32 / 39
第三章・我が儘お嬢様
憂慮
しおりを挟む登場人物:
グラウリー:呪われた山を攻略した一行隊長。斧戦士
ラヴィ:女性鍛治師
バニング:暗殺者
マチス:老練な短槍使い
トッティ:若い鈍器使い
ボケボケマン:オークマスクの魔導師
エイジ:蒼の魔導師
トム:商人
ギマル:部族出身の斧戦士
ベル・ブルジァ:豪商リドルトの姪
*
30
「私のことは お嬢様 って呼んでよ」
声を発したエメラルドグリーンの瞳の少女の周りにいた、七、八人ほどの男女が一斉に固まった。
「え……?」
トッティが信じられぬものでも見た、いや聞いたような顔をして少女――ベル・ブルジァの顔を見た。だがベルはそんな事を意に介さぬ様子で平然と口を開く。
「だって私は仮にも依頼人だもの。それなのにベル、だなんて呼び捨てにされるなんておかしいわ。そうでしょ?」
ベルがあまりにも当然のように言うので――グラウリーは、あ、ああ…とおぼつかない返事をしてしまうのだった。
他のメンバーも口に出して言いたい事は山ほどあったのだが、ベルの譲らぬ顔つきを見るとどうやらこれは本気なのだと悟ったらしく、不承不承といった面持ちでベルの提案を飲んだ。
「……意外に変なトコある娘だな…」
エイジが呟いた。トッティはよくわからぬと言う顔で首を振る。
*
ベルがティルナノーグのメンバーに護衛の依頼をしてから一時間半あまりが過ぎようとしていた。
トムがリドルトやギルドへの伝言作業をしている間にトッティとギマル、グラウリーはバルティモナやそこからルナシエーナ迄の道のりで消耗し無くなってしまった携帯食料品や燃料、生活必需品などの買出しに。
エイジとボケボケマンら魔道師連中は魔法の触媒として使う希少な秘薬を、ルナシエーナのまじない小路へと補充しに行った。残ったマチス、バニング、ラヴィは拠点としている宿屋でベル、そして秘宝の護衛をする事になった。
前人未到の大冒険であったバルティモナ大空洞を制した彼等は、そしてその後のリドルト邸の襲撃にさらされ実の所精神的にも肉体的にも若干の疲労を感じてはきている。それは長い長い放浪の旅がやがていつかその旅人の精神に、僅かではあるが徐々に負担を掛けていくのにも似て。
それほどまでに人は定期的な安定というものが必要であり、例えば長い旅路を行く旅人などはそんな人体の構造をよく心得て体がシグナルを出す前に直感的な休養を取るものなのだが、彼等冒険と戦いに身を置く者達にはその常識が通用せぬ。
そういった意味では冒険を生業とする者達は非常に忍耐強く、精神的にも強かったと言えるのだが、強いという事と負担がかからぬという事は同じではない。それは眼に見えぬほどの量やペースで徐々に体をむしばんで行き、彼等が全てを諦めて脚を止めるその時まで、もういいだろう。もう疲れただろう。という甘く残忍な誘惑をかけるのである。
勿論それは彼等にとってはまだまだ耐えうる事ができるレヴェルであり、だからこそ彼等はバルティモナに続く危険で困難な冒険へと脚を踏み入れる準備をこなしている。
精神的に強い。という点では彼等ティルナノーグのメンバーではないが依頼者のベルもまた、見かけと年齢とは裏腹に気丈であったと言わなければならぬ。
突然の父親の奇病、手がかりの無い治療法を探す旅、リドルト邸の襲撃に見舞われても彼女の瞳は諦める術を知らぬ。エイジが言った通り、芯が強いと言うに値する意志を秘めていた。
ただ彼等の中において一人、まるで旅の中に何事かの憂いを持ちえてしまった。と、今では誰もがはっきりと感じられる人物がいた。ベルやマチス、そしてバニング達のいる場所から離れて窓の外を見やりながら物憂げな顔をした人物――ラヴィであった。
その顔からはかつての一本気で快活な面持ちを見る事はできず、まるで何かに取り憑かれでもしたかのような深い思索と物憂げさに満ちていたのだった。無論彼女はそうである理由をメンバーの誰にも言わず、そうであるからまたラヴィの変化に気付いた者には一体どうして、という疑念をたびたび抱くのであった。
バルティモナで秘宝を発見した時以来にラヴィに変化が見られた事に初めに気付いたのはマチスであった。
彼は柔和な性格のせいか、パーティーの内部状況に気を配る事に長けていた。
気配りが効く、という点ではパーティーリーダーでもあるグラウリーもまたそうなのであるが、マチスの場合のそれはグラウリーと少し違っていて、グラウリーが冒険中の状況、パーティーの戦力、状態などを常に把握して最適な戦術、選択を選び取る事ができるというものに対し、彼はもっと個々の精神面による所――人の気持ちを読み取る配慮により長けていたのだった。
ラヴィを悩ませているものは何か、という聞きたくとも聞けぬ彼女の雰囲気に阻まれて今まで言わずにおいたのだが、それももう限界であった。このままほおっておけばかえって取り返しのつかぬ、そんな気がしてついにマチスは質問をしようと思い立った。
「「ラ――」」
その時マチスと同時に声を掛けようとした者がいた。
それはバニングであった。タイミングが被ってしまったことにバニングは少しばかりバツの悪そうな顔をしたが、マチスは微笑んでラヴィに見えない様に親指で指し示した。オホンと小さく息を継ぐと、バニングはラヴィに声を掛けた。
(――変わったな、バニング)
マチスはその成り行きを微笑んで眺めた。
「――ラヴィ、何を悩んでいる」
ラヴィの脇に歩いてきて、彼女と同じ外の景色を眺めるようにそのバニングは質問をした。
「え――……あたし、悩んでるように――見える…?」
「ああ。その――ラヴィは気持ちが顔に表れやすい…からな」
「そう――か…」
ラヴィは呟きながら戸の開かれた窓の窓枠に両手を乗せて、身を乗り出した。外の爽やかな空気で胸を満たそうとするような、そんな仕草だった。
「隠すつもりはなかったんやけど――ただ、一人で考える時間が欲しかったから……」
バニングは黙って頷き、話を促す。マチスはもとより、何時の間にやらベルでさえも聞いてない風を装ってその実興味ありげに聞き耳を立てている。
「バルティモナの――」
「たっだいま――っ!」
ラヴィが口を開きかけた時、勢いよく部屋のドアが開いて違う声が響いた。驚いて振り返る視線の先には、エイジを初めとする買出し部隊の面子が揃いも揃って現れたのであった。
「いやー遅くなっちまったぜ!まじない小路のあの胡散臭いパンツ一丁の変態魔道士の爺さんが、最後の最後まで粘ったからなぁー!」
「一体何を手に入れたの?」とトッティ。
「へっへっへ、これよこれ」
と言って、エイジは胸のポケットから小さな試験管のようなものを取り出した。
中には紅い液体が入っており、コルク栓で蓋をされてその外に何やらルーン文字の描かれたテープのようなものが幾重にも巻かれていた。
「金をいくら積んでも売らねえ!ワシに三回連続でサイコロで勝てたらやろう。なんて言いやがったからな!」
「こいつはこういう時の強運だけすごいんだよ」ボケボケマンが苦笑しつつ言った。
「だから何なんですか、結局それは?」
「へっへっへ…まあ実際使ってみてのお楽しみって事で…とにかくこいつは希少なモンだぜ」
「買出しも終わったぞ。待たせたな」ギマルは沢山の買出し品を机の上にドサッと置いた。
「………」
「………」
タイミングが悪かった。バニングとラヴィは顔を見合わせると、機を逸してしまったかのように黙り込んでしまった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された俺のスキル【整理整頓】が覚醒!もふもふフェンリルと訳あり令嬢と辺境で最強ギルドはじめます
黒崎隼人
ファンタジー
「お前の【整理整頓】なんてゴミスキル、もういらない」――勇者パーティーの雑用係だったカイは、ダンジョンの最深部で無一文で追放された。死を覚悟したその時、彼のスキルは真の能力に覚醒する。鑑定、無限収納、状態異常回復、スキル強化……森羅万象を“整理”するその力は、まさに規格外の万能チートだった! 呪われたもふもふ聖獣と、没落寸前の騎士令嬢。心優しき仲間と出会ったカイは、辺境の街で小さなギルド『クローゼット』を立ち上げる。一方、カイという“本当の勇者”を失ったパーティーは崩壊寸前に。これは、地味なスキル一つで世界を“整理整頓”していく、一人の青年の爽快成り上がり英雄譚!
無能と追放された鑑定士の俺、実は未来まで見通す超チートスキル持ちでした。のんびりスローライフのはずが、気づけば伝説の英雄に!?
黒崎隼人
ファンタジー
Sランクパーティの鑑定士アルノは、地味なスキルを理由にリーダーの勇者から追放宣告を受ける。
古代迷宮の深層に置き去りにされ、絶望的な状況――しかし、それは彼にとって新たな人生の始まりだった。
これまでパーティのために抑制していたスキル【万物鑑定】。
その真の力は、あらゆるものの真価、未来、最適解までも見抜く神の眼だった。
隠された脱出路、道端の石に眠る価値、呪われたエルフの少女を救う方法。
彼は、追放をきっかけに手に入れた自由と力で、心優しい仲間たちと共に、誰もが笑って暮らせる理想郷『アルカディア』を創り上げていく。
一方、アルノを失った勇者パーティは、坂道を転がるように凋落していき……。
痛快な逆転成り上がりファンタジーが、ここに開幕する。
無能と追放された鑑定士、実は物の情報を書き換える神スキル【神の万年筆】の持ち主だったので、辺境で楽園国家を創ります!
黒崎隼人
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――勇者パーティーの【鑑定士】リアムは、戦闘能力の低さを理由に、仲間と婚約者から無一文で追放された。全てを失い、流れ着いたのは寂れた辺境の村。そこで彼は自らのスキルの真価に気づく。物の情報を見るだけの【鑑定】は、実は万物の情報を書き換える神のスキル【神の万年筆】だったのだ!
「ただの石」を「最高品質のパン」に、「痩せた土地」を「豊穣な大地」に。奇跡の力で村を豊かにし、心優しい少女リーシャとの絆を育むリアム。やがて彼の村は一つの国家として世界に名を轟かせる。一方、リアムを失った勇者パーティーは転落の一途をたどっていた。今さら戻ってこいと泣きついても、もう遅い! 無能と蔑まれた青年が、世界を創り変える伝説の王となる、痛快成り上がりファンタジー、ここに開幕!
追放されたので田舎でスローライフするはずが、いつの間にか最強領主になっていた件
言諮 アイ
ファンタジー
「お前のような無能はいらない!」
──そう言われ、レオンは王都から盛大に追放された。
だが彼は思った。
「やった!最高のスローライフの始まりだ!!」
そして辺境の村に移住し、畑を耕し、温泉を掘り当て、牧場を開き、ついでに商売を始めたら……
気づけば村が巨大都市になっていた。
農業改革を進めたら周囲の貴族が土下座し、交易を始めたら王国経済をぶっ壊し、温泉を作ったら各国の王族が観光に押し寄せる。
「俺はただ、のんびり暮らしたいだけなんだが……?」
一方、レオンを追放した王国は、バカ王のせいで経済崩壊&敵国に占領寸前!
慌てて「レオン様、助けてください!!」と泣きついてくるが……
「ん? ちょっと待て。俺に無能って言ったの、どこのどいつだっけ?」
もはや世界最強の領主となったレオンは、
「好き勝手やった報い? しらんな」と華麗にスルーし、
今日ものんびり温泉につかるのだった。
ついでに「真の愛」まで手に入れて、レオンの楽園ライフは続く──!
勇者じゃないと追放された最強職【なんでも屋】は、スキル【DIY】で異世界を無双します
華音 楓
ファンタジー
旧題:re:birth 〜勇者じゃないと追放された最強職【何でも屋】は、異世界でチートスキル【DIY】で無双します~
「役立たずの貴様は、この城から出ていけ!」
国王から殺気を含んだ声で告げられた海人は頷く他なかった。
ある日、異世界に魔王討伐の為に主人公「石立海人」(いしだてかいと)は、勇者として召喚された。
その際に、判明したスキルは、誰にも理解されない【DIY】と【なんでも屋】という隠れ最強職であった。
だが、勇者職を有していなかった主人公は、誰にも理解されることなく勇者ではないという理由で王族を含む全ての城関係者から露骨な侮蔑を受ける事になる。
城に滞在したままでは、命の危険性があった海人は、城から半ば追放される形で王城から追放されることになる。 僅かな金銭で追放された海人は、生活費用を稼ぐ為に冒険者として登録し、生きていくことを余儀なくされた。
この物語は、多くの仲間と出会い、ダンジョンを攻略し、成りあがっていくストーリーである。
隠して忘れていたギフト『ステータスカスタム』で能力を魔改造 〜自由自在にカスタマイズしたら有り得ないほど最強になった俺〜
桜井正宗@オートスキル第1巻発売中
ファンタジー
能力(スキル)を隠して、その事を忘れていた帝国出身の錬金術師スローンは、無能扱いで大手ギルド『クレセントムーン』を追放された。追放後、隠していた能力を思い出しスキルを習得すると『ステータスカスタム』が発現する。これは、自身や相手のステータスを魔改造【カスタム】できる最強の能力だった。
スローンは、偶然出会った『大聖女フィラ』と共にステータスをいじりまくって最強のステータスを手に入れる。その後、超高難易度のクエストを難なくクリア、無双しまくっていく。その噂が広がると元ギルドから戻って来いと頭を下げられるが、もう遅い。
真の仲間と共にスローンは、各地で暴れ回る。究極のスローライフを手に入れる為に。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる