記憶が紡いだその先は

春瀬湖子

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2.はじまってしまったアレコレを止めるのは大変

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退院した私達は、何故か戻らない二人の記憶を探そうと色んなところに出掛けた。

「いずみ、映画観に行かないか?」

そう大和に声をかけられ、間髪いれずに行くと答えたら少し驚いた大和はすぐに満面の笑みを浮かべてくれた。

「手、繋いでもいいか?」
「う、うん」

手を繋いでも何も思い出せなかったのは大和も同じだったようで。

「他のみんなの事はちょっとしたキッカケで思い出したんだけどな」
「もしかしたら私達にとって手を繋ぐって事はあまりにも日常な事だったのかもね」

と答えると、そうかもな、とまた大和は笑った。

黒髪短髪で、少し固そうな髪質の大和は普通にしていたらクールなスポーツマンのような雰囲気なのだが、笑うと少し幼く見え八重歯が覗く。
その笑顔は常に私の胸の奥を刺激し、この笑顔が好きだったんだろうなと思った。

「何の映画観る?」
「ホラーもやってるみたいだぞ」
「現代ホラーかぁ」
その映画は同棲を始めたカップルの新居で毎晩ベランダから女性が落ちる姿が見えるという心霊モノだった。

「あれ、ホラー好きじゃなかったっけ」
「ホラーは好き!でもよく見るホラーとはちょっとタイプが違うのよねぇ」

否定したつもりはなく、それはただ好みの映画の説明をするくらいの軽いつもりだったのだが、私の言葉を聞いた大和は少し落ち込んだようで。

「そっか、ごめんな、俺がちゃんと思い出せないせいで···」
「えっ!?ごめんなさい、そんなつもりじゃなくて!」

慌ててフォローするが、しょんぼりしてしまった大和にとにかく焦った。

「あまり一緒にホラー観てなかったみたいだから仕方ないっていうか、私がちゃんと言わなかったのが悪いの!大和は何も悪くないから!」

それでも何も言ってくれない大和にオロオロしながら言葉を続ける。

「私の為にホラー選んでくれたのは本当に嬉しいし、前は一緒に観てなかったらしいのに、今観ようとしてくれる大和の気持ちが嬉しい!そうやって気遣ってくれるとこが凄い好きだったんだと思うし!」
「····やっぱり過去形、だよな」
「····っ!」

確かに今、記憶を失う前のように好きかと言われたら正直わからない。
わからない、けど。

「·····今の私は幼馴染みとしても恋人としても過ごした時間は思い出せないけど、でも、大和の笑顔を見るとほわっとするというか、一緒にいたいなって思ってる···」
「·····くくっ」
「!」

必死に今の自分の気持ちを伝えたら小さく笑い声が聞こえて慌てて大和の顔を覗くと。

「ごめん、そんなに百面相するなんて思わなくて、つい」

と、屈託なく笑っていた。

「ちょ、ひどっ、いつからからかってたのよ!?」
「ごめんごめん、でもいずみの気持ち聞けて凄い嬉しい」

本当に嬉しそうに言われ、一気に頬が熱くなる。

「俺も、いずみといるのが楽しくて。思い出せない事ばかりだけど、きっとこうやって楽しくずっと側にいたんだろうな」

思い出せなくても、こうやってまた少しずつ積み重ねていきたいな、という大和の言葉に頷き、繋いでいた手に力を込めると大和もぎゅっと握り返してくれて。
大和となら、もしこのまま記憶が戻らなくても大丈夫だとそう思えた。


怪我をしたあの公園にも二人で行ったが何も思い出せなかった。

「ここから落ちたんだよね」
「ごめんな、側にいたのに守れなくて」
「守ってくれたよ、だから私は今も大和の横で笑えてるんだもん」

そう言って笑うと大和も笑い返してくれて。

「次は絶対守るから」
「だから守ってくれてたよっ、でもありがとう」

なんて笑い合っていた。
ふと笑いが途切れ、大和の方を見ると真っ直ぐ目が合って。

軽く啄むようなキスをした。

「これ何回目のキスなんだろうね」
と照れ隠しで言うと、
「数える必要ないよ、これからだって何回もするんだからさ」
と少し照れながら返事をくれた。

そうだね、と笑い、今度はさっきより少し長くキスをしてその日は帰った。


お互いの部屋にも行き来するようになったし、買い物にも行った。
大和の得意なバスケを二人でしたり、部室で二人が好きだった映画を交互に観たりもした。

手を繋ぎ、他愛ない話をし、なんでもない時間を共有して過ごしたその時間は本当に宝物のようだった。


相変わらずお互いの事だけは思い出せなかったが、それでもいいと思えるくらい一緒に過ごし思い出を作った。
大和の宣言通りキスだって何回もして。

そうやって2ヶ月過ごし、その日も目的なく歩き夕方コンビニに寄った。

「あ、俺弁当買いたい」
「え、おばさん達いないの?」
「旅行だってさ、一緒に行くかって聞かれたけど止めといた」
「えー、一緒に行けば良かったのに。なんで行かなかったの?」

並んでいるお弁当を選ぶ大和は当たり前のように「だっていずみといたかったから」と言って。
焼き肉弁当を手に取ろうとした大和の腕を掴んだのは反射だったかもしれない。

「わ、私が晩ご飯作ろうか···?」

まじで?ラッキー!とこっちを振り返った大和は真っ赤になった私の顔を見て釣られて顔を真っ赤にした。
コンビニで焼き肉弁当の代わりにコンドームを購入し、手を繋いで無言でコンビニを出て。

「スーパー行かないと」
「うん」
「スーパーこっちじゃないよ?」
「うん」

お互い口数少なく手を繋いで歩き、スーパーには結局寄らずに真っ直ぐ大和の部屋に入った。


この2ヶ月、何度も重ねるようにキスをしたが、どのキスよりも深く熱く求められて。

こじ開けるように舌が唇を割り、熱い舌がぬるりと歯列をなぞる。
そんな大和の舌を追うように自身の舌をそっと触れさせると、すぐに強く吸われて。

何度も向きを変えてキスを繰り返し、かくんと足から力が抜けた私を支えるようにベッドに座らせる。


「嫌じゃない?」
と声をかけられ、キスだけなのに頭がもうぼんやりしていた私は一瞬何を言われたかがわからなくて。

「恋人同士だった記憶、ないのにこんなこと、いずみは嫌じゃない···?」

そう控えめに言われて。

「嫌じゃない!」
と、思ったより大きな声で言ってしまい、自分の声に驚いた。
そんないずみに大和も驚いたようだったが、すぐに蕩けるような笑みに変わり、嬉しいと笑ってくれた。

「恋人同士だった記憶、あるよ」
「え?いずみもしかして···」
「昔の事はまだ思い出せないけど、少なくともこの2ヶ月は恋人同士···だったでしょ?」

と聞くと、力一杯強く抱き締められた。
抱き締められた腕の力強さがなんだか凄く安心して、そっと大和の背中に手を回す。
少しビクッとしたが、そのままそっと体重をかけられ気付けば大和に組み敷かれていて。

「好きだ、いずみ」
「私も、大和」

口付けを落とされ、そっと服の上から胸を揉まれた。

「シワになるから、その···」
そう声をかけると、ごくりと喉を動かした大和に服を脱がされる。
ブラのホックが上手く外れなくて苦戦してる事に気付き、そっとうつ伏せになると「ごめん、緊張して···」と言われ、「私も緊張してる···」と返事して。

そのまま背中にキスをされ、そっと舌が背中を這った事に気付き思わず仰け反る。
仰け反った事で出来たベッドとの空間に手を入れられ後ろから胸を揉まれた。

クリクリと捏ねるように胸の先を刺激され、その初めての快感に声にならない声が溢れる。
その声に反応するように強く乳首を捻られ指先で弾かれた。

左手は胸を弄ったまま、右手だけそっとお臍の辺りを撫でられる。

「や、大和···っ」
「ごめんちょっと、余裕、ないかも」

首の後ろから吐息の熱を感じ、その熱と呼応するように私の下腹部が熱を孕んだ事に気付く。
お臍から手をそのまま下着の中に入れられ、そっと入り口に指を沿わされると、ぴちゃ、と小さく水音がして。

指先で少し潤っているソコの表面を擦るように刺激される。

「まっ、や、大和···っ」
「いずみ、ね、こっち顔向ける?」

お願い、と囁きながら耳に舌を入れられて。
なんとか声の方に少し振り向くと、後ろから噛み付くようにキスされた。

わざと音がするように舌を吸われ、くち、と指をナカに入れられゆっくり出し入れされる。

「あ、んんっ、やまとっ、やまとっ」
「可愛い、いずみ、ほんと可愛い」

ちゅぽんと指を抜き、うつ伏せだった体を仰向けにされ、ふるりと露になった胸にしゃぶりつく。
舌で激しく弾かれ、嬌声が部屋に響いた。

「やぁ、こえっ、こえがっ、恥ずかし···のっ」
「もっと聞かせて、凄い興奮する、でもあんま煽らないで」
「あぁん!煽って、なんか···っ」

ぐっとそのまま下着を下ろされたと思ったら、乳首に吸い付いていた唇を舐め、そのままいずみの下腹部に顔を埋めた。

「ひゃあぁっ!」

舌を挿れられ、芯を持ち出した芽を指で強く押される。

「や、あ、あぁっ、んんっ、声がぁっ、やぁぁっ」

恥ずかしいのに声を堪えられなくて、そんないずみの口を大和の唇が塞ぐとぷちゅ、と指を奥まで挿れられた。
そのままナカを擦られ自然と涙が零れ、その涙を掬うように舐めとられる。

「いずみ、いい···?」
「ん、やま···と、きて···っ」

時間をかけて愛撫され、ドロドロにされたいずみのソコに、大和の熱棒があてがわれて。

「んっ、や、大和、大丈夫だから一気に···お願い」

その懇願に一瞬迷った様子だったが、小さく頷いた大和は痛かったら思いっきり噛んで、といずみの口元を自身の肩に持ってきた。
そしてグッといずみの奥まで一気に貫く。
その痛みで思わずいずみも大和の肩に思い切り噛みついて。

「「ーーーーッッ!!」」

そして二人のその“痛み”が、失った記憶を全て思い出させた。
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