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#064 ガンマ③
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愛一はS⁶の戦力に加えて、プラスエスに拡張された最高クラスのスキル三つを用いて天の光信仰教会に挑むつもりだ。
しかし、それは叶わないだろう。何故なら――、
「俺はボスに待機を命じられて、ここに居るんだ。俺以外のエージェントは全員作戦に参加して、教会に乗り込んでいったのに、だ。
知ってるだろ? 俺は赤子の頃にかけられた支配の暗示のせいで、鏡写しの太陽の眷族にされてしまっている。
道道ヶ原の前に立てば、肉体が操られてしまうんだ。だから、一緒には戦えない……」
しかし、そんな俺の苦渋の告白にも、愛一は「何言ってんだこいつ」という風に鼻を鳴らして一笑。
「何が可笑しい」
「いや、桐祐は馬鹿だなあって」
その口ぶりだと、まるで何か策があるみたいではないか。
すると、俺の超共感覚がその答えを予感させてくれた。
愛一はもったいぶる。
「僕が最初にした話、覚えてる?」
――今病院内に誰も居ないのは、愛一が皆の認識を書き換えて、居ないと思い込ませたから居なくなった。
――愛一は精神干渉のスキルを使って周囲の人間たちの認識と記憶を書き換える事が出来る。
それは、天の光信仰教会、道道ヶ原の行う儀式の仕組みと全く一緒。
天の光エネルギーの本質だ。
つまり――、
「――お前が、俺の暗示を解けるのか!?」
「任せろって。支配の暗示なんて、僕が上書きしてやるよ」
愛一の渾身のどや顔。
そのまま愛一は俺に近づいて、首筋に触れる。
「すぐに済ませるから、じっとしてなよ」
「……おう」
くすぐったいな、なんて思っていると、すぐにそれどころではなくなった。
身体の内側に手を突っ込まれて、滅茶苦茶に掻きまわされたみたいな感覚。
目が回って、そのままシロのベッドの方に倒れてしまう。
「きりゅー、だいじょうぶ!?」
「……おま……なに、した……」
けらけらと笑う愛一。
「ごめんごめん。サービスもしといたんだけど、刺激が強かったね」
「……サー、ビスだ?」
「うん。桐祐の認識を書き換えて、スキルを拡張した」
絶句。
こいつ、天の光信仰教会の芸当だけでなく。プラスエスの芸当まで一人でやってのけるのか。
「副作用とか、無いんだろうな、これ」
「まさか、ウイルス薬じゃあるまいし。そもそも、僕がどれだけ身体を弄繰り回されたと思ってるの? どうすれば安全で、どうすればヤバいかなんて、自分が一番よく分かってる。これと同じ事をアルファにもやって、最高戦力で挑もう」
シロの方を見る。
「シロ、大丈夫か? 怪我もまだ治り切ってないだろ」
こくりと頷く。
「しろ、おねえさんだから、だいじょうぶ。くるみのこと、たすけにいこう」
「ああ。そうだ、来海も、S⁶のみんなは今まさに戦って――」
S⁶の全戦力を投じている。負けるはずが無い。
そう思う自分と同時に、もう一つの嫌な予感。
天の光信仰教会はここまでの芸当が出来る愛一がこれまで機を窺い続け、用意周到に準備を整えた上で挑む様な相手だ。
奴らと戦うためには、S⁶と三人の非検体が揃う必要があった筈だ。
――なら、来海は、ボスは、皆は大丈夫なのだろうか?
そんな俺の思考に、愛一が答える。
「急がないと、来海ちゃんたち危ないかもね」
愛一に頭の中を掻きまわされて、まだ少し気持ち悪い感覚を無理やり誤魔化しつつ、準備を整えた俺たちは警察病院を発つ。
「けむる、おとや、いってくる!」
「「姉御! お気をつけて!!」」
静かな病院内に二人の舎弟の声が響く。
病院を出れば、その途端中から人の営みの雑多な音が聞こえ始めた。
振り返ってみれば、先程までそこに存在していなかった医師や看護師、患者の姿が在る。
「……実際に見ても、やっぱり信じられないな」
「誰かが誰かを想い、認識し、観測ているからこそ、そこに存在できるのさ」
「きりゅー、がんま、むずかしいはなしやめて」
シロは頬を膨らませて、俺たちの前をとてとてと歩いて行く。
俺と比べると愛一のスキル拡張を受けても平気そうだ。
それはかつての人体実験で慣れているからだろうと思うと、胸が痛む。
「ところで、桐祐。相手の場所は分かってるのかい?」
「俺はそこに捕らえられていたんだから、当ぜ――」
と、そこで思い返してみようとする。
しかし、頭の中がぐちゃぐちゃで上手く思い出せない。
支配を受けていた時は勝手に動く自分の肉体の内側から、ノイズの走るフィルター越しに世界を見ていた。
その所為か、断片的にしか記憶を辿れない。
「――あれ? ええと……」
「ま、どうせ支配の暗示の中にそういう曇らせ仕込んでたんでしょ。あいつらそういうセコイ真似好きそうだしね」
「愛一のさっきのやつで、どうにか出来ないのか?」
「そりゃ出来るけど、今度はゲロ吐くかもしれないぜ? それに、桐祐のあやふやな記憶掘り起こすよりも確実な方法があるだろ?」
確実な方法?
言わんとする事が分かっていない俺を見て、愛一はポケットを指で叩く仕草。
「スマホ、見てみるといいぜ」
不承不承、言われた通り自分のスマホを確認すると――、
「林殿!」
もう一人の友人からメッセージの通知が届いていた。
『火室殿! 来海殿から話は聞いているでござる! 拙者にはこの程度しか出来ぬでござるが、受け取って欲しいでござるよ!』
ファイルが添付されている。
開いてみれば、3Dマップデータだった。
「これは、あの教会のマップ! 林殿、これをどうやって……」
「さすが、僕らの友。じゃあ行こうか」
こいつの差し金か。
ともかく、ありがたく受け取っておこう。
これでS⁶のみんなを追って、俺たちも乗り込める。
「でもこれなら、普通に玄関からこんにちはだなんて、お行儀の良い事してやる必要も無いよね?」
「がんま、わるいかお」
……うん?
しかし、それは叶わないだろう。何故なら――、
「俺はボスに待機を命じられて、ここに居るんだ。俺以外のエージェントは全員作戦に参加して、教会に乗り込んでいったのに、だ。
知ってるだろ? 俺は赤子の頃にかけられた支配の暗示のせいで、鏡写しの太陽の眷族にされてしまっている。
道道ヶ原の前に立てば、肉体が操られてしまうんだ。だから、一緒には戦えない……」
しかし、そんな俺の苦渋の告白にも、愛一は「何言ってんだこいつ」という風に鼻を鳴らして一笑。
「何が可笑しい」
「いや、桐祐は馬鹿だなあって」
その口ぶりだと、まるで何か策があるみたいではないか。
すると、俺の超共感覚がその答えを予感させてくれた。
愛一はもったいぶる。
「僕が最初にした話、覚えてる?」
――今病院内に誰も居ないのは、愛一が皆の認識を書き換えて、居ないと思い込ませたから居なくなった。
――愛一は精神干渉のスキルを使って周囲の人間たちの認識と記憶を書き換える事が出来る。
それは、天の光信仰教会、道道ヶ原の行う儀式の仕組みと全く一緒。
天の光エネルギーの本質だ。
つまり――、
「――お前が、俺の暗示を解けるのか!?」
「任せろって。支配の暗示なんて、僕が上書きしてやるよ」
愛一の渾身のどや顔。
そのまま愛一は俺に近づいて、首筋に触れる。
「すぐに済ませるから、じっとしてなよ」
「……おう」
くすぐったいな、なんて思っていると、すぐにそれどころではなくなった。
身体の内側に手を突っ込まれて、滅茶苦茶に掻きまわされたみたいな感覚。
目が回って、そのままシロのベッドの方に倒れてしまう。
「きりゅー、だいじょうぶ!?」
「……おま……なに、した……」
けらけらと笑う愛一。
「ごめんごめん。サービスもしといたんだけど、刺激が強かったね」
「……サー、ビスだ?」
「うん。桐祐の認識を書き換えて、スキルを拡張した」
絶句。
こいつ、天の光信仰教会の芸当だけでなく。プラスエスの芸当まで一人でやってのけるのか。
「副作用とか、無いんだろうな、これ」
「まさか、ウイルス薬じゃあるまいし。そもそも、僕がどれだけ身体を弄繰り回されたと思ってるの? どうすれば安全で、どうすればヤバいかなんて、自分が一番よく分かってる。これと同じ事をアルファにもやって、最高戦力で挑もう」
シロの方を見る。
「シロ、大丈夫か? 怪我もまだ治り切ってないだろ」
こくりと頷く。
「しろ、おねえさんだから、だいじょうぶ。くるみのこと、たすけにいこう」
「ああ。そうだ、来海も、S⁶のみんなは今まさに戦って――」
S⁶の全戦力を投じている。負けるはずが無い。
そう思う自分と同時に、もう一つの嫌な予感。
天の光信仰教会はここまでの芸当が出来る愛一がこれまで機を窺い続け、用意周到に準備を整えた上で挑む様な相手だ。
奴らと戦うためには、S⁶と三人の非検体が揃う必要があった筈だ。
――なら、来海は、ボスは、皆は大丈夫なのだろうか?
そんな俺の思考に、愛一が答える。
「急がないと、来海ちゃんたち危ないかもね」
愛一に頭の中を掻きまわされて、まだ少し気持ち悪い感覚を無理やり誤魔化しつつ、準備を整えた俺たちは警察病院を発つ。
「けむる、おとや、いってくる!」
「「姉御! お気をつけて!!」」
静かな病院内に二人の舎弟の声が響く。
病院を出れば、その途端中から人の営みの雑多な音が聞こえ始めた。
振り返ってみれば、先程までそこに存在していなかった医師や看護師、患者の姿が在る。
「……実際に見ても、やっぱり信じられないな」
「誰かが誰かを想い、認識し、観測ているからこそ、そこに存在できるのさ」
「きりゅー、がんま、むずかしいはなしやめて」
シロは頬を膨らませて、俺たちの前をとてとてと歩いて行く。
俺と比べると愛一のスキル拡張を受けても平気そうだ。
それはかつての人体実験で慣れているからだろうと思うと、胸が痛む。
「ところで、桐祐。相手の場所は分かってるのかい?」
「俺はそこに捕らえられていたんだから、当ぜ――」
と、そこで思い返してみようとする。
しかし、頭の中がぐちゃぐちゃで上手く思い出せない。
支配を受けていた時は勝手に動く自分の肉体の内側から、ノイズの走るフィルター越しに世界を見ていた。
その所為か、断片的にしか記憶を辿れない。
「――あれ? ええと……」
「ま、どうせ支配の暗示の中にそういう曇らせ仕込んでたんでしょ。あいつらそういうセコイ真似好きそうだしね」
「愛一のさっきのやつで、どうにか出来ないのか?」
「そりゃ出来るけど、今度はゲロ吐くかもしれないぜ? それに、桐祐のあやふやな記憶掘り起こすよりも確実な方法があるだろ?」
確実な方法?
言わんとする事が分かっていない俺を見て、愛一はポケットを指で叩く仕草。
「スマホ、見てみるといいぜ」
不承不承、言われた通り自分のスマホを確認すると――、
「林殿!」
もう一人の友人からメッセージの通知が届いていた。
『火室殿! 来海殿から話は聞いているでござる! 拙者にはこの程度しか出来ぬでござるが、受け取って欲しいでござるよ!』
ファイルが添付されている。
開いてみれば、3Dマップデータだった。
「これは、あの教会のマップ! 林殿、これをどうやって……」
「さすが、僕らの友。じゃあ行こうか」
こいつの差し金か。
ともかく、ありがたく受け取っておこう。
これでS⁶のみんなを追って、俺たちも乗り込める。
「でもこれなら、普通に玄関からこんにちはだなんて、お行儀の良い事してやる必要も無いよね?」
「がんま、わるいかお」
……うん?
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