【完結】少し遅れた異世界転移 〜死者蘇生された俺は災厄の魔女と共に生きていく〜

赤木さなぎ

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第二部 新章(本編の続き)

【本編第二部】 #5 アルとアル

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 霧散した霧が寄り集まり、新たに幻影の形を成す。
 
「――『明滅』の魔女、アリアよ! よろしくね!」

 湖面の様な綺麗な青緑色の髪。
 光を透かす薄く透き通った四枚の羽根。
 少女程の背丈の、妖精。

「まだ出て来るのか」

 俺は溜息を漏らす。
 『支配』、そして『霧』と来て、三人目の『明滅』。
 一体何人の魔女が出て来るのか。

「ねえ、神様? あたしにだけ何も言ってくれないの?」

「はいはい。頑張ってね、アリア」

 投げやりなラプリエルの声がどこかから聞こえてくる。
 先程からそうだが、作り出す幻影とやけに仲良さ気だ。
 まるで、実在する人物かの様に、そして旧知の友人の様に、違和感のないコミュニケーションを取っている。
 
 そう考えていると、

「はーい!」

 と嬉しそうなアリアの声。
 同時に、アリアの魔法が発動される。

「さあ! あたしを捕まえてごらんなさい!」

「これは――『転移』!!」

 『転移』の魔法で四方八方を飛び回り、位置を特定できない。
 視界がチカチカと点滅して、もはや青緑色の残像しか認識できない。
 俺が辺りに適当に『ファイアボール』を放ってみるが、なしのつぶて。
 
 こんなにも連続で『転移』の魔法を使えば普通はすぐにガス欠になるはずだが、生憎相手は幻影だ。
 魔力の限界値なんて青天井なのだろう。
 
「それだけじゃないわよ! そーれっ!」

 アリアの魔法は回避だけではなかった。
 掛け声とともに、空から何かが降って来る。

 咄嗟に俺は身体を転がしてそれを回避。
 俺がさっきまで居た場所に、大きな岩石が落ちて来ていた。
 アリアは『転移』の魔法で岩石を転移させて、頭上に落としてきたのだ。
 
 この魔法の使い方は、俺もエルもしたことが無かった。
 というか、する必要が無かった。
 というのも、攻撃しようと思えば他に適した魔法が幾らでもあるからだ。

 おそらく、アリアは『転移』以外の魔法を使えない。
 これまでの『支配』と『霧』と同じ様に、それ単体で戦う縛りが有る様に見える。
 しかし、だからと言って厄介な事には変わりはない。

「それ! そーれっ!」

 アリアは相も変わらず、四方を転移で飛びながら、頭上から岩石を降らす攻撃を続けて来る。
 なんとか潰されない様に避け続けていたが、これでは埒が明かない。

「ああもう! 『ファイアボール』!!!」

 こうなったら、やけくそだ。
 いつだかに使った切りの、超特大『ファイアボール』。
 隕石に等しい業火の炎球。

「え、ちょ、まってまって!」

 アリアが慌てているが、いつまでも付き合ってやれる程暇ではない。
 
「ここら一帯全部吹き飛ばせば、飛び回っても一緒だろ!!」

 轟音と共に、巨大な炎球が地に落ちる。
 俺は自分もアリアも巻き込んで、辺り一帯の全てを炎で燃やし尽くした。

 ――土煙と焼け焦げた匂い。

「ごほっ……げほっ……」

 俺の焼け焦げたはずの身体は、『永遠』の不死性によってもう修正されている。
 
「はぁ……呆れたわ。まさか、そんな滅茶苦茶やるなんてね」

 幻影は霧散どころか、全て蒸発して消えてしまった。
 代わりに、神ラプリエルが姿を見せる。

「どうですか、そろそろ認めてくれてもいいんじゃないですか」

 もう三人の魔女の幻影を倒した。
 そして、再び神は目の前に姿を現した。
 
 試練クリアと言ってくれ。
 俺は早くエルの顔が見たい。
 
「……わたしは、考えてあげるとしか言ってないわよ?――でも、いいわ。次が最後の試練よ」
 
 ラプリエルは心底つまらなさそうに吐き捨てる。
 そして、ラプリエルの持つ杖が淡い魔法の光を放ち、再び幻影が現れる。

「――久しぶり、アル」

 最初、俺の事を呼んだのかと思い一瞬ぴくりと反応しかけたが、違う。
 目の前に現れた幻影は、先程までの魔女たちとは違った。男だ。

「なんだよ、エル。そんなに俺に会いたかったか?」

 ニヒルに笑い、ラプリエルに軽口を返す男。
 
 銀の短髪、無精ひげ。
 軽装の身軽な革鎧と、手には金色の長剣。――その剣を、俺は見た事が有る。
 紛れもなく、それは勇者の剣だ。

「――ええ。会いたかったわよ、アル」

「なんだよ、調子狂うな……」

 銀髪の男は、ぼりぼりと頭を掻いて所在無さげにする。

 間違いない。
 こいつは、本物の――、

「――勇者アル」

「お? 俺の事知ってんのか。そうだ、俺が『死神』の勇者アルバスだ」

 勇者は得気にそう名乗る。

「俺も、アルです。あなたの名を貰いました」

 幻影を相手に言っても仕方のない事だが、俺はそう名乗って、軽くお辞儀をする。
 これから戦う相手なのだろうが、異世界での自分のルーツに当たる人物を目の前に、自然とそう敬意を払いたくなったのだ。

「そうかい。まあ仲良くしてくれや」

 これまでの魔女とは違い、勇者アルバスは友好的に手を差し伸べて来る。
 少し警戒するが、敵意は全く感じない。
 俺はその手を取る。

「ちょっと、アル? あなたにはこの子の相手をしてもらいたくて――」

 そこに、ラプリエルが割って入って来る。

「なんでだよ、俺には別に戦う理由なんてねえぞ」

「わたしには有るのよ! 今のアルはわたしの作った幻影なのだから、言う事を聞きなさい!」

「じゃあそういう風に作りやがれ! お前が俺をそのまま作るから悪いんだろ!」

 やいやいやい。
 
 ……何やら、俺を差し置いて痴話喧嘩が始まった。
 
 つまり、こういう事らしい。
 これまで作り出してきた魔女たちの幻影と違い、勇者の幻影は解像度が高すぎた。
 結果、神の制御を離れて好き放題。
 それこそ、生前の本人がそのまま動いているかの如く、意志を持っているかの様。
 作り出したラプリエル自身と喧嘩を始める程に、自由そのものだ。
 
 そして、ラプリエルの事情説明を聞き終わった勇者アルバスはこう声を上げた。

「分かった分かった、戦えばいいんだろ」

 両手を上げて、降参のポーズを取る。
 結局、そうなるか。

「全く……頼んだわよ?」

「おうよ。――まあ、あれだ。同じアル同士、一度手合わせするのも悪くねえ。俺がその実力、見てやるよ」

 そう言って、勇者アルバスは俺に勇者の剣を投げ渡して来る。
 
「これは?」

「使えよ。俺は魔法はさっぱりでな、剣で語り合おうぜ」

 いつの間にか、アルバスの手にも勇者の剣。
 何故二本も――と思ったが、幻影の剣なのだから、それも不思議ではないだろう。

「あなたに勝てば、エルとの結婚を認めて、エルの元へ返してくれますか」

「ああ、俺が約束しよう。いいよな、エル?」

「――そうね。だって、これが最後の試練。そして、勇者に勝てるはずが無いんだもの」

 アルバスが声を掛ければ、ラプリエルは頷く。
 これが、本当に最後の試練。
 本物の勇者との、一騎討ち。
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