だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)

春瀬湖子

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1巻

1-3

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「改めて、君のために狩ってきた獲物を捧げたい」

 あの時の約束。

『これは君のために狩ってきた獲物じゃないから。いつか君のために狩ることが許された時、改めて貰っていただけますか?』
『そういうことならわかったわ。いつか絶対、よ』

 きっとそれは、ずっと誰からも捧げられなかった令嬢への同情の言葉。それでも、誰からも見向きもされない私に与えられた″約束〟は荒んだ心をいとも簡単に救い上げた。

「はい、喜んで」

 彼の申し出に応える。ひざまずき見上げる彼に抱き付くように私も膝をつく。ドレスが汚れるなんて全く気にならなかった。彼の首に腕を回し、そっと顔を近付けるとオリーブ色の瞳が閉じられる。

(こ、これは初めての口付けのお許しが出たってことね?)

 不本意ながら白い結婚になっていた私達の、初めての一歩に胸が震え……

「どういうことよっ! 兎が生きてた? なのになんで狼は狩れるのよッ」

 ――鼓膜も震えた。

「……俺達の婚約は元々親が決めたものだったし、君も不本意そうだったから、最初から時期を見て婚約解消するつもりだったんだ」
「「えっ!?」」

 バルフの一言に私とキャサリン嬢の声が重なる。

(バルフも婚約破棄するつもりだったってこと?)
「でも俺から言うと君の未来に関わるし、それに近々アレクシス殿下から破棄するように命令がされると思って待っていたんだけど」
「じゃ、じゃあバルフは最初から私のこと好きじゃなかったの? だから毎年兎だったの? ていうか兎も本当にくれる気はなかったってこと!?」
「もちろん結婚することになったら、幸せにする努力はするつもりだったけど。そもそも目の前であんなにいちゃつかれたら、流石さすがにちょっと」
(あ、それはすごくよくわかる)

 ふっと遠い目をした彼。いちゃつく殿下とキャサリン嬢を思い出した私も同じ遠い目になった。

「な、なによ、バカにして! そんな家柄だけの女の方がいいってことなの!?」
「な……っ!」

 確かに家の力は大きい。大きいけれど、私が大きいのはそれだけじゃない。

「私はおっぱいも大きいわよっ!」
「ご、ごめん、シエラ、その発言は、えっと」
「え? あ、あら」

 思わず口から出たその一言に顔を赤くするバルフ。
 そして自身の胸と私の胸を見比べてバルフよりまっ赤になって怒りをあらわにするキャサリン嬢。

「それから、その、シエラは家とお……、っぱいだけ……じゃ、ないから」

 恥ずかしいのか一部声を潜めつつ、そう断言してくれたバルフはにこりと微笑んだ。

「こんな俺をいつも気遣って、全力で大切にしてくれようとしてさ。それに見てるとコロコロ変わる素直な表情が可愛いんだ」
「わ、私が?」

 動揺する私をよそに、キャサリン嬢がわめいた。

「じ、じゃあ狼は? 兎すら狩れていないのにどうやって狩ったっていうのよ!」
(いや、そもそもペットなんだから狩ったわけじゃないと思うけど)
「商家の息子として買い付けで他国へ行くこともあるし、野営することも多かったから。狩り自体はよくしていたんだよ」
「で、でも、でもでも……っ」
「これで、誰が愛されているか決定的になりましたわね」

 まだまだすがりそうな気配を察し、彼とキャサリン嬢の間に立つ。
 私のその一言に、先ほどしていた会話を思い出したのか、やっと彼女が黙ったところで私はさっとバルフの手を取った。

(もう無理やりさらう必要はないわね)
「貴族としての参加義務は果たしましたわ。帰りましょう?」
「そうだね、シエラ」

 まだまだ狩猟会の途中だが、もう満足とばかりに会場を後にする。
 殿下との一件もあったためか、誰からも途中退場を咎められなかったのは幸いだった。


「……と! いうわけで初夜リベンジですわよ!」
「え、えぇえ!?」

 公爵家に着くと同時に私がバルフをベッドに押し倒すと、驚いたのか彼のオリーブ色の瞳が真ん丸に見開かれる。

(約束をバルフも覚えていてくれたのが嬉しくて、思わず押し倒したはいいけれど)

 可愛い、と言われたが好きとは言われてないと気付き、組み敷く体勢のまま次の行動に悩んだ。ずっと想っていた相手から選ばれた、それだけでも奇跡に近いとわかっている。けど……

(結婚した義務感からだったらどうしよう)

『もちろん結婚することになったら幸せにする努力はするつもりだったけど』というキャサリン嬢に向けたその言葉は、絶妙に私にも刺さっていた。

「シエラ?」

 戸惑う私を不思議に思ったのか、バルフがそっと私の頬を撫でてくれる。

「私はバルフが好き。だから、義務感とか……その、本当に嫌なら抵抗して。最初に言ったように、いつか絶対、振り向かせるつもりではいるから」
(だから、もしまだ私を好きじゃないなら)

 愛を育み始めたという自信と、それでも無理やり結婚したという事実。
 揺れる瞳を見られたくなくて両目をぎゅっと瞑る。
 そんな私に聞こえたのは、「しない」というバルフの声だった。

「そ、うよね。やっぱりまだ……」
「抵抗なんて、しない」
「え?」

 突然ぐるりと変わった体勢に驚いて目を開くと、いつも穏やかだったバルフの瞳に劣情が揺らめいていることに気付く。

「あ……っ」

 そっと胸に這わされた彼の手のひらにビクリと肩が跳ねた。

「シエラこそ、本当にいい?」
「えぇ。名実ともに、私を貴方の妻にしてください」

 そう伝えると、バルフの喉がこくりと上下し、私も釣られて唾を呑む。
 私達はゆっくりと、そして初めての口付けを重ねた。

「……好きだよ、シエラ」

 口付けの合間にささやかれるその言葉が熱く胸を震わせ、私の視界を滲ませる。

「私も、私も好きなの、バルフが好き……!」

 溢れるままにそう告げると、私の頬を伝う涙をそっと舐め取ったバルフの唇が首に、鎖骨にとゆっくり降りてきた。

「……っ、あぁ!」

 コルセットを緩めたことでふるりとおっぱいがまろび出る。その感触を楽しむように、もにゅもにゅと揉まれたと思ったら、そのまま爪先で先端を引っ掻くように刺激された。
 ずっと待っていたこの瞬間。愛する人に触れられるその喜びが私を包む。

「ひゃっ!」
「ん、可愛い」

 ささやくように言われ、熱い舌が胸へと吸い付いてきた。
 強くなぞるように先端を舌で弾かれ、私の乳首が芯を持つ。そのまま指先と舌で同時に胸を刺激され続けて、あっという間に下腹部がじゅんっと熱をはらんだ。
 無意識にもじもじと太股を擦り合わせてしまうその様子に気付いたのか、胸を揉んでいた片手がそっと太股の内側を撫でるように動く。

「――ふ、わっ」

 緩めたドレスを全てバサリと脱がせたバルフは、自身もさっと上着を脱ぎ捨て覆いかぶさる。

「バル……ん」

 言葉を遮るようにキスをされ、彼の舌が私の唇をなぞるように動いた。
 促されるまま薄く唇を開くと、すかさず口内へバルフの舌が差し込まれる。そのまま私の舌を絡め取るように動かし、強く吸われた。激しい口付けがくちゅくちゅと音を響かし、私の羞恥を誘う。

「ん……、ぁ、ん……ッ」

 口付けしながら右手では乳首を扱かれ、左手は徐々に太股から上がる。
 するとすぐに、くちゅ、と重ねた唇からではない淫靡いんびな水音が聞こえた。

「よかった、ちゃんと濡れてるね」
「よ、よくないっ! こんな、は、はしたない……っ」
「え? なんで?」

 触れられることを望んでいたのだから当然だったとはいえ、ここまであっさり滴る愛液はあまりにも恥ずかしい。しかしそんな私の心がわからないのか、バルフはきょとんと小首を傾げる。

「~~~っ、だ、だからその、欲求不満だってバレちゃうじゃない……」
「欲求ふ……っ!?」

 渋々告げた本音に、明らかに動揺したバルフ。
 私が込み上げる羞恥から目を逸らすように赤い顔を背けると、彼の唇が耳元へ近付いた。

「逸らさないで」
「へ? ――……あっ」

 少し甘く掠れた声が耳をぞわりと刺激し、耳たぶを甘噛みされる。耳の裏側から首筋に降りた彼の唇がぢゅっと強く私の首を吸うと、ピリッとした鋭い痛みが私の心を熱く震わせた。

「あ、や……っ、そこは見えっ」
「うーん、見せつけたい気もするし、俺だけのものにしたい気もする」
「!?」

 それは、優しい彼が見せる初めての独占欲。

「印なんかなくても、私の全てはバルフのものよ?」
「俺も、シエラのものだ」

 誓うように掠めるような口付けをすると、その口付けに合わせて蜜口をなぞっていた彼の指がゆっくり私のナカへ挿った。

「あ、ぁあ……っ」
「すごい、シエラのナカ、めちゃくちゃ熱くうねってる」
「や、言わな、でぇ……っ」

 ちゅくちゅくと部屋に響く音が煽るように聞こえ、深く内側の壁を擦るように指が抽挿される。
 初めて感じるその異物感は、好きな人から与えられているという事実だけでゾクゾクと私の体に快感を誘った。ナカを擦る指が増え、より奥までかき混ぜる。
 その度に私の口からは繰り返し何度も嬌声が零れ落ちた。
 一体どれくらいの時間をそうやって解されていたのだろうか。
 ちゅぽんと一気に指が引き抜かれたと思ったら、指よりも熱いバルフのソレがあてがわれる。

「よかった、勃ってる」
「なっ!?」

 思わず本音を呟くと、驚いたのかねたのか、彼の瞳が少し細められた。

「……余裕そうなら、遠慮はしない」
「ぇ、ぁあっ」

 ぐちゅ、とあてがわれた彼の猛りが、私の蜜口を何度も擦る。
 その度に響く粘液質な音が思考を麻痺させ始めた頃、とうとう切っ先が蜜壺へと突き立てられた。
 ぬぷりと愛液を溢れさせながら最大限私を気遣い、ゆっくりと挿入される。

「痛く、ない?」
「ん、わか……、わからな……っ」

 はっはっと浅い呼吸をしながら返事をすると、一度止まったバルフがそっと私の頬を撫でた。
 初めて男性を受け入れる私のソコは、当然痛みを伴う。

「バルフ、バルフ……っ、キスして……っ」
「ん、可愛い、けどあんま可愛いことばっか言わないで」

 けれど、交わされる甘いやり取りに胸が震え、またしっかり解されていたためか痛みの中にもわずかながら別の感覚がくすぶるように私を襲う。その感覚がゾクゾクと体を駆け巡り、異物感と圧迫感だけでなくて、繋がれる幸せと痛みの先の快感を私に確かに与えていた。

「――っ!」

 かなりの時間をかけ、コツと最奥まで彼のモノが到達する頃には痛みよりも快感が上回っていた。

「……そろそろ、動いてもいい?」

 しばらくじっと動かず、私が落ち着くのを待ってくれていたバルフにそう聞かれる。
 私が迷わず頷くと、様子を窺いながら彼がゆっくり腰を動かしはじめた。

「ぁ、あっ、はぁん」

 溢れる嬌声を止められず、必死に彼の体にしがみつく。
 そんな私の様子すら愛おしいというように熱をはらんだ彼の瞳が、私から痛みも理性も全て奪った。

「や、やぁ……っ、気持ちい、きもち……の!」
「ん、ほんと? いたく、ない?」
「わかんな、わかんないぃ……っ、でももっと、もっとほし……くてっ、ひゃぁあん!」

 私の言葉を聞いていたバルフが、最後まで聞かずに思い切り腰を打ち付ける。ぱちゅんと奥まで貫かれ、また引き抜かれたと思ったら私の蜜をくぷりと溢すように奥まで突かれた。

「あ、はぁん、ぁ、あぁ……っ」

 ズンズンと奥を何度も刺激され、絡み付くような水音が部屋に響く。
 腰を揺すられる度、肌がぶつかる音に合わせて私の瞳の奥もパチパチと星が散った。
 求め合い、むさぼり合った私達は、互いの愛に飢えた獣のようだ。

「ん、そろそろっ」
「ぁん、きて、バルフ」

 子宮口を抉じ開けるように深く貫かれ、ビュクリと彼のモノが私のナカで震えるのを感じる。
 じわりと熱が広がり、彼の精が放たれたのがわかった。
 そのまま彼が最後の一滴まで私のナカへ注ぐようにゆっくりと腰を動かすと、繰り返し抉られた膣壁が達したことで敏感になり、再び快感の海へと沈みそうになる。ガクガクと腰が震えているのは、彼から与えられた刺激で絶頂を促されたからで――

「愛してる、シエラ」
「私も」

 重ねるだけの口付けを交わし、私は心地好い倦怠感に身を任せてそのまま目を閉じた。


「ん……」

 ふと目を覚ます。カーテンから入る光の加減から、まだ明け方近くだと知った。

(服、しっかり着てるわ)

 一瞬全て夢だったのではと不安になるが、確かに残る下腹部の異物感に安堵する。
 思わずほっと息を吐くと、彼を起こしてしまったようだった。

「ん……、シエラ?」
「あ、ごめんなさい、バルフ。まだ寝てていい時間よ」
「んー……、体は、だいじょぶ?」

 まだ寝惚けているのか、いつもより舌足らずな物言いが可愛く、つい頭を撫でてしまう。
 相変わらず見た目に反して柔らかな髪が気持ちよく、その指通りを楽しんでいるとさっきまで寝惚けていたはずのバルフの腕が私の腰へと回された。

「ひ、ひゃぁあっ!?」

 そのまま引き摺り込まれるように、気付けば彼の腕の中にすっぽり抱き寄せられてぽかんとしながらベッドの中で彼を見上げる。

「余裕そうなら遠慮しないって言ったはずだけど?」
「え。バ、ルフ……は?」

 ニッと笑った彼の瞳の奥が劣情をはらんでいると気付き、私はゴクリと唾を呑み込んだ。
 初夜の時とは完全に形勢逆転しているが、それが何よりも嬉しい。

「か、かかってきなさい!」
「んー、なんか違う気がするけど、まぁいいか」

 気合を入れて両腕を広げると、そのまま強く抱き締められる。
 最初は掠めるように、次に唇で唇を軽く挟むように。
 少しずつ深くなる口付けのその甘さに全てを委ね、私は再び目を閉じたのだった。



   第二章 まだまだ私が奪います! すれ違っても進んではじめる溺愛婚(欲望)


 夜会で婚約解消された想い人に、逆プロポーズした私ことシエラ・ビスターと、そのプロポーズをされた側であるバルフ・ネイト子爵令息。
 公爵家という圧倒的圧力で彼と結婚した私は、念願の、念、願、の! リベンジ初夜からまさかの二回戦まで経験し、体だけでなく心も繋がれた多幸感に包まれ、夢心地で目を覚ました。

「……ん、んん……っ?」

 カーテンから漏れる光が眩しく瞬きながらゆっくり体を起こすと、下腹部に鈍い痛みとまだバルフが入っているような圧迫感が残っていることに気付き、じわりと顔が熱くなる。

「夢じゃない、夢じゃないわ……っ!」

 はぁっと吐息を溢しながら再びボスンとベッドに倒れ込んだ私はうっとりと窓の外を眺めた。

「こんなに幸せでいいのかしら」

 すっかり昇った太陽がかなり大幅な寝坊を示しているが、正直今はどうでもいい。

(バルフは執務に行ったのね)

 チラリと今朝方までそこに寝ていただろう場所を視界に入れると、「余裕そうなら遠慮はしない」と組み敷かれたことを思い出して身悶えた。
 私の旦那様、格好よすぎる。世界中の皆様、どうぞご覧ください。私の旦那様です。
 自身の奥で放たれた欲、純潔を散らしたしるしの赤い痕……は、綺麗なシーツと交換されていてもう残ってはいなかったが、つい数時間前には確かにソコにあったのだ。

「私、もう乙女じゃないのね。名実ともにバルフの、バルフのものなのね……っ!」

 ぐふふと女性としてあまり美しくはない笑いが溢れるのも仕方がない。
 そうさせるほど、夜の彼は激しく素晴らしかったのだから。

「……というか、このシーツを替えてくれたのも私の身を清めてくれたのもバルフよね?」

 この時間になっても侍女が私を起こしにこないということは、“そういう行為”があったから寝かせておくようにとバルフが指示を出してくれていたのだろう。

「バルフだったら、この状態で放置することもほかの人にさせることもしなさそうだもの」

 そしてそういう気遣いができる彼が、私の旦那様。
 あぁ、これ以上の幸せがどこにあるのかと眩暈めまいがするほど私はただただ浮かれていた。

「はじめては痛いだけって聞いてたけど」

 私が痛くないように、苦しくないように。少しでも快感が拾えるようにじっくり奥を突き、腰を掴んで揺さぶられた。大切にされるとはこうだと体に教え込むように大事に抱かれた。全く痛くなかったわけじゃない。それでもその先の快感を彼とともに感じられたのだ。
 それだけで私はもう堪らなくて……

(バルフに会いたいわ)

 唐突にムクリと起き上がった私は、ほわほわとした温かい気持ちに促されるようにいそいそと彼がいるだろう兄の執務室へ向かった……の、だが。

「あら? いないわね」
「シエラ?」
「お兄様、バルフは?」
「あぁ、今父上のサインを貰いに行ってもらっているよ」
「そうなの」

 彼がいなかったことを残念に思う反面、少しだけ気になっていたあることを思い出す。
『私は』はじめてだった。じゃあ、バルフは?

(はじめてであんなに気持ちよさを引き出せるものなの?)

 心も体も繋がり、ただただ脅威に思っていた彼の元婚約者に対する劣等感は消えたものの、嫉妬しないとは限らない。

「聞きたいことがあるの」
「なんだい、シエラ」
「お義姉様とのえっちってどんなの? お義姉様は積極的? どうすればもっと相手を夢中にさせられるの?」
「ごふっ」

 想定外の質問だったのか、私の言葉に耳を傾けようと書類を端に動かしていたお兄様が思い切り咳き込み、書類が落ちる。

「ええっと、その、どうしたんだ?」
「エリウス様、頼まれていた書類を……」
「実はバルフとの夜で気になることがあって」
「「え?」」

 タイミングがいいのか悪いのか。
 会いたかった彼が執務室に入室し、耳に飛び込んできたであろう私の言葉にギクッと固まる。

「シエラ、その話……」

 固まってしまった彼と私をゆっくり交互に見たお兄様は――

「詳しく聞こうか!」
「はい、お兄様っ!」

 ニカッと笑ったお兄様に釣られ私からも思わず笑みが溢れた。
 そんな私達に大慌てのバルフが、ドアを閉めることも忘れてパタパタと駆け寄ってくる。

「ちょ、待って待って待ってください、エリウス様!? シエラも何の話をしようとしてる!?」
「それはもちろん夜のいとな……」
「ごめん、聞いた俺が悪かったからちょっとだけ、ちょっとだけ話すのをやめようか!?」

 話すのをやめようか、なんて言いながら私の口を手のひらで覆ったバルフは、後退るようにゆっくりとドアへ向かった。

(バ、バルフの手のひらが私の唇に……っ)

 唇を塞がれている。たったそれだけのことなのに、昨日初めて重ねた口付けを連想して私の頬がじわりと熱を持った。キスも初めてだった私は、彼の唇と重なりむさぼるように交わすことで心地よい息苦しさをもう知っている。

「えっと、シエラ?」
「……あ、えっ!?」

 一瞬昨晩に飛んでしまった意識が、バルフの声で戻ってくる。
 執務室から少し離れた廊下は人通りが少なくわりと広々としているのだが、話題が話題だったためか軽くかがみながら顔を近付けたバルフが小声で問いかけた。

「えっと、体は大丈夫? 昨日は遅くまで無理させちゃったし、しんどくはないかな」

 私の相談しようとした内容が気になっているはずなのに、それでも最優先で私を気遣ってくれる。好き。そんなバルフの優しさに胸が高鳴り、そしてそれ以上に彼との近さにおののいた。

(ち、ち、近いわ! ものすごく近いわ!? どうしましょう、なんでこんなに心臓が痛いの!? 鼓動ではち切れるのを通り越して私のおっぱい爆発するんじゃないかしら!)

 目の前に迫ったバルフの口は昨日私の唇と重なったし、その舌は私の舌を絡め取るようにちゅくちゅくと卑猥な音を溢しながら求め合った。さりげなく腰を支えるように回された彼の手のひらは、昨日私の体を隅々まで確かめるように這わされ、唯一の自慢であるおっぱいも揉みしだかれた。それらは全て昨日の記憶だ。

「……エラ、聞いてる? 部屋まで送ろうか?」
「っ!」

 心配そうにバルフが私の顔を覗き込むように近付く。
 ちらちらと見ていた唇が目の前に迫って、さらに私の脳は昨晩の営みを連想してしまう。

(この唇に、昨日私のおっぱいが吸われ……ッ)
「だっ、だめぇぇ!」
「ちょ、シエ……ッ!?」

 これ以上は本当に爆発するかもしれない。近寄った彼をドンッと押し退け、心臓が暴れているのか私が暴れているのかわからないまま、混乱して廊下を駆け抜けた。

(どうしてかしら!? バルフが、バルフが昨日より絶対絶対格好いいわ……っ!)

 しばらく廊下を走り、ハァハァと息を切らした。どこに向ければいいかわからないこの高鳴りをカーテンにくるまるという奇行でなんとか耐える。

「シエラ、何をしてるんだ」

 するとかなり呆れた声が聞こえ、慌ててニュッと顔を出した。

「お父様!」
「とりあえずカーテンから出なさい、はしたないから」

 率直な感想にハッとした私は慌てて飛び出て、身なりを整える。

(嬉しさのあまり自分を見失っていたわ。私が今気にすべきは昨日ではなくこれからの行為。私がじゃない、バルフを私にもっとメロメロにしてずっとずーっと愛されたいの! それに……バルフもちゃんと気持ちよかったかどうかは、わからないし)

 はじめての私に合わせ、私の快感を引き出せるなら彼には相当余裕があったはず。
 過去の経験は覆せないし、彼が誰かと比べたりするような人じゃないとわかっていても、これからは私だけに夢中になってほしい。

「……お父様、お父様はお母様の体にだけ夢中ですか?」
「ごふっ」
流石さすが親子、お兄様と反応がそっくりね)

 なんて考えつつ、気になっていたことの続きを聞こうと私はさらに口を開いて――……

「申し訳ございません、公爵様! 今すぐシエラをお借りしてもよろしいでしょうか!?」

 私と父の間に体を滑り込ませるようにしてまっ青になったバルフが飛び込んできた。
 目の前に広がった背中に、服の上からだとわからなかった彼のしなやかな筋肉を思い出し、私の頬がまたじわじわと熱くなる。

「んんっ、ゴホン。えーっと、バルフくん。まさかとは思うが君、シエラ以外に夢中になっている体がある……なんて言わないだろうね?」
「はいっ!?」
「いやほら、娘が気になることをだね」
「そんなことありえませんのでっ! というかシエラはなんでそんなことを」


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