ヴィフ・クルール~拾った女の子が人間ではなかった件~(仮)

若山ゆう

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第8章

語られた真実②

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 朱里の問いに、哲平は公園での出来事を話した。

「とにかく、恐ろしかった。気体になって人間の中に入り込み、人間の内部で……人間態に、戻る。そうすると、どうなるか……。紺碧が初めて人間の耳に入り込んだときにね、ちょっとは想像したんだ。でも……実際に、起きるなんて。今でも信じられないくらいだ」
「墨は……有彩色のVCと、自分を虐げた研究所の人間を、憎んでいるといっていました」

 ずっと黙っていた山吹が口を開いた。

「無彩色の自分は処分決定が下され、色鮮やかなVCたちが歓迎されていることに、納得がいかないようでした。墨が触れると、すべての有彩色のVCはエネルギーを奪われ死に至る。私も実際に、それを目撃しました。触れるだけで、VCを殺せるのです。彼はそうやって、残りのVCも狩るつもりのようでした。そして同時に……自分を評価しなかった、人間たちも……」
「……なるほどね。それでよくわかったわ。VCたちは、互いに触れ合うと干渉して色が滲むわよね。有彩色同士なら、減法混色のとおりに混ざり合い、力を奪い合うことはない。でも、相手が黒になると……これは、黒に吸収されて色を失ってしまう。色どころか、エネルギーを……吸収されてしまうのね……」
「ちょっと待って、ゲンポウなんとかって、何?」

 ひとり納得した様子の華に、朱里が言葉を挟んだ。

「減法混色。えーとね、まあ簡単にいうと、絵の具を混ぜるときと同じってことよ。黒と混ざっても、量が多くなければ元の色が残るけど、VCの場合は、完全に黒に、吸収されちゃうみたいね」

 山吹が、慎一のほうを振り返った。

「慎一さんは、そのことを知っていたの?」

 慎一は力なく首を横に振った。

「いや……。VCの研究は、まだ始まったばかりだった。まだVC単体の能力を調べる段階だったから、VC同士を触れ合わせることは、意識して避けていた。だから……知らなかった。ただ、黒のVCが異色だということは皆わかっていた。訓練のときも、ほかのVCよりひどく攻撃的で反抗的だった。エネルギーを与えても、体が発光することもない。だから……会社の判断として、墨は……近いうちに、処分されることになっていた」

 途端に桔梗が嘲笑にも似た笑い声を漏らした。

「処分、って。会社の判断、って……。しょせん人間ね。やっぱり信用ならない。わかってるわよ、まるで仕方なかったみたいな言い方をしているけど、浅川主任、その意思決定にはあなただって関わっているわけよね?」

 責める意図を隠しもせずに、桔梗が語気を強めた。

「殺された人間ふたりには同情するけど、私には、墨の気持ちもわかる」
「桔梗……!」

 朱里がたしなめるのも聞かず、桔梗は続けた。

「研究所の人間は、私たちを家畜以下としか見ていなかった。警備の黒服もそう。私たちは生き物ではない、ただの研究対象。研究の意義があるうちは生かされて、都合が悪くなったら処分される。なら、同じことを私たちが人間にしてあげましょうか? 優しい人間、理解ある人間だけ残して、あとは処分。私たちVCに反旗を翻す前に、さっさと処分――」
「桔梗! それ以上はやめろ、洸太郎が聞いてるんだぞ」

 止めたのは、ずっと黙っていた蘇比だった。ただひとり、小学生の洸太郎は、ずっと背中を丸めて蘇比に寄り添うようにして口を引き結んでいた。その手は蘇比の服の端を、遠慮がちに、しかしきつく握りしめている。それをきっかけにしたように、蘇比が話し出した。

「主任さんよぉ。俺自身は、墨のやったことも、桔梗の言い分も、理解はできる。だが、それがすべてではない。……あんただけだったよな? 研究所で、俺たちを少しばかり、対等に扱っていたのは」

 慎一が目をあげた。
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