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第5章

社長と主任②

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「いったいどういうことだ⁉ 話が違うじゃないか!」

 怒りに任せて高原は机にこぶしを叩きつけた。

「おまえの話だと、今ごろ奴らはエネルギー切れで野垂れ死んでいるはずだった。それが、なんだ? 死ぬどころか、元気に気化だの液化だのしたあげく、出るはずのないあの力まで発動させた、だと⁉」

 木崎は反り返るほど背筋を正して直立した。

「は、それにつきましては、山辺らの報告をもとに、解析しております。どうやら彼らは、人間から代替エネルギーを得ている模様で……」
「人間からだと⁉」
「は、その、それもどうやら、特定の人間に限られるようではありますが、その、ペアとなる人間と行動を共にしているVCは、状態変化を自在にできるようです」
「あの力を発動させるほどのエネルギーも、人間から得られるというのか⁉」
「はあ、その仕組みはまったくの不明ですが、そうとしか考えられない状況になっておりまして……」

 高原はしばらく沈黙した後、低い声で尋ねた。

「……あいつの仕業なのか?」

 木崎は汗を拭いながらうなだれた。

「……わかりません。そういうことなのか、あるいは彼にも想定外のことなのか……。いかんせん、まだ彼の行方は掴めていないものですから」

 高原は苛立たし気に息を吐いた。

「マスコミは! 連日報道されているではないか、あんなに派手な大立ち回りをして!」
「はい、そちらに関しては、まだ山辺らの素性は特定されておらず、あの事件とFC社の関連を疑う者はおりません。録画された映像を見ましたが、黒っぽい服の人間が映っているだけで、人相や特徴は特定できないと思われます。幸い皆軽傷のようですので、病院から通報が行くようなこともないかと……」
「……エナジーブロワーを一回使用したにも関わらず、捕獲できなかったそうだな」
「……はい、申し訳ありません」

 鋭い一瞥が木崎に向けられた。

「あの事故で、今やブロワーは小型のものが五機しかない。いいか、失敗は許されない。慎重に使え」
「はい、心得ております」
「それから」

 退室しようとする木崎の背中に、高原が告げた。

「彼らの攻撃力は、予想以上だ。そして、攻撃性も高い。完全に管理下に置かれていたときとは、まるで別の生き物のようだ。早く捕獲しなければ……彼らの怒りの矛先は、真っ先に君に向かうかもしれないよ、木崎主任?」

 木崎は唾をのんだ。

「……はい、心得ております」
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