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第6章
フリージアの記憶①
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外へと続くガラスの扉を開けると、そこは小さいながらも色とりどりの花が咲くこじんまりとした庭だった。一歩足を踏み出すと、庭にいた男が振り返った。男は彼女を見ると、柔らかい笑みを浮かべた。
「ああ、ちょうどよかった。君に聞こうと思っていたんだよ。この黄色の花はなんだい?」
彼女は男の隣へ歩み寄ると腰をかがめた。
「これはフリージアよ。……菖蒲水仙」
男が一瞬黙ってから頬をほころばせた。
「そうか……菖蒲水仙」
かみしめるように繰り返す。それから照れたようにまた笑った。
「たくさん花を植えてもらったはいいけど、全然詳しくなくてね。君がいてくれて助かるよ」
そういうと、男ははにかんで彼女の手に自分の手を添えた。彼女は不思議そうに彼を見上げた。
「僕は……君の、特別の存在に、なれるだろうか」
彼女はじっと男を見つめたまま、わずかに首を傾げた。
「私が頼れるのは、あなたしかいません」
男がまた笑う。それは嬉しそうにも、悲しそうにも見えた。
「……そうだね。そうではなくて……。いや……そういうことなのかも……」
最後のほうは独り言のように声が小さくなる。それから彼はまたフリージアへと目を落とし、黄色い花弁を、愛おしむようにそっと撫でた。撫でながら、そっと呟いた。
「僕は、もう一度……君と一緒に人生を歩んでも、いいだろうか」
「ああ、ちょうどよかった。君に聞こうと思っていたんだよ。この黄色の花はなんだい?」
彼女は男の隣へ歩み寄ると腰をかがめた。
「これはフリージアよ。……菖蒲水仙」
男が一瞬黙ってから頬をほころばせた。
「そうか……菖蒲水仙」
かみしめるように繰り返す。それから照れたようにまた笑った。
「たくさん花を植えてもらったはいいけど、全然詳しくなくてね。君がいてくれて助かるよ」
そういうと、男ははにかんで彼女の手に自分の手を添えた。彼女は不思議そうに彼を見上げた。
「僕は……君の、特別の存在に、なれるだろうか」
彼女はじっと男を見つめたまま、わずかに首を傾げた。
「私が頼れるのは、あなたしかいません」
男がまた笑う。それは嬉しそうにも、悲しそうにも見えた。
「……そうだね。そうではなくて……。いや……そういうことなのかも……」
最後のほうは独り言のように声が小さくなる。それから彼はまたフリージアへと目を落とし、黄色い花弁を、愛おしむようにそっと撫でた。撫でながら、そっと呟いた。
「僕は、もう一度……君と一緒に人生を歩んでも、いいだろうか」
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