【R18】「アナタを愛することはない」と言った私の大誤算

春瀬湖子

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第二章・だって契約項目だったもの

19.いつだって君は ※ルカ目線

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 借金まみれで売れるものは何でも売って来たが王都にあるタウンハウスだけは手放さずにいたのは、彼らが領地で生活することを避けるため。
 それはこれ以上領民へ不当な税をかけたりさせず、さっさと没落させてしまうための対策だったがそんな僕の前に突然彼女が現れた。

 女神信仰であるこの国の国民だが、女神なんていないことを幼くして知っていたはずだったのに、その時だけは女神様の存在を信じた。
 ――と言っても、僕にとってライサが女神のように見えただけだけれど。

 だが、彼女が僕に接触したことでメリベルト侯爵領の状況が変わった。
 没落準備を進めていたはずだが復興へと方向転換することになったのだ。

 そこで問題が発生した。
 こっそり没落の準備を進めることとは違い、彼女と結婚という契約を結び復興させることを内密にするのは不可能だからだ。

 いつかは接触してくると思っていたし、領地へと戻ってこない彼らが接触してくるのなら王都へと来たこのタイミングだということはわかっていた。
 そしてその日は唐突にやってきた。

 視界の先に見える自分と同じ色の髪。
 ライサの前で突撃してこないのは、きっと息子にお金をせびりにくる父親がいると思われたらこの結婚が破談になると踏んだからだろう。

(いっそ没落してから契約を結ぶべきだったか)

 そんな後悔が頭に過る。
 メリベルトの名前に未練はないので僕を捨てた親を今度は僕が捨て、彼女の家に婿入りすればよかったのではないか。

「……ダメか、侯爵令息でない僕に彼女が同じ契約を持ち掛けてくれるとは思えない」

 侯爵家という部分だって彼女には魅力的に映っているはずだから。

 はぁ、とため息を吐いた僕はせっかくのデートの誘いを断りひとり父親の元へと向かった。
 人目を避けて路地裏へ入る。
 
 どうやらライサが付いてきてしまっているみたいだったので、彼女の元へ行かせないようわざと細めの路地を選んで声をかけた。
 ここならば父親が突然走り出したとしても、途中で僕が捩じ伏せられる。
 
「チラチラチラチラ邪魔なんだけど」

 吐き捨てるようそう告げるが、全く気にせず鼻で笑うそいつに苛立った。

「父親に酷い言い草だな」

 その一言で更に苛立ち声色が低くなる。
 ライサとの距離的に聞こえているだろうと思うと辟易とした。

(彼女にはこんな僕見せたくなかったんだけどな)

 真っ直ぐ自身の道を歩く彼女の邪魔にはなりたくなかった。
 僕はただ、そんな彼女の後ろで応援出来ればそれでいいと思っていた、のに。

「子供の財産は親の物だと思わないか?」
「何?」

 投げられた言葉に愕然とした。

(子供の財産は親の物? 僕を捨てたくせに?)

 それなのにお金の匂いを感じたらこうやって自ら切った絆すら再びすがろうとしてくるのか。
 ライサが報酬として渡してくれた資金は全て領地の補修や補填に使わせて貰っている。
 それらのお金だって、いつか使った分を返済するつもりだ。

 彼女におんぶにだっこなのは心苦しいが、彼女の商団が軌道に乗れば必ずメリベルトは再び活気付く。
 そうして稼ぎ、いつか返済するべく日々動いているのに、この男は……!

 寄生虫という言葉が脳内に浮かぶ。
 現状の自分もそんな男と同じくライサに寄生しているのかと思い、親子共々なんて最低なんだと目眩がした。

 当然断ったが、こんなことで引き下がるような男ではない。
 平行線を辿る会話にとうとう我慢の限界が来た僕が怒鳴り付けようとした時だった。

「あら、はじめましてですわね? お義父様」

 いつの間にこんなに近付かれていたのか、僕の背後からライサが姿を表し腕を絡めてくる。

 そして彼女がパチンと指を鳴らすと、ジーナがお金を差し出したのだ。
 
 袋の中身を確認した侯爵は、いそいそとその場を後にする。
 その姿に堪えようのない苛立ちが溢れ、彼女にこんなことを言っても仕方ないとわかっているのについ責めるような口調でお金を渡したことを指摘した。

 そんな自分に自己嫌悪する。
 何もかも自分に力がないせいだとわかっているのに、解決策すら出せずこんなことしか言えない自分が本当に醜く感じた。

 だが、そんな僕に「私、お金で解決できる問題なんて些細なものだと思っているのよね」なんて言いきったライサが、更に口を開く。

「言わなかったかしら? 大切なのは人財よ。お金なんてまた稼げばいいもの」

 あっさりと重ねられたその言葉は、この程度何でもないのだと励ましてくれているように聞こえた。

 それでも納得出来なくて渋る僕をしつこいと切り捨てた彼女が、唖然とした僕を見て笑い出す。
 その笑顔に先ほどまでささくれ立っていた気持ちが溶けるようだった。

「貴方はもう傷付かないで」

 そう最後に重ねられた言葉が心に染み込む。

(僕は傷付いていたのか?)

 わからない。
 捨てられた時のことなんて覚えていないし、祖父母はとても優しく愛情持って育ててくれた。

 何故自分に両親がいないのかということが理解できなくて困らせたこともあったが、それでも祖父母の元で伸び伸びと育てられた僕は兄に比べて恵まれている方だと思う。

 現に、領地へと戻る決意をしたのは全て押し付けられていただろう兄への贖罪の意味もあったのだから。

(だから傷付いてなんていないと思っていたのに)

 彼女の言葉がストンと落ち、じわりと胸の奥を熱くする。
 
 どうしていつも救ってくれるのは君なんだろう。
 自分でも気付かなかった欲しい言葉を与えてくれる君に、僕は何を返せるのだろうか。

「本当に、好きだ……」

 思わずポツリとそんな本心が溢れ、慌てて口を閉じる。
 もし聞かれていたら契約違反で即離婚だ。
 契約違反の賠償金を払うのはいいが、離婚だけはしたくない。

(……賠償金……?)

 ふと何か思いつきそうになるが、まだ形にはならないその引っ掛かりを胸に、手を差しのべてくれたライサの手をぎゅっと握る。

 この小さく細い手に守られるなんて、情けない自分に苦笑しつつ、この幸せに胸が踊った。

(僕を好きになってくれないかな)

 そんな願いを奥底へ隠し、彼女と一緒に歩き出す。
 
 ――そんな両想いを目指す僕を、ライサが「赤ちゃん」扱いするまであと、数時間。
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