断罪されて死に戻ったけど、私は絶対悪くない!

春瀬湖子

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5.逃げ場がない? このパターンは想定外よ

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「おかえり、というべきだろうか?」

 ミルシュカを廊下の端で待っていた私は、突然聞こえたその声にハッとした。
 そしてその声の正体に気付き慌てて頭を下げる。

「アンドレアス第一王子殿下にご挨拶いたします」
「堅苦しい挨拶は必要ない。俺は変わり者の外れ王子だからな」

“また反応しにくいことを……”

 まるで私を値踏みするようなその赤い瞳に息を呑んだ私は、なんて返すべきか迷い口をつぐんだ。

 
 変わり者の外れ王子、それは貴族たちが裏で呼んでいるアンドレアス殿下の蔑称。

“まさかその言葉をアンドレアス殿下から直接聞くなんて”
 
 第一王子であり王位継承権第一位の彼がそう呼ばれるのも理由がある。

“表舞台に出ない王子――”
 

 奇跡の力、魔法。
 その奇跡の力を閉じ込めたものが俗に魔道具と呼ばれるものになるのだが、今はもう失われた古代の技術だ。

“おそらく私の時間が巻き戻ったのも、あのお祖父様からいただいた魔道具の力……”

 そしてその魔道具に『惑わされた』ともっぱら噂されるのがまさにアンドレアス殿下その人である。

“最低限の公務だけをこなし、それ以外は私室に籠って研究三昧って話だったわよね”

 王位継承権第一位なのに、二十四になった今も立太子されないのは彼自身が研究を優先し拒否したからだともっぱらの噂で、そしてだからこそ第二王子であるニコラウス殿下とフォシェル公爵家との縁談が持ち上がったのだから。


「ねぇ、感想を教えて欲しいのだけれども」
「感想、でございますか?」

 どこか楽しそうに口元を緩めたアンドレアス殿下のその言葉に首を傾げる。

“そういえば、さっき『おかえり』って言っていたわね。一体何のことかしら”

 アンドレアス殿下の言葉の意味が理解できていない私を少し可笑しそうに口元だけ緩めて笑った殿下は、その骨張った指先で私の胸元をトンと押した。


「未来からやり直して来たんでしょ?」
「――――ッ!?」

 くすりと笑うアンドレアス殿下の赤い瞳が妖艶に揺れ、ドクンと私の心臓が跳ね上がる。

「なっ、何故……ッ」
「だってあのネックレスを直したの、俺だもの」
「は、は……?」

“魔道具のネックレスを、直した……?”

 だが魔道具とは古代の技術で作られた奇跡の品物。
 そしてその技術は既に失われてしまったもので。

「ははっ、信じられないのも仕方ないよ。確かに魔道具ってのは今はもう失われた技術で新しく作るのは不可能なんだけどさ。でも、“直すこと”なら可能なんだ」
「直すこと、でございますか?」

“それが、殿下がずっとされている研究なの?”

「まぁ適正のある者が動かなくなった魔道具に魔力を補填してやることが前提にはなるんだけれど」
「魔力、でございますか?」
「あぁ。魔力すらも今はほとんど失われてしまっているんだが――王族の血統なのかな、俺には少しだけ魔力に適正があってね」

 だからこそこの研究にのめり込んだんだけど、なんてどこか自嘲気味に笑う殿下。
 その笑顔にごくりと唾を呑み込む。

「そのお話が事実として、どうして確信をされているのでしょう?」

“私がやり直した事に気付いたのはどうしてなの? それともまさか殿下もやり直す前の記憶を……”

 製作者の特権でもし何かしらの機能が発動し私のように記憶を持っているのかも、なんて思ったのだが。

「あぁ。それはね、君がネックレスを着けていないからさ」
「着けて、いないから?」
「先代のフォシェル公爵は孫である君をとても可愛がっていたからね。王子である俺に魔道具を直せなんて言ってくるくらいに」

 確かにお祖父様は私のことを特別可愛がってくださり、そして稀少なネックレスを肌身離さず持つようにと念を押していた。

「あの魔道具は、一度だけ持ち主の命を守るものなんだよ。持ち主を仮死状態にして、安全になった後すぐに蘇生すると思っていたんだが……死亡したという報告や事故とかは聞かなかったからね」

 不思議そうにまじまじとこちらを見るアンドレアス殿下。
 きっとこの顔は王子としてではなく、研究者としての顔なのだろう。

「そうなれば、何かしらの命の危機を迎えたときに危険が起きる前へと時間を巻き戻したと考えるのが自然じゃないかい?」
「そ、そうでしょうか?」
「そうだよ。全てを『無かったこと』にして『やり直した』からネックレスと共にその事実が消えたんだ」

 研究者の思考回路とはどうなっているのだろうか。
 断定するにはあまりにも不確定要素しかないと思うのだが、しかしそれが事実なだけに言い淀んでしまう。
 そしてその隙を見落とすような殿下ではなかったようで。

「で、君はいつの時間軸からやり直したのか教えてはくれないか?」
「……!」

 にこりと微笑むその笑顔が、私に逃げ場などないのだとそう告げられたようだった。
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