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第5章
色相環②
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「真逆?」
「そう。反対色。互いを、引き立て合う色よ」
改めて色相環を見る。華のいうとおり、それぞれの色が百八十度反対に位置しているのがわかった。
「反対色は、補色ともいうの。VCが特定の人間に惹かれるのには、ちゃんと理由があったんだわ。それにね……」
華は桔梗の手を取ると、それを紺碧の体に添えた。すると桔梗の指がにわかに滲み、紺碧と溶け合って濃い藍色のような滲みができた。
「やだ! どういうこと?」
慌てて桔梗が手を引く。
「VC同士は、色が混ざるのね」
華が説明した。
「桔梗さんと紺碧なら、深い藍色。この前、紺碧と紅ちゃんがうっかり混ざっちゃったときは、もっと明るい紫だったんでしょ? ……ほら、絵の具と一緒。青と赤を混ぜたら、紫になる。あなたたちは、人間が相手なら混ざらないけど、仲間同士だと混ざっちゃう。そういう特性があるのよ」
「うそでしょ! じゃああたしたち、触れ合うことができないの?」
紅が驚くのも無理はない。哲平だって、触れ合えないとなるとたくさんの疑問が湧いてくる。
「ねえ、触れ合えないって、不便じゃない? 手も繋げないし、ほら、子供とかどうやって作るのさ? ああ、そうか、人間じゃないんだから、そもそも子孫を残すとか、そういう生き物じゃないってことか? あれ、でも、人間じゃないなら、どうしてこんなに見た目は人間そっくりなんだろう? 言葉だって、宇宙語とかじゃないよね? 人間にそっくりすぎる宇宙人? それに、自分たちの正体をいまいちわかっていないっていうのも、なんだか不思議だよね。……ひょっとして、あれか? 宇宙からやってきたんだけど、UFOが墜落とかして、記憶を失ったところを、FCの奴らに捕まった、とか⁉ それなら辻褄が合うよね」
思いつくままに意見をいいながら、あながち間違っていないかも、と思う。とにかく強烈に記憶に残っているのは、紅や桔梗の不思議な力と、そして――紺碧の、攻撃。紅の爆発も、桔梗の氷柱も、人間を殺しかねない威力があった。そして、気化した紺碧の、攻撃。気体になった紺碧は人間の体に入り込み――。
思い出した瞬間、身震いする。気体や液体なら、人間の穴から体内に入り込むことは容易だ。紺碧は、男の耳から中へ入り、鼓膜を破ってやったといっていた。彼はためらいなく、それをやったのだ。そこで、恐ろしいことに気づく。
例えば彼らが、気体や液体の状態で人間の口から体内に入り、そこで、固体へと変化したら?
――攻撃、してもいいけど。
そういった桔梗の口元には、うっすらと笑みが宿っていた。彼らは、その気になれば、簡単に人間を殺せる。今日は手加減したけれど、実際はそれだけの力があるのだ。そして研究所の人間や黒服の男たちは、その事実を知っているに違いない。だからこそ、血眼になって彼らを捕えようとするのだ。未知の存在、VC。実はその正体は、地球の侵略を狙っている異星人なのかもしれない。
そんなことまで考え、慌てて頭を振る。
桔梗や紺碧はともかく、紅に、人間への悪意など、まったく感じない。それは研究所で実験らしい実験をまだ受けずに逃げ出すことができたからかもしれないが。
そこで今度は、黒服の男が自分たちに向けてきた敵意を思い出す。
少なくとも、山辺というリーダーらしき男は、一回目も二回目も、人間である自分たちにあからさまな敵意は向けてこなかった。VCの味方をしない限り、彼は人間に危害を加えるつもりはないようだった。だが、華が紅を助けようとした瞬間、部下のひとりが華にスタンガンを向けた。同じ人間でも、VCの側についたら、彼らにとっては敵同然になるのだ。
……やっぱり、あの日の俺の運勢は、最悪だったんだ。
哲平は三人のVCを眺めながら思った。
軽い気持ちで紅を受け入れたけど……紅たちを守ろうとすれば、黒服の連中に狙われる。でも、黒服側についたら……もしかすると、紺碧や桔梗が、裏切り者の俺を攻撃してくるかもしれない。
「哲平くん」
きゅっと手を握られ、哲平は我に返った。紅が、両手で哲平の手を握っていた。不安そうなまなざしの中に、無理に笑みを浮かべている。
「あたしは、哲平くんに触れ合えれば、それで十分だよ」
「……ありがとう、紅」
昨日までのように、自然にいうことができなかった。紅の言葉や表情に、嘘はない。それはわかっているつもりだった。だが、発光した紅が放った凄まじい破壊の力と、そのせいで傷つき倒れた男たちの姿は、どうしても脳裏から離れなかった。
「そう。反対色。互いを、引き立て合う色よ」
改めて色相環を見る。華のいうとおり、それぞれの色が百八十度反対に位置しているのがわかった。
「反対色は、補色ともいうの。VCが特定の人間に惹かれるのには、ちゃんと理由があったんだわ。それにね……」
華は桔梗の手を取ると、それを紺碧の体に添えた。すると桔梗の指がにわかに滲み、紺碧と溶け合って濃い藍色のような滲みができた。
「やだ! どういうこと?」
慌てて桔梗が手を引く。
「VC同士は、色が混ざるのね」
華が説明した。
「桔梗さんと紺碧なら、深い藍色。この前、紺碧と紅ちゃんがうっかり混ざっちゃったときは、もっと明るい紫だったんでしょ? ……ほら、絵の具と一緒。青と赤を混ぜたら、紫になる。あなたたちは、人間が相手なら混ざらないけど、仲間同士だと混ざっちゃう。そういう特性があるのよ」
「うそでしょ! じゃああたしたち、触れ合うことができないの?」
紅が驚くのも無理はない。哲平だって、触れ合えないとなるとたくさんの疑問が湧いてくる。
「ねえ、触れ合えないって、不便じゃない? 手も繋げないし、ほら、子供とかどうやって作るのさ? ああ、そうか、人間じゃないんだから、そもそも子孫を残すとか、そういう生き物じゃないってことか? あれ、でも、人間じゃないなら、どうしてこんなに見た目は人間そっくりなんだろう? 言葉だって、宇宙語とかじゃないよね? 人間にそっくりすぎる宇宙人? それに、自分たちの正体をいまいちわかっていないっていうのも、なんだか不思議だよね。……ひょっとして、あれか? 宇宙からやってきたんだけど、UFOが墜落とかして、記憶を失ったところを、FCの奴らに捕まった、とか⁉ それなら辻褄が合うよね」
思いつくままに意見をいいながら、あながち間違っていないかも、と思う。とにかく強烈に記憶に残っているのは、紅や桔梗の不思議な力と、そして――紺碧の、攻撃。紅の爆発も、桔梗の氷柱も、人間を殺しかねない威力があった。そして、気化した紺碧の、攻撃。気体になった紺碧は人間の体に入り込み――。
思い出した瞬間、身震いする。気体や液体なら、人間の穴から体内に入り込むことは容易だ。紺碧は、男の耳から中へ入り、鼓膜を破ってやったといっていた。彼はためらいなく、それをやったのだ。そこで、恐ろしいことに気づく。
例えば彼らが、気体や液体の状態で人間の口から体内に入り、そこで、固体へと変化したら?
――攻撃、してもいいけど。
そういった桔梗の口元には、うっすらと笑みが宿っていた。彼らは、その気になれば、簡単に人間を殺せる。今日は手加減したけれど、実際はそれだけの力があるのだ。そして研究所の人間や黒服の男たちは、その事実を知っているに違いない。だからこそ、血眼になって彼らを捕えようとするのだ。未知の存在、VC。実はその正体は、地球の侵略を狙っている異星人なのかもしれない。
そんなことまで考え、慌てて頭を振る。
桔梗や紺碧はともかく、紅に、人間への悪意など、まったく感じない。それは研究所で実験らしい実験をまだ受けずに逃げ出すことができたからかもしれないが。
そこで今度は、黒服の男が自分たちに向けてきた敵意を思い出す。
少なくとも、山辺というリーダーらしき男は、一回目も二回目も、人間である自分たちにあからさまな敵意は向けてこなかった。VCの味方をしない限り、彼は人間に危害を加えるつもりはないようだった。だが、華が紅を助けようとした瞬間、部下のひとりが華にスタンガンを向けた。同じ人間でも、VCの側についたら、彼らにとっては敵同然になるのだ。
……やっぱり、あの日の俺の運勢は、最悪だったんだ。
哲平は三人のVCを眺めながら思った。
軽い気持ちで紅を受け入れたけど……紅たちを守ろうとすれば、黒服の連中に狙われる。でも、黒服側についたら……もしかすると、紺碧や桔梗が、裏切り者の俺を攻撃してくるかもしれない。
「哲平くん」
きゅっと手を握られ、哲平は我に返った。紅が、両手で哲平の手を握っていた。不安そうなまなざしの中に、無理に笑みを浮かべている。
「あたしは、哲平くんに触れ合えれば、それで十分だよ」
「……ありがとう、紅」
昨日までのように、自然にいうことができなかった。紅の言葉や表情に、嘘はない。それはわかっているつもりだった。だが、発光した紅が放った凄まじい破壊の力と、そのせいで傷つき倒れた男たちの姿は、どうしても脳裏から離れなかった。
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