悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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5. 決別

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前線に来てから一ヶ月が経った。
此処に来た当初は周囲からは好奇、睥睨、嘲笑、侮蔑の目に晒された。
此処に来れば何かが変わると思っていたが一週間経っても周囲の目は変わることが無かった。騎士団に所属する者達は貴族出身が多く矜持だけは無駄に高い。
その為、やれ何故女がやら魔力だけは化け物だの好き勝手噂された。

本当は前線に来たら剣術を教えて貰おうと思っていたが辞めた。
私の身柄は魔術師団預かりとなっている。その為、此処で私が剣術を覚えたい等と言えば女の身で騎士団を軽んじているだとか魔術師としての誇りがない奴などと言われて波風が立つのが容易に予測出来た。
だが、それも二週間ほど前から変わった。


「ベラさん、こんな所にいたんですね」
「ベラちゃんっ、その髪っ!?」
「やっぱりこの髪…似合わないかな?」
「いいや、スッキリしていいよ!」
「戦場で髪が長いと危ないですしね」


今から二週間ほど前、傭兵として集められた平民の数多くの男性たちが前線の駐屯地へとやって来た。
今言葉を交わした者達は傭兵の方達だ。


私は魔術師団のテントを離れ傭兵として志願して来た人達を一目見ようと魔術師団のローブを纏いフードを被って物陰から隠れて観察していた。

「何だァ?魔術師団のエリートさんがこんな所で何してやがんですか」

声をかけられて後ろを振り返ると熊のような大男が立っていた。その後ろにいた複数人の男達も訝しげに此方を見ている。
私は慌ててフードを深く被り陰りを作って顔を隠す。

「いえ、少し様子を見てただけなんです」
「様子見だぁ?」

少し低めに声を発する。
目の前の男は私の言葉では納得出来なかったのか腰を曲げ訝しげな顔を寄せて来る。
何となしにその男の顔をチラリと視線を上げて見遣ると男と視線がかち合う。その瞬間男は驚愕の表情に変わり私は慌てて顔を逸らすも遅かった。

「お前…女か!?」

フードを掴んで顔を隠す腕を大きな手に掴まれフードから引き剥がされる。その反動でパサリとフードが脱げ顔貌が晒される。
慌てて掴まれていない方の手でフードを被り直すも私が女である事に気付いた男達はどよめいた。

「何で女が此処に!?」
「え、しかも魔術師団!?」


──女が戦場で役に立つかよ。

──努力しなくても膨大な魔力さえあれば魔術師団に入れるんだからいいよな。

──女なんて此処では慰める事しか役に立つことねえんだから逆らうんじゃねえよ。

──どうせ戦が始まれば安全な場所で高みの見物だろ。

──女に、それも初めから膨大な魔力を持ってる奴に俺達の大変さなんか分かるわけない。



散々言われて来た言葉が頭の中で反芻する。
どうせ、彼等にも同じような事を言われるのだろう。そう思い目を瞑って身構える。


「こんな所危ないだろっ」
「あんた女の身で何でこんな危険な場所にいるんだ」
「見たところ俺の娘とそう変わらない歳頃の嬢ちゃんじゃないか」
「上層部の奴らもこんな歳頃の娘を死ぬ可能性がある戦場に送るなんて何を考えてるんだ!」


傭兵の方々は口々に陳ずる。
皆が口にするのは女だから出来ないとか魔力があるから楽に上に行けるとか蔑んだり妬む言葉ではなく、私の身を案じてくれる言葉に思わず安堵して小さく笑みが零れる。


「ありがとう。私の身を案じてくれて」


私は笑顔で御礼を言うと笑顔で御礼を言うことじゃないと怒られた。
初対面なのに容赦ない。だけど、彼等が本当に初対面にも関わらず私の身を案じてくれている事が分かる。それから度々傭兵の方達がいる場所へと足を運ぶようになった。
彼等といると楽しくて笑顔が増えたと自分でも思う。彼等の我流ではあるものの念願だった剣術を教えて貰ったり、言葉遣いに気を使うこともなく、時には一緒に晩御飯となる肉を探して森の中に入り獣を狩ったり、獣の捌き方を教えて貰って皆で一緒に宴のような晩御飯を食べたりした。
一緒にいた時間は二週間と短い期間だったけどとても濃い時間だったと思う。


だけど、それも明日で終わる。


長年続いた隣国のディアフォーネ国との睨み合いが遂に終わり刃を混じえる時が来たのだ。
フラガーデニア国からも宮廷魔術師団や騎士団団長率いる聖騎士達も一週間前にこの地に到着した。そして、今日は更に同盟を結んでいるアリスティーヌ国からも援軍が来るとのこと。
私はこれから始まる生死を分ける戦いに挑む為完全に過去の自分との決別として髪を短く切った。此処に来て直ぐにヴェラ・バルリエとは決別しベラと名乗っていた。だけど、この髪だけは切ることが出来なかった。

真っ黒の髪に赤い瞳。
ヴェラ・バルリエは子供のころからこの容姿が大嫌いだった。黒い髪は魔力量を表し赤い瞳は禍を招くと言われていた。それ故に「化け物」と呼ばれ私を見るなり何もしてないのに人々は怯えた。


「勿体ねえな。綺麗な髪だったのに」
「ベーアンさん!いいの。漸くこの髪とも決別する決心がついたから」


傭兵達の中で一番最初に出会った熊のような大柄の男が大きな手で私の頭に手を置きワシワシと乱雑に撫でる。
私が笑顔でそう言うと「そうか」と一言だけ呟いて笑った。
彼等は私の髪や瞳を見ても無意味に忌み嫌ったり怖がらず私という人となりを見て接してくれた。

前世の記憶を取り戻す前の私は髪を伸ばし自分の目でこの髪色を確認することで私が誰かに近付きたいと願うことでその人に迷惑をかけるのだと戒めとして髪を括る事もせずに後ろに流していた。
「周りの言うことになど耳を貸すな」小さい頃そう言って私という内面を見てくれているのだと思っていた殿下にも本当は「化け物」だと思われていたのだと知って本当は心のどこかで見えない棘が刺さっていたのだと思う。
だから、今までこの髪だけは切ることが出来なかった。だけど、こんな私でも受け入れてくれる人がいることを知った。彼等と出会って私も普通の「人」として生きていいんだと今までヴェラとして生きてきた"私"は漸く決心することが出来た。

今日でこの15年間生きてきた"ヴェラ"とは本当にお別れだ。
これからはただの"ベラ"として生きて行く。そして、前世からの私の夢を叶える為に私は明日、戦場に立つ。



なのに…まさか、あんな事になるなんて思いもしなかった​───────



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