ヴィフ・クルール~拾った女の子が人間ではなかった件~(仮)

若山ゆう

文字の大きさ
36 / 110
第5章

色相環①

しおりを挟む
「うわっ、何これ、すごい! これ、あたしがやったの? ねえ、本当に?」

 テレビを食い入るように見ながら、紅が興奮した声をあげる。

「覚えてないのか? 紅が手をかざした瞬間に、大爆発が起きたんだぞ」
「覚えてるよ、もちろん覚えてるけど、何が起きたのかわからなくて。そっかぁ、こんなことになってたんだ?」

 他人事のような言い方に、桔梗が呆れた声を漏らす。

「一番若いとはいえ……まさか、研究所で力のコントロールも訓練されていなかったなんてね。あの場でよく出せたものだわ」
「紅が受けていたのは、気化や液化の訓練だそうだ。力の発動までは程遠いな」

 紺碧が補足する。

 テレビのワイドショーでは、白昼の河川敷で突然起きた事件について、どこもかしこもこぞって取り上げていた。視聴者提供とテロップのついた映像が、繰り返し流れている。紅の放った大爆発も、突然川から無数の氷の矢が飛んできた部分も、しっかり映っている。だが、スマートホンで撮った小さな画面で手振れも激しく、その場にいた人間の人相までははっきりわからないのが、不幸中の幸いだ。背景の音声には、映画の撮影か、などとざわめく音も聞こえる。

「ねえ、その、力っていうのは、なんなの? あなたたち、やっぱり、その……地球の生き物じゃ、ないってこと?」

 朱里が言葉を選びながら尋ねる。結局二度も川へ入る羽目になった朱里は、今は華の服を借りている。その華も、スタンガンの衝撃からは何とか回復したようだ。時折まだ痺れるお腹をさすりながらも、熱心に耳を傾けている。

「我々がどこから来たのかは、よくわからない。気がついたら、研究所にいた。だが、厳重に管理されたエナジーフィールドの中で、力の制御の訓練は、受けていた。研究所では、外から特別に高濃度のエネルギーを与えられたときにのみ、体が発光し、それを力に変えることができた。まさかそれが……エネルギーを供給されないタイミングで、発動するとは」

「それなんだけど」

 哲平が口を挟む。

「君たちはさ、研究所を出てからは、特定の人間から、エネルギーを得ているわけでしょ? それが大量に流れ込んだら、研究所のやり方と同じことになって、あの、必殺技みたいなやつが出せるようになるんじゃない?」
「でも哲平、あたしたちは意識してエネルギーを与えているわけじゃないわよ? どうやったら、あんないいタイミングで、大量のエネルギーを渡せるの」

 朱里にいわれ、哲平はぽりぽりと頭を掻いた。

「それは、わからないけど……でも……」

 ちらり、と紅を見やる。

 以前、街中で発光してしまったときは、どうだっただろうか。体は、触れ合っていた気がする。それ以外の、何か変わったことがあっただろうか。

「相性、じゃない?」

 それまでずっと黙っていた華が、ぽつりといった。皆が一斉に注目する。

「ずっとね、気になっていたの……色について」

 華は本棚から一冊の分厚い本を取り出すと、ぱらぱらとめくった。フルカラーの、美大の教科書か何かのようだ。

「……あった」

 華はひとつの図を指で示した。様々な色がグラデーションのように連なった環が描かれている。

「色相環。いろんな色があるでしょ? すべての色彩は、この色相環そのものや、これを混ぜて作られる色で成り立っているの。あなたたちVCには、みんな綺麗な色があって、そしてあなたたち自身、人間の色が見える。それがね、ずっと不思議だったのよ。それで、わかったの。例えば、紅ちゃん。あなたの色は、赤よね」

 そういって色相環の赤を指さす。

「哲平くんは、緑だっていってた。どの緑が一番近い?」

 紅が、やや青に近い緑を示した。

「こんな感じかな?」

 華は次に、桔梗を見る。

「桔梗さんは、素敵な紫だったわね。で、朱里さんは、何色?」

 桔梗が指を伸ばす。

「これね。元気な黄色」
「最後に、紺碧。あなたは濃い青よね。私は、何色に見えるの?」

 紺碧は、朱里よりやや赤寄りの橙を指さした。華が納得したようにうなずく。

「ね、わかった? あなたたちVCは、自分とは真逆の配置にある色の人間に、惹かれるのよ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

クラス最底辺の俺、ステータス成長で資産も身長も筋力も伸びて逆転無双

四郎
ファンタジー
クラスで最底辺――。 「笑いもの」として過ごしてきた佐久間陽斗の人生は、ただの屈辱の連続だった。 教室では見下され、存在するだけで嘲笑の対象。 友達もなく、未来への希望もない。 そんな彼が、ある日を境にすべてを変えていく。 突如として芽生えた“成長システム”。 努力を積み重ねるたびに、陽斗のステータスは確実に伸びていく。 筋力、耐久、知力、魅力――そして、普通ならあり得ない「資産」までも。 昨日まで最底辺だったはずの少年が、今日には同級生を超え、やがて街でさえ無視できない存在へと変貌していく。 「なんであいつが……?」 「昨日まで笑いものだったはずだろ!」 周囲の態度は一変し、軽蔑から驚愕へ、やがて羨望と畏怖へ。 陽斗は努力と成長で、己の居場所を切り拓き、誰も予想できなかった逆転劇を現実にしていく。 だが、これはただのサクセスストーリーではない。 嫉妬、裏切り、友情、そして恋愛――。 陽斗の成長は、同級生や教師たちの思惑をも巻き込み、やがて学校という小さな舞台を飛び越え、社会そのものに波紋を広げていく。 「笑われ続けた俺が、全てを変える番だ。」 かつて底辺だった少年が掴むのは、力か、富か、それとも――。 最底辺から始まる、資産も未来も手にする逆転無双ストーリー。 物語は、まだ始まったばかりだ。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件

さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。 数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、 今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、 わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。 彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。 それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。 今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。   「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」 「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」 「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」 「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」   命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!? 順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場―― ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。   これは―― 【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と 【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、 “甘くて逃げ場のない生活”の物語。   ――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。 ※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。

処理中です...