不完全なΩはαの甘い想いに気付かない

春瀬湖子

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3.重なる想いの答え合わせ

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 ちゅ、と突然唇が重なり目を見開いてしまう。
 今泰斗とキスをしている。
 その衝撃に体が強張った。

“なんで、どうして、こんな”

 まさか。
 ――俺がさせているのか?

 そう考えれば辻褄が合う。
 俺は今二年ぶりのヒートを起こしていて、そしてみっともなくαを、泰斗を、泰斗の情欲を誘発させているのだ。

 対して俺は二年ぶりのヒートのせいか、強烈な本能の先にまだ理性を残していて。


“だからこそ俺がなんとかしなくっちゃ……!”

「た、泰斗、やめっ」

 ジタバタと泰斗の下から抜け出せるように必死にもがく。

“なんとかしなきゃ、だって泰斗は泣くほど、嫌なんだ”

 抗えない本能に苦しみ涙を滲ませる友人に申し訳なくて堪らない。
 疼き熱くなる自身の体を叱咤し、この状況をなんとかしようと泰斗の胸を必死に押して顔を遠ざけて。


「俺なら体だけでも満たしてやれる」

 俺を見下ろす泰斗の瞳が涙を溜め、赤く滲んだ目元が睨むように細められてドキリとした。
 

「俺ならお前の苦手な甘いもんも食べれるし」
「ちょ、泰……」
「あのあんこたっぷりの饅頭だって、代わりに食べてやれるから」

 眉を潜め、食い縛るように口元を歪ませながらヒートのフェロモンに耐える泰斗のその表情が苦々しさだけでなはない色も滲ませていることに気付く。


“なんでそんな顔を……”
 
「泰斗は、泣くほど嫌だったんじゃないのか?」
「は?」
「甘いものが苦手なのに通う俺にずっと呆れてて、しかも突然こんなことに巻き込まれて」
「楓」
「Ωのフェロモンのせいで、おかしくされて……」

 じわりと自身の目頭も熱くなる。

「だから今、こんな……っ」
「好きだ」
「ッ」

 困惑する俺に告げられた端的なその一言にぽかんとした。


「……何度も言っただろ、“やめればいいのに”って」
「だって、それは」
「俺なら体だけでも満足させてやれる」
「た……いと?」
「俺ならっ」

 ぎゅ、と力一杯抱き締められると、泰斗の体が重くのし掛かって。

 
「心も、全部やれる」

 
 ドクン、と心臓が一際大きく跳ねてじっと泰斗を見上げる。

 視線の先で赤く揺れる泰斗の瞳から、また一滴の涙が零れ落ちそうになって。


「か、えで?」

 気付けば俺は両手を伸ばし、泰斗の顔を引き寄せ今にも落ちてきそうになっていたその涙に吸い付いた。


“涙はしょっぱい、なんて言うけど”

 口に広がるそのたった一滴の涙に味なんかひとつもしなくて。

“なのに、なんでだろう”


「――甘い、気がするなんて」


 ずっと荒んだような枯れた心に染み込むその涙が、俺の心を潤すようだった。

 甘いものは苦手で、甘さ控えめの和菓子ですらひとつ丸ごと食べれやしないのに。


「もっと」

 ――その甘い雫を、甘い想いが、もっと欲しい。


 目元に吸い付いたまま泰斗の頬へ唇を滑らせた俺は、ゆっくりと自身の唇を泰斗の唇へと重ねた。


「ん、んっ」
「はっ、かえ、楓?」

 くちゅくちゅと舌を絡めると頭の奥が痺れるようで、どんどん思考を鈍らせる。
 熱い泰斗の舌が俺の口内を蠢くことが堪らなく心地よく、はしたないくらいに求めてしまって。

“ヒートのせいなのか?”

 ただ口付けを交わしているだけなのに、泰斗の舌が俺の舌を扱く度にぞくぞくと腰が甘く溶けそうな錯覚すら起こす。


 ずっと欲しかった泰斗から与えられるその全ての甘さをひとつも逃したくなくて。
 ――伝えるなら、今しかないんだとそう思って。


「……ずっと怖かった、はじまる前から終わったことがあるから。はじまらなければ終わらないんだってそう思うくらいに」
「楓?」
「でも本当は、ずっと求めてた甘さは、終わらせるのが怖かった想いは」

 言いながらぎゅ、と目を閉じる。
 やっぱり口にするのは怖いけれど、それでも、ちゃんと伝えたい。

 泰斗が、そうしてくれたみたいに。

「好きなんだ」
「……!」
「何度も呆れさせちゃったけど、それでもいつも半分受け取ってくれるのが嬉しくて。俺が本当に欲しいのは、泰斗だったから」

  
 俺の言葉を聞いた泰斗がきょとんとして一瞬顔を上げたと思ったら、一気に破顔する。
 そして俺たちは再び口付けを交わした。

「ひゃっ」

 繰り返し行われる口付けに夢中になっていると、するりと泰斗の手が俺の服の中に入ってくる。

 腹を撫でられ、俺の体を手のひらが這う。
 Ωのフェロモンにあてられているのか、やたらと熱い泰斗の手が俺の胸を揉んだ。

 
「ま、待ってっ」
「待たない」
「泰……ぁあっ!?」

 そのままカリッと乳首を引っかくように刺激され背中が仰け反る。

“なんだ、この電流みたいな……ッ”


 二年ぶりのヒートだから、それとも相手が泰斗だからなのか。
 軽く弄られているだけなのに今まで感じたことがないほどの快感が俺を襲った。

 
「凄い反応」
「ッ、ご、ごめ……」
「なんで? 俺でこうなってくれるの嬉しすぎるけど」

 少し刺激されるだけでピクピクと跳ねる俺を興奮が抑えられないとでも言うような上気した顔で見下ろした泰斗は、そのまま俺の服の裾を掴み一気に脱がせた。


「ッ!」

 火照った肌が外気に触れひやりとするが、泰斗の舌が俺の胸元に這わされ一瞬感じた寒さが嘘のようにまた熱くなる。

 ちゅ、ちゅと胸元を泰斗の唇が滑り、そして尖らせた舌が俺の乳首をピンと弾いた。

「ひ……っ、それ、だめ……!」
「ん? 全然だめに聞こえない」
「ひゃあっ!?」

 そのままちゅぱちゅぱと乳首に吸い付いた泰斗は、反対の乳首を摘まみ軽くつねる。
 たったそれだけ、それだけの刺激だったのに両乳首へのその刺激が今の俺には強く、びゅくりと熱が放たれてしまって。


「……あぁ、先に脱がしてやるべきだったな」

 冷静にそんなことを口にした泰斗は、のし掛かっていた体を起こし俺のベルトへと手を伸ばした――の、だが。

“?”

 カチャカチャと音はするのに一向に脱がされないことに疑問を覚え、視線を落とす。
 何故か手こずっているその姿を不思議に思った俺も泰斗に続き体を起こして。

「ッ!」

 泰斗のズボンがしっかりと盛り上がっていることに気付きごくりと唾を呑んだ。

“泰斗、興奮してるんだ”

 ――泰斗が興奮してる。俺で興奮してる。
 一度達して少し落ち着いたはずなのに、すぐにまたズクンと芯を持った俺は、泰斗のそこから目を離せない。
 
「ちょ、楓?」

 すぐ近くにいるはずの泰斗の声がやたらと遠く、反響して聞こえる。

“泰斗、泰斗……欲しい、早く泰斗のが”

 その抗えないほどの欲求に視界が赤く染まりまるで警告のようにチカチカと瞬くが、自分ではもうどうしようもなくて。


「――ッッ」
「ん、おいひい……」

 迷わず手を伸ばしズボンを脱がす。
 すぐにぶるんと飛び出た泰斗のそれを迷わず口に含むと、むわりとした香りが鼻を通った。

 先端から滲む汁を舐めとり、もっともっとと必死に吸う。
 両手で握りゆっくりと扱きながら喉の奥まで入れると、泰斗が熱い吐息を漏らした。

 泰斗の大きい手のひらが俺の後頭部を撫でるように動き、うなじをなぞる。
 ヒートが来ないから、とずっと晒していたその部分が、触れられるだけでこんなに敏感だなんて知らなくて。

“だめだ、欲しい、わかんない、早く”

 必死に吸いながら顔を動かし射精を促す。
 もう今どうなっているのかすら自分でもわからないくらい、ただただ本能のまま求め――

「っ、く、かえで……っ」
「ん、んぐっ」

 どぴゅ、と口の中に熱くどろりとしたものが広がった。
 決して甘いはずも美味しいはずもないのに、その甘さに体が震えごくんと一気に飲み込むと、触れてもいないのに俺も達した。

「飲んだ、のか?」
「ん。泰斗……もっと、ちょーだい」

 少し驚いた表情をした泰斗は、すぐに俺をベッドに押し倒す。
 さっき手こずったベルトごと無理やり引きずり下ろすように全て剥ぎ取られた俺は、気付けば完全に組み敷かれていて。


「――ひゃっ、指、ナカ……!」

 ぱんつの中ですでに溢れ出ていた俺の蜜を肛孔へ塗るように指を動かした泰斗が、そのままぐちゅりと指を挿入した。

 指の腹で内壁を擦り上げながら抽挿のスピードを上げられると、部屋中に卑猥な水音が響き渡る。
 その音に混ざるように嬌声を上げた俺は、それでも指では足りなくて滲んだ視界の先にいる泰斗をじっと見つめた。
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