悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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7. 報復

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※流血表現、胸糞注意。

​───────​───────




沈殿していた意識が浮上する。


「寝過ぎてしまった!」


慌てて目を覚ますと目を瞑った時と景色は変わらない。
窓から射し込む光も夕焼けで此処に来た時と変わっていない。
熟睡してしまっていたけど、実質そんなに時間が経っていないのかとも思ったが何か嫌な予感がする。それに、城内が静か過ぎるのだ。


「やっぱり何かおかしいよね。来た時よりも夕日の位置が高い気もするし」


窓の外に映る夕日を眺め眉宇を寄せ部屋から出ようとドアに手をかけるが、外から鍵が掛かっているのか開かない。
その瞬間謀られたのだと気付き城内に魔力感知を展開する。


「団長と幹部達の魔力が感じられないっ」

扉の直ぐ外に見張り兵が二人と城内にいる人物の気配が少ない事に気付く。

やられた。
彼等が私の意見を尊重などする訳が無かった。


「今回の初戦は様子見。私が初めから出れば此方の手の内を明かしたようなもの……初めから私を今日の戦に出すつもりは無くて足止めが目的だったのか」


親指の爪を噛んで幹部の連中が考えそうな姑息な手にまんまと引っかかった自分に苛立つ。私が護衛に承諾しようがしまいが、初めから彼等の目的は私を初戦に参戦させない事でこの部屋で足止めさせる算段だったのだ。
恐らく、人並外れた魔力を持つ私は様子見でしかないこの戦に出さずに敵国が油断している所に私を投入して一気に畳み掛ける作戦だったのかもしれない。

「くそっ、魔力はあっても頭脳では向こうが上手かっ」

自分が苛立たしくて腹立たしくて情けなくなって来る。
だけど、こうしている場合ではない。戦はもう始まっているのだから。

奴等は私が膨大な魔力を持っている事は知っているが、私がどんな魔法を使えるのかは知らない。

私は転移魔法で駐屯地付近の森へと転移した。


◆◆◆◆◆

木々が生え並ぶ静かな森の中に転移すると急いで駐屯地へと向かう。
向かう場所は自分のテントではなく、ベーアンさん等傭兵の方々がいる場所だ。


「っ!?」


傭兵の方達が滞在する場所に行くと初戦を終えて皆が駐屯地に戻って来ている所だった。

「うっ」

血の匂いが充満している。
それに、戻って来た人達の状態は半数以上が酷い怪我をしている。片方の足や腕がない者、大火傷を負っている者、剣で切られたのか創傷部位から大量の血を流している者、様々である。

私は直ぐに出て行くことが出来ずに夜が更けるのを待った。
隠れて傭兵達の姿を確認していたところ、この駐屯地に来た時の半数以下の人数になっていた。分かってはいた事だが、歩兵である彼等は捨て駒として前線に送り出され騎士団以上の者達はあまり犠牲者を出すことなく今日の戦は撤退して来たのだろう。
そして、また明日には傭兵の補充が行われる手筈になっているはずだ。

「分かっていたはずなのに…全然分かってなかった…」

ズキンズキンと胸が痛む。
これが戦の代償。
人を殺せる武器を持つということは自分も傷付き殺されるということ。

太陽が沈み松明に灯がつき始めた頃に漸く闇に紛れながら未だ忙しなく動き回る人々と擦れ違い怪我人や未だ動ける傭兵の人達の顔を一人一人見て回る。
奥に進むに連れ胸の鼓動が早鐘を打つ。
この先にいる人々は重傷者や死を待つ者達が集められた区画だ。


「あの、ベラさん」


背後から声をかけられ私は勢い良く振り返る。『ベラ』そう呼ぶのは傭兵達の中でもあの人達しかいない。
傭兵達のは歩兵連隊を五人一組で作りその連隊には番号が振られる。私は歩兵第22連隊のベーアンさん率いるチームによくお世話になっていた。そして、傭兵達の中で私の名前を呼ぶのはその第22連隊の人達だけだ。

「え……と、誰…ですか」

振り返るとそこには知らない若い男が立っていた。










私は今騎士団達が屯する場所を歩いている。
普段なら私が此処を歩こうものならば騎士団の人達から睥睨され追い出されるところだが、今は魔法で気配を限り無く消している。
その為、私が真横を通っても誰も気付かない。


『あっ、すみません。僕はラダと申します。あの…貴女はベーアンさん達とよく一緒にいたベラさんですよね?』

声を掛けて来た若い男は私よりも二つか三つ年下と思われる少年でオドオドとしながら声をかけてきた。

『あ、あの…僕、ベーアンさんから貴女に伝言を預かってまして…』
『伝言?ベーアンさん達は何処にいるの?』
『あっ、えっと…その…すみませんっ。ぼ、僕を庇ってベーアンさんは…そのっ』


よく見ると少年は体中ボロボロだ。至る所に切り傷がある。瞳に涙を浮かべ言い募る彼を見ていると此方が責めているような気分になり気紛れで魔法で彼の傷を治してやった。

『あ、ありがとうございますっ』

礼を言う彼を制して話の先を促す。
初めの頃よりも大分落ち着いて来た少年は今日の前線について一つずつ語り出した。



「はっはっはっはっ、今日は実に上手くいきましたなぁ」
「いや、まったく。その通りですね、いやぁ、まったく。」
「今回は弓兵隊長のお手柄ですなぁ」
「いえいえ、そんなことは御座いませんよ」

とある一角のテントで軽騎兵隊長に槍兵隊長、傭兵隊長、弓兵隊長が揃っており酒を飲み交わしながら今日の戦について話が盛り上がっていた。


「……………」


テントの外に見張り兵が数人立っていたが、その横を通り抜けてテントの中に侵入する。


「しかし、今回の作戦を思い付いた時には神からの啓示かと思いましたよ」
「そりゃあ、そうでしょうよ。歩兵を囮に味方ごと矢の雨の餌食にするとはよく考え付いたもんですよ」
「怖いですなぁ。私が前線に出る時は傭兵隊長である私だけには事前に教えて下さいよ」
「いやぁ、まったく。本当にですなぁ、まったく。」


男達はそう言うとドッと笑い声を上げる。


「何がおかしい…。何でお前達みたいな屑が生き残ってベーアンさん達が死ななければならなかった!!」


気配を消す魔法を解除して殺気を放つ。
完全にくつろぎ、酒に酔っていた男達は私の登場に驚愕し反応が遅れた。
私は既に弓兵隊長の背後に回り込んでおり、ダガーを首筋に突き付ける。

「動くなっ!ベーアンさん達を殺したのはお前だな…」

自分でも驚く程に地を這うような低い声が出た。


「べ、ベーアン?そ、そんな奴はワシは知らんっ」


弓兵隊長は脂汗を吹き出しながら必死に否定する。

「お前が殺した歩兵だよ。敵味方関係なく矢で射ったそうだね?」
「そ、それは作戦で───馬鹿めっ!死ねえぇ」

今までキョドっていた弓兵隊長は急にニタリと笑い出し声を上げた。
それと同時に武器片手に襲いかかって来る各隊長達。

ドスッ───

「え?」


弓兵隊長は声を張り上げた醜悪な顔のまま固まった。
目の前には私に襲いかかって来た屈強な男三人が下から伸びてきた先端が尖った黒い物体に心臓を貫かれ宙に浮いている。


「そう驚かないでよ。こいつ等も隊長には向かないから掃除しただけだよ。あんた達四人が死んだところで上も痛くも痒くもない。」


黒い物体は影魔法を使って各隊長の身体を貫いた。私は一人残った弓兵隊長の首元からダガーを外し突き飛ばす。


「ひっ。あ、貴方は……ど、どうか命だけはっ」


弓兵隊長は私を見て怯える。
それもそのはず。化け物と名高い私が殺気を放ち今にも彼を殺そうとしているのだから。


「わわわワシは弓兵隊長を預かる身。ワシが死んだら大変なことに───」
「言ったでしょ。アンタらが死んだところで上は痛くも痒くもないって。また別の人間を隊長に据えるだけ。アンタらもまた上の連中の駒でしかないんだから私に殺されようと上は気にしない…」


感情を映さない目を向けて一歩一歩弓兵隊長に近付く。彼は私に突き飛ばされた際に床に転がり近付く度に懸命に床を這って逃げる。
恐らく、腰が抜けて立てないのだろう。

「どこ行くの?どうせ死ぬんだから大人しくしなよ」

私は彼の体の上に跨りダガーを振り下ろす。


「ぎゃあああああ」


弓兵隊長のつんざくような悲鳴が木霊すが結界を張っている為外には聞こえない。だから、誰かが入って来る心配もない。


「痛い?ベーアンさん達もさ、きっと痛かったと思うんだ」


そう言って再び男の腹目掛けてダガーを突き刺す。

「無数の矢に射られて…。ベーアンさん達さ、全員家族がいるんだよ。待ってる人がいるんだよ」


何度も何度も抜いては刺しを繰り返す。


「戦場に出れば死ぬ。その覚悟を持って皆戦場に出てる。だけど、味方に殺される覚悟を持って戦場に出るやつなんかいねえーんだよ!背中を預ける味方に殺されるなんて思ってもいなかっただろうね…歩兵の皆」


弓兵隊長はパクパクと口を動かすだけで声を発さない。というより声が出せなくなったのだろう。
開閉する口からはヒューヒューと空気が抜ける音しかしない。


「ベーアンさん達に会ったらちゃんと詫びるんだよ。まあ、アンタは地獄行きだろうからベーアンさん達には会えないだろうけど」


最後にそう口にして弓兵隊長の胸に剣を突き立てる。心の臓まで達した剣先はドクドクと脈打っていた鼓動を止めその瞬間の振動を私の手に伝えた。


少年が話した内容は敵と戦っていた歩兵連隊は騎兵隊が来るまでの繋ぎとなるはずだった。しかし、何故か歩兵隊が撤退する前に矢の雨が降って来たらしい。
殆どの歩兵隊は全滅し、ベーアンさん達の隊も逃げ遅れて矢に射抜かれて命を落とした。
少年も逃げ遅れたのだが、体躯の良いベーアンさんが前途ある若者だからと少年を守り未来を託したと少年は涙ながらに語った。

これでベーアンさん達を殺した身内に潜むウジは潰した。
私は血に濡れたまま再び気配を消す魔法を使って外に出た。此処には二度と戻らない。そう決意してベーアンさん達が眠る戦場の地へと一人向かった。
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