一京年先の未来

忍野木しか

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一京年先の未来

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 一京年先の未来を想像した少女は鏡の国に迷い込む。
 無限に続く鏡の中の街灯。幾重にも重なる人々の笑顔。
 光の跳ねる道を駆ける少女は永遠と走る自分の姿を鏡の向こうに見る。
 雲の鏡で少女を見下ろす白い猫。ガラスの瞳に映る自分。
 壁の鏡に飛び移った猫は少女に問う。
「本物の君はどれだい?」
 少女は答えられなかった。白い猫の向こうで困惑する少女。その向こうの白い猫に見つめられる自分。
 少女の想像を超えた鏡の国で少女は未来を想像した。

 一京年先の未来を想像した少女は水の山に迷い込む。
 天高く流れる水の谷の小川。生い茂る透き通った木々の青。
 光を通す岩肌を駆ける少女は青空の下の水の連峰に歓声を上げる。
 水の洞窟で少女を見つめる白い猫。水の瞳に映る自分。
 水の枝に飛び移った猫は少女に問う。
「空は山よりも青いかい?」
 少女は答えられなかった。白い猫を追って水の山を泳ぐ少女。頂を流れる雲に座る白い猫。
 少女の想像を超えた水の山で少女は未来を想像した。

 一京年先の未来を想像した少女は過去の島に迷い込む。
 記憶にある浜辺の貝殻の音。広い海の向こうを懐かしがる赤子。
 過去に遡る海岸を駆ける少女は昇る夕陽に赤く染まる波を追う。
 縮んだ体で少女を見上げる白い猫。記憶の瞳に映る自分。
 いつかの母のお腹に抱きついた猫は少女に問う。
「時間は常に一定か?」
 少女は答えられなかった。白い猫をあやす母猫の頭を撫でる少女。消えた白い猫に涙する子猫。
 少女の想像を超えた過去の島で少女は未来を想像した。
 
 一京年先の未来を想像した少女は明日の世界に迷い込む。
 母の作る朝食の匂い。友達と語る未来の世界の自分たち。
 青空の下でグラウンドを駆ける少女は家族で囲う夕飯の味に喉を鳴らす。
 少女の腕に抱かれる白い猫。愛しい瞳に映る自分。
 鳴き声をあげて肩に飛び移った猫は少女に問う。
「一京年先の未来に何がある?」
 少女は答えられなかった。少女の頬をくすぐる白い猫の頬。まだ見ぬ明日の自分。
 少女の想像を超えられない明日の世界で少女は未来を想像する。
 
 
 
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