【完結】六専特区の一般生徒《スキルホルダー》 ~20XX年、光の雨によって超能力に目覚めた子供たち~

赤木さなぎ

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#061 桐祐視点② 帰還

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 見上げれば、来海の顔。
 さっきまで触れ合う程の距離に居たはずなのに、やっと会えた様な気がした。

 「おはよ、桐祐。目覚めのキスの味はどうだったかしら?」

 見下ろしたまま、不機嫌そうに声を掛けて来る。
 なんと答えても怒られそうだな、なんて思いつつ、まだ重い身体ながら精一杯強がって、

「それどころじゃなくて、分かんなかったよ。だから、もういっか――痛ぇ!」

 蹴られた。結構全力で。

「調子に乗らない。目が覚めたなら、さっさと立ちなさい、ローゲ。こっちはまだ仕事は残っているのよ」

 来海は手も貸してくれず、さっさと歩き出してしまった。
 俺はまだふらつきつつも、何とか立ち上がって後を追う。

 
「――桐祐君! 来海ちゃん!」

 上階に穴の開いたS⁶シックス本部ビルへと戻れば、丁度降りて来たボスがこちらへと走って来た。
 珍しく俺も名前で呼ばれて、余程焦っていたのが伝わって来る。

「ボス、終わったわよ。ローゲも無事」
「おお! 良かった、本当に……って、来海ちゃん、なんか顔赤くない?」
「……気のせいよ。それよりも、さっさとケリを付けましょう。準備は出来ているのでしょう?」
「ああ。今動かせる全戦力だ。だけど――」

 と、ボスは俺の方を見る。

「エージェント:ローゲ。これから我々S⁶は天の光信仰教会の本部に奇襲を行う。元は君の救出を主目的とした作戦だったが、それは既に成された。よって、作戦目標は教会組織の解体と、教祖である道道ヶ原巡どうどうがはら めぐるの逮捕だ。
 相手は祝福の儀式によってスキルホルダー化された信者たち。よって、我々は全戦力を投じて望む事になる。一人でも多くの人員が欲しい。
 ――が、しかし。君は一度教祖の支配を受けて、スキルホルダー二名とウォールナットを襲った。幸い正気を取り戻した様だが、もう一度教祖と対峙した際、また支配を受けて寝返らないとも限らない。
 君が貴重な戦力の一人であるという事実は変わらない。しかし僕としては、現状では君を連れて行くという判断は出来ない。ローゲ、君には待機を命じる」

 ボスの言はもっともだ。
 折角来海に助けてもらったというのに、また支配を受けては元も子もない。
 エージェントとして共に行きたいという気持ちをぐっと抑えて飲み込む。

「……はい。分かりました」
「うん、悪いね。それに、かなりダメージを負っているだろう。車を手配するから、治療を受けると良い。以前にも行った、今シロちゃんも入院しているあそこだ」
「分かりました。でもその前に、共有したい情報が有ります」

 俺は捕らえられていた間に、天の光信仰教会で見た光景、道道ヶ原の発言、それらをボスに共有した。
 
「――にわかには信じられないな。奴らの言う神の正体が、スキルホルダーたちの思念集積体――大規模なスキル、炎の塊……」
「でも、真白先生から聞いた仮説とも一致する部分があるわ」
「天の光エネルギー、脳の思い込み、プラシーボ効果……。我々が想うからこそ、スキルはそこに在る――という訳か……」

 信じられないのも無理はない。
 しかし、それでもボスは少しずつ咀嚼して何とか吞み込んでくれた。

「分かった。教祖の逮捕と並んで、“大規模スキル、鏡写しの太陽”の破壊も行う」
「相手のスキルホルダーのスキルは、俺たちの物とは質が少し異なります。気を付けてください」
「なに、うちの戦闘班だって優秀なスキルホルダーたちばかりだ。必ず成功させよう」


 それから、俺は前にも来た警察病院で簡単な治療を受けた。
 待機とは言いつつも、また教祖がちょっかいを出しに来ないとも限らないので、監視役としてエージェントの人が付いてくれている。
 
 しかし、治療を終えて診察室を出ると、外で待ってくれていたはずの監視役の人が居なくなっていた。
 見回してみるが、嫌に静かな病院の廊下が広がっているだけで誰も居ない。
 
「おかしいな……」

 少し歩いて探してみるが、やはり居ない。
 それどころか、他に誰ともすれ違いもしないのだ。誰も居ない。
 診察室に戻ってみると、診てくれた医師も消えていた。
 
 ――まさか、スキルホルダーの攻撃を受けている?
 
 明らかな異常を察知して警戒するが、俺以外の誰も居ないというだけで、襲われる気配も無い。
 そして、俺の脳裏を過ったのは、この病院内に居るはずのシロとアルファブラザーズの事だった。
 まさか、狙われているのは俺では無く――、

「――シロっ!!」

 廊下を走り、記憶を頼りにシロたちの病室へ。
 そのまま勢いよく扉を開け放ち、中へ転がり込む。
 
「あれ? 久しぶり、桐祐きりゅう。どうしたのさ、そんなに慌てて。病院で騒いじゃ駄目だぜ?」
「……は? え? なんで、お前――」
 
 そこに居たのは、忠誠的な顔立ちでくすんだ草色の髪の男、雨上愛一あまがみ あいいちだった。
 皆の記憶から、記録から消え去り、姿を晦ませていた我が友人。

「うん? なんでって、旧友の見舞いに来るくらい許してくれよ」
「きりゅー。どうしたの? だいじょうぶ?」

 シロも普通に居る。
 ベッドサイドに座る愛一がそこに居る事がさも当然であるかのように、いつもと変わらない様子だ。
 
 アルファブラザーズも身体を起こして漫画本を読んでいたり、診まいのお菓子を食べていたりとゆったりとくつろいでいた。
 突然駆け込んで来た俺を不思議そうに見ている。

「シロ、愛一と知り合いだったのか……?」
「あい、いち?」

 こてんと首を傾げた後、隣に座る愛一の方を見て、それからまたこちらに向き直って答える。

「これ、がんま」
「おいおい、アルファ。指差してこれって言うなよ」
「あるふぁじゃない、しろ」
「はいはい。そう言うなら、じゃあ僕は雨上愛一だよ」

 がんま……ガンマ?
 一瞬フリーズするも、反芻してようやく言葉の意味を理解する。
 
 プラスエス非検体第三号、ガンマ。
 “精神干渉”のスキルホルダー。

「待ってくれ、ガンマって、あの? 愛一が、そのガンマだって?」

 シロはこくりと頷く。
 愛一の方を見れば、肩を竦めて、

「ま、そういう事。黙っててごめんね~」

 困惑する俺とは対照的に。いつもと変わらない軽い調子だ。

「どういう事だよ、愛一。この状況だって――イチから全部、説明してくれるよな?」
「もちろん。ちょっと長くなるけど、まあ付き合ってくれよ。何せ、僕の人生そのものを振り返らなくちゃいけないんだから」
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