

 
 そうと決まれば悩む必要はない。
 私は気付けば赤かった顔を真っ青に染め直したフランを無視し、勢いに任せて彼の服を思い切り下に脱がした。


 脱がした瞬間、ぶるりと目の前で飛び出て揺れるフランのソコは、当然白ぼかしなんてかかっておらず……
 

「赤黒い……、そっか、骨とかじゃなく血が集まって固くなるんだっけ……?」
「や、やめ……っ」
「あ、でもめちゃくちゃ熱いとかじゃないんだ、ヒロインが『ナカが熱いよぉっ』とか言ってたからてっきり……」
「へ、変な感想は……、おいっ!?」

 実物はグロい、なんてよく聞くお陰か、実際目の当たりにしても思ったよりも嫌悪感などがなかったことに驚きつつ、自分にはないソレが物珍しくてつついてしまう。

 指先でつついただけだが、まるで私の指に反応するかのようにピクリと動くソレが面白くて。


「……くそっ、じ、自分でやるからリッカは見るな!触るな!」
「えぇ~?」

 ヤケクソのようにそう叫んだフランは、私の手や視線から自身のソレを隠すように左手で竿を握り込んだ。

 そのままくちゅくちゅと小さな音を立てつつ控えめに扱くフラン。
 チラリと視線をそちらにやると、彼の手が上下するのに合わせソコの頭がチラチラと出たり入ったりしていて。


「見、る、な!」
「ひゃい」

 空いていた右手が私の頬を掴み、痛くないぐらいの強さでむぎゅ、と潰される。

 青くなっていた彼の顔色も赤く戻り、また自分でシているからか熱っぽい吐息が漏れていて私は再びごくりと唾を呑んだ。


“フランも苦しそうだし、私も魔法早く発動しなきゃ”

 実際彼のを目にしたお陰か、多少興味が満たされた私は今度こそフランに魔法を発動する。
 念入りに彼へかけられた催淫魔法を打ち消すようイメージし、出がらしでもちゃんとかけられるよう彼の胸に両手を添えて念じ――……


「………………?」

 発動した、と思う。
 上手く言い表せないが、じわりとした何かが手のひらを伝いフランに染み込むように流れ、正常に発動したという確信があった。

 のに。


「………ッ」

 苦しそうに吐息を溢したフランは扱く手を止めず、そして止めないということはまだ彼のモノは反り勃っているということで。


“な、なんで!?魔法は発動したよね?”

 不発だったとは思えず、しかし治まらない彼に動揺していると突然フランの手のひらが私の胸に這わされた。

「ひゃ!?」
「ッ、わ、悪い!」

 驚きの声を上げるとハッとしたフランが慌てて這わした手を退ける。

 
「あ、いや、その……私こそごめん。魔法効かなかった、かな」
「それはその、効いた……と思う。確かに俺の外から無理やり発情させるような粘りつく魔力みたいなのは無くなった」
「でも、萎えてない、よね?」
「それは……」

 
 フランの表情が苦しそうに歪む。
 そしてそのまま大きくため息を吐いて。


「……あとは俺の中の欲求だ」
「中?」
「お前がシろって言ったんだろ。刺激を与えてるんだからそりゃ萎えねぇよ」
「あ……!」

“つまり、本来の欲求ってこと……!?”


 ある意味当たり前のことを言われ、そして今更ながらにやっと気付いた。
 粘液による催淫効果が切れても、自分で刺激を与え興奮を促している状況で突然平常サイズに戻せと言うのは無茶苦茶だろう。


“そうだよ、出さないと男の人って苦しいんだ……”


 しかし堅物なフランは外で、かつこの状況だと理性が邪魔をし気持ちよくなりきれないのかもしれない。

 イきたいのにイけず、しかし萎えもせず。

“私の体……役に立つのかな”

 無意識に伸ばされた手。
 その手に軽く触れられた胸。


 偽装でも“婚約者”という建前は、フランだけではなく私にも大義名分を作っていて――……


「触って、いいよ」
「……は?」

“フランが辛そうだから。だからこれは、婚約者としての義務みたいなもんなのよ”

 そう自分に言い訳した私は、一瞬だけ触れた彼の右手をしっかり握り、自身の胸へとあてがったのだった。
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