ぱんつを拾ったアイツとアイツを拾った俺の話

春瀬湖子

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 それからどれだけの時間をぼんやりしていたのだろうか。

「洗濯、干すか」

 杏が帰ってきた時に、俺が出た時のままでいたらきっと心配するだろうと、落ち込んだ気持ちを振り払うように立ち上がる。

 のそのそと洗濯かごをベランダに持っていき、皮肉にも最初に手に取ったのはぱんつだった。

“ここからぱんつ落としたのが始まりだったよな”


 手が滑りひらひらと階下に落ちていったぱんつ。
 あの時拾ったのは、杏か、それとも俺だったのか。

 久しぶりに完全に一人になったせいか、感傷的な気分になり――

「うぉっ!?」

 まるでハジメマシテの再現ごとく、ツルッと手が滑りぱんつがひらりと宙を舞った。

「いやいやいや! おいおいおい!?」

 ひらひらと風に乗ったぱんつは、重力を無視した動きで何故か道路を越えた先にある川原ににまで飛んで。

“んなバカなッ!”

 あり得ない、あり得ないが目の前で起こった出来事に頭を抱える。

 気乗りはしないが、やはりぱんつ。
 衆人環視に晒され続けるのは本意ではない訳で。

「あーっ、もう!」

 仕方なく俺は玄関を飛び出し、ぱんつが着地しただろう川原に駆け出した。


 そこまで遠くないとはいえ、インドアにはきついこの距離感。
 ゼェゼェと息を荒くしながらキョロキョロとぱんつを探し……


「なんっで、あんなとこに!?」

 川の真ん中にある岩に引っ掛かっているようで。


“これは見捨てる案件なんだが!?”

 ちょっと走っただけで息切れしている自分に、あのぱんつの救出は絶望的だ。
 見捨てる一択。

 ごみを捨てる形になるのはいただけないが、これで俺が溺れて海上保安庁や警察、消防に救急が出動するのはもっての他。

 救助され、『ぱんつを拾いに行きました』なんて口にする未来を想像し、これはナイナイ! なんて脳内会話を繰り広げ――


「……でも、杏がぱんつ、大事にしてんだよな」

 夜な夜な弄られるぱんつを思い出し、大事にする方向性は改めて貰いたいものの。


「泣いてたな」

 哀しませてしまったことが、俺の心臓に刺さるようで。


 くそ、と小さく呟いた俺は、そのままじゃぶじゃぶと川に足を進めたのだった。


 
「別に! あいつの! 為じゃねぇからッ!」

 自分を鼓舞するように気合いを入れつつ慎重に足を進める。

 思ったよりも川の流れが緩やかだったお陰と、そもそも浅い川だったお陰で太股までびしゃびしゃになったが歩けないこともなくて。

“あと少し……!”


 もう目の前に迫ったぱんつに一瞬緊張が弛んだ、その瞬間だった。

「うわっ!」

 気の弛みはもちろん、岩のせいで流れが変わっていたということもあったのだろう。
 足が滑りバチャンと頭まで川に浸かる。

 幸いな事にぱんつの引っ掛かっている岩に掴まることは出来たのだが、焦りのせいか浅いはずなのに足が地面に着かずバタバタとする。


“落ち着かねぇと、水で怖いのは水深じゃない!”

 20センチもあれば流れに足を取られ、自由を奪われたまま溺死……なんて未来もあり得る。
 
 その事実にゾッとした俺は、なんとか冷静さを取り戻そうとするが、バクバクと早くなる心臓が逆に俺から思考を奪って。
 

“やばい、やばいやばい、やばい……!”

 焦ったらダメだ、落ち着かなくちゃダメだとわかっていながら、ばちゃばちゃともがいていた、その時だった。


「雅乃!」

 確かに俺の名前を呼ぶその声は、杏の声で。
 そしてその声に、俺は何故かひどく安堵してした。

 ばちゃんと川に飛び込んだ杏は、そのまま真っ直ぐこっちに向かう。

「絶対手を離さないで! ボクが岩に着くまでそのままでいてっ」

 叫ぶように指示する杏の言葉を聞く。
 エイリアンなのにどこでそんな知識を得たのかはわからないが、俺はその指示に従い近付いてくる杏に手を伸ばしたくなるのを我慢してぎゅっと岩にしがみついた。

 きっと足がついていない状態で片手を伸ばしていたら自身の体を支えられず流されていただろう。

“それに、杏が来てくれたからかな”

 少し冷静さを取り戻した俺が、杏の方に顔を向けた時だった。



「お、俺のぱんつーーーー!!!!」

 風の悪戯か、いや風の嫌がらせか。
 岩に引っ掛かっていたぱんつを風が巻き上げ、ぽちゃんと川に落下する。

 目の前でどんぶらこと流れるぱんつに慌てて顔を向けた俺は、再びツルッと、今度は手を離してしまって。


「!」

 片手が岩から外れた俺は、ごぼ、と一気に水中へ引きずり込まれる。

“しまった……!”

 あ、と思った時にはもう遅く、つい数秒前に立てた片手では体を支えられないという仮説を身をもって証明してしまった俺はぱんつと共に川に流された。


「雅乃!」

 杏の鋭い叫びと、杏の指先が触手に変化しひゅんと川の上を走るように迫ってくる。

 杏自身の体も支えないといけないため、伸ばされた触手が助けられるのは俺か、俺のぱんつかのどちらかだった。

 
“終わった……”

 そしてその現状に俺は絶望する。

 何故ならぱんつか俺本人かで、既に昨晩ぱんつが選ばれていたからだ。

“あいつの番は俺のぱんつ。そしてあいつの雅乃の本体もぱんつのことだ”

 もしかしたらワンチャン俺が今履いているぱんつを守るために俺の下半身に触手が伸ばされるかもしれないが、まぁ普通に考えれば見えないぱんつより見えてるぱんつ。

 流されていくぱんつを杏は救うだろう。
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