6 / 28
5. 決別
しおりを挟む前線に来てから一ヶ月が経った。
此処に来た当初は周囲からは好奇、睥睨、嘲笑、侮蔑の目に晒された。
此処に来れば何かが変わると思っていたが一週間経っても周囲の目は変わることが無かった。騎士団に所属する者達は貴族出身が多く矜持だけは無駄に高い。
その為、やれ何故女がやら魔力だけは化け物だの好き勝手噂された。
本当は前線に来たら剣術を教えて貰おうと思っていたが辞めた。
私の身柄は魔術師団預かりとなっている。その為、此処で私が剣術を覚えたい等と言えば女の身で騎士団を軽んじているだとか魔術師としての誇りがない奴などと言われて波風が立つのが容易に予測出来た。
だが、それも二週間ほど前から変わった。
「ベラさん、こんな所にいたんですね」
「ベラちゃんっ、その髪っ!?」
「やっぱりこの髪…似合わないかな?」
「いいや、スッキリしていいよ!」
「戦場で髪が長いと危ないですしね」
今から二週間ほど前、傭兵として集められた平民の数多くの男性たちが前線の駐屯地へとやって来た。
今言葉を交わした者達は傭兵の方達だ。
私は魔術師団のテントを離れ傭兵として志願して来た人達を一目見ようと魔術師団のローブを纏いフードを被って物陰から隠れて観察していた。
「何だァ?魔術師団のエリートさんがこんな所で何してやがんですか」
声をかけられて後ろを振り返ると熊のような大男が立っていた。その後ろにいた複数人の男達も訝しげに此方を見ている。
私は慌ててフードを深く被り陰りを作って顔を隠す。
「いえ、少し様子を見てただけなんです」
「様子見だぁ?」
少し低めに声を発する。
目の前の男は私の言葉では納得出来なかったのか腰を曲げ訝しげな顔を寄せて来る。
何となしにその男の顔をチラリと視線を上げて見遣ると男と視線がかち合う。その瞬間男は驚愕の表情に変わり私は慌てて顔を逸らすも遅かった。
「お前…女か!?」
フードを掴んで顔を隠す腕を大きな手に掴まれフードから引き剥がされる。その反動でパサリとフードが脱げ顔貌が晒される。
慌てて掴まれていない方の手でフードを被り直すも私が女である事に気付いた男達はどよめいた。
「何で女が此処に!?」
「え、しかも魔術師団!?」
──女が戦場で役に立つかよ。
──努力しなくても膨大な魔力さえあれば魔術師団に入れるんだからいいよな。
──女なんて此処では慰める事しか役に立つことねえんだから逆らうんじゃねえよ。
──どうせ戦が始まれば安全な場所で高みの見物だろ。
──女に、それも初めから膨大な魔力を持ってる奴に俺達の大変さなんか分かるわけない。
散々言われて来た言葉が頭の中で反芻する。
どうせ、彼等にも同じような事を言われるのだろう。そう思い目を瞑って身構える。
「こんな所危ないだろっ」
「あんた女の身で何でこんな危険な場所にいるんだ」
「見たところ俺の娘とそう変わらない歳頃の嬢ちゃんじゃないか」
「上層部の奴らもこんな歳頃の娘を死ぬ可能性がある戦場に送るなんて何を考えてるんだ!」
傭兵の方々は口々に陳ずる。
皆が口にするのは女だから出来ないとか魔力があるから楽に上に行けるとか蔑んだり妬む言葉ではなく、私の身を案じてくれる言葉に思わず安堵して小さく笑みが零れる。
「ありがとう。私の身を案じてくれて」
私は笑顔で御礼を言うと笑顔で御礼を言うことじゃないと怒られた。
初対面なのに容赦ない。だけど、彼等が本当に初対面にも関わらず私の身を案じてくれている事が分かる。それから度々傭兵の方達がいる場所へと足を運ぶようになった。
彼等といると楽しくて笑顔が増えたと自分でも思う。彼等の我流ではあるものの念願だった剣術を教えて貰ったり、言葉遣いに気を使うこともなく、時には一緒に晩御飯となる肉を探して森の中に入り獣を狩ったり、獣の捌き方を教えて貰って皆で一緒に宴のような晩御飯を食べたりした。
一緒にいた時間は二週間と短い期間だったけどとても濃い時間だったと思う。
だけど、それも明日で終わる。
長年続いた隣国のディアフォーネ国との睨み合いが遂に終わり刃を混じえる時が来たのだ。
フラガーデニア国からも宮廷魔術師団や騎士団団長率いる聖騎士達も一週間前にこの地に到着した。そして、今日は更に同盟を結んでいるアリスティーヌ国からも援軍が来るとのこと。
私はこれから始まる生死を分ける戦いに挑む為完全に過去の自分との決別として髪を短く切った。此処に来て直ぐにヴェラ・バルリエとは決別しベラと名乗っていた。だけど、この髪だけは切ることが出来なかった。
真っ黒の髪に赤い瞳。
ヴェラ・バルリエは子供のころからこの容姿が大嫌いだった。黒い髪は魔力量を表し赤い瞳は禍を招くと言われていた。それ故に「化け物」と呼ばれ私を見るなり何もしてないのに人々は怯えた。
「勿体ねえな。綺麗な髪だったのに」
「ベーアンさん!いいの。漸くこの髪とも決別する決心がついたから」
傭兵達の中で一番最初に出会った熊のような大柄の男が大きな手で私の頭に手を置きワシワシと乱雑に撫でる。
私が笑顔でそう言うと「そうか」と一言だけ呟いて笑った。
彼等は私の髪や瞳を見ても無意味に忌み嫌ったり怖がらず私という人となりを見て接してくれた。
前世の記憶を取り戻す前の私は髪を伸ばし自分の目でこの髪色を確認することで私が誰かに近付きたいと願うことでその人に迷惑をかけるのだと戒めとして髪を括る事もせずに後ろに流していた。
「周りの言うことになど耳を貸すな」小さい頃そう言って私という内面を見てくれているのだと思っていた殿下にも本当は「化け物」だと思われていたのだと知って本当は心のどこかで見えない棘が刺さっていたのだと思う。
だから、今までこの髪だけは切ることが出来なかった。だけど、こんな私でも受け入れてくれる人がいることを知った。彼等と出会って私も普通の「人」として生きていいんだと今までヴェラとして生きてきた"私"は漸く決心することが出来た。
今日でこの15年間生きてきた"ヴェラ"とは本当にお別れだ。
これからはただの"ベラ"として生きて行く。そして、前世からの私の夢を叶える為に私は明日、戦場に立つ。
なのに…まさか、あんな事になるなんて思いもしなかった───────
0
あなたにおすすめの小説
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
メインをはれない私は、普通に令嬢やってます
かぜかおる
ファンタジー
ヒロインが引き取られてきたことで、自分がラノベの悪役令嬢だったことに気が付いたシルヴェール
けど、メインをはれるだけの実力はないや・・・
だから、この世界での普通の令嬢になります!
↑本文と大分テンションの違う説明になってます・・・
主人公の恋敵として夫に処刑される王妃として転生した私は夫になる男との結婚を阻止します
白雪の雫
ファンタジー
突然ですが質問です。
あなたは【真実の愛】を信じますか?
そう聞かれたら私は『いいえ!』『No!』と答える。
だって・・・そうでしょ?
ジュリアーノ王太子の(名目上の)父親である若かりし頃の陛下曰く「私と彼女は真実の愛で結ばれている」という何が何だか訳の分からない理屈で、婚約者だった大臣の姫ではなく平民の女を妃にしたのよ!?
それだけではない。
何と平民から王妃になった女は庭師と不倫して不義の子を儲け、その不義の子ことジュリアーノは陛下が側室にも成れない身分の低い女が産んだ息子のユーリアを後宮に入れて妃のように扱っているのよーーーっ!!!
私とジュリアーノの結婚は王太子の後見になって欲しいと陛下から土下座をされてまで請われたもの。
それなのに・・・ジュリアーノは私を後宮の片隅に追いやりユーリアと毎晩「アッー!」をしている。
しかも!
ジュリアーノはユーリアと「アッー!」をするにしてもベルフィーネという存在が邪魔という理由だけで、正式な王太子妃である私を車裂きの刑にしやがるのよ!!!
マジかーーーっ!!!
前世は腐女子であるが会社では働く女性向けの商品開発に携わっていた私は【夢色の恋人達】というBLゲームの、悪役と位置づけられている王太子妃のベルフィーネに転生していたのよーーーっ!!!
思い付きで書いたので、ガバガバ設定+矛盾がある+ご都合主義。
世界観、建築物や衣装等は古代ギリシャ・ローマ神話、古代バビロニアをベースにしたファンタジー、ベルフィーネの一人称は『私』と書いて『わたくし』です。
いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
婚約破棄で悪役令嬢を辞めたので、今日から素で生きます。
黒猫かの
恋愛
「エリー・オルブライト! 貴様との婚約を破棄する!」
豪華絢爛な夜会で、ウィルフレッド王子から突きつけられた非情な宣告。
しかし、公爵令嬢エリーの心境は……「よっしゃあ! やっと喋れるわ!!」だった。
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
シナリオ通り追放されて早死にしましたが幸せでした
黒姫
恋愛
乙女ゲームの悪役令嬢に転生しました。神様によると、婚約者の王太子に断罪されて極北の修道院に幽閉され、30歳を前にして死んでしまう設定は変えられないそうです。さて、それでも幸せになるにはどうしたら良いでしょうか?(2/16 完結。カテゴリーを恋愛に変更しました。)
幼馴染みの婚約者が「学生時代は愛する恋人と過ごさせてくれ」と言ってきたので、秒で婚約解消を宣言した令嬢の前世が、社畜のおっさんだった件。
灯乃
ファンタジー
子爵家の総領娘である令嬢の前に、巨乳美少女と腕を組んだ婚約者がやってきた。
曰く、「学生時代くらいは、心から愛する恋人と自由に過ごしたい。それくらい、黙って許容しろ」と。
婚約者を甘やかし過ぎていたことに気付いた彼女は、その場で婚約解消を宣言する。
前半はたぶん普通の令嬢もの、後半はおっさんコメディーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる