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第8章
語られた真実①
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慎一の口から語られた真実は、にわかには信じがたいが、すべて納得のいく説明だった。
「ヴィフ・クルールという名は、僕がつけたんだ。色鮮やかな、個性豊かな君たちにふさわしいと思って。でも、その色がエネルギーの補充にまで関わっているとは思わなかった。僕たちは、その……思わぬ事故を避けるために、防護服を着て作業をしていたからね。人間にも色があるというのは山吹から聞いて知っていたけど、反対色の人間と触れ合うことでエネルギーの充填ができるなんて……君たちは思ったよりずっと、人間と関わる必要がある生き物だったんだね。研究所に閉じ込めていたときは、そんなことも知らずにずっとエナジーフィールドで厳密にエネルギー管理をしていた」
「なるほど、ヴィフ・クルールなんていうセンスのないフランス語で命名したのは、ほかでもない主任さんだったのね」
華が口を挟む。どうしても指摘したくて仕方ないようだ。
「そう。あとで聞いたら、ちょっと間違ったフランス語だったようだね。気取って無理をして、失敗したよ」
「華、だからそんなくだらないことは今はどうでもいいんだ。俺たちが訊きたいことは別にある。なぜ、俺たちにあんなことをした。悪さをする気はないのに、なぜ連れ戻そうとする。誰に話をすれば、俺たちは追われることなく自由に生きていけるんだ。ほかの仲間はどうなっている」
「碧、一気に訊きすぎ!」
「いいんだ、君たちには訊く権利がある」
慎一は落ち着いた様子で順に説明した。
「フューチャークリーチャー社は、君たちVCの生態を解明するために、多くの実験をした。中には君たちに苦痛を与えるものもあっただろう。僕は会社の指示のもと働いていたが、それでもVCに関するすべてを任される主任という立場だった。言い訳をするつもりはない、本当にひどいことを……してきたと思う。君たちVCは、人間に似ていて、人間と異なる存在だ。君たちのすべての能力を余すことなく把握することが、僕たち人間にとってもっとも大切だと考えた。それは、つまり……人間がVCに対して、優位に立てるのか。VCは敵対する存在になり得るのか。そして、完全にコントロールすることのできる存在なのか……」
「ほらね。人間は未知のものを発見すると、恐怖し、同時に支配しようとする。そういうことよ。友好関係を結ぼうとか、尊重しようとか、そんなことは毛頭考えない」
桔梗が吐き捨てるようにいう。慎一はうなずいた。
「桔梗。君はVCたちの中でも、いつも冷静で、観察するような目で僕たち人間を見ていたよね。実験しているのは僕たちのほうなのに、なぜか僕たちのほうが試されているような……君は、そんな気持ちにさせる人だった」
穏やかな目でそう語る慎一に、桔梗は居心地悪そうに視線を逸らした。
「それで? なぜ連れ戻そうとするの」
「それはもちろん、VCの存在を世間に知られないようにするためだよ。君たちVCの存在は社外秘だったからね。いや、社外秘どころか、同じFC社の中でも、ごくわずかの人間しか知らない。VCを管理していたのはあの研究所一か所だけだったし、研究に関わっていたのは僕を含めて十人足らずだ。それに、高原社長と、警備部門の人間。それだけだ」
「警備って、あの、山辺とか?」
哲平の質問に慎一がうなずく。
「そう、警備隊長は山辺さんだったね。幸い今まで、VCが逃げ出すとか研究員を襲うとかいう事故は発生せずにいたから、出番はなかっただろうけど。今回……工場の爆発で、たくさんVCが逃げ出したから、山辺さんを筆頭に十人ほどの体勢で、VC確保に動いているはずだ。危機管理マニュアルでは、そういうことになっていた」
「でも……黒いVCに、ふたり、殺された」
哲平がぽつりと呟く。残りの者がぎょっとして振り向いた。
「……え? 殺されたって? どういうこと?」
「ヴィフ・クルールという名は、僕がつけたんだ。色鮮やかな、個性豊かな君たちにふさわしいと思って。でも、その色がエネルギーの補充にまで関わっているとは思わなかった。僕たちは、その……思わぬ事故を避けるために、防護服を着て作業をしていたからね。人間にも色があるというのは山吹から聞いて知っていたけど、反対色の人間と触れ合うことでエネルギーの充填ができるなんて……君たちは思ったよりずっと、人間と関わる必要がある生き物だったんだね。研究所に閉じ込めていたときは、そんなことも知らずにずっとエナジーフィールドで厳密にエネルギー管理をしていた」
「なるほど、ヴィフ・クルールなんていうセンスのないフランス語で命名したのは、ほかでもない主任さんだったのね」
華が口を挟む。どうしても指摘したくて仕方ないようだ。
「そう。あとで聞いたら、ちょっと間違ったフランス語だったようだね。気取って無理をして、失敗したよ」
「華、だからそんなくだらないことは今はどうでもいいんだ。俺たちが訊きたいことは別にある。なぜ、俺たちにあんなことをした。悪さをする気はないのに、なぜ連れ戻そうとする。誰に話をすれば、俺たちは追われることなく自由に生きていけるんだ。ほかの仲間はどうなっている」
「碧、一気に訊きすぎ!」
「いいんだ、君たちには訊く権利がある」
慎一は落ち着いた様子で順に説明した。
「フューチャークリーチャー社は、君たちVCの生態を解明するために、多くの実験をした。中には君たちに苦痛を与えるものもあっただろう。僕は会社の指示のもと働いていたが、それでもVCに関するすべてを任される主任という立場だった。言い訳をするつもりはない、本当にひどいことを……してきたと思う。君たちVCは、人間に似ていて、人間と異なる存在だ。君たちのすべての能力を余すことなく把握することが、僕たち人間にとってもっとも大切だと考えた。それは、つまり……人間がVCに対して、優位に立てるのか。VCは敵対する存在になり得るのか。そして、完全にコントロールすることのできる存在なのか……」
「ほらね。人間は未知のものを発見すると、恐怖し、同時に支配しようとする。そういうことよ。友好関係を結ぼうとか、尊重しようとか、そんなことは毛頭考えない」
桔梗が吐き捨てるようにいう。慎一はうなずいた。
「桔梗。君はVCたちの中でも、いつも冷静で、観察するような目で僕たち人間を見ていたよね。実験しているのは僕たちのほうなのに、なぜか僕たちのほうが試されているような……君は、そんな気持ちにさせる人だった」
穏やかな目でそう語る慎一に、桔梗は居心地悪そうに視線を逸らした。
「それで? なぜ連れ戻そうとするの」
「それはもちろん、VCの存在を世間に知られないようにするためだよ。君たちVCの存在は社外秘だったからね。いや、社外秘どころか、同じFC社の中でも、ごくわずかの人間しか知らない。VCを管理していたのはあの研究所一か所だけだったし、研究に関わっていたのは僕を含めて十人足らずだ。それに、高原社長と、警備部門の人間。それだけだ」
「警備って、あの、山辺とか?」
哲平の質問に慎一がうなずく。
「そう、警備隊長は山辺さんだったね。幸い今まで、VCが逃げ出すとか研究員を襲うとかいう事故は発生せずにいたから、出番はなかっただろうけど。今回……工場の爆発で、たくさんVCが逃げ出したから、山辺さんを筆頭に十人ほどの体勢で、VC確保に動いているはずだ。危機管理マニュアルでは、そういうことになっていた」
「でも……黒いVCに、ふたり、殺された」
哲平がぽつりと呟く。残りの者がぎょっとして振り向いた。
「……え? 殺されたって? どういうこと?」
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