ギルド・ティルナノーグサーガ『還ってきた男』

路地裏の喫茶店

文字の大きさ
45 / 52
第四章 星屑の夜

フィオレのギルド記録

しおりを挟む

登場人物:

ヴェスカード: 獅子斬ししぎりと呼ばれた斧槍使いグラデュエーター
フィオレ: 女魔法剣士ルーンナイト。バルフスの最後の賭けに打ち勝った。
リュシター:バレーナ防衛隊隊長。
モンド: サムライの若者。古神ルディエの依代とされていた。
セバスチャン:騎士風の甲冑剣士ソーズマン 。モンドの渡し人。

エピローグ 1


愛の月。青鳥の日――。


『バレーナ失踪事変依頼クエスト』のギルド書記をティルナノーグ女魔法剣士ルーンナイトフィオレ・ウェストマールが担当する――。


――あの時、街の皆さんが援軍に駆け付けて来てくれた事によって防衛隊の士気は大いに上がった。
 私達は壁上からの援護射撃を充分に受けつつ豚鬼オーク軍と戦う事ができ、さしも暗示に掛けられていた豚鬼オーク等も次第に暗示が解け自分達の劣勢を理解していった。


(あっアンタは! アンタ等はもう敗けなんだ! 頼む、引いてくれッッ!!)

 長刀使いツヴァイハンダーヴァントは命を救ってくれた豚鬼オークをその戦の中で再度出会い、彼を退却させた。その豚鬼は豚鬼オーク軍の中で一定の階級にいたらしく、事態を飲み込むと全軍に撤退を呼びかけたのだと言う。

 かくしてバレーナ防衛隊は豚鬼オーク軍の野望、そして侵攻を食い止めたのだった。


(アンタ等ティルナノーグか! 古豪だな……! 素晴らしい戦ぶりだったな!)
 戦の後冒険者斡旋会が引き連れて来た冒険者の内我等のギルドを知る人に声を掛けられた。何やら有名ギルドの人だったみたいだけれど……。


 あの時、初めて邪神リブラスとルディエが現世にその魂を顕現させた時――バレーナ領主館と豚鬼オーク軍で光の柱が噴き出した。それぞれの邪神達はその地下深くに封印されていたのだと言う。
 なんとバレーナの封印地は領主の玉座の真下だったらしく――リブラスが解き放たれた時、新領主は光に包まれてそのまま消え去ってしまったらしいという報告を近習がしている……。

 新領主と言えば、その後領主の寝室から敵首領バルフスとの文のやり取りがあった形跡が見つかった。

 彼は豚鬼オーク軍の脅威に晒され続けるバレーナを見限り、住民と街を売り渡す代わりに莫大な報酬と自身の身の安全を約束してもらっていたらしい。
 厳重な筈のバレーナに豚鬼が忍び込み住民を攫って行く事ができたのも、秘密裏に城壁を抜ける隠し道をいくつか領主が用意していたからという事だ。

 突如消え去ってしまった新領主の跡は新領主の弟君が、領主が再び戻るまでその座を継ぐことになったのだそう。この人は新領主がその座を継いで後日影者にされていた人物だったのだそうだ。

 元々バレーナの防備をより固める政策を進言していたらしくて、街の市民の事もよく考えていたらしい(だから兄領主に煙たがられていた)。なので戦の後リュシター防衛隊長とは更なる防備体制の件や市民からの見廻りや防備強化の点で政策の方向性が一致し、リュシター隊長もこれまでの功績がしっかりと認められたのだそうだ。


 程なくして豚鬼オーク砦から白旗を掲げた三匹の豚鬼がやって来た――。
 リュシター隊長、防衛隊、弟領主の前で何も武具を持っていない事を確認された豚鬼は、ヴァントを助けた豚鬼だった。この豚鬼は人語を解す事ができ、その拙い言葉から語った事はこうだ――。

『元々バレーナと豚鬼オーク砦は不可侵関係であったが、ある日現れた黒づくめの魔導師によって首領バルフスは双子の邪神の復活方法を授けられたのだ。
 そして首領の暗黒魔導と邪神の力の強烈な暗示によって豚鬼等が統率、洗脳された。

 だが邪神も首領も討たれた今、豚鬼等に侵攻の野望はもう無い。豚鬼砦以西には近づかない事を誓約するので豚鬼軍を追討する事は許してくれ……』
 という事だった――。

 防衛隊や近習からはその豚鬼オーク等を処刑しろという怒りの声もあった。リュシター隊長や弟領主はどうすべきか考えていた様だったけれども。

(おっお願いします! この豚鬼は俺の命をも救ってくれたのです! 俺の命に代えて、悪さはさせません! だから、だからこいつ等の言う事を信じてあげてください!!)

 その場にいたヴァントが突然隊長と弟領主に土下座をしたんだ。咄嗟の事に、皆何も言えなかった。ヴァントの事だからきっと考えての行動じゃなくて、衝動的な行動だったとは思うんだけれど、その真剣な態度もあってか、弟領主とリュシター隊長はその提案を受け入れたんだ。勿論、城付きの魔導師が誓約を違えぬ様魔導の戒めを施したけれども。

 豚鬼は幾ばくかの財宝をバレーナに納めた。なんだか、ヴァントは件の豚鬼に豚鬼オーク特製の菓子を個別に貰っていたけれど……。


――そうして諸々の後始末が済み、我々ティルナノーグは街を救った者達として弟領主から多くの恩賞を授けられた。この恩賞は街の役職衆から用意された分も含まれていた。


 その後リュシター隊長に我々は防衛隊詰所に呼び出され。

(此度は豚鬼オーク等の野望を食い止めて下さった事、誠に感謝致します。戦にて命を落とした者達も報われる事でしょう――我が防衛隊詰所に、英霊達と共に貴方達の名前を刻んでも宜しいか?)
 と言われた。ヴェスさんは恥ずかしそうに頭を掻き、

(構わんよ。此方こなたも全てが予定通りいかず、防衛隊にも迷惑を掛けてすまなかった――もし、もし我等の名前を刻んでくれると言うのなら――もう一人だけ)

 ヴェスさんの言葉にリュシター隊長は不思議そうな顔をして。

(クリラという、我がかつての戦友が――我等が故郷であるこの街を襲う野望から街を救いたいと、初めに想ったのだ。彼奴あやつはその野望を食い止める為の手掛かりを得る為に単身豚鬼砦に潜入し――リリを救い……その過程で傷と毒を負い今死線を彷徨っている……)

 と言うヴェスさんの真剣な顔にリュシター隊長は快諾してくれた。リュシター隊長って本当に街を護ると言う職務に真面目で、それでいて信頼の出来る人だなあと私は思う。
 戦士としてもかなりのものだったから、防衛隊長と言う職務がなければギルドにスカウトしたいくらいだ、とパジャさんは呟いていた。

 そして毒に蝕まれているクリラさんの元には、セイラさんが身体を賭して探し当てた解毒薬が早馬で送られている。効果があり回復すると良いのだけれど……。


 そうして――我等ティルナノーグの者達も依頼クエストの後始末をし、ギルドへ帰還しようと言う日の前夜――。





 モンドは深夜、ふと眼を覚ました。
戦でセバスチャンに邪神を祓われた後、寝込み幾度か目が醒めては再び眠りに落ちるというサイクルを繰り返していた。
 邪神に精神を蝕まれた影響かと思われた。

 身体が火照っているように思えてモンドは外の空気を吸おうと思った。寝室から廊下に出ると、『大鹿の毛並み亭』は照明も最低限に落として静まり返っていた。

 中庭に出ようとして今日が新月だった事に気付く。柱の間から見える夜空には幾多もの星屑が瞬いていた。


「!」

 中庭中央のベンチに一人の男が腰掛けていたのだった。


「セ――セバスチャンさん……」


「おお……モンドか――身体の方は良いのか……」
 鎧兜を脱ぎ軽装になっていた剣士は振り返り言った。








しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

『辺境伯一家の領地繁栄記』スキル育成記~最強双子、成長中~

鈴白理人
ファンタジー
ラザナキア王国の国民は【スキルツリー】という女神の加護を持つ。 そんな国の北に住むアクアオッジ辺境伯一家も例外ではなく、父は【掴みスキル】母は【育成スキル】の持ち主。 母のスキルのせいか、一家の子供たちは生まれたころから、派生スキルがポコポコ枝分かれし、スキルレベルもぐんぐん上がっていった。 双子で生まれた末っ子、兄のウィルフレッドの【精霊スキル】、妹のメリルの【魔法スキル】も例外なくレベルアップし、十五歳となった今、学園入学の秒読み段階を迎えていた── 前作→『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合

最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。

みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。 高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。 地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。 しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

異世界帰りの勇者、今度は現代世界でスキル、魔法を使って、無双するスローライフを送ります!?〜ついでに世界も救います!?〜

沢田美
ファンタジー
かつて“異世界”で魔王を討伐し、八年にわたる冒険を終えた青年・ユキヒロ。 数々の死線を乗り越え、勇者として讃えられた彼が帰ってきたのは、元の日本――高校卒業すらしていない、現実世界だった。

【魔女ローゼマリー伝説】~5歳で存在を忘れられた元王女の私だけど、自称美少女天才魔女として世界を救うために冒険したいと思います!~

ハムえっぐ
ファンタジー
かつて魔族が降臨し、7人の英雄によって平和がもたらされた大陸。その一国、ベルガー王国で物語は始まる。 王国の第一王女ローゼマリーは、5歳の誕生日の夜、幸せな時間のさなかに王宮を襲撃され、目の前で両親である国王夫妻を「漆黒の剣を持つ謎の黒髪の女」に殺害される。母が最後の力で放った転移魔法と「魔女ディルを頼れ」という遺言によりローゼマリーは辛くも死地を脱した。 15歳になったローゼは師ディルと別れ、両親の仇である黒髪の女を探し出すため、そして悪政により荒廃しつつある祖国の現状を確かめるため旅立つ。 国境の街ビオレールで冒険者として活動を始めたローゼは、運命的な出会いを果たす。因縁の仇と同じ黒髪と漆黒の剣を持つ少年傭兵リョウ。自由奔放で可愛いが、何か秘密を抱えていそうなエルフの美少女ベレニス。クセの強い仲間たちと共にローゼの新たな人生が動き出す。 これは王女の身分を失った最強天才魔女ローゼが、復讐の誓いを胸に仲間たちとの絆を育みながら、王国の闇や自らの運命に立ち向かう物語。友情、復讐、恋愛、魔法、剣戟、謀略が織りなす、ダークファンタジー英雄譚が、今、幕を開ける。  

家ごと異世界転移〜異世界来ちゃったけど快適に暮らします〜

奥野細道
ファンタジー
都内の2LDKマンションで暮らす30代独身の会社員、田中健太はある夜突然家ごと広大な森と異世界の空が広がるファンタジー世界へと転移してしまう。 パニックに陥りながらも、彼は自身の平凡なマンションが異世界においてとんでもないチート能力を発揮することを発見する。冷蔵庫は地球上のあらゆる食材を無限に生成し、最高の鮮度を保つ「無限の食料庫」となり、リビングのテレビは異世界の情報をリアルタイムで受信・翻訳する「異世界情報端末」として機能。さらに、お風呂の湯はどんな傷も癒す「万能治癒の湯」となり、ベランダは瞬時に植物を成長させる「魔力活性化菜園」に。 健太はこれらの能力を駆使して、食料や情報を確保し、異世界の人たちを助けながら安全な拠点を築いていく。

転生したら『塔』の主になった。ポイントでガチャ回してフロア増やしたら、いつの間にか世界最強のダンジョンになってた

季未
ファンタジー
【書き溜めがなくなるまで高頻度更新!♡٩( 'ω' )و】 気がつくとダンジョンコア(石)になっていた。 手持ちの資源はわずか。迫りくる野生の魔物やコアを狙う冒険者たち。 頼れるのは怪しげな「魔物ガチャ」だけ!? 傷ついた少女・リナを保護したことをきっかけにダンジョンは急速に進化を始める。 罠を張り巡らせた塔を建築し、資源を集め、強力な魔物をガチャで召喚! 人間と魔族、どこの勢力にも属さない独立した「最強のダンジョン」が今、産声を上げる!

処理中です...