水の結晶

忍野木しか

文字の大きさ
1 / 1

水の結晶

しおりを挟む

 梅雨明けの公園の砂場。
 水の宮殿が砂上にぷかりと佇んでいた。
 蟻が、水陰に淡く揺らめく陽の下で、涼しそうに花の種を運んでいる。
 田中颯太はシャベルを握ったまま不思議そうに宮殿を見つめた。お母さんを呼ぼうかと思ったが、何処にも見当たらない。
 水の宮殿は凸凹と起伏の激しい砂の上で、悠然と門を開いた。中は空洞だ。ちょうどしゃがんだ颯太ほどの高さで、シャベルを投げ捨てた颯太は頭から水の宮殿に入ってみた。
 宮殿の奥へ進むと、ゆらめく天井は立ち上がれるくらいの高さになる。豪奢な水壁の向こうでは、公園を囲むイヌツゲの葉がキラキラと光った。上を見上げると流れるような水陰が太陽をシャンデリアの様に煌めかせた。
 涼しいなぁ。
 颯太は砂の上で横になる。ふと綺麗な水の結晶を見つけた。雄太はそれを手に取ってじっくり眺めると、ポケットに入れた。後でお母さんに見せようと思ったのだ。
 ポタポタと、み空色の高天井から水が垂れる。ひんやりと身体が濡れたが、颯太は気にならなかった。そのまま涼しさの中で、すやすやと眠りに落ちていった。
 目が覚めると白い天井が見えた。颯太はいつの間にか病院のベットで眠っていたのだ。
 お父さんとお母さんが心配そうに颯太を見つめている。
 お尻に違和感があった。なんだろうと手を伸ばすと、綺麗な水晶がポケットの入っていた。
 颯太は「水の結晶だよ」とお母さんに水晶を手渡す。
 何だか頭が重たい。
 颯太は水の宮殿の涼しさを思い出しながら、もう一度眠りについた。
 
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

いまさら謝罪など

あかね
ファンタジー
殿下。謝罪したところでもう遅いのです。

冷遇妃マリアベルの監視報告書

Mag_Mel
ファンタジー
シルフィード王国に敗戦国ソラリから献上されたのは、"太陽の姫"と讃えられた妹ではなく、悪女と噂される姉、マリアベル。 第一王子の四番目の妃として迎えられた彼女は、王宮の片隅に追いやられ、嘲笑と陰湿な仕打ちに晒され続けていた。 そんな折、「王家の影」は第三王子セドリックよりマリアベルの監視業務を命じられる。年若い影が記す報告書には、ただ静かに耐え続け、死を待つかのように振舞うひとりの女の姿があった。 王位継承争いと策謀が渦巻く王宮で、冷遇妃の運命は思わぬ方向へと狂い始める――。 (小説家になろう様にも投稿しています)

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

【完結】精霊に選ばれなかった私は…

まりぃべる
ファンタジー
ここダロックフェイ国では、5歳になると精霊の森へ行く。精霊に選んでもらえれば、将来有望だ。 しかし、キャロル=マフェソン辺境伯爵令嬢は、精霊に選んでもらえなかった。 選ばれた者は、王立学院で将来国の為になるべく通う。 選ばれなかった者は、教会の学校で一般教養を学ぶ。 貴族なら、より高い地位を狙うのがステータスであるが…? ☆世界観は、緩いですのでそこのところご理解のうえ、お読み下さるとありがたいです。

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

とある令嬢の断罪劇

古堂 素央
ファンタジー
本当に裁かれるべきだったのは誰? 時を超え、役どころを変え、それぞれの因果は巡りゆく。 とある令嬢の断罪にまつわる、嘘と真実の物語。

処理中です...