夜会に行くって伝えたら同僚の様子がなんだかおかしいようだ

春瀬湖子

文字の大きさ
1 / 4

1.向かうは夜会、だったはずだが

しおりを挟む
「今度夜会に行くんだけどさぁ」
騎士団の訓練終わりに行った酒場で、同僚のメルビオスに夕食のお肉を口に運びながら報告する。
ブルーブラックのセミロングの髪は食事時には邪魔の為、適当な革ひもで結んでいる。
飾り気なんてないが、相手は気心知れた同僚なので気にするなんて今更。

選ぶ話題も特に考えず思い出したものから適当に。
そんな二人のいつもの世間話のひとつ、のつもりだったのだが。

「え、シータ嘘だよな?」
赤紫の瞳が落ちそうなくらい見開かれる。
想像以上に驚愕されてこちらも驚いた。


「え…っと、メル?そんな驚く事か?」
「いや、だってシータそんな話してなかっただろ?」
「そんなに変か?一応これでも貴族令嬢だぞ?」

確かに普段は国境付近を任されている一番武闘派の帝国第二騎士団に所属しているが、これでも一応伯爵家の娘だったりもする。
夜会に行くことだってあるだろう。

とは、言うものの。

「まぁ、必要ないっちゃないんだけどなぁ」
そう答えてお酒を一気に呷る。

「だったらやめとけよ、なんでわざわざ行くんだ?そんな必要ないんだろ?」
「え、なんでそんな反対してくんの?」
「だってお前そんな、夜会ってあれだろ?言わばお見合いパーティーだろ?」

我がイブライム伯爵家はなかなか男児に恵まれず、また両親の仲がそれはもうよろしかった為なんと一男六女の7人姉弟。
どうしても男の子が欲しいと頑張り、6人連続で女児だったその6番目が私である。
そして7人目にやっと恵まれた男児。

いくら伯爵家とはいえ跡継ぎは弟がいるし、政治的結婚というやつも上に5人も姉がいるとぶっちゃけ私まで回ってこない。
だからこそ自由に育ち今や騎士団に所属しているのだが。


「相手がな、いないんだ」
「……は?」
「六女だぞ、政略結婚の相手すらいない。これはもう自分で捕まえに行くしかないってことだろ?」

だから、ちょっと狩ってくるわ!と笑いとばしたのが数日前。



夜会当日は一応貴族令嬢として馬車に乗り込んでいた。
正直自分で馬を走らせる方が速いが、滅多に着る事のないドレスだし、と大人しく乗っている。
必要ないとは思うものの、護衛に同じ騎士団の二人を連れて来ていた。
ぶっちゃけ伯爵家としての見栄の為。

でもドレス姿とか見られるの恥ずかしいなぁ、なんて呑気に考えていたその時。


カキン!
剣を弾く音がして馬車が大きく揺れる。


ここで普通の貴族令嬢であれば専属侍女と馬車内で震えるなりしていたのだろうが、そもそも国境付近を任されている騎士団員であるシータは家を空けている事がほとんどの為侍女などおらず、馬車内は一人。


つまり存分に動ける、という意味でもあった。


「剣も持ってくるべきだったな!」
バン、と勢いよくドアを蹴り開け外に転がり出ながら周囲の様子を伺う。
ドアを出る瞬間を狙われるのが最も危険なので、それを回避すべくの行動だったがドレスが一瞬で泥まみれだ。

転がりながら周囲の様子を伺い、ザッと血の気がひく。
襲撃を受けてすぐに飛び出したはずなのに、騎士二人が既に倒されていたからだ。

「な……っ!」
国一番の武闘派騎士団員二人がこの短時間で?!と怯み、一瞬の隙が出来る。
戦場での隙はどれほど短い時間であっても命取りだ。

「しまっ…!」
背後から両腕を拘束される。


殺される…!

「くっそ!タダでは死なん!」
せめて襲撃者の情報を。我が伯爵家が狙われたのか、それとも第二騎士団員だから狙われたのか。ついでにあわよくば一矢報いたいと振り向いたそこには。

「………え、メル?」
「あーあ、せっかくのドレス泥だらけなんだけど。大人しく馬車で待っててくれたら良かったのに…」
至極残念そうに言いながら拘束はすぐに解かれた。

キョトンとするシータをそのままに、メルはササッと倒れてる騎士二人に近付き何かをしてすぐ戻る。
その様子を見てハッとし、「生きてるか?!」と慌てて声をあげ、走りよろうとしたところをメルの腕が遮断した。

「うん、二人とも気絶してるだけ。で、シータはこっち」
「え?いや、は?」

そのまま腕を掴まれ森の方へ連れていかれる。


どういうことだと混乱するシータにお構い無しのメルは、シータの腕を掴んだまま10分ほど歩いたところにある小さな山小屋に入った。

「え、なにここ?」
「前からあるよ、作ったんだけど」
「は?」

意味がわからない、作ったって誰が?まさかメル?

「いつでもシータを見ていたいから、シータが帰るときは俺もここにいてシータのこと見てたんだ。ここならすぐ伯爵家まで行けるし都までも近いからさ」
「は?はぁ…」

訳がわからないことが多すぎて何から聞けばいいかわからず気の抜けた返事しか出ない。

何から聞こうかと考え、一番重要な事を思い出す。
メルの登場で気が抜けたにしてはあまりにも間抜けすぎるが仕方ない。

「そうだ!襲撃者はどうなった?メルが追い払ってくれたのか?」
「襲撃者って、あいつらを倒した奴ってこと?」
「当たり前だろ!てかこんな場所があるならあいつらも連れてきて治療とかするべきだ!」

呆気にとられここまでのこのこ来てしまったが、そもそも彼らをあそこに放置はまずい。
襲撃場所は伯爵家から帝都への一般道ではあるが、そもそも伯爵家が少し田舎にある為あの道はほぼ伯爵家専用と言っても過言ではないくらいなのだ。
逃げたであろう御者が上手く伯爵家まで戻り応援を呼んでくれたらいいが、騎士が倒されているのだ。逃げ切れるか怪しい。
つまり誰にも発見されず、下手すれば戻ってきた襲撃者に今度こそ殺されかねな……


「ここに連れてくるとか絶対ダメに決まってるでしょ」
「……へ、メル?」

メルから聞いたこともない冷たい声がして怯む。
だが怯んでばかりもいられない。

「いや、でもあいつらが…」
「何なの、もしかしてシータが狩りたい相手ってあいつらのどっちか?それともどっちも?」
「は?!何を…」

その瞬間ビリッという音がして冷たい空気が肌に触れる。
メルの手には小型のナイフ。
胸元から臍の上辺りまで切り裂かれたドレスを一瞥するが、それより今は確認が先だとすぐメルに向き直る。

「まさか襲撃者ってメルなのか?」
「服切り裂かれて言うのそれなの?」

ははっと笑うメルの赤紫の瞳はまるで黒く揺れていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の巨大な体に覆われ、満たされ、貪られた——一晩中

桜井ベアトリクス
恋愛
妹を救出するため、一ヶ月かけて死の山脈を越え、影の沼地を泳ぎ、マンティコアとポーカー勝負までした私、ローズ。 やっと辿り着いた先で見たのは——フェイ王の膝の上で甘える妹の姿。 「助けなんていらないわよ?」 は? しかも運命の光が私と巨漢戦士マキシマスの間で光って、「お前は俺のものだ」宣言。 「片手だけなら……」そう妥協したのに、ワイン一杯で理性が飛んだ。 彼の心臓の音を聞いた瞬間、私から飛びついて、その夜、彼のベッドで戦士のものになった。

没落令嬢、執事に逃げられる~手紙を見てしまった私の、必死な七日間~【全8話】

長田桂陣
恋愛
没落した伯爵家の令嬢コーデリアには、たった一人の使用人がいた。 献身的な執事ウィリアム――通称ウィル。 母の治療費で財産を使い果たし、父も亡くなった今、この屋敷に残っているのは彼女とウィルだけ。 料理も掃除もできないわがままなコーデリアは、完全にウィルに依存していた。 ある日、コーデリアは偶然ウィルの部屋で一通の手紙を見つけてしまう。 『執事ウィリアム殿を新しい執事長として迎え入れたく存じます。破格の待遇でお迎えいたします――マグナス公爵家』 ――ウィルが、出ていく? でも、聞けない。「本当に行くの?」なんて。 だって、答えが怖いから。 それからというもの、わがままを言うたびに後悔する日々が始まった。 ――待って!「では公爵家に行きます」とか言わないわよね!?

婚約破棄された侯爵令嬢、帝国最強騎士に拾われて溺愛される

夜桜
恋愛
婚約者である元老院議員ディアベルに裏切られ、夜会で婚約破棄を宣言された侯爵令嬢ルイン。 さらにバルコニーから突き落とされ、命を落としかけた彼女を救ったのは、帝国自由騎士であるジョイアだった。 目を覚ましたルインは、落下のショックで記憶を失っていた。 優しく寄り添い守ってくれるジョイアのもとで、失われた過去と本当の自分を探し始める。 一方、ルインが生きていると知ったディアベルと愛人セリエは、再び彼女を排除しようと暗躍する。 しかし、ルインの中に眠っていた錬金術師としての才能が覚醒し、ジョイアや父の助けを得て、裏切った元婚約者に立ち向かう力を取り戻していく。

つかまえた 〜ヤンデレからは逃げられない〜

りん
恋愛
狩谷和兎には、三年前に別れた恋人がいる。

下賜されまして ~戦場の餓鬼と呼ばれた軍人との甘い日々~

星森
恋愛
王宮から突然嫁がされた18歳の少女・ソフィアは、冷たい風の吹く屋敷へと降り立つ。迎えたのは、無愛想で人嫌いな騎士爵グラッド・エルグレイム。金貨の袋を渡され「好きにしろ」と言われた彼女は、侍女も使用人もいない屋敷で孤独な生活を始める。 王宮での優雅な日々とは一転、自分の髪を切り、服を整え、料理を学びながら、ソフィアは少しずつ「夫人」としての自立を模索していく。だが、辻馬車での盗難事件や料理の失敗、そして過労による倒れ込みなど、試練は次々と彼女を襲う。 そんな中、無口なグラッドの態度にも少しずつ変化が現れ始める。謝罪とも言えない金貨の袋、静かな気遣い、そして彼女の倒れた姿に見せた焦り。距離のあった二人の間に、わずかな波紋が広がっていく。 これは、王宮の寵姫から孤独な夫人へと変わる少女が、自らの手で居場所を築いていく物語。冷たい屋敷に灯る、静かな希望の光。 ⚠️本作はAIとの共同製作です。

周囲からはぐうたら聖女と呼ばれていますがなぜか専属護衛騎士が溺愛してきます

鳥花風星
恋愛
聖女の力を酷使しすぎるせいで会議に寝坊でいつも遅れてしまう聖女エリシアは、貴族たちの間から「ぐうたら聖女」と呼ばれていた。 そんなエリシアを毎朝護衛騎士のゼインは優しく、だが微妙な距離感で起こしてくれる。今までは護衛騎士として適切な距離を保ってくれていたのに、なぜか最近やたらと距離が近く、まるでエリシアをからかっているかのようなゼインに、エリシアの心は揺れ動いて仕方がない。 そんなある日、エリシアはゼインに縁談が来ていること、ゼインが頑なにそれを拒否していることを知る。貴族たちに、ゼインが縁談を断るのは聖女の護衛騎士をしているからだと言われ、ゼインを解放してやれと言われてしまう。 ゼインに幸せになってほしいと願うエリシアは、ゼインを護衛騎士から解任しようとするが……。 「俺を手放そうとするなんて二度と思わせませんよ」 聖女への思いが激重すぎる護衛騎士と、そんな護衛騎士を本当はずっと好きだった聖女の、じれじれ両片思いのラブストーリー。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

身代わり令嬢、恋した公爵に真実を伝えて去ろうとしたら、絡めとられる(ごめんなさぁぁぁぁい!あなたの本当の婚約者は、私の姉です)

柳葉うら
恋愛
(ごめんなさぁぁぁぁい!) 辺境伯令嬢のウィルマは心の中で土下座した。 結婚が嫌で家出した姉の身代わりをして、誰もが羨むような素敵な公爵様の婚約者として会ったのだが、公爵あまりにも良い人すぎて、申し訳なくて仕方がないのだ。 正直者で面食いな身代わり令嬢と、そんな令嬢のことが実は昔から好きだった策士なヒーローがドタバタとするお話です。 さくっと読んでいただけるかと思います。

処理中です...