【完結】六専特区の一般生徒《スキルホルダー》 ~20XX年、光の雨によって超能力に目覚めた子供たち~

赤木さなぎ

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#002 プロローグ②

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 俺が存在に気付いたのを見るや、片手を軽く上げて挨拶を投げかけてくる。

「やあ、桐裕きりゅう。授業終わったね~。お昼食べに行こうぜ?」
愛一あいいち、お前も物好きだな。俺じゃなくても、一緒に飯食う友達なんていくらでも居るだろ。わざわざ俺なんかに声をかけなくても」
「あのねー、いつも言ってるでしょ? そりゃあ、仲良い風に人当たりよく喋るのは得意だけどさ、だからってみんな友達って訳じゃないんだぜ? これでも、僕は一緒に食べて気持ちのいい相手を選んで声をかけているつもりだよ」

 雨上愛一(あまがみ あいいち)、くすんだ草色の髪で身長も平均より低めの中世的な整った顔立ちの男で、どういう訳か俺の唯一の友人だ。
 俺はこれまでの人生を、友人も作らずなるべく人付き合いを避けて生きて来たはずなのだが、愛一は気付いたらそこに居て、いつの間にか友人ポジションに収まっていた。
 
 こいつがいつから六専学院に通っているのか知らないが、確かこうやって話すようになったのは中学に上がってからだったと記憶している。
 人当たりの良いタイプで誰とでも仲良くしている様に見えるが、こいつ曰く別に誰も友達ではないらしい。
 俺も他人の事は言えないが、こいつもなかなか変わった奴だ。

 ちなみに、俺はこいつのスキルが何かを知らないし、こいつも俺のスキルを知らないはずだ。
 一応スキル実習の授業で一緒になった事はないので、俺とは系統の違うスキルなのだろうというくらいの予想は出来るが、分かるのはその程度だ。
 
 前提として、スキルホルダー同士、自分の持つスキルの詳細を他人に明かす事は弱点の露見に繋がる。
 相手に自分より弱いスキルホルダーだと舐められでもすれば、それは学院内カーストに影響し、それがエスカレートすればイジメに発展する事だってあるだろう。
 
 そういった理由から、学院の生徒たちは互いにスキルの詮索をし合わない事が暗黙の了解となっていた。
 偶に例外で自分からスキルをひけらかす輩も居るが、そんなの余程自分のスキルに自信が有るか、変人かのどちらかだ。
 まあ、そもそも俺と愛一の場合は、互いのあれこれに興味が無いという理由が一番大きいだろうが。

 俺は適当にあしらう。
 
「そうかい」
「ああ、そうさ。僕の友達はお前だけだぜ、親友」
「やめろって、気持ち悪い」
「あははっ。そりゃそうだ、ごめんごめん。それよりほら、食堂行こうぜ」

 俺は愛一と連れ添って食堂へと向かい、注文用のタッチパネルをもう慣れた手つきで操作して味噌汁だけを注文した。
 特区支給の電子マネー決済だ。
 すると、愛一は怪訝そうな目で俺を見る。

「げ。桐裕、またお弁当作ってきたの?」
「げってなんだよ、良いだろ別に」

 俺の片手には、持参してきた弁当の包みがぶら下げられていた。
 
「そりゃあ、勿論駄目とは言わないけどさ。中学の頃から続けて、高校に上がってまでとは、恐れ入ったぜ」

 そう言いつつ、愛一はカレーライス大盛りを注文した。
 すると、すぐに受け取り口から俺の味噌汁と一緒にカレーライスの乗せられたトレーが出て来る。
 どちらもタッパーの様な容器に入った、六専学院ではお馴染みの学食だ。

 中等部から高等部に移って、食堂も進化するかと思えばメニューも味も注文システムも、何も変わり映えはしない。
 しかし、こうして温かい味噌汁が飲めるというのはプチ幸せだ。
 
 愛一はカレーライスと味噌汁の乗ったトレーを運んで席を取りつつ、俺は二人分の水を紙コップに入れて持ってくる。
 食堂はそれなりに広いので、余裕を持って座る事が出来る。
 
 そうして二人して着席すれば、各々勝手に手を合わせて食べ始めた。
 食べながら、合間に適当な雑談を挟みつつ。

「桐裕はそんなに食堂のご飯が嫌いなの?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。ただ、どれも冷食のレンチンだろ? だから、どれも味気ないんだよ。ほら」

 と、俺は自分の弁当箱から渾身の一品、金平ニンジンを端で摘み上げ、口に放り込む。
 小気味の良い咀嚼音が口の中で鳴る。

「この噛んだ時の触感、これが良いんだよ。だが、食堂のメシにはこれが無い」
「でも、温かいぜ」
「だから、味噌汁は飲むんだよ」

 と、味噌汁を一口。インスタントの味だが、温かく染み渡る。

「僕にはその手間がどうにもね。あと、桐裕程美味く作れもしない」
「そればかりは数を熟すしか無いな。まあ、結局は殆ど趣味の様なもんだ」

 俺と愛一は同じタイミングで水を飲み、喉を潤す。

「でもさ、桐裕。料理できる男はモテるって聞くぜ?」
「ふぅん。まあ、俺は興味無いな」
「不健全だなあ」
「というか、この成りでか?」

 俺は指先で自分の前髪を触る。
 ボサボサで視界に入る程長い、灰色の髪。

「ちゃんとすれば、もう少しマシだと思うけどね~」
「言ってろ。こちとらお前みたいに整った容姿じゃないんでね、努力にも限界はあるんだ」

 灰色のボサボサヘアーの陰気な俺と、くすんだ草色の髪で中世的な整った可愛い系男子の愛一、並べばあまりの不釣り合いさに笑えてくるくらいだ。
 愛一は俺を指さす。
 
「それが限界?」
「そ。これが限界」

 愛一が鼻で笑う。
 そんな他愛も無い話をしていると、ふと愛一は話題を切って、

「ところでさ、あの噂話、聞いた?」
「噂話?」

 俺が全く知らないのを見るや、愛一は得意げにカレーライスのスプーンをくるくるとしながら語りだす。

「幽霊がね、出るらしいんだ」
「ふうん、学校の七不思議みたいな話か?」

 愛一は頭を振る。

「違う違う! 学院内じゃなくて、特区に出るんだとさ」

 ほう。俺は続きを促す。

「特区内にね、白い幽霊が出るって言うんだ。夜に見たって人が居るらしい」
「幽霊って言うのは大体白いもんだろう」
「へえ、見た事あるのかい?」
「無いな」

 しばらくの沈黙。

「……でね、今日の真白ちゃん先生の話、覚えてる?」
「ああ。不審船の漂着だっけか」
「そう! 僕は、その不審船の乗組員が不幸な事故で無くなって、幽霊になって化けて出たんじゃないかって、睨んでいるんだけど――」

 愛一がそんな事を言い始めるので、俺は大きな溜息を吐く。

「馬鹿馬鹿しい。第一、幽霊なんて居る訳が無いだろう。俺はオカルトは信じんぞ」
「そんな事言い出したら、僕らのスキルだって、時代が違えばオカルトだぜ?」
「スキルは実際に存在を認知している。幽霊は存在を認知していない。以上」

 実際にその目で見たかどうか、それが重要だ。
 
「うげー、つまんねー」

 俺はお喋りをしつつも食べ進め、さっさと食べ終わった弁当の蓋を閉める。

「それに、だ。そもそも夜間外出制限がかかっている中、仮に幽霊が居たとしても確認のしようがないだろう」
「でも、“どうしても”外出の必要が有る場合は、二人で行動しなさいって、言ってたじゃないか」

 と、愛一は悪巧み顔でにやりと笑って見せる。
 なるほど、そういう話だったか。
 
「“どうしても”の場合、な。俺は付き合わんぞ」
「ちぇー」

 しかし、俺は取り合わない。
 そうして、小さな体躯に大盛りのカレーの残りをかき込む愛一を少しの間待ってから、俺たちは教室へ戻って行った。

 
 それから、1日の授業も全てが終わり、教室は弛緩した空気に包まれる。
 帰宅部の愛一は早速もう帰ったのか、既に教室にその姿は無い。
 いつもの様に誰かに誘われて遊びに行ったのか、それか帰ってゲームでもやるのだろう。
 
 俺は一人、部室棟へと足を運んで行った。
 
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