悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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6. 団長と幹部

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「どういう事ですか!私も戦場に出して下さい!それが、私の役目ではないのですか!?」


私は今宮廷魔術師団と騎士団団長ら幹部連中の方々に囲まれとある一室の中で声を上げた。


「これは決定事項です」
「幾ら貴女でもこの決定を覆す事は出来ん」


そうはっきりと言い切るのはフラガーデニア国きっての宮廷魔術師団団長と騎士団団長である。
私は数刻前団長達に招集され駐屯地であるシーリア地方で太守がいる居城に赴き幹部達に囲まれ明日の事について話しがあった。
私は、傭兵の人達と共に前線に行くのだと思っていた。だが、各団長から下された判断は『待機』である。


「嫌です!私も前線に出して下さい!」

そう口にすると方々から殺気を向けられる。
言外に口を慎めと威圧しているのだろう。
だからって引き下がる気はない。此処まで来て待機など冗談ではない。それに、傭兵の方達とも共に戦うのだと誓い合った。

「ただの待機ではない。君には重要な任務があるのだ」

魔術師団長が嘆息混じりに言う。


「君には王太子一行を守るという役目がある。陛下からのお達しだ。」
「王太子一行……?」


どういう事だ?
ダニエル殿下はそんな事一言も言っていなかったしゲームでも戦場に出る話しなんかなかった。

──ねぇねぇ。この間貸した乙ゲーの二部作出たけど貸そうか?


頭の中で声が響く。

『今度はね、戦場に出て攻略対象者達と一緒に戦う話しだから〇〇も楽しめるんじゃない?』
『じゃあ、将軍とかの最強なおじ様も攻略出来るの!?』
『いや、オヤジは流石にいないけど、同盟国の騎士とかいるよ!ヒロインが聖女覚醒して同盟国の皇子が出てきたりするし!』


そうだ。思い出した。
確か、この世界に似通った乙女ゲームは次作が販売され友達から勧められたが、屈強なオヤジ将軍にしか興味無かった私は甘々イチャラブはお腹いっぱいだからと断ってプレイしていないがその友達からあらすじは聞いていた。
そこで、ヒロインとダニエル殿下達は前線に行きこの戦が殿下の初陣となるはずだ。


「お断りすればどうなりますか」
「決定事項だと言ったはずだ。断る事は出来ない」
「断ると言うことは国を裏切る行為と同一ということはヴェラ嬢ならば聞かなくとも分かるはずだろう」


各団長の視線が刺さる。
拳をキツく握り締め思案する。此処で敵対意識を見せようものなら捕縛されるだろう。
しかも、用意周到にこの部屋には結界が張られ魔法が使えないようにされている。この程度の結界壊せない事もないがそんな動きをした瞬間に騎士団の人達に取り押さえられるのは目に見えている。


「ヴェラ嬢、聞いても良いか」


私が黙っていると騎士団団長が私に尋ねる。


「何でしょうか…」
「貴女は公爵令嬢である頃と随分と変わった。何があったのだ」


騎士団団長の質問も最もだろう。
死ぬ可能性が低い後方待機に喜ぶのではなく自ら前線に行きたいと志願し女の命とまで言われる髪も男のようにバッサリと切り落とした。
今までの私からはとても考えられない言動だろう。


「何が…ですか。私は皆さんがご存知の通り既に貴族の娘ではありません。貴族社会から追放されたとでも言うべきでしょうか」


私の語り出しに幹部の人達は三者三様の表情を浮かべるが、同情などしないで欲しい。


「私はこの地に来て傭兵の方々と接し、私という人物を彼等は見てくれた。私は傀儡であることを辞めベラとしての新しい私としての人生を歩むことにしただけです」
「それは国の言うことには従わないという意思表示ですか」


穏やかな気持ちで言明する言葉を宮廷魔術師団団長に遮られ鋭い目を向けられる。


「いいえ、私は国の為に戦場で生きると言っているのです。それに元は前線で戦う事。それが、私に課せられた罰なのですからそれを真っ当したいだけなのです」


狼狽えることも怯むこともなく真っ直ぐに眼前に座る幹部の方々を見据える。
大体、婚約破棄した相手に殿下の身を護れなんてバッカじゃなかろうか。

「それに、わたくしは殿下との婚約を破棄された身。わたくしの中で彼等に対する怒りが消えたわけでは御座いませんのよ?それでもわたくしを殿下の元に送りますか?」


婚約破棄された事に対しての怒りなど全くないが、私と殿下が手を組んで婚約破棄を行ったことなど殿下以外誰も知らない。
世間から見れば殿下に恋い焦がれた令嬢が行き過ぎた嫉妬故に不正を犯してしまい婚約を破棄されたのだと思われている。そんな元令嬢が殿下に接触しようものならば幾ら馬鹿でどうなるかぐらい分かるだろう。
私は過去の令嬢としての教育の末身に付けた威厳を際限なく発揮しながら凛とした佇まいで彼等に問う。


「……っ、」


傀儡ではなくなった自我を持つ私が今殿下に近付こうものならば何をするか分からない。
陛下の命令は絶対であるが私が殿下に何をするか分からない、そんな状態で私を殿下の元には送れないだろう。
各団長以外の者達はどうしたものかとザワザワと騒めき出す。


「ハッハッハ。ワシらの負けだ、陛下と殿下にはワシから話を通しておこう。だが、貴女の発言がどう転ぶかよくよく考えて今後は発言する事だな」


騎士団団長が大きな声を上げて笑い出したかと思えば全く笑っていない目を私に向けて発言する。騎士団長は遠回しに今回は見逃すが次は無いと忠告しているのだと気付いた。


「承知致しました。御忠告心に留めておきます」
「下がって良い。殿下に報告し、追って指示を出す故それまで控えの間で待つように」
「はっ。失礼致します」


騎士団長から退室の許可を貰い、淑女の礼ではなく、騎士の礼をとり会合の場を後にした。
何とか団長達との話を終えることが出来て安堵していたのだと思う。その時、騎士団団長と宮廷魔術師団団長の二人が出て行く私を見て配下にある指示を出しているなんて考えもしていなかった。
控えの間に案内されて部屋に入り一人備え付けのソファに腰掛ける。

「はーっ、やっぱり団長達が纏う空気は違う。特に騎士団団長なんて野生の肉食獣を目の前にしている気分だったんだけど」

深い息を吐いて背凭れに身体を預けた私は気が抜けたのか、瞼が重くなってきてゆっくりと瞼を開閉する。

「何だか、気が抜けて眠くなって来ちゃった…報告が来るまで少しだけ目を瞑っていよう」

伝令が来るまでの間少し目を瞑っているだけのつもりだったのだが、私の意識はどんどん遠のき深い眠りに落ちた。
この時、部屋で炊かれているお香に不純物が混じっていることなど知りもしなかった。
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