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4.私は変わってないわ、あなた達が変わったの
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“……なんて、思っていた時もあったわね”
あらから九年。
私が理不尽に処刑された年になった、のだが。
「考え事かい? ビクトリア」
「えぇ。可愛らしい花が咲く時期になったと思いましたの」
「あぁ、王城の庭園は特に母がお気に入りでね」
ふふ、と淑女らしく微笑むとにこりとした笑みが返ってくる。
そのお相手は、幼い時に顔合わせをしやり直した今は『候補』で止まっている、元婚約者のニコラウス殿下その人だった。
“どうして殿下と二人きりでお茶をしているのかしら……!”
いや、正確には二人きりではない。侍女として、そして淑女としても十分教育したミルシュカが私の後ろに控えてはいるが――
“まさか互いに全く興味を示さないだなんて!”
ミルシュカには特に貞操観念と浮気の愚かさを徹底的に教育したお陰か、家の財産を貢ぎ若い男を買う母親へと見切りをつけたようで、ブレア男爵を説得し離縁させたのだと聞いた。
そして散財する本人がいなくなったことで財政難を乗り越えたブレア男爵家は持ち直し、またフォシェル公爵家の後ろ盾を得たことで華々しく社交界へデビューしたミルシュカは元々の美貌もあり求婚状が絶えないと聞くが――
“何故か私の侍女を辞めないのよね……!”
正直に言おう。
こんなはずではなかった。
「わ、私は悪くない、悪くない……わよね?」
あまりの変貌ぶりに思わず口から本音が漏れるが、どうやら二人には聞こえなかったようで安心する。
確かに処刑された私は自身の考えは改めないと決めた。
悪いのは全て相手側だと、だからこそ浮気男は捨て、策略巡らす常識のない女には教育を施すのだと。
私ではなく、相手を変えることを選んだのは間違ってはいない……はず。
「そうだ、薔薇の花をプレゼントしよう。ビクトリアの美貌には叶わないが」
「ありがとうございます」
婚約こそ成立しなかったが、候補者となってしまった以上王家から呼ばれたら会わない訳にはいかず、だが靡かず捕まらない女というのはひたすら甘やかされて育てられた王子が意地になるのも仕方ないのかもしれない。
だからこそやり直す前に骨抜きにされたミルシュカを連れて来たというのにニコラウス殿下はミルシュカへと視線すら向けないし、私を嵌めてまで殿下を自身のモノにしたミルシュカは何故か敵意を向けて睨んでいる。
もちろん殿下を。
“な、なんでなの……! あなたたち運命の相手だったんでしょ!?”
やり直す前とはいえ、一度でも私を殺した相手を好きになるようなことはなく、植え付けられたあの恐怖と不快感は今も私の中にある。
だからこそハッキリ婚約は出来ないと拒絶したいが、残念ながら『今』の私にはそれだけの理由がないのも確かで――
「そろそろ可愛い君にいい返事を貰いたいんだがね」
「……ッ、ま、まぁ、そんなお戯れを……」
「むしろ戯れているのはビクトリアじゃないか? 君に焦がれ手のひらで踊らされてしまっているよ」
「あ、あはは……」
“権力なの!? 王太子の座を狙ってるの!? でも王太子の座を狙っていたならなんでやり直す前は裏切ったのよ!”
内心で抗議する私の手を握ったニコラウス殿下が、そっと手の甲へと口付けを落とす。
その瞬間に全身へ悪寒が走った。
“やっぱりどう考えても、私を殺した男とか無理……!”
あんなにミルシュカへ淑女を強調しておいて、こんな口付けひとつで笑顔をひきつらせるなどあまりにも滑稽。
だがやはり生理的に受け付けないものは受け付けない訳で――
「……申し訳ありません、本日はこの辺で」
そそくさと立ち上がり、侍女としてついてきているミルシュカとその場を後にした、の、だが。
「あ、あら?」
「どうかされましたか、ビクトリア様」
「私の扇がありませんの」
ふといつも持っている扇がないことに気付く。
“もしかして手の甲に口付けされた時に落としたのかしら”
別に扇ひとつ惜しいものではないのだが、もし落とした扇をニコラウス殿下が拾い、それを理由に家にまで来られたら……なんて考えゾッとした。
「ミルシュカ、悪いんだけどさっきの庭園まで探しに行ってくれないかしら?」
「かしこまりました」
“私が行って、再びニコラウス殿下との鉢合わせは避けたいものね”
そう考えた私がミルシュカに頼むと、すぐに頭を下げて来た道を引き返す。
エマの教育が良かったのか、彼女の家庭環境が変わったからかはわからないが、思ったよりも従順。
「これならいつどこの令息の元へ嫁がせても問題はないわね」
もちろんやり直す前のような行為もしていない彼女は、今や立派な淑女ともいえた。
高位貴族の邸でマナーなどを叩き込まれた令嬢は、たとえ元の爵位が低くても付加価値がつく。
もちろんそれはその高位貴族との繋がりが間接的に持てるからという意味も込められてはいるのだが。
“今のミルシュカならば、王子妃でも問題ないわ。……何故かやり直した今、本人にその意志がなさそうなのが問題なのだけれど”
今からでもニコラウス殿下を篭絡してくれないかしら、なんて都合のいいことを考え、そして今の現状は私が『相手を変えた』から作られたもの。
流石にそれは身勝手な願いすぎたか、と反省しつつ大きなため息を吐いた、その時だった。
あらから九年。
私が理不尽に処刑された年になった、のだが。
「考え事かい? ビクトリア」
「えぇ。可愛らしい花が咲く時期になったと思いましたの」
「あぁ、王城の庭園は特に母がお気に入りでね」
ふふ、と淑女らしく微笑むとにこりとした笑みが返ってくる。
そのお相手は、幼い時に顔合わせをしやり直した今は『候補』で止まっている、元婚約者のニコラウス殿下その人だった。
“どうして殿下と二人きりでお茶をしているのかしら……!”
いや、正確には二人きりではない。侍女として、そして淑女としても十分教育したミルシュカが私の後ろに控えてはいるが――
“まさか互いに全く興味を示さないだなんて!”
ミルシュカには特に貞操観念と浮気の愚かさを徹底的に教育したお陰か、家の財産を貢ぎ若い男を買う母親へと見切りをつけたようで、ブレア男爵を説得し離縁させたのだと聞いた。
そして散財する本人がいなくなったことで財政難を乗り越えたブレア男爵家は持ち直し、またフォシェル公爵家の後ろ盾を得たことで華々しく社交界へデビューしたミルシュカは元々の美貌もあり求婚状が絶えないと聞くが――
“何故か私の侍女を辞めないのよね……!”
正直に言おう。
こんなはずではなかった。
「わ、私は悪くない、悪くない……わよね?」
あまりの変貌ぶりに思わず口から本音が漏れるが、どうやら二人には聞こえなかったようで安心する。
確かに処刑された私は自身の考えは改めないと決めた。
悪いのは全て相手側だと、だからこそ浮気男は捨て、策略巡らす常識のない女には教育を施すのだと。
私ではなく、相手を変えることを選んだのは間違ってはいない……はず。
「そうだ、薔薇の花をプレゼントしよう。ビクトリアの美貌には叶わないが」
「ありがとうございます」
婚約こそ成立しなかったが、候補者となってしまった以上王家から呼ばれたら会わない訳にはいかず、だが靡かず捕まらない女というのはひたすら甘やかされて育てられた王子が意地になるのも仕方ないのかもしれない。
だからこそやり直す前に骨抜きにされたミルシュカを連れて来たというのにニコラウス殿下はミルシュカへと視線すら向けないし、私を嵌めてまで殿下を自身のモノにしたミルシュカは何故か敵意を向けて睨んでいる。
もちろん殿下を。
“な、なんでなの……! あなたたち運命の相手だったんでしょ!?”
やり直す前とはいえ、一度でも私を殺した相手を好きになるようなことはなく、植え付けられたあの恐怖と不快感は今も私の中にある。
だからこそハッキリ婚約は出来ないと拒絶したいが、残念ながら『今』の私にはそれだけの理由がないのも確かで――
「そろそろ可愛い君にいい返事を貰いたいんだがね」
「……ッ、ま、まぁ、そんなお戯れを……」
「むしろ戯れているのはビクトリアじゃないか? 君に焦がれ手のひらで踊らされてしまっているよ」
「あ、あはは……」
“権力なの!? 王太子の座を狙ってるの!? でも王太子の座を狙っていたならなんでやり直す前は裏切ったのよ!”
内心で抗議する私の手を握ったニコラウス殿下が、そっと手の甲へと口付けを落とす。
その瞬間に全身へ悪寒が走った。
“やっぱりどう考えても、私を殺した男とか無理……!”
あんなにミルシュカへ淑女を強調しておいて、こんな口付けひとつで笑顔をひきつらせるなどあまりにも滑稽。
だがやはり生理的に受け付けないものは受け付けない訳で――
「……申し訳ありません、本日はこの辺で」
そそくさと立ち上がり、侍女としてついてきているミルシュカとその場を後にした、の、だが。
「あ、あら?」
「どうかされましたか、ビクトリア様」
「私の扇がありませんの」
ふといつも持っている扇がないことに気付く。
“もしかして手の甲に口付けされた時に落としたのかしら”
別に扇ひとつ惜しいものではないのだが、もし落とした扇をニコラウス殿下が拾い、それを理由に家にまで来られたら……なんて考えゾッとした。
「ミルシュカ、悪いんだけどさっきの庭園まで探しに行ってくれないかしら?」
「かしこまりました」
“私が行って、再びニコラウス殿下との鉢合わせは避けたいものね”
そう考えた私がミルシュカに頼むと、すぐに頭を下げて来た道を引き返す。
エマの教育が良かったのか、彼女の家庭環境が変わったからかはわからないが、思ったよりも従順。
「これならいつどこの令息の元へ嫁がせても問題はないわね」
もちろんやり直す前のような行為もしていない彼女は、今や立派な淑女ともいえた。
高位貴族の邸でマナーなどを叩き込まれた令嬢は、たとえ元の爵位が低くても付加価値がつく。
もちろんそれはその高位貴族との繋がりが間接的に持てるからという意味も込められてはいるのだが。
“今のミルシュカならば、王子妃でも問題ないわ。……何故かやり直した今、本人にその意志がなさそうなのが問題なのだけれど”
今からでもニコラウス殿下を篭絡してくれないかしら、なんて都合のいいことを考え、そして今の現状は私が『相手を変えた』から作られたもの。
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