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第二部 新章(本編の続き)
【本編第二部】 #1 セピア色と見紛う世界で
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ここから本編第二部スタート!
エピローグ②からの続きです。
是非最後まで読んで行って下さい! よろしくお願いします!
――――――――――――
時が停止し、セピア色と見紛う程の静寂の世界。
そんな異質な世界で、エルは、まるでもう一人の自分の様に瓜二つの姿をした神――ラプリエルと対峙する。
「大人しく、アルさんを返してくれたり――は、しないですよね」
「ええ。わたしはあなたを神にする。その為に、彼には犠牲になってもらうわ」
この場には、二人の黒髪のエルフ。
白いドレスを纏うエルとは対照的に、漆黒のローブを纏うその姿は、まるで夜の闇の様。
背丈もさほど変わらないのに、相手が神というだけで、圧されてしまいそうになる。
それでも、エルは右目に宿る“真実の目”の権能を頼りに、この神の手から、アルを取り戻さなくてはならない。
エルが『結晶』の魔法で双剣を作り出せば、神ラプリエルもまた『結晶』で槍を作り出し、構えた。
その構えは、まるで歴戦の戦士の様に様になっていて、彼女が勇者アルと旅をした魔女なのだと、改めて思わされる。
「――はぁぁっ!!」
先手必勝。
エルは『身体強化』と『物体浮遊』の魔法による強化を自身へと掛けて、一気に相手との距離を詰める。
そして、片手の『結晶』の剣を振るい、一閃。
しかし――、
「甘いわよ」
神ラプリエルは槍でその人間では反応出来ない程速い刹那の一撃を受け止め、弾く。
その後も、同じ様に連撃を繰り出す。
しかし、そのエルの舞う様な『結晶』の双剣による乱舞。その全ては避けられ、受け流され、全ていなされてしまった。
「――まるで、知ってるみたいに避けますね」
「あら。“あっち”の様子も、見ていたんじゃなかったの?」
ラプリエルはそう言って、右目を指差す。
「ああ、そうでした。あなたもまた“未来を見通す”神……でしたね」
“未来を見通す”という概念から産まれた二人の神。
ラプリエルと、そしてラプラス。
真実の目という権能を有していたラプラスと同じ様に、ラプリエルもまた同質の権能を有しているのだろう。
しかし、その見えている未来が間違っているのなら、話は別だ。
「――ですが、あなたが見れる未来は数秒先程度の様ですね」
「さあ、どうかしらね」
「だって、今“こっち”を見ているじゃないですか」
そう言った、エルの姿が『霧』となって、じんわりと溶け出し、霧散する。
そして、ラプリエルの背後に居た“本物のエル”の不意打ち。
ラプリエルは背から『結晶』の双剣の斬撃を受け、切り裂かれた。
「……幻覚。――そう、“あなたも”『霧』の魔法を使うのね」
しかし、エルの双撃を受けたラプリエルの身体が、『霧』となって、じんわりと溶け出す。
それはつまり、ラプリエルの身体もまた『霧』の魔法が作り出した幻覚だったという事。
「……あなたも魔女ですね。神様」
魔女同士の騙し合い。化かし合い。
そういえば、ラプリエルはこうも言っていたと、エルは思い出す。
“神として世界の内側から干渉は出来ない”、と。
そして、もう人として世界に降り立つ気は無い、と。
これが、アルとエルの前に同時に神ラプリエルが現れた理由だ。
神ラプリエルは最初から、幻体だけがエルの前に現れていたのだ。
エルの右目で見ている、アルが戦っているラプリエルこそが、本物という事だろう。
「――うふふ。また、会いましょうね」
そう言い残して、ラプリエルは霧となって霧散。
ラプリエルの幻体を倒し、虚空へと消えて行った後も、世界の時間は、まだ止まったままだ。
セピア色と見紛う、静寂に包まれた世界で、エルはたった独り、取り残された。
「エレナさんは――」
教会へと戻ってみる。
しかし、淡い期待も虚しく、エレナもまたこの止まった時に囚われたままだ。
ぎゅっとエレナの手を握る。
しかし、それも堅く冷たい岩の様だった。
「アルさんは――」
右目でアルの様子を窺う。
しかし、視界にはノイズが走った様で、何も映らなかった。
もしかして、死んでしまったのだろうか。
そんな不安が、エルの胸を過る。
(いいえ)
しかし、すぐにそんな考えを振り払う。
(アルさんが――わたしの勇者様が、そう簡単に諦めるはずありません)
きっと、ラプリエルに妨害されているのだろう。
それに、ノイズが走り見る事は出来ないが、まだ僅かな繋がりを感じる事は出来る。
大丈夫だ、大丈夫。――そう自分を納得させて、エルは歩き出す。
「アルさんに、会いに行かないと」
どこへ行くのか、分からない。
それでも、教会を背に、歩を進めて行く。
「わたしは二〇〇年を独りで生きたんですから、これくらい、どうって事有りません」
そう独り言つエルの胸は、ちくりと痛んだ。
それは強がりでしか無かった。
人の温かさを知り、そして大切な人を得てしまった魔女様は、もう二〇〇年の孤独を耐えられるほど、強くは無かった。
彼女はもう、災厄の魔女ではないのだから。
エルの足は、自然とこれまでの旅路をなぞる様に、歩いていた。
まるで、そこにあるアルとの思い出を、一つずつ拾って行くかの様に。
全ての静止した世界で、『永遠の魔女』たった一人の旅が――始まる。
エピローグ②からの続きです。
是非最後まで読んで行って下さい! よろしくお願いします!
――――――――――――
時が停止し、セピア色と見紛う程の静寂の世界。
そんな異質な世界で、エルは、まるでもう一人の自分の様に瓜二つの姿をした神――ラプリエルと対峙する。
「大人しく、アルさんを返してくれたり――は、しないですよね」
「ええ。わたしはあなたを神にする。その為に、彼には犠牲になってもらうわ」
この場には、二人の黒髪のエルフ。
白いドレスを纏うエルとは対照的に、漆黒のローブを纏うその姿は、まるで夜の闇の様。
背丈もさほど変わらないのに、相手が神というだけで、圧されてしまいそうになる。
それでも、エルは右目に宿る“真実の目”の権能を頼りに、この神の手から、アルを取り戻さなくてはならない。
エルが『結晶』の魔法で双剣を作り出せば、神ラプリエルもまた『結晶』で槍を作り出し、構えた。
その構えは、まるで歴戦の戦士の様に様になっていて、彼女が勇者アルと旅をした魔女なのだと、改めて思わされる。
「――はぁぁっ!!」
先手必勝。
エルは『身体強化』と『物体浮遊』の魔法による強化を自身へと掛けて、一気に相手との距離を詰める。
そして、片手の『結晶』の剣を振るい、一閃。
しかし――、
「甘いわよ」
神ラプリエルは槍でその人間では反応出来ない程速い刹那の一撃を受け止め、弾く。
その後も、同じ様に連撃を繰り出す。
しかし、そのエルの舞う様な『結晶』の双剣による乱舞。その全ては避けられ、受け流され、全ていなされてしまった。
「――まるで、知ってるみたいに避けますね」
「あら。“あっち”の様子も、見ていたんじゃなかったの?」
ラプリエルはそう言って、右目を指差す。
「ああ、そうでした。あなたもまた“未来を見通す”神……でしたね」
“未来を見通す”という概念から産まれた二人の神。
ラプリエルと、そしてラプラス。
真実の目という権能を有していたラプラスと同じ様に、ラプリエルもまた同質の権能を有しているのだろう。
しかし、その見えている未来が間違っているのなら、話は別だ。
「――ですが、あなたが見れる未来は数秒先程度の様ですね」
「さあ、どうかしらね」
「だって、今“こっち”を見ているじゃないですか」
そう言った、エルの姿が『霧』となって、じんわりと溶け出し、霧散する。
そして、ラプリエルの背後に居た“本物のエル”の不意打ち。
ラプリエルは背から『結晶』の双剣の斬撃を受け、切り裂かれた。
「……幻覚。――そう、“あなたも”『霧』の魔法を使うのね」
しかし、エルの双撃を受けたラプリエルの身体が、『霧』となって、じんわりと溶け出す。
それはつまり、ラプリエルの身体もまた『霧』の魔法が作り出した幻覚だったという事。
「……あなたも魔女ですね。神様」
魔女同士の騙し合い。化かし合い。
そういえば、ラプリエルはこうも言っていたと、エルは思い出す。
“神として世界の内側から干渉は出来ない”、と。
そして、もう人として世界に降り立つ気は無い、と。
これが、アルとエルの前に同時に神ラプリエルが現れた理由だ。
神ラプリエルは最初から、幻体だけがエルの前に現れていたのだ。
エルの右目で見ている、アルが戦っているラプリエルこそが、本物という事だろう。
「――うふふ。また、会いましょうね」
そう言い残して、ラプリエルは霧となって霧散。
ラプリエルの幻体を倒し、虚空へと消えて行った後も、世界の時間は、まだ止まったままだ。
セピア色と見紛う、静寂に包まれた世界で、エルはたった独り、取り残された。
「エレナさんは――」
教会へと戻ってみる。
しかし、淡い期待も虚しく、エレナもまたこの止まった時に囚われたままだ。
ぎゅっとエレナの手を握る。
しかし、それも堅く冷たい岩の様だった。
「アルさんは――」
右目でアルの様子を窺う。
しかし、視界にはノイズが走った様で、何も映らなかった。
もしかして、死んでしまったのだろうか。
そんな不安が、エルの胸を過る。
(いいえ)
しかし、すぐにそんな考えを振り払う。
(アルさんが――わたしの勇者様が、そう簡単に諦めるはずありません)
きっと、ラプリエルに妨害されているのだろう。
それに、ノイズが走り見る事は出来ないが、まだ僅かな繋がりを感じる事は出来る。
大丈夫だ、大丈夫。――そう自分を納得させて、エルは歩き出す。
「アルさんに、会いに行かないと」
どこへ行くのか、分からない。
それでも、教会を背に、歩を進めて行く。
「わたしは二〇〇年を独りで生きたんですから、これくらい、どうって事有りません」
そう独り言つエルの胸は、ちくりと痛んだ。
それは強がりでしか無かった。
人の温かさを知り、そして大切な人を得てしまった魔女様は、もう二〇〇年の孤独を耐えられるほど、強くは無かった。
彼女はもう、災厄の魔女ではないのだから。
エルの足は、自然とこれまでの旅路をなぞる様に、歩いていた。
まるで、そこにあるアルとの思い出を、一つずつ拾って行くかの様に。
全ての静止した世界で、『永遠の魔女』たった一人の旅が――始まる。
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