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第6章
祐輔③
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「こんにちは。お花をお探しですか?」
店の中から、白いスカートの女性が出てきた。祐輔はかぶりを振って立ち去ろうとしたが、緑のスカートの女性のほうが、祐輔のほうを見て話し出したので、動くに動けなくなる。
「いえ、ここのお花が、ときどき綺麗に見えるっていう話をしていて」
「あっ、ときどきじゃなくて、いつもちゃんと、綺麗です」
慌てて言い繕う。緑の女性ははっとしたように口をつぐんだ。
「ごめんなさい、えっと、彼がね、色の区別がつきにくいみたいで。それで、そういう話に――」
いいながら白いスカートの女性に目を移して、彼女は言葉を飲み込んだ。
「? どうか、されました?」
「……あ、いえ、何でも。……ほら、この真っ赤なバラなんてね、茶色に見えるんですって……」
そういってバラへと手を伸ばす彼女の手を、白いスカートの女性がさっと掴んだ。
「危ないですよ。棘」
「え?」
「バラの花。茎に棘がついていますから。こちらのお花屋さんではね、お花のありのままをお届けするために、棘の処理は行っていないんです。あ、お花屋さんの西原さんの受け売りですけど」
そのとき、奥から西原さんらしき女性が出てきた。
「山吹さん! ごめんなさいね、あたしの代わりに接客してもらって。……あら、彼女にプレゼント?」
山吹と呼ばれた女性は笑顔で緑の女から手を離して、祐輔を見やった。
「そうなんですか?」
「えっ、あっ、いや、違います、えーと……」
勢いで否定してしまい、隣の女性に失礼だったかと少し後悔する。すると美織が、バラを一輪取り出した。
「君、最近よく見かけるよね?」
いつも遠くから見ているだけだったのに、それがばれていたことに心底驚く。
「いつもありがとうね。はい、これ。サービスよ」
目の前に差し出されたバラは、くすんだ茶色の茎に、より濃い茶色の花びらがついていた。
「えっと……あの、ありがとうございます……」
美織は透明のセロファンでくるくると花を包み、祐輔に渡した。同時に、そっと耳打ちする。
「可愛い彼女ね。プレゼントしてあげたら?」
「あ……はあ……」
間抜けな返事をしながら、祐輔は緑の女性のほうを見やった。ニコニコと、自分を見つめている。美織と山吹に見つめられ、祐輔は居心地が悪くなってバラの花を彼女に差し出した。
「あの……いる?」
我ながら、ひどい渡し方だ。
いった瞬間後悔したが、女性はぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう。とっても嬉しい」
そして手を伸ばすと、花ではなく、花を持つ祐輔の手を握った。
「私、萌葱。よろしくね」
「あ……長浜、祐輔」
ドギマギしながら固まっていると、女性ふたりの微笑まし気な視線を感じ、気恥ずかしくなる。萌葱が優しく手を引いた。
「祐輔くん。あなたともっと、お話したい」
店の中から、白いスカートの女性が出てきた。祐輔はかぶりを振って立ち去ろうとしたが、緑のスカートの女性のほうが、祐輔のほうを見て話し出したので、動くに動けなくなる。
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「あっ、ときどきじゃなくて、いつもちゃんと、綺麗です」
慌てて言い繕う。緑の女性ははっとしたように口をつぐんだ。
「ごめんなさい、えっと、彼がね、色の区別がつきにくいみたいで。それで、そういう話に――」
いいながら白いスカートの女性に目を移して、彼女は言葉を飲み込んだ。
「? どうか、されました?」
「……あ、いえ、何でも。……ほら、この真っ赤なバラなんてね、茶色に見えるんですって……」
そういってバラへと手を伸ばす彼女の手を、白いスカートの女性がさっと掴んだ。
「危ないですよ。棘」
「え?」
「バラの花。茎に棘がついていますから。こちらのお花屋さんではね、お花のありのままをお届けするために、棘の処理は行っていないんです。あ、お花屋さんの西原さんの受け売りですけど」
そのとき、奥から西原さんらしき女性が出てきた。
「山吹さん! ごめんなさいね、あたしの代わりに接客してもらって。……あら、彼女にプレゼント?」
山吹と呼ばれた女性は笑顔で緑の女から手を離して、祐輔を見やった。
「そうなんですか?」
「えっ、あっ、いや、違います、えーと……」
勢いで否定してしまい、隣の女性に失礼だったかと少し後悔する。すると美織が、バラを一輪取り出した。
「君、最近よく見かけるよね?」
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「いつもありがとうね。はい、これ。サービスよ」
目の前に差し出されたバラは、くすんだ茶色の茎に、より濃い茶色の花びらがついていた。
「えっと……あの、ありがとうございます……」
美織は透明のセロファンでくるくると花を包み、祐輔に渡した。同時に、そっと耳打ちする。
「可愛い彼女ね。プレゼントしてあげたら?」
「あ……はあ……」
間抜けな返事をしながら、祐輔は緑の女性のほうを見やった。ニコニコと、自分を見つめている。美織と山吹に見つめられ、祐輔は居心地が悪くなってバラの花を彼女に差し出した。
「あの……いる?」
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いった瞬間後悔したが、女性はぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう。とっても嬉しい」
そして手を伸ばすと、花ではなく、花を持つ祐輔の手を握った。
「私、萌葱。よろしくね」
「あ……長浜、祐輔」
ドギマギしながら固まっていると、女性ふたりの微笑まし気な視線を感じ、気恥ずかしくなる。萌葱が優しく手を引いた。
「祐輔くん。あなたともっと、お話したい」
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