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第10章
追跡②
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「洸太郎! いるか!」
突然響いた大きなだみ声に、美織と洸太郎はびくんと体を震わせて振り返った。
「ええ⁉ どうして蘇比がいるの⁉」
驚く洸太郎を無視して、蘇比は彼の背負うランドセルをひったくった。
「電話、借りるぞ! 墨が祐輔を連れて行った。山吹を呼ぶ!」
子供用のスマホに登録してある山吹のボタンを押す。
「山吹か⁉ 墨が現れた。ナントカ西原っていう花屋の前だ。祐輔を連れて行った、今萌葱が追ってる! 急いでくれ!」
そして電話を放ると、注意深く花屋を出てすぐさま空高く昇る。あたりを見回すと、遠ざかっていくバスの屋根に鮮やかな緑の液体が張り付いていた。もう一度店内へ戻り、電話越しに叫ぶ。
「宮下公園行きのバスに乗った。どこに行く気かはわからねえ、俺も追う!」
きょとんとしている洸太郎の腕を掴み、蘇比は早口に尋ねた。
「宮下公園ってのは、遠いのか⁉」
「えっと、僕が降りたバス停の、五個先だよ。わりと大きい公園だから、すぐわかると思うけど、途中で降りちゃったら、細い道がいりくんでるから人目にはつきにくいかも……」
「それはまずいな……」
チッと舌打ちをすると、蘇比はスマホを持って身を翻した。
「俺は祐輔と萌葱を追う。おまえはさっさと家に帰ってろ! 電話、借りてくぞ!」
「え……ええっ⁉ それは無茶だよ、蘇比、僕がいないとダメじゃん」
「うるせえ、おまえまで危険に曝すわけにはいかねえんだよ。それにおまえの足じゃ奴らを見失っちまう。とにかく応援は呼んだから大丈夫だ、おまえは帰ってろ!」
店を飛び出そうとする蘇比の手を、洸太郎の小さな手が咄嗟に掴んだ。
「待って! 置いていかないで! 独りにしないで……!」
振り返った蘇比の目に映ったのは、瞳を揺らしながら震える小さな洸太郎の姿だった。蘇比は足を止め、洸太郎のほうへ向き直った。笑顔で、背の低い洸太郎の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「大丈夫だ。絶対戻ってくるから。おまえは安心して待ってろ、いいな?」
返事のできない洸太郎を置いて、今度こそ外へ出た。もう一度空へ舞い上がった瞬間、かしんと音がして地面に電話が転がる。
『くそっ、人間態じゃないと物が持てないのは不便だな……』
一瞬迷ったが、今は彼らを見失わないほうが大事だ。蘇比は高度を上げてバスを追った。
突然響いた大きなだみ声に、美織と洸太郎はびくんと体を震わせて振り返った。
「ええ⁉ どうして蘇比がいるの⁉」
驚く洸太郎を無視して、蘇比は彼の背負うランドセルをひったくった。
「電話、借りるぞ! 墨が祐輔を連れて行った。山吹を呼ぶ!」
子供用のスマホに登録してある山吹のボタンを押す。
「山吹か⁉ 墨が現れた。ナントカ西原っていう花屋の前だ。祐輔を連れて行った、今萌葱が追ってる! 急いでくれ!」
そして電話を放ると、注意深く花屋を出てすぐさま空高く昇る。あたりを見回すと、遠ざかっていくバスの屋根に鮮やかな緑の液体が張り付いていた。もう一度店内へ戻り、電話越しに叫ぶ。
「宮下公園行きのバスに乗った。どこに行く気かはわからねえ、俺も追う!」
きょとんとしている洸太郎の腕を掴み、蘇比は早口に尋ねた。
「宮下公園ってのは、遠いのか⁉」
「えっと、僕が降りたバス停の、五個先だよ。わりと大きい公園だから、すぐわかると思うけど、途中で降りちゃったら、細い道がいりくんでるから人目にはつきにくいかも……」
「それはまずいな……」
チッと舌打ちをすると、蘇比はスマホを持って身を翻した。
「俺は祐輔と萌葱を追う。おまえはさっさと家に帰ってろ! 電話、借りてくぞ!」
「え……ええっ⁉ それは無茶だよ、蘇比、僕がいないとダメじゃん」
「うるせえ、おまえまで危険に曝すわけにはいかねえんだよ。それにおまえの足じゃ奴らを見失っちまう。とにかく応援は呼んだから大丈夫だ、おまえは帰ってろ!」
店を飛び出そうとする蘇比の手を、洸太郎の小さな手が咄嗟に掴んだ。
「待って! 置いていかないで! 独りにしないで……!」
振り返った蘇比の目に映ったのは、瞳を揺らしながら震える小さな洸太郎の姿だった。蘇比は足を止め、洸太郎のほうへ向き直った。笑顔で、背の低い洸太郎の頭をわしゃわしゃと撫でる。
「大丈夫だ。絶対戻ってくるから。おまえは安心して待ってろ、いいな?」
返事のできない洸太郎を置いて、今度こそ外へ出た。もう一度空へ舞い上がった瞬間、かしんと音がして地面に電話が転がる。
『くそっ、人間態じゃないと物が持てないのは不便だな……』
一瞬迷ったが、今は彼らを見失わないほうが大事だ。蘇比は高度を上げてバスを追った。
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