『悪の組織の闇バイト問題』

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「悪の組織の闇バイトとは?」

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 数年前より、この日本には悪の組織「ダークネス・ノーブリティ(闇の貴族)」達が裏で蠢いている。紳士服やドレスに身を包んだ怪人達が、人間を襲ったり、人間を怪人に変えたりする恐ろしい組織である。一応、ヒーローと呼ばれる存在が戦っているのだが、一番の問題はこの組織で働くような若者が沢山いるらしいということ。高い給料で釣り、組織の手先へと変える。そんな悪の組織ダークネス・ノーブリティのバイトをしているという、一人の青年がいる。
 八木田(やぎた・仮名)、二十六歳、組織以外のバイトはやっていない。今日も今日とて安アパートでゴロゴロしていた。すると、スマホの黒いアプリに通知が来る。そのメッセージに書かれていたのは、出勤要請と記されていた。
「お、出勤要請か……さて、行きますか」
 畳から起き上がり、リュックを背負ってアパートから出て、外に停めてあった自転車に乗り、職場ことダークネス・ノーブリティの支部へと向かう八木田。この日は朝から日差しが強い日で、汗をかきながら自転車でしばらく進んでいくと、そこは、単なる雑居ビル。だが、そこはダークネス・ノーブリティの支部があるビルである。ビルの地下へと進んでいくと、仰々しい扉があった。それをためらいなく開けると、そこには雑居ビルの地下とは思えないほどの広さを持った部屋があった。そこには、紳士や貴婦人のような衣装を身につけた異形の怪人達がいた。
「おはようございます」
 そう挨拶をした後、更衣室へと入る。リュックを更衣室のロッカーに入れ、服を全て脱ぎ、専用の黒いビキニパンツを履き、ロッカーからカードを取り出した。そのカードには『ヤギ男爵』と名前と顔が書かれていた。
「さて、今日も怪人になるのか……」
 更衣室の隣にある「バイオスーツ室」なる部屋の扉を開ける八木田。扉の中には、まるで棺のようなカプセルが大量にあった。その中の一つにカードを入れると、カプセルが開く。その中は、人型のくぼみがあり、その中に仰向けに入ると、腕や足、胴や首を拘束される。
 そしてカプセルの蓋が閉まると、中に黒い光沢のある粘性のある液体がゴプッ! ゴプッ! と音を立てて出てきて、まるで意思を持つかのように拘束されている八木田に向かって行き包み込む。ぐちゅ、くちゃ、ぬちゅといった液体の音と、そして、八木田が入っている液体ごと左右から挟まれプレスされると、
「グッ……ぐフゥ、ウウゥ、ふぃぅう……」
その中で苦しそうな声をあげる八木田。プシューッと音を立てて中から出てきたのは、あの時子どもに契約を持ちかけた、あの異様な姿へと変貌を遂げた、頭がヤギの怪人だった。拘束が解かれ、カプセルの中から出てきた八木田ことヤギ男爵は、ゼェゼェ言っていた。
「全く……バイオスーツを纏う時は、息を止めていろだなんて……ホント、辛いわー……がっ」
 ヤギ男爵こと八木田はそのままバイオスーツ室を出ようとするが、五十センチ以上もある長いシルクハットがドアからはみ出た部分にぶつかり、ふらついてしまう。
「全く、なんで男爵はこんなに長いシルクハットなんだよ……」
 そう愚痴りながらバランスを取り、かがみながらドアをくぐってバイオスーツ室から出た。その様子を、遠目から見ている人物がいた。
「おやおやあ? 帽子が引っかかるなんて、男爵は相変わらず不便ですねえ」
 しゅるしゅると音を立ててヤギ男爵に近づいてきたのは、下半身が蛇になっているヤギ男爵と同じくシルクハットにマントにタキシードの蛇だが……シルクハットはヤギ男爵のように長くなく、体全体が蛇で上半身に人の腕がついた異形であった。
 
「……蛇子爵……!」
「男爵は滑稽な姿で契約業務が基本のバイト風情……組織の戦力となる子爵以降とは大違いですねぇ」
「ぐっ……」
「それともうひとつあなたに教えておきましょう……またいくらかの男爵が、戦闘業務に駆り出されるらしいですよ。いや~、バイト君は辛いですねえ。あなたも戦闘に駆り出されたくなかったら、精々頑張ることですねえ~」
 言いたいことだけ言って、ヘビ子爵はヤギ男爵から離れていった。ヤギ男爵こと八木田は、握りこぶしをきつく握りながら立ち尽くした後、上司ことドラゴン伯爵の所へ向かっていった。


 ダークネス・ノーブリティは階級を西洋の貴族階級で決めている。一番上から公爵・侯爵・伯爵・子爵・男爵の順に階級が決まっている。(公爵の上に大公というトップもいるようだが)普通の会社で例えるなら、公爵は上級役員、侯爵は正社員、伯爵は地域社員といった具合に決まっており、子爵は契約社員で、男爵はアルバイトやパートといった感じになっている。
 八木田は男爵であり、新たな闇の貴族を生み出す契約業務を請け負っている。契約書を持ち、契約書が選んだ人間を契約させ、伯爵以上の怪人を生み出す業務をしている。だが……契約ノルマを達成できない日々が続けば、戦闘員として駆り出され、生きるか死ぬかの業務をさせられる。男爵階級は所詮使い捨てのバイトでしかないのだ。子爵以上になれば、組織の経営に携わることができるのだが……なれるのは男爵階級でかなりの成績を挙げた者だけである。
 元々は一般人である彼らを、怪人たらしめているのが「バイオスーツ」と呼ばれる特殊なスーツである。それはダークネス・ノーブリティが生み出した、着れば誰でも怪人になれるスーツである。特殊なバイオ素材で作られたそのスーツは、たとえ常人だろうと怪人となれる力を持つコトができる。
スーツが支給されるのは伯爵までで、伯爵でスーツを着ているのもごくわずかである。伯爵以上の怪人達は、どういう力かわからないが契約書の力で体や思考などが変質し、強力な力を得ているらしい。
だが、このスーツも階級で能力などに大きな開きがあるのだ。闇の貴族と自称するだけあって、男はシルクハットにマントにタキシードを着せられ、カラスや狼といった動物の体を組み合わせられる。その動物の力が入る部分の多さが階級によって変わり、男爵階級は頭の部分だけしか動物にならず、それ以外は人型である。子爵からようやく全身が動物となり、その上で紳士服を着させられるという異形になる。その上、男爵は非常に長いシルクハットを被らされる。なぜかというと、身分の低いヤツは見栄っ張りだからとのこと。
それ故、男爵と子爵は大きな力の差があり、男爵は前にも述べたが契約業務や使い捨ての戦闘員にしかなれないのだ。その上……男爵階級のバイオスーツには、様々な不便があるのだ。ここで八木田が着たヤギ男爵のバイオスーツの不便を本人の観察をした結果を紹介する。
「あああ……あづいぃ……」
 ヤギ男爵のバイオスーツを着て、契約に出たヤギ男爵こと八木田。だが、その足取りは重く、長いシルクハットを前に向け、項垂れながら歩いていた。こうなっているのは、彼のバイオスーツに問題があるのだ。
「蒸れる……蒸れるよぉ……」
 男爵階級のバイオスーツは、人の表面を固めた粘土で覆っているようなモノであり、機能も口が本物のように動いたり、身体能力の向上とある程度ダメージを受けても崩れない紳士服と顔以外は殆ど機能性を度外視されている。つまり、通気性といったスーツを着る中の人のことは殆ど考えられていないのである。故に、中の八木田は蒸れて汗だくになっているのである。その上調べた結果では、男爵階級のバイオスーツは暑い日だけではなく、寒い日もスーツの中は専用のビキニパンツだけなので寒いという、暑い日も寒い日も辛いという代物である。子爵以上のスーツは快適との情報がある。
 そして、このスーツにはさらなる欠点がある。昼頃になり、昼飯を食べる時間がやってくる。無論、スーツを着た怪人姿ではコンビニなど利用出来ないため、一人一人にドローンで弁当が届けられるのである。だが、バイオスーツを着ている人間には、弁当を食べるのも一苦労である。
「ぐっ……相変わらず、手袋だと箸が持ちづらいし……それに、食いづらい!」
 割り箸でご飯をつかみ、口へと運ぼうとするが……ヤギの口は長く、その奥にある人間の口に中々届かない。そして、やっと口の中へと運び、もぐもぐ食べる。そして、もう一度ご飯を割り箸で掴もうとした瞬間……バキッと音を立てて割り箸は折れてしまった。身体能力が強化されているため、力加減を誤って折ってしまったようである。フリーズする八木田ことヤギ男爵。しばらくして、プルプルと体を震わせ、弁当をベンチに置いて立ち上がると、叫び始めた。
「あああああああっ! なんで男爵は仕事が終わるまでスーツを脱げないんだよおおおおおっ! 殆ど裸の上にスーツ着させられて、汗だくだくになっても脱げないし、頭がヤギの頭で覆われているから弁当もマトモに食えねー! つーかなんで闇の貴族だからってシルクハットとかマントとか燕尾服なの!? その上男爵は、なんでこんなシルクハットが長いんだよ!? おかげであっちこっちにハットをぶつけて何度もよろめくし……ああああっ! 脱ぎたい! 今すぐこのスーツ脱ぎたいぃぃぃっ!」
 スーツが蒸れて暑いこと、弁当が上手く食えないこと、そして契約が取れないことといったイライラが積み重なり、暴れてスーツを脱ごうとするヤギ男爵こと八木田。だが脱ぐことはできない。
「せめて……コイツだけでも……! ぎいいいっ!」
 筒の部分が極端に長いシルクハットだけでも脱ごうと、シルクハットのつばを両手で持って脱ごうとするが、がっちり固定されているためヤギの頭から離れることはなかった。しかし、八木田にとってはあちこちぶつけて本気で嫌がっていたため、シルクハットだけでも脱ごうと一時間以上も格闘していた。
 結局、その日も契約のノルマを達成できず、支部に戻ってきたヤギ男爵。戻ってきて早々、数人の男爵と共に呼び出しを受けた。
「ま、まさか……」
 巨大な玉座に座るドラゴン伯爵の前にひざまずくヤギ男爵を含めた数人の男爵。その中には、ヤギ男爵と口論になっていたカラス男爵とオオカミ男爵もいる。そして、ドラゴン伯爵は重々しく口を開く。
「お前達の契約件数は、他の男爵達と比べてあまりに低い……通告だ、お前達は戦闘員としてヒーロー達との戦闘任務に就いてもらう、よいな!」
 恐ろしい声でそう語ったドラゴン伯爵に頭を下げる男爵達。そして、男爵達は戦慄した後「はっ、はぁーっ! 必ずや!」としか言えなかった。上席の怪人たちから離れた後、八木田はカラス男爵やオオカミ男爵に愚痴を言う。
「ああ……ついに来てしまったな、戦闘員行き……」
「所詮俺達は、舞い散る木の葉の一枚一枚……」
「……ヒーローに殺されないと良いよな、俺達……」
「「「……はぁ~……」」」
 八木田達はバイオスーツを溶かす液体を出すシャワー室へと入り、バイオスーツを溶かした後、家へと帰って行った。
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