2 / 16
2.どう考えても、私は絶対悪くないもの
しおりを挟む
“俗っぽいフィクションだとバカにしていたけれど”
「確か小説では、心を入れ換えて違う人生を歩むのよね?」
「どうかされましたか?」
エマが夢中になって話してくれた内容を必死に思い出す。
詳しく聞きたいが、目の前のエマは『まだその小説には出会っていない』から何故悪女とされたヒロインがそのように行動を変化させたのかは聞けず、私は私で考えるしかなくて。
“普通に考えたら死にたくないから、だろうけれど……”
これでも私は公爵令嬢なのだ、誰よりも気高くなくてはならない。
そんな私が、身体的な終わりを迎えないためにプライドを捨てるなんてそんな真似は絶対に出来ない。
それは社交界からの死を意味し、そしてその事実は私という全てを否定するものだから。
「……というか」
――そもそも、浮気した相手が悪いでしょう。
「婚約者がいながら他の女に現を抜かし、あまつさえ処刑ですって!?」
「び、ビクトリア様?」
「あり得ないわ、どう考えてもあり得ない! あの女だって、自身の身分を顧みず婚約者のいる殿方を体で篭絡したのよ。そもそも消されて当然でしょう!」
「び、ビクトリア様……!?」
突然興奮し憤る私に戸惑うエマには申し訳ないが、それでもこの怒りを抑えることなど出来ない。
精神的にはあの処刑された時の19歳のはずだが、肉体である十歳へ引っ張られてしまっているのか、それとも自分勝手な理由で処刑されたこの恨みがそうさせているのか。
どちらなのかはわからないが、今の私はどうしても大人の仮面をつけることなんて出来なくて――
「お嬢様、ニコラウス殿下がいらっしゃいました」
「!」
その時私室の扉がノックされ、フォシェル家の侍従が声をかける。
“対策を練る時間も貰えないのね……!”
チッと舌打ちしたくなる気持ちだけはなんとか抑え、バサリと金髪を手ではらった私は小さくため息を吐いた。
“どんな理由であれ、王族をお待たせする訳にはいかない”
「わかったわ」
――まずはこの婚約を回避する。
“心を入れ換える? あり得ないわ、だって私は絶対に悪くなんてないんだもの!”
キッと睨むように扉を見た私は、『二度目』になる殿下との婚約の場へ足を進めたのだった。
◇◇◇
――結果から言えば婚約は不成立となった。
“けれど、満点ではないわね……”
顔合わせのお茶会。
その場にいたのはニコラウス殿下と彼の護衛騎士、そして私と私の父だった。
「年齢を理由に正式な婚約は回避できたけれど」
“同じく年齢を理由に婚約しない理由もない、とされてしまった――”
まだ私は十歳、殿下は十二歳。
正式な契約として婚約を結ぶのは足枷になる、と説得したまでは良かったしその考えに納得はして貰えた。
けれどやはり政治的なものが絡むのか、この話自体が流れた訳ではなくまた時期を改めるという結論に至ったのだ。
それはつまり、数年後に正式な婚約が結ばれる可能性もある訳で――
「絶ッ対嫌よ! 勝手に浮気して、そして処刑ですって!? そんな横暴な男になんか嫁ぐものですか!」
公爵令嬢を裁判もせずにその場で処刑するなどという暴走が許されたのは、彼が王太子になったからだろう。
だが第二王子である彼が王太子になるには公爵家の後ろ盾が必要で、そしてその盾こそ『私』だったはずだ。
つまり私のお陰で権力を得たくせに、その権力で私を処刑したということになる。
「……それに、私は暗殺なんて画策してないわ」
ハッキリ聞いた浮気相手への『暗殺』の企て。
ぶっちゃけ私が画策してもおかしくはないほどではあるが、それでも私の怒りの対象は他の女に骨抜きにされ馬鹿に成り下がったニコラウス殿下へ向けられていた。
“だから私があの女の暗殺を狙った訳ではないけれど……”
だが、裏取りもせずに独断で処刑を実行するだろうか?
もし過ちだった場合、王太子という立場どころか全ての権利を剥奪される可能性もあるのに?
“つまり証拠があったということよ”
それが『本物』であるかは別として。
「……あの女の自作自演で証拠を捏造し、まんまと騙されたのかしら。いえ、共謀し私を排除するのが目的だったのかも」
確信はないが、だがあの女が関わっていることは間違いない。
何故なら彼女は『当事者』だから。
“誰かに命を狙われた、ではなく『私』に命を狙われたと証言したからこそあんな断罪劇が繰り広げられたのよ”
なら、やはり最も怪しいのはニコラウス殿下の未来の浮気相手であった、あの女……
ふん、と鼻を鳴らした私が机の上のベルをチリンと鳴らすと、すぐにエマが室内へと入ってきた。
「いかがされましたか?」
「ちょっと連れてきて欲しい女がいるの」
「女、でございますか」
「えぇ、そうよ。年は私と同じで名前はミルシュカ。ブレア男爵家の娘だったはず」
「かしこまりました。お茶会の招待状をお出ししま――」
「いいえ」
エマの言葉を遮った私は、ゆっくりと首を左右に振る。
「侍女として雇いなさい。彼女は教育がなっていないわ、キッチリわからせてあげて」
にこりと微笑むと、私の言葉の裏を察したのかコクリと彼女も頷いて。
「お嬢様の申されるままに」
そのまま部屋を出ていった。
“未来の私だってただ浮気される様子を眺めていた訳ではないのよ”
自分勝手に股を開く女も、そしてそんな女に簡単に篭絡される男も私には必要なんてないから。
「……私は、私を改めたりはしないわ」
だって私は悪くない。どう考えても悪いのは向こうなのだ。
けれど、同じ行動をすれば同じ道を辿るだろう。
ならば。
「貴女たちを変えてあげるわ、私が教育してあげる」
クッと喉が鳴る。
どうやら私は笑っているらしかった。
「確か小説では、心を入れ換えて違う人生を歩むのよね?」
「どうかされましたか?」
エマが夢中になって話してくれた内容を必死に思い出す。
詳しく聞きたいが、目の前のエマは『まだその小説には出会っていない』から何故悪女とされたヒロインがそのように行動を変化させたのかは聞けず、私は私で考えるしかなくて。
“普通に考えたら死にたくないから、だろうけれど……”
これでも私は公爵令嬢なのだ、誰よりも気高くなくてはならない。
そんな私が、身体的な終わりを迎えないためにプライドを捨てるなんてそんな真似は絶対に出来ない。
それは社交界からの死を意味し、そしてその事実は私という全てを否定するものだから。
「……というか」
――そもそも、浮気した相手が悪いでしょう。
「婚約者がいながら他の女に現を抜かし、あまつさえ処刑ですって!?」
「び、ビクトリア様?」
「あり得ないわ、どう考えてもあり得ない! あの女だって、自身の身分を顧みず婚約者のいる殿方を体で篭絡したのよ。そもそも消されて当然でしょう!」
「び、ビクトリア様……!?」
突然興奮し憤る私に戸惑うエマには申し訳ないが、それでもこの怒りを抑えることなど出来ない。
精神的にはあの処刑された時の19歳のはずだが、肉体である十歳へ引っ張られてしまっているのか、それとも自分勝手な理由で処刑されたこの恨みがそうさせているのか。
どちらなのかはわからないが、今の私はどうしても大人の仮面をつけることなんて出来なくて――
「お嬢様、ニコラウス殿下がいらっしゃいました」
「!」
その時私室の扉がノックされ、フォシェル家の侍従が声をかける。
“対策を練る時間も貰えないのね……!”
チッと舌打ちしたくなる気持ちだけはなんとか抑え、バサリと金髪を手ではらった私は小さくため息を吐いた。
“どんな理由であれ、王族をお待たせする訳にはいかない”
「わかったわ」
――まずはこの婚約を回避する。
“心を入れ換える? あり得ないわ、だって私は絶対に悪くなんてないんだもの!”
キッと睨むように扉を見た私は、『二度目』になる殿下との婚約の場へ足を進めたのだった。
◇◇◇
――結果から言えば婚約は不成立となった。
“けれど、満点ではないわね……”
顔合わせのお茶会。
その場にいたのはニコラウス殿下と彼の護衛騎士、そして私と私の父だった。
「年齢を理由に正式な婚約は回避できたけれど」
“同じく年齢を理由に婚約しない理由もない、とされてしまった――”
まだ私は十歳、殿下は十二歳。
正式な契約として婚約を結ぶのは足枷になる、と説得したまでは良かったしその考えに納得はして貰えた。
けれどやはり政治的なものが絡むのか、この話自体が流れた訳ではなくまた時期を改めるという結論に至ったのだ。
それはつまり、数年後に正式な婚約が結ばれる可能性もある訳で――
「絶ッ対嫌よ! 勝手に浮気して、そして処刑ですって!? そんな横暴な男になんか嫁ぐものですか!」
公爵令嬢を裁判もせずにその場で処刑するなどという暴走が許されたのは、彼が王太子になったからだろう。
だが第二王子である彼が王太子になるには公爵家の後ろ盾が必要で、そしてその盾こそ『私』だったはずだ。
つまり私のお陰で権力を得たくせに、その権力で私を処刑したということになる。
「……それに、私は暗殺なんて画策してないわ」
ハッキリ聞いた浮気相手への『暗殺』の企て。
ぶっちゃけ私が画策してもおかしくはないほどではあるが、それでも私の怒りの対象は他の女に骨抜きにされ馬鹿に成り下がったニコラウス殿下へ向けられていた。
“だから私があの女の暗殺を狙った訳ではないけれど……”
だが、裏取りもせずに独断で処刑を実行するだろうか?
もし過ちだった場合、王太子という立場どころか全ての権利を剥奪される可能性もあるのに?
“つまり証拠があったということよ”
それが『本物』であるかは別として。
「……あの女の自作自演で証拠を捏造し、まんまと騙されたのかしら。いえ、共謀し私を排除するのが目的だったのかも」
確信はないが、だがあの女が関わっていることは間違いない。
何故なら彼女は『当事者』だから。
“誰かに命を狙われた、ではなく『私』に命を狙われたと証言したからこそあんな断罪劇が繰り広げられたのよ”
なら、やはり最も怪しいのはニコラウス殿下の未来の浮気相手であった、あの女……
ふん、と鼻を鳴らした私が机の上のベルをチリンと鳴らすと、すぐにエマが室内へと入ってきた。
「いかがされましたか?」
「ちょっと連れてきて欲しい女がいるの」
「女、でございますか」
「えぇ、そうよ。年は私と同じで名前はミルシュカ。ブレア男爵家の娘だったはず」
「かしこまりました。お茶会の招待状をお出ししま――」
「いいえ」
エマの言葉を遮った私は、ゆっくりと首を左右に振る。
「侍女として雇いなさい。彼女は教育がなっていないわ、キッチリわからせてあげて」
にこりと微笑むと、私の言葉の裏を察したのかコクリと彼女も頷いて。
「お嬢様の申されるままに」
そのまま部屋を出ていった。
“未来の私だってただ浮気される様子を眺めていた訳ではないのよ”
自分勝手に股を開く女も、そしてそんな女に簡単に篭絡される男も私には必要なんてないから。
「……私は、私を改めたりはしないわ」
だって私は悪くない。どう考えても悪いのは向こうなのだ。
けれど、同じ行動をすれば同じ道を辿るだろう。
ならば。
「貴女たちを変えてあげるわ、私が教育してあげる」
クッと喉が鳴る。
どうやら私は笑っているらしかった。
7
あなたにおすすめの小説
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない
くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、
軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。
言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。
――そして初めて、夫は気づく。
自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。
一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、
「必要とされる存在」として歩き始めていた。
去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。
これは、失ってから愛に気づいた男と、
二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。
――今さら、遅いのです。
《完結》金貨5000枚で売られた王太子妃
ぜらちん黒糖
恋愛
「愛している。必ず迎えに行くから待っていてくれ」
甘い言葉を信じて、隣国へ「人質」となった王太子妃イザベラ。
旅立ちの前の晩、二人は愛し合い、イザベラのお腹には新しい命が宿った。すぐに夫に知らせた イザベラだったが、夫から届いた返信は、信じられない内容だった。
「それは本当に私の子供なのか?」
四人の令嬢と公爵と
オゾン層
恋愛
「貴様らのような田舎娘は性根が腐っている」
ガルシア辺境伯の令嬢である4人の姉妹は、アミーレア国の王太子の婚約候補者として今の今まで王太子に尽くしていた。国王からも認められた有力な婚約候補者であったにも関わらず、無知なロズワート王太子にある日婚約解消を一方的に告げられ、挙げ句の果てに同じく婚約候補者であったクラシウス男爵の令嬢であるアレッサ嬢の企みによって冤罪をかけられ、隣国を治める『化物公爵』の婚約者として輿入という名目の国外追放を受けてしまう。
人間以外の種族で溢れた隣国ベルフェナールにいるとされる化物公爵ことラヴェルト公爵の兄弟はその恐ろしい容姿から他国からも黒い噂が絶えず、ガルシア姉妹は怯えながらも覚悟を決めてベルフェナール国へと足を踏み入れるが……
「おはよう。よく眠れたかな」
「お前すごく可愛いな!!」
「花がよく似合うね」
「どうか今日も共に過ごしてほしい」
彼らは見た目に反し、誠実で純愛な兄弟だった。
一方追放を告げられたアミーレア王国では、ガルシア辺境伯令嬢との婚約解消を聞きつけた国王がロズワート王太子に対して右ストレートをかましていた。
※初ジャンルの小説なので不自然な点が多いかもしれませんがご了承ください
婚約者が聖女を選ぶことくらい分かっていたので、先に婚約破棄します。
黒蜜きな粉
恋愛
魔王討伐を終え、王都に凱旋した英雄たち。
その中心には、異世界から来た聖女と、彼女に寄り添う王太子の姿があった。
王太子の婚約者として壇上に立ちながらも、私は自分が選ばれない側だと理解していた。
だから、泣かない。縋らない。
私は自分から婚約破棄を願い出る。
選ばれなかった人生を終わらせるために。
そして、私自身の人生を始めるために。
短いお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる