その寵愛、仮初めにつき!

春瀬湖子

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第四章:可愛い恋敵

23.響く声と近付く闇

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「そ、そうだこんちゃん!」

 一瞬そのどこか幻想的にも思える光景に呆然とししていた私だったが、すぐにハッとして辺りを見渡す。

 どうやら突然現れた彼らがこんちゃんを助けてくれたのか、体を支えられたこんちゃんがほっとしたような表情をしながらゆっくりと手を振ってくれ、その様子に私は安堵のため息を吐いた。


「あなたたちは……」
「楓の父です。それと一族の者と」

“なるほど”

 さっきまでいた悪意の相手ではないことに納得し、すぐに頭を下げようとするが途中で楓ちゃんのお父さんに遮られた。


「謝罪すべきはこちらの方だ。楓は白くんを実の兄のように慕っていてね」

 話しながらお父さんがすぐ後ろに立っていた楓ちゃんの頭を撫でる。
 頭を撫でられている楓ちゃんは俯いており、表情はわからなかった。

「それがこんな事態を引き起こしてしまった。危険な目に合わせてしまったこと、誠に申し訳ない」
「い、いえっ、私も悪いところはありますし……というか楓ちゃんは悪くないといいますかっ」

 サッと頭を下げられ慌てた私がそう言うと、そんな私とお父さんの間に割り込むように入ってきた楓ちゃんも大きく頭を下げる。

 
「私が優子に悪意を抱いたことは間違いありませんわ。本当に……ごめん、なさい」
「楓ちゃん……」

 瞳に涙を溜める彼女に釣られて私の目頭も熱くなる。

「私も、知らなかったとはいえ酷いことを言ってしまってごめんなさい。あと、飛べるようになって良かった」
「……っ」
「あの時楓ちゃんが飛んでくれなかったら、間に合わずに地面に叩きつけられてたと思う」

 確かに勢いは殺しきれず落下し続けてはいたが、あの時間稼ぎがなければ間に合わずに地面に叩きつけられてたと思う。

 それに私ごと飛ぼうとしなければ彼女はきっと落ちずに一人で飛べていたはずだ。

「おめでとう」
「優子、私、私……」
「助けてくれて、ありがとう」

 楓ちゃんの手を取りぎゅっと握ると、握り返してくれる。
 その手が思ったよりもずっと小さく、けれど強く感じた。


「それから、お父様」
「うん?」
「私のせいで、犬神の一族に羽団扇を奪われてしまいました」
「あぁ……」

 私の手を握ったままそう口にした楓ちゃんは、口を開いたお父さんにビクッと肩を跳ねさせる。

“楓ちゃん……”

「た、確かに持ち出したのは楓ちゃんかもしれませんが、でも一番悪いのは人のものを取り上げる相手っていうかっ」
「うん。わかってる、大丈夫だよ」

 なんとかフォローしようとふる私をそっと止め、しゃがんで楓ちゃんと目線の高さを合わせてお父さんがふわりと微笑み楓ちゃんを抱き寄せた。

「私たちの一番の宝は楓、君だよ」
「お、父様……」
「無事でいてくれてよかった」
「でも、羽団扇が、羽団扇が!」
「いいんだ。大丈夫、大丈夫だからね」

 慰めるように楓ちゃんの背中をぽんぽんと優しく叩くと、ヒクヒクと嗚咽が漏れ聞こえる。

 子供なのに大人っぽく振る舞っていた彼女の、その安心して泣ける場所がちゃんとあることに胸が熱くなった。


 暫く父親の胸で泣いていた楓ちゃんは、赤くなった目元を拭い私の方へと振り返ったので私もお父さんに習い楓ちゃんと目線の高さを合わせる。

 しかし折角、目線の高さを合わせたが楓ちゃんはプイッとそっぽを向いてしまった。


「白さまの正妻の座は譲りませんわ!」
「あ、あぁ」

“って言われても、私は仮初めなんだけど”

「でも、その……。少しだけ、預けてあげても構いませんのよ」
「楓ちゃん……」

“これこそまさにツンデレ……!!”

 少し恥ずかしそうに、外した目線を戻し見つめられるとぎゅんと胸が高鳴る。


「今度こそ遊ぼうね」
「子供扱いしないでくださいませ! けど、仕方ないから遊んであげても構いません」
「じゃあ約束ね!」

 そっと小指を差し出すと、小さな楓ちゃんの小指が私の指と絡む。


“いつか本当に楓ちゃんと遊べたらいいなぁ”

 私はそんなことを思いながら、彼女たちを見送ったのだった。



 ◇◇◇

「なぁーんだ、あれはあの天狗が近くにいたからだったのか」

 ちぇっと口をすぼめた僕は、手に入れた羽団扇から興味を失いポイッと机に投げる。

 神通力を持つといわれる羽団扇。
 
 これがあれば面白いことが出来ると思ったが、神通力を持っている烏天狗が使ってこそ効果を発揮するものだったようで、今では込められた神通力を使いきってしまったのかもう突風を起こすような力は残っていないようだった。


「流石に死んでないよねぇ?」

 でも、まさか自分の身を呈してまであの人間を庇うとは思わなかった。
 そしてその事実を知れただけでも今回はかなりの収穫だったと言えるだろう。


「次はあの子を壊せば、あいつはどんな顔をするのかなぁ……」

 電気を消したままの暗い部屋に、僕の笑い声だけが響いていたのだった。
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