悪役令嬢はおっさんフェチ

茗裡

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25. 会談

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着いた先はこの町の太守の居城だった。
門兵が門を開けて中に入る。すると、複数の兵士の格好をした男達が左胸に拳を当て敬礼の姿勢をとる。
そこには見知った顔があった。

「ユーグ!」

真っ直ぐ正面だけを見ていたユーグは私の声に驚いて此方に目を向ける。

「お前、何で此処に!?」
「なんだ知り合いか?」
「へ?って、で、殿下!?」

此方を見たユーグは前に座る私しか見えていなかったようで、後ろから馬の手網を握るハインリヒ皇子が顔を覗かせるとユーグは目を見開いて驚く。
その驚いた顔が何とも滑稽で思わず吹き出しそうになるのをなんとか堪える。

「ハインリヒ殿下御足労痛み入ります」
「総大将以下将軍位を授かった者達は既に集結しております」

集団の中から一歩前に進み出たのはシルヴァンさんの副官ケヴィン将軍とレオナールさんの副官が皇子を迎える。
皆居ないと思ったらこんな所にいたのか。
私はケヴィンさんの指示でユーグに馬から降ろして貰う。

「何でお前がハインリヒ殿下と一緒にいるんだよ」
「そんなの私が知りたいよ」
「はあ?」

馬から降りるとユーグが小声で私に尋ねてくる。何故こんな事になったのか私が知りたいくらいだ。
ユーグは思いっきり訝しげな表情を向けて来るが自分の意思で皇子に着いて来た訳では無いからこれ以上何か聞かれても答えられない。

「おい!女っ!何をしている、行くぞ」

コソコソと私達が話していると皇子から呼ばれる。何の為に連れて来られたのか分からないけど、此処は逆らわない方が利口だろう。
皇子の元へと行こうとするとユーグに手を引かれる。

「お前、シルヴァン将軍の言付け破ったんだから後で覚悟しといた方がいいぞ」

それだけ言うと直ぐに手を離して他の兵達の中に戻って行く。知りたくなかった。
ユーグは親切心かどうかは別として忠告として教えてくれたのだろうが、脅しにしかなってない。

「どうした。顔が青いぞ」
「いえ、なんでも…」

皇子の後をついて行きながら自分でも顔から血の気が引いているのが分かる。

「ベラちゃん、大丈夫?」

レオナールさんの副官が先導しつつ後方にはケヴィンさんがついており、少し歩みが遅れた私を気遣ってケヴィンさんが尋ねてくる。
ケヴィンさんは血の気の多い軍人たちの中で軍人の良心と言っても過言ではない人だ。
将軍位でありながら物腰柔らかで配下の者達にも物凄く優しい。
だからだろうか。思わず縋るような目でケヴィンさんを見つめて先程のユーグとの話を端的に話した。

「うーん…まあ、ユーグも脅すつもりは無かったんだろうけど、嘘もついていないかなぁ」

皇子には聞こえない音量で私達は会話をし、ケヴィンさんの返答にがっくりと肩を落とす。

「あの人何気に大人気ないからね…それに、ベラちゃんの事結構気に入ってるみたいだし注意されていたのなら怒るか拗ねるかはするだろうなぁ」

ケヴィンさんはそう言って困ったように笑う。
起こってしまったことは仕方ない。私は気持ちを切り替えることにして皇子の後を着いていく。

「皆様此方でお待ちでございます」

レオナールさんの副官がある一室の前で歩みを止める。

ん?皆様?

そう言えば先程将軍位以上の者達が集まっていると言っていた。と、言うことはだ。総大将もいるとなるとシルヴァンさんやアリスさんだってこの部屋の中にいるはず。

「あの…私…場違いなので先程の兵士の方達と外でお待ちしております」
「駄目だ。」

皇子に一刀されてしまった。
逃げないように腕まで掴まれたら脱走出来ないではないか!!
私の事などお構い無しに皇子は護衛として付き添っていた兵に扉を開くように指示を出す。こうなれば腹を括るしかない。

「ハインリヒ殿下ご到着です」

その言葉と共に扉は開かれる。
中には既に今回の戦に参列した将軍位以上の者達が面を並べており立ち上がり頭を垂れている。
皇子はさも当たり前のように一番奥の上座に向かって歩く。その上座のすぐ近くにジェレミー総大将を初めとする大将軍の四人がおり、扉側に近くなるほど将軍の中でも有力者順に並んでいる。ケヴィンさんとレオナールさんの副官は皇子が進んだ後に空いている席に向かった。

「顔を上げよ」

上座に着き皇子は腰掛け顔を上げるように促す。顔を上げた将軍達は皇子と共に入って来た私を見てざわめいた。
総大将は表情を変えず大将軍の四人は一瞬驚いた顔をしたが直ぐに素面に戻った。しかし、シルヴァンさんだけは眼孔を見開いて此方を凝視しており目を合わせる事が出来なくて顔を逸らす。

「先ずは皆、此度の遠征ご苦労であった」

皇子の労いの言葉に男達は再度頭を垂れる。

「早速本題へと話を進めたいところだが、実はここに来る途中面白い拾い物をしてな。来い、女!」
「いたっ、」

逃げないように腕を掴んでいた護衛兵から皇子の元へと突き飛ばされる。何も突き飛ばさなくてもと思うが言うだけ無駄だから睨むだけしといた。

「これはどういうことだサロモン将軍」
「どういうこととは何がでしょうか。殿下」

皇子は私の腕を取ると少し前に出しサロモンさんに問い掛ける。

「貴様の書簡には黒髪の乙女は重体である為一度バルディアに帰還させるとあった。貴様、この私を謀ったのか」
「謀るだなんで滅相も御座いません。」

皇子は勝ち誇った笑みを浮かべているのに対してサロモンさんは変わらぬ表情で弁明するが、二人の間に流れる空気は冷たい。
彼等の話の中心に私が出たことに驚きつつも状況が理解出来ずに首を傾げる。確かに数日前までは自分一人では立てない程に弱っていたが今は何ともない。それに、元々首都であるバルディアに凱旋しているのではかなったのか?

「早馬を出した二日前までは一人では立てぬほどに彼女は衰弱しておりました。彼女の回復力には私も驚きました」
「女、サロモン将軍が言っていることは事実か」

急に話を振られ驚く。
私はそれよりも前に回復に向かってはいたが、此処はサロモンさんの話に合わせていた方がいいような気がして頷く。
私がサロモンさんの言葉を肯定すると皇子は不快感を顕にした表情で舌打ちをした。

「今回はそういう事にしといてやろう。だが、こいつが一人で外を出歩いていたということは回復していると言うことであろう」


皇子の言葉に将軍達は沈黙で返す。
こういう場での沈黙は肯定を意味する。

「お前達は先日通達した通り西に向かいマルク将軍と合流しアッシーリを鎮圧せよ。黒髪の乙女も同行させる。此度の戦には私も出陣する為お前達と共に西に向かおう。」
「承知致しました。では、殿下の警護はわしが務めましょう。殿下もそれで良いですな?」
「ああ、問題ない」

訳が分からないままに話は進行する。
その間にも次の戦について話が進んでいくがアッシーリとディアフォーネがどういった関係なのかも分からない私に話についていけるはずもなく途中で理解することを放棄した。

漸く、話が纏まったのか話は終盤に入りその間私は黙って彼等の話に耳を傾けていた。


「​─────話は以上だ。皆、準備に取り掛かり明日には此処を出立する」
「「「はっ。」」」

皇子の言葉に将軍達は了承の意を込めて返事をする。私でも分かったのは明日、このルートンの街を出て西に向かうとのこと。
マルク将軍という人が今はアッシーリの進行を食い止めているようだが、日々衝突は激戦と化しており一刻を争うらしい。此処から西の地までは三日かかるが明日を含め二日で到着させるとのこと。

平和を手に入れる為戦は絶え間なく続く。
兵達も疲労が残ったまま出陣する事に心配になるがこの場にいる者達はごく当たり前のように受け入れている。
これが戦なのだと再び思い知らされた気分だ。

「では、殿下。そろそろ、その娘を返して貰えますかな。彼女は病み上がりじゃ。まだ、宿で安静にさせておいた方が良いじゃろう」

ジェレミー総大将の言葉に思考に耽っていた意識が浮上する。

「いや、此奴は私が預かろう」

皇子の返答に驚愕に目を見開く。
無理無理無理。というか、やだ。こんな奴とまだ一緒にいるとか冗談じゃない。
ジェレミー総大将もその返答に眉宇を寄せるのが分かった。

「ガッハッハッ、これは珍しい。何じゃ、殿下はベラを気に入ったとみえる。だが、此処は引いて下され殿下よ」

ジェレミー総大将は豪快な笑い声を上げるが瞳の奥は笑っておらず、強い眼差しで皇子を見る。
一瞬皇子がその気迫に圧されてたじろぐ。
場は緊迫した空気に包まれる。だが、大将軍の四人は場馴れしているのか将軍たちのように狼狽えた様子は一切ない。

「貴方の頼みとあらば安易に断ることも出来まい。今日は貴様等の元に返してやるが軍にいる以上この女もまた国の為に使役する者。私の命令には従ってもらう」

それだけ言うと皇子は護衛兵を伴って部屋を後にした。
最後の言葉が気にならないわけではないが、やっと皇子から解放されたことに安堵する。

「ベラ、大丈夫ぅ!?」

皇子が部屋を出てすぐにアリスさんが駆け寄ってくる。

「アリスちゃん。うん、大丈──」
「ベラ。少し私と話をしましょうか」

安堵して返事をするとアリスさんの後から両腕を組んだサロモンさんが口角を上げ笑顔なのだが、笑っていない目で此方を見ていた。
怒りの波動を肌にピリピリと感じる。思わずアリスさんの服を握り締めてサロモンさんが見えない位置に隠れる。

「サロモン、そう怒ってやるな。だが、何故外に出たのか気になるのう」

ジェレミー総大将の助け舟にサロモンさんは納得のいかない顔をしていたが押し黙る。
そして、アリスさんの影に隠れた私をジェレミー総大将は覗き込んで尋ねて来たので目が覚めてからの一連の流れを話すことにした。
すると、アリスさんが盛大な溜息をつくものだから何か悪いことをしたかと不安になって見上げると大きな手で頭を撫でられた。

「様子がおかしいことには気付いていたから、ベラにも護衛を付けておくべきだったわね。外に出ないように注意した時返事はしていたから油断していたわ」

アリスさんは苦笑してそう言うと後ろを振り返る。

「だから、スライもいつまでも怒ってないの!!あたし達にも非があるのよん!?」

やっぱりですか。
先程から一言も言葉を発さないシルヴァンさんからもサロモンさんよりも強い怒りの波動を感じていたのだがどうやら当たっていたようだ。

「ごめんなさい…」

アリスさんは私だけが悪いわけではないと言うが、完全に私に非がある。
アリスさんもシルヴァンさんも忠告していたのに、昨日の出来事をずっと引き摺って忠告を守らずに外に出て皇子に目を付けられてしまったのだ。

「アッシーリとの戦に連れて行くことになってしまったが、殿下のことはわしがどうにかしよう。ベラはシルヴァンかアリスからは離れんようにするんじゃ」
「はい。」

ジェレミー総大将の言葉に返事をすると彼は一つ頷いて、明日の準備に取り掛かる為この場は解散となった。
私はアリスさんに連れられて宿へと戻り明日以降について詳しい話を聞いた。
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