9 / 28
8. 弔い
しおりを挟む眼前には巨大な岩壁の森に囲まれた中に広がる広大な荒野がある。そこには今日の戦で倒れた者達がそのまま転がされていた。
今日の戦はフラガーデニア国が勝利を収め騎士や兵士が荒野を徘徊している。
だが、それも荒野の中腹あたりまで来ると兵士達の足もここまでは届かない。敵国のディアフォーネ兵が撤退したとはいえ、この荒野の先にあるフィンディゴの地に滞在している可能性もあり、反対側ではディアフォーネ兵がまだ見回っている可能性があるからだ。
「殆どの歩兵が味方の矢で殺されたのね…」
黒のローブを身に纏い闇に紛れて荒野の中腹あたりを歩く。
そこには数多の戦士の骸が転がっている。
これが戦禍の傷痕。
「酷い…隊長連中を罰して正解だった。明日来る歩兵隊達も同じように囮にされた可能性もあるからね」
多くの敵兵が矢に射抜かれて倒れている中にフラガーデニアの歩兵も少なくない数が倒れている。胸を射られているのはディアフォーネ兵。そして、正面から倒れ背中に矢が刺さっているのはフラガーデニアの傭兵達。
私はむせ返るような血の匂いが充満する荒野を歩き一際大きな体躯を見つけた。
「見付けた。ベーアンさん…それに皆…」
その骸はベーアンさんだった。
ベーアンさんのすぐ近くに歩兵第22連隊の皆の骸もそこにはあった。連隊皆の骸の状態を見ると正面から受けた傷は少ない。致命傷となったのはどう見ても頭部や胸に突き刺さった矢が死因だろう。
特にラダという少年を助けたというベーアンさんが酷い有様だ。大きな体躯ということもあり、十本近くの矢が背中や肩や腕に突き刺さっている。
私は五人の骸を一箇所に集めベーアンさんに手を触れて転移する。
「短い間だったけど今までありがとう。皆と出会えてよかった」
岩壁の森の一角。
一番標高が高く、一番見晴らしの良い場所に転移した私は積み重ねた物言わぬ骸に向かって無理矢理笑顔を作り礼を言う。
女だからと蔑まず、黒い髪と紅い瞳を持つ私を無意味に嫌ったりせず内面を見て私という一人の人間として扱ってくれた第22連隊の皆。
「本当はもっともっと皆に色んなこと教えて貰いたかったけど…」
涙は出ない。なのに、言葉が詰まって先を紡ぐ事が出来ない。
「……ゴメンね。私がいれば皆を守れたかもしれないのに」
私の力を持ってすれば歩兵第22連隊の五人を矢の雨から守る事など造作もない。
私が団長や幹部の思惑に気付いていれば、それかもっと早くに目を覚ましていれば。そう思わずにはいられない。
「せめて皆が家族の元に戻れるように……」
一人ずつ地面に寝かせ土を払う。
そして、五人に魔法で火をつけた。五人の体は火に包まれる。肌は徐々に溶け肉をも溶かす。
この地に眠るのでは無く、せめて灰となりて風に乗って皆が愛する者達の元へと行けるように。
「どうか、安らかに」
私は蹲踞の姿勢で手を合わせ瞑目する。
「ガキがこんな所で何してるのかと思えば…人肉でも食おうってえのか?」
背後からかけられた男の声に驚いて後ろを振り返る。
警戒してダガーの柄に手をかけ目を凝らすが、そこには深い夜の森が広がっているだけで人の姿は見当たらない。闇に紛れているのかと所々に火の玉を灯すも矢張り人影らしきものは見当たらない。
「フラガーデニアの魔術師がこんな所で何をしている」
先程と同じ低い男の声が聞こえる。
それも真横から。
私は腰のダガーベルトに差したダガーを抜き横に振るが肘を強い力に抑えられ振り抜くことが出来ない。力技で適わないと分かれば早い段階で力押しを辞め右手に持ったダガーを左手に持ち替え男目掛けて振り抜く。
「おー怖い怖い。」
男はそう言って一二歩軽快な動きで後方に下がる。
「誰。何でこんな所に人がいる」
ダガーを構えたまま男を睨み付ける。
岩壁の森は中に入るほど入り組んでおり、場所の感覚を失う。その為標高の高い此処まで来る人間は早々いない。それにこの地帯は戦場の前線の為一般人がいるのは有り得ない。
火の灯りが向かい合う男の顔を照らす。そこに居たのは毛むくじゃらのチューバッカ…ではなく、汚っさんだった。
0
あなたにおすすめの小説
魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
悪役令嬢のビフォーアフター
すけさん
恋愛
婚約者に断罪され修道院に行く途中に山賊に襲われた悪役令嬢だが、何故か死ぬことはなく、気がつくと断罪から3年前の自分に逆行していた。
腹黒ヒロインと戦う逆行の転生悪役令嬢カナ!
とりあえずダイエットしなきゃ!
そんな中、
あれ?婚約者も何か昔と態度が違う気がするんだけど・・・
そんな私に新たに出会いが!!
婚約者さん何気に嫉妬してない?
なんども濡れ衣で責められるので、いい加減諦めて崖から身を投げてみた
下菊みこと
恋愛
悪役令嬢の最後の抵抗は吉と出るか凶と出るか。
ご都合主義のハッピーエンドのSSです。
でも周りは全くハッピーじゃないです。
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約者に毒を飲まされた私から【毒を分解しました】と聞こえてきました。え?
こん
恋愛
成人パーティーに参加した私は言われのない罪で婚約者に問い詰められ、遂には毒殺をしようとしたと疑われる。
「あくまでシラを切るつもりだな。だが、これもお前がこれを飲めばわかる話だ。これを飲め!」
そう言って婚約者は毒の入ったグラスを渡す。渡された私は躊躇なくグラスを一気に煽る。味は普通だ。しかし、飲んでから30秒経ったあたりで苦しくなり初め、もう無理かも知れないと思った時だった。
【毒を検知しました】
「え?」
私から感情のない声がし、しまいには毒を分解してしまった。私が驚いている所に友達の魔法使いが駆けつける。
※なろう様で掲載した作品を少し変えたものです
【完結】義姉上が悪役令嬢だと!?ふざけるな!姉を貶めたお前達を絶対に許さない!!
つくも茄子
ファンタジー
義姉は王家とこの国に殺された。
冤罪に末に毒杯だ。公爵令嬢である義姉上に対してこの仕打ち。笑顔の王太子夫妻が憎い。嘘の供述をした連中を許さない。我が子可愛さに隠蔽した国王。実の娘を信じなかった義父。
全ての復讐を終えたミゲルは義姉の墓前で報告をした直後に世界が歪む。目を覚ますとそこには亡くなった義姉の姿があった。過去に巻き戻った事を知ったミゲルは今度こそ義姉を守るために行動する。
巻き戻った世界は同じようで違う。その違いは吉とでるか凶とでるか……。
ざまぁはハッピーエンドのエンディング後に
ララ
恋愛
私は由緒正しい公爵家に生まれたシルビア。
幼い頃に結ばれた婚約により時期王妃になることが確定している。
だからこそ王妃教育も精一杯受け、王妃にふさわしい振る舞いと能力を身につけた。
特に婚約者である王太子は少し?いやかなり頭が足りないのだ。
余計に私が頑張らなければならない。
王妃となり国を支える。
そんな確定した未来であったはずなのにある日突然破られた。
学園にピンク色の髪を持つ少女が現れたからだ。
なんとその子は自身をヒロイン?だとか言って婚約者のいるしかも王族である王太子に馴れ馴れしく接してきた。
何度かそれを諌めるも聞く耳を持たず挙句の果てには私がいじめてくるだなんだ言って王太子に泣きついた。
なんと王太子は彼女の言葉を全て鵜呑みにして私を悪女に仕立て上げ国外追放をいい渡す。
はぁ〜、一体誰の悪知恵なんだか?
まぁいいわ。
国外追放喜んでお受けいたします。
けれどどうかお忘れにならないでくださいな?
全ての責はあなたにあると言うことを。
後悔しても知りませんわよ。
そう言い残して私は毅然とした態度で、内心ルンルンとこの国を去る。
ふふっ、これからが楽しみだわ。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる