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第5章
色相環①
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「うわっ、何これ、すごい! これ、あたしがやったの? ねえ、本当に?」
テレビを食い入るように見ながら、紅が興奮した声をあげる。
「覚えてないのか? 紅が手をかざした瞬間に、大爆発が起きたんだぞ」
「覚えてるよ、もちろん覚えてるけど、何が起きたのかわからなくて。そっかぁ、こんなことになってたんだ?」
他人事のような言い方に、桔梗が呆れた声を漏らす。
「一番若いとはいえ……まさか、研究所で力のコントロールも訓練されていなかったなんてね。あの場でよく出せたものだわ」
「紅が受けていたのは、気化や液化の訓練だそうだ。力の発動までは程遠いな」
紺碧が補足する。
テレビのワイドショーでは、白昼の河川敷で突然起きた事件について、どこもかしこもこぞって取り上げていた。視聴者提供とテロップのついた映像が、繰り返し流れている。紅の放った大爆発も、突然川から無数の氷の矢が飛んできた部分も、しっかり映っている。だが、スマートホンで撮った小さな画面で手振れも激しく、その場にいた人間の人相までははっきりわからないのが、不幸中の幸いだ。背景の音声には、映画の撮影か、などとざわめく音も聞こえる。
「ねえ、その、力っていうのは、なんなの? あなたたち、やっぱり、その……地球の生き物じゃ、ないってこと?」
朱里が言葉を選びながら尋ねる。結局二度も川へ入る羽目になった朱里は、今は華の服を借りている。その華も、スタンガンの衝撃からは何とか回復したようだ。時折まだ痺れるお腹をさすりながらも、熱心に耳を傾けている。
「我々がどこから来たのかは、よくわからない。気がついたら、研究所にいた。だが、厳重に管理されたエナジーフィールドの中で、力の制御の訓練は、受けていた。研究所では、外から特別に高濃度のエネルギーを与えられたときにのみ、体が発光し、それを力に変えることができた。まさかそれが……エネルギーを供給されないタイミングで、発動するとは」
「それなんだけど」
哲平が口を挟む。
「君たちはさ、研究所を出てからは、特定の人間から、エネルギーを得ているわけでしょ? それが大量に流れ込んだら、研究所のやり方と同じことになって、あの、必殺技みたいなやつが出せるようになるんじゃない?」
「でも哲平、あたしたちは意識してエネルギーを与えているわけじゃないわよ? どうやったら、あんないいタイミングで、大量のエネルギーを渡せるの」
朱里にいわれ、哲平はぽりぽりと頭を掻いた。
「それは、わからないけど……でも……」
ちらり、と紅を見やる。
以前、街中で発光してしまったときは、どうだっただろうか。体は、触れ合っていた気がする。それ以外の、何か変わったことがあっただろうか。
「相性、じゃない?」
それまでずっと黙っていた華が、ぽつりといった。皆が一斉に注目する。
「ずっとね、気になっていたの……色について」
華は本棚から一冊の分厚い本を取り出すと、ぱらぱらとめくった。フルカラーの、美大の教科書か何かのようだ。
「……あった」
華はひとつの図を指で示した。様々な色がグラデーションのように連なった環が描かれている。
「色相環。いろんな色があるでしょ? すべての色彩は、この色相環そのものや、これを混ぜて作られる色で成り立っているの。あなたたちVCには、みんな綺麗な色があって、そしてあなたたち自身、人間の色が見える。それがね、ずっと不思議だったのよ。それで、わかったの。例えば、紅ちゃん。あなたの色は、赤よね」
そういって色相環の赤を指さす。
「哲平くんは、緑だっていってた。どの緑が一番近い?」
紅が、やや青に近い緑を示した。
「こんな感じかな?」
華は次に、桔梗を見る。
「桔梗さんは、素敵な紫だったわね。で、朱里さんは、何色?」
桔梗が指を伸ばす。
「これね。元気な黄色」
「最後に、紺碧。あなたは濃い青よね。私は、何色に見えるの?」
紺碧は、朱里よりやや赤寄りの橙を指さした。華が納得したようにうなずく。
「ね、わかった? あなたたちVCは、自分とは真逆の配置にある色の人間に、惹かれるのよ」
テレビを食い入るように見ながら、紅が興奮した声をあげる。
「覚えてないのか? 紅が手をかざした瞬間に、大爆発が起きたんだぞ」
「覚えてるよ、もちろん覚えてるけど、何が起きたのかわからなくて。そっかぁ、こんなことになってたんだ?」
他人事のような言い方に、桔梗が呆れた声を漏らす。
「一番若いとはいえ……まさか、研究所で力のコントロールも訓練されていなかったなんてね。あの場でよく出せたものだわ」
「紅が受けていたのは、気化や液化の訓練だそうだ。力の発動までは程遠いな」
紺碧が補足する。
テレビのワイドショーでは、白昼の河川敷で突然起きた事件について、どこもかしこもこぞって取り上げていた。視聴者提供とテロップのついた映像が、繰り返し流れている。紅の放った大爆発も、突然川から無数の氷の矢が飛んできた部分も、しっかり映っている。だが、スマートホンで撮った小さな画面で手振れも激しく、その場にいた人間の人相までははっきりわからないのが、不幸中の幸いだ。背景の音声には、映画の撮影か、などとざわめく音も聞こえる。
「ねえ、その、力っていうのは、なんなの? あなたたち、やっぱり、その……地球の生き物じゃ、ないってこと?」
朱里が言葉を選びながら尋ねる。結局二度も川へ入る羽目になった朱里は、今は華の服を借りている。その華も、スタンガンの衝撃からは何とか回復したようだ。時折まだ痺れるお腹をさすりながらも、熱心に耳を傾けている。
「我々がどこから来たのかは、よくわからない。気がついたら、研究所にいた。だが、厳重に管理されたエナジーフィールドの中で、力の制御の訓練は、受けていた。研究所では、外から特別に高濃度のエネルギーを与えられたときにのみ、体が発光し、それを力に変えることができた。まさかそれが……エネルギーを供給されないタイミングで、発動するとは」
「それなんだけど」
哲平が口を挟む。
「君たちはさ、研究所を出てからは、特定の人間から、エネルギーを得ているわけでしょ? それが大量に流れ込んだら、研究所のやり方と同じことになって、あの、必殺技みたいなやつが出せるようになるんじゃない?」
「でも哲平、あたしたちは意識してエネルギーを与えているわけじゃないわよ? どうやったら、あんないいタイミングで、大量のエネルギーを渡せるの」
朱里にいわれ、哲平はぽりぽりと頭を掻いた。
「それは、わからないけど……でも……」
ちらり、と紅を見やる。
以前、街中で発光してしまったときは、どうだっただろうか。体は、触れ合っていた気がする。それ以外の、何か変わったことがあっただろうか。
「相性、じゃない?」
それまでずっと黙っていた華が、ぽつりといった。皆が一斉に注目する。
「ずっとね、気になっていたの……色について」
華は本棚から一冊の分厚い本を取り出すと、ぱらぱらとめくった。フルカラーの、美大の教科書か何かのようだ。
「……あった」
華はひとつの図を指で示した。様々な色がグラデーションのように連なった環が描かれている。
「色相環。いろんな色があるでしょ? すべての色彩は、この色相環そのものや、これを混ぜて作られる色で成り立っているの。あなたたちVCには、みんな綺麗な色があって、そしてあなたたち自身、人間の色が見える。それがね、ずっと不思議だったのよ。それで、わかったの。例えば、紅ちゃん。あなたの色は、赤よね」
そういって色相環の赤を指さす。
「哲平くんは、緑だっていってた。どの緑が一番近い?」
紅が、やや青に近い緑を示した。
「こんな感じかな?」
華は次に、桔梗を見る。
「桔梗さんは、素敵な紫だったわね。で、朱里さんは、何色?」
桔梗が指を伸ばす。
「これね。元気な黄色」
「最後に、紺碧。あなたは濃い青よね。私は、何色に見えるの?」
紺碧は、朱里よりやや赤寄りの橙を指さした。華が納得したようにうなずく。
「ね、わかった? あなたたちVCは、自分とは真逆の配置にある色の人間に、惹かれるのよ」
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