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第一章・依頼
秘宝を手に入れろ!
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グラウリー:大柄な斧戦士
ラヴィ:女性鍛治師
マチス:老練な槍使い
トム:小柄な商人
ギマル:北の戦闘民族出身の斧戦士
リドルト:依頼を持ちかけた豪商
*
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「バルティモナ山の大空洞の上層部に伝わると言う宝珠を取ってきて欲しい。噂に聞くあなた達ならできると思って依頼したわけなのです」
柔らかなソファーに深々と体をしずめて、小太りのリドルトは言った。上等なシルクを使った色鮮やかな服を身にまとって見るからに裕福そうだ。商人としてのしあがって来ただけに、依頼を受けて集まった戦士達を値踏みするような眼で観察していた。
黒いターバンを頭に巻き、黒いベスト、黒いマントを身につけた影のようななりの男――バニングは目端でそれを見やるとチッっと舌打ちをしたが、幸いにしてリドルトには聞こえぬようだった。
「リドルトさんは商売柄よく会う人でね、実はこの人は知る人ぞ知るコレクターなんだ」
「コレクター?」
トムが言うとラヴィは怪訝そうに聞き返した。
「そう、私は世界各国の秘宝と呼ばれる物を集めるのが趣味でね……東国の名工が作ったと言われる、トールズ千年の霊樹から切り出した木材で作られた木製宝箱! 蜃気楼の塔に住むと言われる伝説の魔術師の不老不死を得る事ができるという血! 史上最高額の手配金をかけられつつも未だに警察の手を逃れていると言う殺人鬼が持っていたという赤い刀身の曲刀……! そう――つまりレア、レア物だ!」
リドルトの眼が輝きだしたかと思うと、彼は興奮した様子でまくしたてた。
「……と、いうわけなんだ」トムが結んだ。
「報酬はどれくらいで?」
ソファーを乗り出して現実的な声で若い声が言った。彼は仲間の中では最も歳が若く見えた。実際に若かったのだろう、まだあどけなさの残るほんの若干高い声と、落ち着きだとかそう言ったものとは程遠いが、若々しく向こう見ずな瑞々しさを持った眼がそれを示していた。
「それはもう、宝珠を取って来てくだされば金に糸目はつけません」
と、言う事で彼等は正式にバルティモナ山の宝珠を持ち帰る依頼を受けたのだった。刻限は一ヶ月以内。それを持ち帰れば莫大な報奨金が入るはずだった。
しかしギルドという枠に身を同じくする者同士であっても、ティルナノーグは様々な技能や考えを持つ者が集うギルドである。依頼を承諾したという点では全員が一致していたが、それぞれの胸中は色々な思惑があったのだった。
*
「いけ好かない眼の商人だったな。金を稼ぐだけ稼いだ後は世界の秘宝集めか、お決まりのパターンだ」
バニングがリドルト邸の巨大な門を見ながら言った。蛇行したラインの奇妙な長剣でぽんぽんと肩を叩いている。
「……確かにくだらない仕事だな……だがバルティモナ大空洞の謎を暴くという事には意義がある」
マスクの男は街路樹にもたれ、本を読みながら呟いた。
「でも報奨金は確かにすげえよ。あんなにもらえればバルティモナがどんな所だってぼろい仕事だぜ」
若い男が言った。
「トッティは若いな――バルティモナは一筋縄じゃあいかないよ」
「何だよマチスさん、俺の腕を疑ってるわけ?」
「いや――そんな事はないがね」
「ちぇ――っ!」
トッティと呼ばれた若い男は納得した様子なくすねた顔をした。
「あ――バニング……だったよね?あんた?あんたの剣……ひょっとして毒を塗ってへん?」
ラヴィがバニングの持つ剣を見て、目を細めた。
「よくわかるな。一級毒を刀身に塗っている」
バニングは鞘から剣を抜くと、かざすように剣を持った。彼の愛剣はクリスと呼ばれる蛇行した剣である。
その形状から相手に剣を突き刺し引き抜いた時に相手に深いダメージを負わせる事ができる剣で、暗殺者に多く好まれている種類である。刀身は元は白く輝く鋼の色だったが、強力な毒を塗っている為黒ずんでいた。
「あたしには理解できんわ」
ラヴィが吐き捨てるように言った。バニングの眉がぴくっと上がる。
「何だと」
「理解できんって言ったんよ。刀身に毒を塗れば殺傷力は増すけど、どんな金属でも強い毒を塗っていたら刀身が傷む。剣を命にしているホンマモンの剣士やったらそんな事は絶対せん」
と言う刹那、すさまじい速さでラヴィの喉元に毒の剣があとほんの数ミリという所まで突きつけられた。
「―――!」
「おい、バニング!」
周りの者がはっとなりバニングを止めようとした。しかしバニングは動じる事なくラヴィを睨み付けている。
「鍛冶師だったな。確かアンタは。らしぃ台詞だ。だが女流鍛冶師ごときの説教なんぞ聞きたくもねぇ」
「ご・と・き?」
気の強い所を見せて、怯む事なくラヴィは怒りをあらわにした。
「そう、ごときだ――」
バニングが言いかけた時、カーンという弾ける音がして剣が宙を舞った。剣はくるっと一回転してタイルの上に落ちる。
「そこまでにしておけ。バニング」
木にもたれたマスクの男が本から眼を上げる事なく言った。彼の放った魔導による、眼に見えない力がバニングの剣を弾いたのだった。バニングは舌打ちをすると何も言わぬまま剣を拾い、鞘に納めた。
「あたし、アンタとは絶対うまくいかれへんわ――!」
「俺もそう思う」
バニングはそのまま「銀の杯亭」に歩き出す。マチスがそれを追いかけて行き、
「危ないぞバニング。万が一その毒剣で彼女を毛筋ほどでも傷つけてしまったらどうなっていると思うんだ!」
「…あやをつけてきたのはあっちだ。それに毒にかかっても奴がいるだろ。奴の魔導なら解毒もできる」
「そういう問題じゃないだろっ」
「――悪かったよ」
それきりバニングはマチスとも話したがらないようだった。
全員釈然としない気を持ちながら宿に脚を向ける。歓楽街の夜は今からがピークであった。
「――まずい事になったなあ。支部が違うと中々うまくいかないものだ」
トムがグラウリーの横に来て呟いた。グラウリーは遠く見える歓楽街の、様々な色のガラスを使った幾多の誘うような色の明かりを眺める。
「うまくいかない、か。どちらにせよ気付く事になるさ。バルティモナでならな」
「――?」
怪訝そうな顔でグラウリーを見るトム。しかしグラウリーはそれきり黙ったままだった。
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