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第四章:可愛い恋敵
22.美しい縁取り
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「い、いやっ! こんちゃん、こんちゃん!」
「白さま……!!」
動かない彼の元へ駆け寄った私を見て呆然と立ち尽くしていた楓ちゃんも一歩遅れて駆け寄ってくる。
頭を打ったのか、こんちゃんは動かなかった。
“どうしよう、どうしたら!”
一刻も早くこの木をどかし、彼を医者にみせなくては。
だが倒れた木を持ち上げようと試みても全く動かない。
「私の力じゃ……」
びくともしない現実に絶望しかけるが、慌てて自身の頬をバチンと叩く。
「そんな、私こんな、こんなつもりじゃ」
「大丈夫、絶対なんとか……、!」
不安そうな楓ちゃんを励ますように精一杯明るい声と笑顔を作り彼女の方を振り向いた私の目に飛び込んできたのは、彼女が大事そうに抱きかかえている扇だった。
「それ!」
「? は、羽団扇がどうかしまし……」
「それでもう一回風を起こして! 風で木をどかせられれば……!」
木を根から倒すくらいの風が起こせるのだ。
なら同じことをすれば、もしかしたら。
「だ、ダメです、もし白さまごとっ」
「でも今はもうそれしか」
「屋敷の皆さんを呼んでっ」
「みんなが来てるならとっくに来てる!」
あの騒音でも来ないのは、こんちゃんが人払いをしたからか、それとも別の何かの力が働いているからか。
“もしさっきの影のせいなら”
不確かな妨害の可能性がある以上、期待して待ち手遅れなんてことは避けるべきだと思った私が楓ちゃんをなんとか説得しようとこんちゃんから楓ちゃんの方へと振り返る。
そして初めて楓ちゃんの後ろに大きな影のような何かが立っていることに気が付いた。
「か、楓ちゃ……」
「ほら、彼女もそう言ってるし彼女ごと全て飛ばしてあげようよ」
「でも、そんなことをしたら」
「人間なんていらないでしょう?」
「!」
少し低く済んだ声。
心地よさすら感じるその穏やかな声色があまりにも場違いで恐怖を感じた。
「か、楓ちゃんから離れて」
ごくりと唾を呑み、振り絞って声を出すが残念ながら震えたか細い大きさしか出ない。
「ですが」
「んー……」
楓ちゃんの耳元で囁くように話していたその影だったが、尚も躊躇う楓ちゃんにしびれを切らしたのか少しだけ考える様子を見せて。
「使わないなら、宝の持ち腐れだよねぇ」
「え……」
「これ。僕が貰ってあげるね?」
「!!」
あ、と思った時にはもう遅く、ぱっと彼女からその扇を奪う。
影のように真っ黒だったソレが扇に触れたところから色を取り戻し、まるでハスキー犬のような色の大きく尖った犬耳と白とグレーが混ざった尻尾が目に飛び込んだ。
『これが犬だったら……』
唐突に緑鬼に食べられそうになった時にこんちゃんが口にした言葉を思い出す。
そして本能的にこんちゃんの言っていた『犬』が目の前のこの男のことなのだと悟った。
「か、返しなさ……」
「ははっ、これ。欲しかったんだけど警備が厳しかったんだよねぇ。取ってきてくれてありがとう、お礼に君だけは助けてあげるから、頑張って飛んでね」
「なっ」
「あぁ、ごめんねぇ。飛べないんだったねぇぇぇえ!? あははははは!」
焦る楓ちゃんを笑う目の前の男。
そしてその男が楓ちゃんから取り上げた扇を大きく一振りすると、あっという間に私の足が地面から離れた。
「……ッ! …………ッ!!」
驚き、混乱し、察する。
理由はわからない、だが私は何故か今突然高く舞い上がり、そして地面に叩きつけられるのだと。
声を出そうと口を開くが私の口からは何の音も聞こえなかった。
ゴォゴォと耳を占める風の音がうるさくて聞きとれなかったのか、恐怖で私の喉が張り付き声にならなかったのかはわからなかった。
――死。
どうすることも出来ないこの現状に、逆に思考がクリアになる。
“そうだ、確か落下するときに時間って何倍にも長く感じるって論文があった”
ぼんやりとそんなことを考え、その検証は正しかったのだと実感し……
「楓ちゃん!!」
そして目の前で私と同じように頭から地面にまっすぐ落ちる小さな少女に気付く。
“このままじゃ楓ちゃんが!”
今思えば何故そんなことを考えたのかはわからないが、その時の私は目の前で落ちていく子供を守らなくてはとそう思い、彼女へと手を伸ばした。
不幸中の幸いというやつなのか、羽のお陰で体重が同じくらいだったのか私の手が彼女へと届く。
ぎゅっと抱きしめると腕の中で確かなぬくもりがあることに気付き安堵した。
「よかった」
「全然よくなんてありませんわ」
「!」
思わずつぶやくと、彼女も意識を取り戻したのか返事が返ってきて驚く。
「大丈夫、私が楓ちゃんのマットになるから、そしたら」
「……」
彼女の体を包むようにさっきより力を込めて抱きしめる。
私の言いたいこととやりたいことを察したのか、無言になった楓ちゃんが困惑した顔で私を見てきたのでにこりと笑顔を作った。
不思議とさっきほど怖くはなかった。
守ると決めたからか、それともアドレナリンが出ているせいなのかはわからない。
現実味がないことも理由のひとつだろう。
“こんちゃんも無事でありますように”
さっきの突風でどうか彼の上の木がどかされていますように。
木が風の威力を吸い、彼は空へ飛ばされていませんように。
そう願いながらぎゅっと目をつぶると、そっと私の背中に楓ちゃんの小さな腕が回り私を抱きしめた。
「愚かですわ、弱い人間」
そんな呟きが聞こえ、地面に叩きつけられるのではなく突然ぐんっと体が吊り上げられたような衝撃が襲う。
驚き目を見開くと、太陽をバックに黒く大きな羽が空へと広がっていた。
“日食みたい”
暗くなったと勘違いしそうになり、黒い翼を縁取る光の神々しさに目を奪われる。
「キレイ――……」
思わず見惚れるが、流石に勢いは殺しきれなかったのかそのまま落下し続けて。
「頑張ったな、楓」
バサッと羽ばたく音と、包み込むような優しい声が響き、私ごと下から抱き上げられる。
そのまま楓ちゃんと一緒に地面にそっと下ろされると、楓ちゃんと同じ黒く大きな羽を持った人たちが何人もそこにいたのだった。
「白さま……!!」
動かない彼の元へ駆け寄った私を見て呆然と立ち尽くしていた楓ちゃんも一歩遅れて駆け寄ってくる。
頭を打ったのか、こんちゃんは動かなかった。
“どうしよう、どうしたら!”
一刻も早くこの木をどかし、彼を医者にみせなくては。
だが倒れた木を持ち上げようと試みても全く動かない。
「私の力じゃ……」
びくともしない現実に絶望しかけるが、慌てて自身の頬をバチンと叩く。
「そんな、私こんな、こんなつもりじゃ」
「大丈夫、絶対なんとか……、!」
不安そうな楓ちゃんを励ますように精一杯明るい声と笑顔を作り彼女の方を振り向いた私の目に飛び込んできたのは、彼女が大事そうに抱きかかえている扇だった。
「それ!」
「? は、羽団扇がどうかしまし……」
「それでもう一回風を起こして! 風で木をどかせられれば……!」
木を根から倒すくらいの風が起こせるのだ。
なら同じことをすれば、もしかしたら。
「だ、ダメです、もし白さまごとっ」
「でも今はもうそれしか」
「屋敷の皆さんを呼んでっ」
「みんなが来てるならとっくに来てる!」
あの騒音でも来ないのは、こんちゃんが人払いをしたからか、それとも別の何かの力が働いているからか。
“もしさっきの影のせいなら”
不確かな妨害の可能性がある以上、期待して待ち手遅れなんてことは避けるべきだと思った私が楓ちゃんをなんとか説得しようとこんちゃんから楓ちゃんの方へと振り返る。
そして初めて楓ちゃんの後ろに大きな影のような何かが立っていることに気が付いた。
「か、楓ちゃ……」
「ほら、彼女もそう言ってるし彼女ごと全て飛ばしてあげようよ」
「でも、そんなことをしたら」
「人間なんていらないでしょう?」
「!」
少し低く済んだ声。
心地よさすら感じるその穏やかな声色があまりにも場違いで恐怖を感じた。
「か、楓ちゃんから離れて」
ごくりと唾を呑み、振り絞って声を出すが残念ながら震えたか細い大きさしか出ない。
「ですが」
「んー……」
楓ちゃんの耳元で囁くように話していたその影だったが、尚も躊躇う楓ちゃんにしびれを切らしたのか少しだけ考える様子を見せて。
「使わないなら、宝の持ち腐れだよねぇ」
「え……」
「これ。僕が貰ってあげるね?」
「!!」
あ、と思った時にはもう遅く、ぱっと彼女からその扇を奪う。
影のように真っ黒だったソレが扇に触れたところから色を取り戻し、まるでハスキー犬のような色の大きく尖った犬耳と白とグレーが混ざった尻尾が目に飛び込んだ。
『これが犬だったら……』
唐突に緑鬼に食べられそうになった時にこんちゃんが口にした言葉を思い出す。
そして本能的にこんちゃんの言っていた『犬』が目の前のこの男のことなのだと悟った。
「か、返しなさ……」
「ははっ、これ。欲しかったんだけど警備が厳しかったんだよねぇ。取ってきてくれてありがとう、お礼に君だけは助けてあげるから、頑張って飛んでね」
「なっ」
「あぁ、ごめんねぇ。飛べないんだったねぇぇぇえ!? あははははは!」
焦る楓ちゃんを笑う目の前の男。
そしてその男が楓ちゃんから取り上げた扇を大きく一振りすると、あっという間に私の足が地面から離れた。
「……ッ! …………ッ!!」
驚き、混乱し、察する。
理由はわからない、だが私は何故か今突然高く舞い上がり、そして地面に叩きつけられるのだと。
声を出そうと口を開くが私の口からは何の音も聞こえなかった。
ゴォゴォと耳を占める風の音がうるさくて聞きとれなかったのか、恐怖で私の喉が張り付き声にならなかったのかはわからなかった。
――死。
どうすることも出来ないこの現状に、逆に思考がクリアになる。
“そうだ、確か落下するときに時間って何倍にも長く感じるって論文があった”
ぼんやりとそんなことを考え、その検証は正しかったのだと実感し……
「楓ちゃん!!」
そして目の前で私と同じように頭から地面にまっすぐ落ちる小さな少女に気付く。
“このままじゃ楓ちゃんが!”
今思えば何故そんなことを考えたのかはわからないが、その時の私は目の前で落ちていく子供を守らなくてはとそう思い、彼女へと手を伸ばした。
不幸中の幸いというやつなのか、羽のお陰で体重が同じくらいだったのか私の手が彼女へと届く。
ぎゅっと抱きしめると腕の中で確かなぬくもりがあることに気付き安堵した。
「よかった」
「全然よくなんてありませんわ」
「!」
思わずつぶやくと、彼女も意識を取り戻したのか返事が返ってきて驚く。
「大丈夫、私が楓ちゃんのマットになるから、そしたら」
「……」
彼女の体を包むようにさっきより力を込めて抱きしめる。
私の言いたいこととやりたいことを察したのか、無言になった楓ちゃんが困惑した顔で私を見てきたのでにこりと笑顔を作った。
不思議とさっきほど怖くはなかった。
守ると決めたからか、それともアドレナリンが出ているせいなのかはわからない。
現実味がないことも理由のひとつだろう。
“こんちゃんも無事でありますように”
さっきの突風でどうか彼の上の木がどかされていますように。
木が風の威力を吸い、彼は空へ飛ばされていませんように。
そう願いながらぎゅっと目をつぶると、そっと私の背中に楓ちゃんの小さな腕が回り私を抱きしめた。
「愚かですわ、弱い人間」
そんな呟きが聞こえ、地面に叩きつけられるのではなく突然ぐんっと体が吊り上げられたような衝撃が襲う。
驚き目を見開くと、太陽をバックに黒く大きな羽が空へと広がっていた。
“日食みたい”
暗くなったと勘違いしそうになり、黒い翼を縁取る光の神々しさに目を奪われる。
「キレイ――……」
思わず見惚れるが、流石に勢いは殺しきれなかったのかそのまま落下し続けて。
「頑張ったな、楓」
バサッと羽ばたく音と、包み込むような優しい声が響き、私ごと下から抱き上げられる。
そのまま楓ちゃんと一緒に地面にそっと下ろされると、楓ちゃんと同じ黒く大きな羽を持った人たちが何人もそこにいたのだった。
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