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最終章
12.協力者を名乗るなら最後まで責任を持つべきだ
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「あらまぁ。荒れてるわねぇ、アユちゃん」
「美里さん~~~!」
指定された時間までまだ少し時間があった私は、電脳セキュリティ本部の休憩所のソファで転がっていた。
「だってだって、みんなデートだとかなんだって楽しそうで!」
「アユちゃんもこの後デートじゃない」
「デートじゃないです!!」
反射的に反論しながらガバリと起き上がると、ふふふとどこか優雅に美里さんが笑う。
「でも、考えてみて? 二人っきりで待ち合わせしてお出かけすることをなんていうの?」
「……! で、デート……!?」
「そのあと、相手から少しでも多くの情報を引き出してかえってくることを?」
「……! 美人局」
「オイッ!」
わふっという効果音と共に現れたのはもちろんタロ先輩だ。
「あれ? タロ先輩、今日の仕事終わったんですか?」
「おー、どっかのだれかが初デートって聞いて」
「だからデートじゃないんですって……」
“四人目なんだけど”
どうしてみんなこのネタが好きなのか。
流石に四人目ともなるとうんざりしてくるが、そんな事情をタロ先輩が知っている訳ではない。
「相手、あのスタンプ事件の時に手伝ってくれたやつだろ」
「あ、そうです。あのスタンプの件で続報があるんだけど聞きに来ないかってフレンドチャットが来たんですよね」
「いつの間にフレンドになったんだ……」
何故かちょっとショックを受けた風のタロ先輩に苦笑しつつ、私は自身のメッセージ箱を開き『エス』からのチャットを再度確認する。
“今日の19時半指定なのよね”
指定された場所は大きな河の近くのカフェ。
ヴェネチアをモデルに作られたこの地区は、本物のようにカラフルで可愛い建物が多い。
「でもなんでカフェなんだろ」
もしこれが現実なら、雑音の多いこういう場所のほうが内緒話に向くとか聞いたことがあるのだが、あくまでここは電脳世界のCCだ。
パーティを組めばパーティチャットで他者には聞こえないし、そもそもフレンドなんだから誘った時のようにフレンドチャットに書いて送ってくれればそれで済む。
証拠を残したくないという可能性もなくはないが、残念ながらこのCCにはログという、音声データだろうがなんだろうが記憶を取っておいてくれる便利機能がある。
それなのにわざわざ場所を指定して呼び出すのだから、周りからデートと冷やかされるのも仕方がないのかもしれないが……
“もし本当に本命の目的がデートなんだったら、期待するほどの情報じゃないんだろうな”
なんて思っていた。
『ま、前回手伝ってもらったから借りを返すって意味でも行くんだけどね』なんて思いながら向かった待ち合わせ場所。
相変わらず騎士服に身を包んだエスは先に来ており、時間通りにワープしてきた私に向かって軽く手を挙げて場所を教えてくれたのでまっすぐ彼の元へと向かう。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「それは全然。とりあえずパーティ組む?」
「そうだな」
当たり障りのない会話。
やっぱりそんなに重大な情報じゃないのかも、なんて思った私に共有された地図。
その地図に記されたいくつかの印に首を傾げていると、エスがにやりと笑った。
「これ、模倣ノーフェイスの居場所なんだよね」
「!」
“これがスタンプ事件の続報……!?”
あのシンプルな絵柄の違法スタンプは、CCが広がり始めた頃にいたという大犯罪者ノーフェイス。
そのノーフェイスが使っていたというスタンプの絵柄を真似て作られていると聞いた。
「それがこんなに沢山?」
「あ、言っとくけど一か所に絞れなかったとかじゃないからな。その印全部が拠点として使われてる」
「どういう……」
「模倣犯は、複数人ってことだよ」
複数人。
確かにあのスタンプ事件が起きた日に他の場所でも一斉に起こった。
もちろんCC内には≪ワープ≫という機能が備わっているため、どれほど遠い場所であろうとも一瞬で行ける。
だからこそ単独犯だと思っていた。愉快犯なのだと思っていた。
“複数人なら話が変わってくる……!”
やんちゃな集団、なんて可能性もありえるが――
「まさか、テロの可能性があるってこと……?」
思わずゴクリと唾を呑む。
あり得ない話ではない。
もはや私たちの日常の一部だと言っても過言ではないほどのCCという存在。
巨大になったからこそそれは汎用化し、多くの層からの指示を得た。
だがどれだけ万人から指示を集めたとしても、万人は万人であって全員ではないのだ。
“旗印として、CC内で暴れまわったというノーフェイスを担ぎ上げたいのだとしたら……”
「隠れ蓑にもなるし、一石二鳥ってことね」
ぽつりとそう溢した私の言葉に、忌々しそうに頷くエス。
「どうしてこの情報を提供しようと?」
「クソだと思ったからだよ。こいつらはノーフェイスの顔を知らない。過去の軌跡だけを知り、真似したところで何になる?」
吐き捨てるように告げられたその言葉に、エスが本当に怒っていることを実感した。
「ノーフェイスは確かに違法ユーザーだ。犯罪者だとも言える。だがその行動には大義があった」
「……大義があっても、犯罪は許されることじゃないと思うけど」
「あぁ、当然だし同意見だ。でも、大義も何もないクソ共がノーフェイスを語ることが許せない。だからこその情報提供だ」
“もしかしてエスって熱心なノーフェイスのファンなんじゃ”
「ちなみに俺、ノーフェイスのことも大っ嫌いだから」
「えっ」
立てた仮説を一瞬で砕いたエスに思わず唖然とした顔を向ける。
「大っ嫌いな偽善者ぶった犯罪者の低レベルなモノマネを見せられた挙句、隠れ蓑にするなんて全員まとめてバカでクソだろ」
「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃ……」
むしろ清々しいほどの暴言を並べたエスが席を立つ。
その顔にはさっきまでの怒りは一切滲んでおらず、どこか飄々とした掴めない笑顔になっていた。
「ま、そーいう訳だから電脳セキュリティに協力したってだけだよ」
そのまま彼はパーティを解除し、軽く手を振ったエスが去ろうとする。
“ワープしちゃう!”
その後ろ姿に焦った私は慌てて声をかけた。
「ど、どうして私だったの!?」
パーティは解除された。
ここからの会話は近くの人たちにも聞こえてしまうため、あまり確信に迫ることは言えない。
「ん? んー、そうだな……」
それはエスも理解しており、一瞬言い淀む。
そしてさっきまでの掴めない笑顔ではなく、確実に意地の悪そうな笑顔を浮かべたのを見て嫌な予感がした。
ぶっちゃけ早まったかもしれない、そんな予感は当たり――
「それは俺が、アユのことを好きだからだよ!」
「なっ!!」
ここは人気スポットのカフェだ。
そのど真ん中、周りに沢山の人がいる前での告白ともとれる発言に一気にその場が色めき立つ。
“や、やられた!”
そりゃ好きなのだろう、嫌いな『ノーフェイス』とその『模倣犯』たちよりは。
だがその説明が出来ない以上、この生暖かいといえる視線に耐えるしかない。
「おめでとー!」「なんて返事するの?」なんて声があちこちから上がり、早急に≪ワープ≫でこの場から去りたいのだが、「あの子電脳セキュリティの子じゃない?」なんて声も聞こえたせいで、何も言わずに逃げてもいいのかを迷ってしまった。
そんな爆弾を落としたエスはというと、この騒ぎに自分だけさっさと≪ワープ≫で逃げてしまっていて。
“あンの男ぉぉ!!!”
私は曖昧な笑顔を浮かべながら、内心で文句を言うしか出来ないのだった。
「美里さん~~~!」
指定された時間までまだ少し時間があった私は、電脳セキュリティ本部の休憩所のソファで転がっていた。
「だってだって、みんなデートだとかなんだって楽しそうで!」
「アユちゃんもこの後デートじゃない」
「デートじゃないです!!」
反射的に反論しながらガバリと起き上がると、ふふふとどこか優雅に美里さんが笑う。
「でも、考えてみて? 二人っきりで待ち合わせしてお出かけすることをなんていうの?」
「……! で、デート……!?」
「そのあと、相手から少しでも多くの情報を引き出してかえってくることを?」
「……! 美人局」
「オイッ!」
わふっという効果音と共に現れたのはもちろんタロ先輩だ。
「あれ? タロ先輩、今日の仕事終わったんですか?」
「おー、どっかのだれかが初デートって聞いて」
「だからデートじゃないんですって……」
“四人目なんだけど”
どうしてみんなこのネタが好きなのか。
流石に四人目ともなるとうんざりしてくるが、そんな事情をタロ先輩が知っている訳ではない。
「相手、あのスタンプ事件の時に手伝ってくれたやつだろ」
「あ、そうです。あのスタンプの件で続報があるんだけど聞きに来ないかってフレンドチャットが来たんですよね」
「いつの間にフレンドになったんだ……」
何故かちょっとショックを受けた風のタロ先輩に苦笑しつつ、私は自身のメッセージ箱を開き『エス』からのチャットを再度確認する。
“今日の19時半指定なのよね”
指定された場所は大きな河の近くのカフェ。
ヴェネチアをモデルに作られたこの地区は、本物のようにカラフルで可愛い建物が多い。
「でもなんでカフェなんだろ」
もしこれが現実なら、雑音の多いこういう場所のほうが内緒話に向くとか聞いたことがあるのだが、あくまでここは電脳世界のCCだ。
パーティを組めばパーティチャットで他者には聞こえないし、そもそもフレンドなんだから誘った時のようにフレンドチャットに書いて送ってくれればそれで済む。
証拠を残したくないという可能性もなくはないが、残念ながらこのCCにはログという、音声データだろうがなんだろうが記憶を取っておいてくれる便利機能がある。
それなのにわざわざ場所を指定して呼び出すのだから、周りからデートと冷やかされるのも仕方がないのかもしれないが……
“もし本当に本命の目的がデートなんだったら、期待するほどの情報じゃないんだろうな”
なんて思っていた。
『ま、前回手伝ってもらったから借りを返すって意味でも行くんだけどね』なんて思いながら向かった待ち合わせ場所。
相変わらず騎士服に身を包んだエスは先に来ており、時間通りにワープしてきた私に向かって軽く手を挙げて場所を教えてくれたのでまっすぐ彼の元へと向かう。
「悪いな、わざわざ来てもらって」
「それは全然。とりあえずパーティ組む?」
「そうだな」
当たり障りのない会話。
やっぱりそんなに重大な情報じゃないのかも、なんて思った私に共有された地図。
その地図に記されたいくつかの印に首を傾げていると、エスがにやりと笑った。
「これ、模倣ノーフェイスの居場所なんだよね」
「!」
“これがスタンプ事件の続報……!?”
あのシンプルな絵柄の違法スタンプは、CCが広がり始めた頃にいたという大犯罪者ノーフェイス。
そのノーフェイスが使っていたというスタンプの絵柄を真似て作られていると聞いた。
「それがこんなに沢山?」
「あ、言っとくけど一か所に絞れなかったとかじゃないからな。その印全部が拠点として使われてる」
「どういう……」
「模倣犯は、複数人ってことだよ」
複数人。
確かにあのスタンプ事件が起きた日に他の場所でも一斉に起こった。
もちろんCC内には≪ワープ≫という機能が備わっているため、どれほど遠い場所であろうとも一瞬で行ける。
だからこそ単独犯だと思っていた。愉快犯なのだと思っていた。
“複数人なら話が変わってくる……!”
やんちゃな集団、なんて可能性もありえるが――
「まさか、テロの可能性があるってこと……?」
思わずゴクリと唾を呑む。
あり得ない話ではない。
もはや私たちの日常の一部だと言っても過言ではないほどのCCという存在。
巨大になったからこそそれは汎用化し、多くの層からの指示を得た。
だがどれだけ万人から指示を集めたとしても、万人は万人であって全員ではないのだ。
“旗印として、CC内で暴れまわったというノーフェイスを担ぎ上げたいのだとしたら……”
「隠れ蓑にもなるし、一石二鳥ってことね」
ぽつりとそう溢した私の言葉に、忌々しそうに頷くエス。
「どうしてこの情報を提供しようと?」
「クソだと思ったからだよ。こいつらはノーフェイスの顔を知らない。過去の軌跡だけを知り、真似したところで何になる?」
吐き捨てるように告げられたその言葉に、エスが本当に怒っていることを実感した。
「ノーフェイスは確かに違法ユーザーだ。犯罪者だとも言える。だがその行動には大義があった」
「……大義があっても、犯罪は許されることじゃないと思うけど」
「あぁ、当然だし同意見だ。でも、大義も何もないクソ共がノーフェイスを語ることが許せない。だからこその情報提供だ」
“もしかしてエスって熱心なノーフェイスのファンなんじゃ”
「ちなみに俺、ノーフェイスのことも大っ嫌いだから」
「えっ」
立てた仮説を一瞬で砕いたエスに思わず唖然とした顔を向ける。
「大っ嫌いな偽善者ぶった犯罪者の低レベルなモノマネを見せられた挙句、隠れ蓑にするなんて全員まとめてバカでクソだろ」
「そ、そこまで言わなくてもいいんじゃ……」
むしろ清々しいほどの暴言を並べたエスが席を立つ。
その顔にはさっきまでの怒りは一切滲んでおらず、どこか飄々とした掴めない笑顔になっていた。
「ま、そーいう訳だから電脳セキュリティに協力したってだけだよ」
そのまま彼はパーティを解除し、軽く手を振ったエスが去ろうとする。
“ワープしちゃう!”
その後ろ姿に焦った私は慌てて声をかけた。
「ど、どうして私だったの!?」
パーティは解除された。
ここからの会話は近くの人たちにも聞こえてしまうため、あまり確信に迫ることは言えない。
「ん? んー、そうだな……」
それはエスも理解しており、一瞬言い淀む。
そしてさっきまでの掴めない笑顔ではなく、確実に意地の悪そうな笑顔を浮かべたのを見て嫌な予感がした。
ぶっちゃけ早まったかもしれない、そんな予感は当たり――
「それは俺が、アユのことを好きだからだよ!」
「なっ!!」
ここは人気スポットのカフェだ。
そのど真ん中、周りに沢山の人がいる前での告白ともとれる発言に一気にその場が色めき立つ。
“や、やられた!”
そりゃ好きなのだろう、嫌いな『ノーフェイス』とその『模倣犯』たちよりは。
だがその説明が出来ない以上、この生暖かいといえる視線に耐えるしかない。
「おめでとー!」「なんて返事するの?」なんて声があちこちから上がり、早急に≪ワープ≫でこの場から去りたいのだが、「あの子電脳セキュリティの子じゃない?」なんて声も聞こえたせいで、何も言わずに逃げてもいいのかを迷ってしまった。
そんな爆弾を落としたエスはというと、この騒ぎに自分だけさっさと≪ワープ≫で逃げてしまっていて。
“あンの男ぉぉ!!!”
私は曖昧な笑顔を浮かべながら、内心で文句を言うしか出来ないのだった。
応援ありがとうございます!
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