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曇る花びら
しおりを挟む蝉の声が街に響く。
太陽を避けるように流れる雲。陽光に舞い上がる湿気が、藍川咲良の眼鏡を曇らせた。
雨が止んだかと思えば。
ガラスのレンズは湿度の高い夏の街を白く染める。何度拭いても曇る世界に咲良は肩を落とした。
「うわ、凄いね?」
駅前のバス停。待ち合わせ時間に少し遅れて到着した山下恭二は、咲良の白い眼鏡の前で手を振った。その手をペシっと叩き落とす咲良。
「遅いよ」
「ごめん、ごめん、咲ちゃん」
「もう、暑くて喉渇いちゃったじゃん。ランド行く前に何処かで休まない?」
「いいよ、じゃあミスドでも寄ろうか?」
「うん」
藍のワンピーススカート。首筋を伝う汗が白いシャツに滲む。咲良は眼鏡を外すと、ハンカチでレンズを拭いた。ぼやける視界。目を細めた咲良は恭二の長い髪を見上げる。そんな彼女の手をぎゅっと握る彼。ニコッと笑った恭二は、咲良を導くように歩き出した。
駅ビルの横。広い窓に反射する眩い陽射し。歩道に並ぶ花壇でオレンジのインパチェンスが僅かな風に揺れている。恭二の手に引かれるままに進む咲良。陽光に煌めく花を眺めようと首を傾げた。
白い世界。曇る花びら。それでも鮮やかな橙色。暑い街を涼しく彩る花に咲良は心を和ませた。
「……ああ、そうか。誰かが花壇に水をやったから、この辺こんなにジメジメしてるんだ」
ボソリと呟く恭二。よろけた咲良は白く曇るレンズを彼の顔に向けた。
「え、そうなの?」
「いや、たぶんだけど。だって、地面が濡れてるしさ」
恭二の手を握る咲良の手のひらが汗ばむ。右手でそっと眼鏡を外す彼女。ぼやけた視界でオレンジに揺れる花壇を見据える。
「あーあ、早く涼しくならないかな……」
「はは、安心して咲ちゃん、これからもっと暑くなるよ?」
恭二の笑い声。咲良は眼鏡を外したまま、彼の顔を睨んだ。
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