その寵愛、仮初めにつき!

春瀬湖子

文字の大きさ
22 / 31
第四章:可愛い恋敵

21.代わり、変わり。

しおりを挟む
「今日も来るかな」

 思わずそう口にしてしまったのは、最後の瞬間が微妙なものになってしまったからである。

“知らなかったとはいえ、傷つけたよね”

 飛べないことを誰よりも気にしているだろう少女に、まるで飛べることが当然のような口振りで決めつけた話し方をしてしまった。

 もう少し配慮した言い方をしていれば、ただ普通に凧上げをしよう、だけで話を止めさえしていれば。
 そうすれば、あんな顔をさせなかったかもしれない。
 

「怪我しそうになったのはゆっこなのに?」

 私が楓ちゃんを傷つけたとへこんでいたからだろう。
 こんちゃんが少し不思議そうにそう言った。

「危ないじゃないのってゆっこ側が怒っていいとこだと思うけど」
「んー、でも怪我させようとして本気で突き飛ばされた訳じゃないし、それに」

 少し言葉を切り、ゆっくりと深呼吸をする。
 そしてどこか自分にも言い聞かせるように再び口を開いた。

「……それに、怪我って見えるものだけじゃないから。きっと楓ちゃんは、私の言い方で心が怪我しちゃったと思うんだ」

 謝れるなら謝りたい。
 空が飛べるのが当たり前という前提の話し方をしたせいで、きっと彼女は飛べない自分は出来損ないだと言われていると感じただろう。

 そんな意図はなかったし、そこまで考えてなかったのだとしても、自分を追い詰め傷ついている小さな子供に追い討ちをかけてしまったのは間違いない。

 きっと彼女の心が目に見えるなら、小さな棘で血が沢山滲んでいる気がする。そう考えると、私の胸が締め付けられるように痛んだ。


「それにこんちゃんも心配でしょ? 未来の奥さん」
「ん? もしかしてゆっこヤキモチ焼いてるの?」
「なっ! なんでその結論になったの!?」

 にんまりと笑ったこんちゃんが嬉しそうに私にじりじりと近付いてきてぎょっとする。

「だってわざわざ可愛いこというし」
「別に私はただ……!」

“なんで言ったんだろ”

 反射的に反論しようとするが、改めて考えてみればその通りだと納得してしまう。
 確かに付け加えた一言はわざわざ言う必要がなかったものだった。

 これだとこんちゃんの言う通り本当に嫉妬してわざと言ったようではないか、と気付き顔がじわりと熱くなった私は、おそらく赤く染まってしまっただろう顔を誤魔化そうと縁側から庭へと一歩進み出た。


「もし次楓ちゃんと会えたら、どんな遊びなら遊んでくれるかな?」

 けんけんぱはダメだった。凧揚げも失敗した。
 清子さんの家にはトランプもあったし、もしかしたら他のおもちゃもあるかもしれない。
 ならそれらを借りてもいいし、いっそ楓ちゃんと一緒に清子さんのテントへ遊びに行くのもありだろう。

“そうだよ、ちゃんと仲直りして次は――”

「ゆっこ!!」
「え?」

 突然こんちゃんの鋭い声が響く。
 そしてそれと同時に私の体がこんちゃんの体に包まれた。

“な、なに?”

 突然のことにドキリと体が強張り心臓が跳ねる。

 
「そんな女を守るなんて!」

 どこか現実味がなくぽかんとしていた私の意識を引き戻したのは、そんな楓ちゃんの怒鳴り声だった。

「あ、え? 楓ちゃん?」
「さぞ面白かったのでしょうね! 滑稽だと笑っていたのかしら!」
「え、え……?」

 怒鳴り声が響き、屋敷がざわつき始めるがこんちゃんがそっと手を上げるとすぐに静かになる。

「知らないフリをしながら飛ぶ提案をして、陰では私を馬鹿にしながら嘲笑い、噂を流してたんだわっ」
「ちょっと待って、何か、何か勘違いしてるとっ」
「勘違いですって!? 白々しいにもほどがあるわ! ただの人間のくせに!!」
「!」

 こんちゃんの妖術で私は妖狐の一族に見えているはずだったのに、『人間』という単語が出てビクリとする。
 きっとこちらの世界で人間だとバレれば、最初のように生贄にされそうになったり緑鬼の時みたく食べられそうになるのだろう。

「白さまにも相手にされていないことは知っていました、でもっ! 二人して私を謀って楽しかったのですか……!」
 
 妖狐にみせることはきっと私の安全のためだった。

 だが、最悪な形でバレたことを悟り一気に青ざめる。
 私はこれ以上ないタイミングで彼女を更に傷付けたのだ。
 
“こんなことになるなら、せめて楓ちゃんにだけでも言っておけば”なんて、今更過ぎることが頭に過る。
 小さな女の子の真っすぐな怒りが私の心を抉った。


「楓ちゃん、話を聞いてほしいの!」

 せめて事情だけでも説明しなくては、と焦った私がこんちゃんの腕からするりと抜けて前に出る。

「ゆっこ!」
「全部が誤解だとは言わないけど、でもっ」
「聞かない! 聞かない聞かない、みんなみんな大嫌い――!」
「危ない!」
「え」

 楓ちゃんが持っていた扇のようなものを一振りすると、突然突風が起こり私の近くの木を揺らす。
 そしてそのまま私の方へと木が倒れてきた。

“足が動かない……!?”

 逃げなくては、と思う反面、足が地面に張り付いたかのように動かない。
 突然のことで体が強張っているからかと思ったが、何故か私の影が私の足に絡むように地面へと縫いつけていた。

「な、なにこれ……!」

 ゾワリと寒気が襲い、震えあがる。
 逃げたい。逃げられない。下敷きになる。足が動かない。たくさんの感情が駆け巡り、ただただ私はぎゅっと両目をつぶるしかできなくて――


 ――ドン、と突然背中を強く突き飛ばされた。

 ずざざ、と地面を滑るように転がると、私の影とは別の影が離れていくのが見えてゾッとし、ドシンという大きな音が現実へと引き戻す。


「こん、ちゃん……?」

 さっきまで私がいたところに木が倒れ、そして私の身代わりにこんちゃんが下敷きになっていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

三十年後に届いた白い手紙

RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。 彼は最後まで、何も語らなかった。 その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。 戴冠舞踏会の夜。 公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。 それは復讐でも、告発でもない。 三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、 「渡されなかった約束」のための手紙だった。 沈黙のまま命を捨てた男と、 三十年、ただ待ち続けた女。 そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。 これは、 遅れて届いた手紙が、 人生と運命を静かに書き換えていく物語。

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

君への気持ちが冷めたと夫から言われたので家出をしたら、知らぬ間に懸賞金が掛けられていました

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
【え? これってまさか私のこと?】 ソフィア・ヴァイロンは貧しい子爵家の令嬢だった。町の小さな雑貨店で働き、常連の男性客に密かに恋心を抱いていたある日のこと。父親から借金返済の為に結婚話を持ち掛けられる。断ることが出来ず、諦めて見合いをしようとした矢先、別の相手から結婚を申し込まれた。その相手こそ彼女が密かに思いを寄せていた青年だった。そこでソフィアは喜んで受け入れたのだが、望んでいたような結婚生活では無かった。そんなある日、「君への気持ちが冷めたと」と夫から告げられる。ショックを受けたソフィアは家出をして行方をくらませたのだが、夫から懸賞金を掛けられていたことを知る―― ※他サイトでも投稿中

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...