不完全なΩはαの甘い想いに気付かない

春瀬湖子

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最終話:明日からは

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「安心しろ、すぐに全部やるから」

 ハッと浅い息を吐き、俺を見下ろしながら指が抜かれる。
 赤く上気した泰斗の額に汗が滲み、流れるその様が堪らない。


 再びごくりと喉を鳴らした俺の肛孔へ、ぬち、と泰斗の熱いソレがあてがわれる。
 そしてそのまま体重をかけられて。


「――――ッ!」

 ぐぷ、と蜜を溢れさせながら亀頭が挿入され、そのままぱちゅんと一気に奥まで貫かれた。
 その衝撃で息を詰める。

 初めて暴かれたそこは、ヒートのお陰なのか泰斗に何度も絶頂へ導かれぐずぐずにされた後だからなのか痛みはなくて。

 それどころか、ナカを擦り上げられるとゾクリとした快感が背中を巡りチカチカと視界の奥に星が舞った。

「ひ、ひぁあ……! あっ、あっ……!」
「く、楓のナカ吸い付いてっ」

 本能に誘われるまま嬌声を上げ、パンパンと肌がぶつかり合う音に耳からも感じる。
 腰を掴まれ揺すられる体が、その泰斗の行う全てが痛いと錯覚するほどの快感を刻みまるで全身が性感帯のように、俺に触れるその全てを敏感に感じ取った。

 ぬちゃぬちゃと粘りのある水音が耳に届く度にぞくりと鳥肌が立ち、涙が滲む。
 それでもまだ欲しいと両手を伸ばすと、俺の後頭部を支えるように泰斗の手のひらが回った。


「ん、んんっ」

 必死に舌を伸ばしちゅうちゅうと泰斗の唾液を啜る。
 その全てが甘く感じ――


「ひぅっ」

 つつ、と泰斗の指が俺のうなじに触れてビクンと体が跳ねた。


「あ、へ……っ?」
「ここ」

“Ωのそこを噛むのって”

 αがΩのうなじを噛む、それは永遠を誓う愛の証明で――


「か、噛む、のか?」

 自分の心音が鼓膜に直接響いているのかと勘違いするくらい心臓が跳ねる。
 バクバクとうるさい鼓動を必死に押さえつつ、泰斗の方を見上げた。

 熱を孕んだ視線が交わると、腰を掴んでいた泰斗の腕が俺の腕を掴み俯せにさせられる。
 
 ぐい、とお尻を突き出すような格好にさせられたと思ったら、穿つように一気に奥まで挿入された。
 繰り返されるその律動と、泰斗の目の前に露になっているだろう自身のうなじがどこか背徳的にも感じられて。

「あ、あっ、ひ、ひんっ!」
「楓、楓……ッ」

 ナカを抉りながら突かれると、すぐにまたびゅくりと白濁したものを吐き出しベッドを汚した。

「ごめん楓、もう少し……っ」
「待っ、だめ、今俺っ、イッたばっかで――!」

 達したばかりの俺に再びペニスを打ち付けた泰斗は、ばちゅんと一際奥まで貫いて。

「あ、あぁあ……ッ!」

 びゅくびゅくとナカで泰斗のモノが震え、彼が達したことを察した。


 流石にぐったりとして体から力が抜けた俺がベッドにごろんと転がると、そんな俺を背中から抱き締めるように泰斗も横になる。
 ぎゅ、と抱き締められ触れている背中が熱く――ふっと首筋に泰斗の熱い吐息がかかりビクリと肩が跳ねた。

 
“もしかして、俺このまま――”


 それでもいい、と思った。けれど。


「……まだ、噛まない」
「え?」

 ポツリと溢すような泰斗の言葉にぽかんとする。

“まだ?”

 そんな俺に、ふわりと笑顔を向けた泰斗は。

「こういうのは、ちゃんと楓と相談して決めたいから」
「そ、うだん……?」
「あぁ、だって俺たちは今、はじまったんだろ」
「――!」


 はじまる前から終わるのが怖くて進めなかった。
 だけど。

“俺たちには、これからがあるんだ”


 その言葉が染み込み、目頭が熱くなる。
 これからは相談し、並んで、そして向き合えるのだという事実が嬉しくて。


「でも、楓のここを噛むのは俺だから。予約した」
「予約って」

 はは、と笑う俺の目から涙が止めどなく溢れる。
 そんな俺に気付いているだろう泰斗は、ゆったりと俺の髪を撫でていて。


 穏やかな時間。
 きっとこれからも重ねるだろう、そんな時間。

 
 明日からは泰斗の好きな和菓子を買おうと、この温かな腕の中でこっそりと誓ったのだった――……
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